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 青い髪の少女はベットの上で間が覚めた。

 窓の外は雲が覆い、微かな日光が地に差している。だいたい午前10時過ぎだろう。


「ここは……」


 脳内に残った僅かな記憶をたどる。

 フェブール神父が真っ黒の衣装に身を包んだ男に刺され、孤児院に火を放った──

 神父の最期の一声で私とレイクは、アルドラとウィルの元に行こうとしたが……


「あぁ…」


 気を失ってしまったんだ、と思い出す。

 灰色の煙を多く吸ったレイクを介抱しようとしたが意識は遠のき、誰かが私を運ぶ所までは記憶している。


「おぉ!?マリナ!!良かった、起きたか!!」


 私の名を呼ばれ、首を動かした。

 赤い髪、元気ハツラツな少年のレイクがドアの前から駆けてきた。

 同時に私は周りを見渡した。……どうやら何処かの医務室の様だった。薬品の匂いが鼻につく。


「こーら!…心配する気持ちが有るのは良いんだけど、彼女は病み上がり……キミよりも重症だったんだからね?」

「うっ…あ、すみません…」


 白い服に身を包み、手袋をする女性はレイクに釘を刺した。彼女はこの医務室の人間だろうか。

 状況を掴めないままいるのは性に障る。ここは一つ、そんな女医さんに質問を投げかける事にした。



「あの…質問、いいですか?」

「んん?あぁ…質問ね。なんでも聞いて頂戴?」

「此処は何処ですか?」

「……そうね」


 そう呟いた銀髪の女性は、赤い口を小さく開け言った。


「ここはサテリーゼ法国、聖都セルフォーテ。大聖堂を中心に城壁によって囲われる……我らが“教会”の総本山の地」

「スゲーだろうマリナ!?…俺たち『聖騎士』として選抜されたんだってよ!!」

「聖都……聖騎士…?」


 唖然とした。何が何だか……理解が追い付かなかった……

 アルドラとウィルは無事なのか…

 そして──眼前に居るこの女性。このヒトは一体…


「自己紹介が…まだでしたね。すみませんねマリナさん」


 そう言って彼女は背を向け、近くの閉め切っていたカーテンを静かに開けた。その背中にはマントの様に靡く教会の聖布が。

 ただそれだけで、彼女の地位が高い事をマリナは察した。


「私はサテリーゼ法国、その特殊部隊である聖騎士・聖竜騎士……。まぁ俗に“教会の槍”と言われていますが、その根本を成す最高技術顧問です。…『妖精の使役(しえき)者』『法国の要』『()()の創造、その継承者』などなど……呼び名は多いですが、気楽にソティスと呼んで下さい。最高技術顧問と畏まった名称がついていますが、その実、位は聖騎士・聖竜騎士となんら変わりませんからね」

「聖剣…魔剣の創造…?」


 それは初耳だった。

 法国の槍とも言われる聖騎士と聖竜騎士は聖剣、魔剣を持つと言う。その2振りの総称を『宝剣』と聞いたことが有る。

 その強力な武器が彼女によって……?見た感じ自身よりも年齢が少し上。そんな若い女性が重大な役を負っているなんて…


「さきほどレイクくんが言っていたように、アナタ方を聖騎士にするため此処に……。……。孤児院の仲間、アルドラさんとウィルさんが──

「ウィルが…!?」


 ソティスが言い切る前に声が出てしまっていたようだ。

 レイクの驚く顔を見て我に返る。この想いは、もう遠い昔に捨てたと思っていたハズなのに……


「失礼しました……。取り乱しました」

「いえ、いいんですよ。……その気持ちは、当事者のアナタ方でしか分かりませんから。ですが私は、アナタをきっちりサポートしたいと思ってます。調子が優れないのは承知ですが、話を進まさせて貰います」


「レイクくんには先に説明しましたが、もう一度聞いてくださいね。ですので椅子に腰かけてゆっくりしていて下さい」とソティスはレイクを促し、続けた。


「今現在、調査を進めているのですが昨夜、アナタ方の孤児院が燃やされ、彼女……アルドラさんは吸血鬼。それも最上位種の『真祖』というモノに成ってしまいました」

「アルドラが吸血鬼…!?……それはどうして!?」

「分かりません。なんせ吸血鬼化の情報については皆無に等しいですから。なにがトリガーとなったかは…法国の知識を以てしても不明です」


「申し訳ありません」ソティスは深々と頭を下げた。

 その行為は同時に『人間に戻す』という方法すら見出していないのだと、マリナには分かってしまった。

 法国の槍。それも最高技術顧問といえば、その知識量は計り知れないモノなのだろう。

 そんな彼女が、深々と頭を下げたには、もう一つの理由がある事も同時に理解した。


 吸血鬼と化したアルドラを…せめて親友である私たちが楽にしてあげなくては為らない──


「ですが──」


 ソティスは口を開けた。


()()()()()()。そして、初代魔王討伐を達成した英雄たち……それを育てた賢人の、最期の弟子である『()()()()()()()()()』。それらに解は有ると信じています」

「ミリアム…」

「ええそうです。かつて初代魔王討伐後、聖女を筆頭に多くの英雄がこの法国の立て直しをしました。その英雄…その建国者の一人、学者ミリアムです」

「ミリアムの……禁書?」

「あはは、そんな顔をするのも無理は有りませんね。彼女の禁書は極秘も極秘……。その中には禁術や、歴史を揺るがしかねないレポートもありますから」

「んんん?つまりさ──」


 レイクは椅子から立ち上がりソティスに向かって言った。


「そのミリアムの禁書ぉ…その中によ!アルドラを治せる情報が有るかもしれない、っつう事だよな!?」

「はい、その通りです。レイクくん」


 レイクは馬鹿だが、このような緊急事態では頭が冴える男だ。

 もしかしたらアルドラを救う手引きを、彼の思考によって解決するかも知れない。……いや、無いな。

 マリナは「はぁ」と深いため息を漏らし顔に手を当てた。


「しかしアナタ方にはまだ、聖剣は無く、戦う知識も有りません。…そこで()()1()()()()、聖竜騎士に稽古を取って頂こうと思っています」

「1ヶ月間?」

「すみませんマリナさん。その事については、アナタ達の師匠となる者の紹介が終わってからで……」


 ソティスは「入ってきてください」と声を遠くまで伸ばすと、2人の男がドアを開け入って来た。

 美しい薄い青色の髪と眼。奇しくも自分と同じ色だ、と思ったマリナだったが早合点だと恥じた。

 一般出身の自身とは比べ物にならない程に上品かつ爽やかで、その顔といい立ち振る舞いといい、何処かの貴族の出だと感じた。


「昨日死んだばかりだと言うのに……ソティスの姐さんは厳しいな…。そうだろう?昨夜、地獄を見た…神父フェブールの子らよ」

「兄さん、言い過ぎだ。…それでさっき、お上に謹慎処分を食らったんじゃ無いか……」

「謹慎では無い。……地獄を見てきたオレたち兄弟への休暇だ」

「良く言うもんだよ……」


 耳にしたことがある声だ。

 燃える孤児院……そこで倒れる私とレイクを救出した人間なのか?


「耳が痛くなるほど言ってますが…謹慎処分と下りましたが、ここ1ヵ月は彼女達の師匠として働いてもらいますからね?分かってますか???」

「ふん……」

「ええっと……彼女がマリナさん、君がレイクくん……だね?」

「はい!!そうです!!!聖竜騎士に稽古をつけて貰えるなんて光栄です!!!!」


 雰囲気からして弟──青いブローチをした男は、マリナとレイクの顔と名前を確認した。その後にレイクの元気な返しが部屋に響く。

 孤児院からの付き合いの彼女にとってはその反応は予測出来ており、事前に耳を塞いでいたのでダメージは無かった。とはいえ…彼らが私の師となるのか……

 レイクの甲高い声は、青のブローチの男には効果抜群で「ひぃ~キミは元気だね……」と彼は言い「じゃあ自己紹介を」と切り返した。


「兄さんからどうぞ」

「あぁ…。法国の最高峰の槍である聖竜騎士、その序列3位に座する『不滅の兄弟』……。オレはアルバード・ラスティカ・ダイアー。よろしく」

「そしてボクはヘンリー・ラスティカ・ダイアー。不滅の兄弟だなんて言われているけど気楽に接して欲しい。これからヨロシクね」




 ◇◇◇◇




 翌日──


 6月19日。

 空は心地よい程に青く澄み渡り、この花畑ではより一層、香り高い花の香が鼻についた。


 昨夜に『孤児院のその後』と『吸血鬼化したアルドラとの戦い』『ウィルの行方』をダイアー兄弟から聞いた。

 兄アルバードは情報収集の為に「一度死んでみたのさ」と言っていたが……どうなのだろうか?


「で、どうかね?オレが作った菓子の味は?…美味かろう?」

「メッチャ美味いっス!!」


 燃え盛る炎の様な髪色のレイクは、聖竜騎士、それも序列第3位という地位に座るアルバートに向けてそう言った。

 レイクはウィル程に正義マンでは無いが、法国を守る『聖騎士』に憧れていた事ぐらいは知っている。しかも眼前にいるのは聖騎士の上のランクである聖竜騎士。

 きっと彼なりの、最大限できる敬語がコレなのだろうか?


「そうかそうか……。で、お嬢さん…お味は?」

「……美味しいです」

「ふふふっ…」


 悔しい。本当に悔しいが、この酸味のきいたイチゴのジャムと、サクッとしたビスケットが合う。

 孤児院では歯医者がお菓子を持ってきてくれていたが、それよりも美味しかった。

 ……素材がいいからだろう、きっとそうだ。


「よかったね兄さん、好評でさ」

「まぁ無理も無いな…地獄の業火に焼かれての今日だ。疲弊した身体に甘味は効くだろうよ」

「確かに……。うん、神父のこともある。ボクらも今日くらいは肩の荷を降ろそうか」

「ヘンリーさん達って、神父の事を知ってるんスか…?」

「ん?あぁ、そう言えば言ってなかったね。……うんそうだよ、君たち同様にボクと兄さんも、フェブール神父にお世話になったんだよ」


「それは…」マリナは紅茶が入るカップをてテーブルに置き「孤児院でお会いに?」と質問した。

「いや、違うな」そう否定した兄、アルバートは「教会だ。オレたちは戦争孤児として法国に拾われ、教会にて神父と出会った。そこから始まったんだ」そう呟き、ビスケットを口にした。


「初代魔王が亡きこの世界では、数十年はお国同士のケンカは無くなったんだけど……まぁ、事の顛末(てんまつ)は分かるよね?」

「…燻った煙は火が付き、今やこの20年間は血が絶えない地獄の様な時代に変わった。その業火にオレたち兄弟は焼かれ、泥水を啜り、家族を亡くし……神父に救われた。神父の戦争孤児への救済が始まったのは、オレたちが始まりだと……彼は言っていた」

「ボクらの剣の才を見出してくれたのも神父なんだ。元々彼は法国の騎士に所属していたらしくてね。だけどね……決してボクらの聖騎士入りを祝っていたワケじゃないんだよ。最後まで反対していた……。ホントに面倒見が良くて、いいヒトだったよ……」

「そう…なんですか……」


 マリナは兄弟からの神父の話を聞き、そう言わざる負えなかった。彼らもまた、私と同様に神父の元で暮らしていた教徒だったなんて…

 だがしかし、俄然としてこの状況は理解できていなかった。

 彼らの上司であるソティスは「宝剣の素材収集をお願いしますね」と言っていた。このお茶会と宝剣作製に何の意味が……?


 そう疑問の眼差しを送るマリナに、ふわりと1体のナニカが飛来してきた。

 思わず驚き声を上げたが、その正体を見て口を開いた。


「妖…精……?」


 手のひらサイズのぷっくりした体型に美しい2枚の羽根。

 性別は不明だが、その可愛らしい顔と長い髪、キラキラと輝く鱗粉がそう結論付けた。


「宝剣の素材って……妖精なんですか?」とマリナはヘンリーに質問した。

「うんそうだよ」と答え、更に「そもそも……」と製造に関して続けた。


「妖精が人間……亜人もかな?…まぁいいや。言い直すけど、妖精がその人間を祝福すると『聖剣』を授けられるんだよ。『魔剣』も同様で、妖精に呪われると出来上がる。……理屈としては簡単でしょ?だから妖精は『宝剣の原石』とも言われるんだ」

「そうなんですか……初耳です…」

「それもそのハズ。聖剣・魔剣……宝剣の製作については禁書…大英雄『古竜狩り』が発見したモノだ。その性質を利用してソティスの姐さんが、妖精から特別な剣を造ってる。まぁオレには、その製造方法は知らんがね」

「あと……昔から妖精は『人間の子供を攫う』と言われているんだ。だから法国は、妖精の住まうエリアを管理し、こうしてこの花畑は一般の人の立ち入りを禁止しているんだよ。妖精……聖剣に関わる事だから、ソティス姐さんが責任者でもあるんだよ」

「おぉ!!だからソティスさんは聖騎士団の最高技術顧問なんスすね!!へぇー!!」


 レイクはその妖精に指をゆっくり伸ばした。しかし触れる前に何処かに飛んで行ってしまった。


「残念ねレイク。相性が悪かったみたい」

「はぁぁぁぁ、残念……」

「まぁまぁ、時間はいっぱいあるし大丈夫さ。…ま、そういうボクたち兄弟は、聖剣持ちじゃあ無いんだけどね…」


 視線を落とし紅茶を飲むヘンリー。それを横目に過去を耽るアルバート。彼らの横顔はどこか儚く、お師匠を想うウィルに似ていた。

 その表情からあまり気分の良い過去では無かったと、マリナにはそう映った。

 今や聖騎士・聖竜騎士は、法国の象徴ともいえる最高の戦力だ。そんな中、周りとは異なる得物を持つ彼らの待遇は、冷ややかだったのだろうか。

 しかし今や兄弟は、序列3位に居る。それ相応の努力と圧倒的な戦力が逆風を覆したのだろう。


「ん?」


 マリナは頭上、自身の髪を持ち上げられている事を気づき、手をゆっくりと動かした。

 死角となり感覚を頼るしかないが、手のひらに温かく柔らかい生き物が触れる感触を感じた。

 それを優しくつかみ、慎重にテーブルに運んだ。そして手を開く──


『──?──!!』


 虹の様な眼を持った小さな妖精が手を大きく挙げていた。


「これが……材料…?」目を合わせ、マリナは呟いた。

 それを聞いたヘンリーは「そうだよ。まぁ妖精といっても幼体、下位種だけどね。その上位種である妖精王。そいつに魅入られた人間には、強力な宝剣が与えられるらしい」と言った。

「マジすか!?…じゃあ聖竜騎士、その第1位は……!!」レイクは興奮気味に質問したが、アルバートの冷ややかな声によって抑えられた。

「……気に入らない野郎だが、その宝剣は本物だ。ソティス姐さんが造る『偽物』ではなく、妖精王によって創られる純粋で高貴な一振り、『本物』の宝剣……まぁ、魔剣だがな」


「ああそうそう」とアルバートは続けた。


「初代魔王を打ち滅ぼした英雄……賢者によって鍛えられた“英雄アルベール”は『本物』の《《聖剣》》の担い手だ。それと……」


 カップを持ち上げ、涼やかな声で淡々と言い放った。


「オレたち兄弟にとって、祖父にあたるヒトだ」




 ◇◇◇◇




 なんと、かの『聖剣の担い手』と呼ばれた英雄の孫が、その妖精が作製する宝剣に適性が無い、という滑稽な話で茶会は終わった。

 しかし彼らには、宝剣を持つ法国の有象無象に勝る程の才能と『不滅の祝福』があった。

 兄、アルバートの全てを冷ややかに見る目と、冷たく、しかし、どこか熱気を感じる性格には理由が有るものなのだと再度そう思った。

 彼は良く「地獄」「業火」など独特なネガティブな言葉を吐く事について合点がいった。


 それでもなお彼は、法国の為に、民の為に尽くしている。

 不滅の祝福を持つ兄弟はその強力なギフトの所為もあり、よく低予算で編成された戦いに身を投じるらしい。


「どうした嬢ちゃん…。オレの顔に何かついてるのか?」


 ──。──


「ほら“あの子”だよ兄さん。再生の炎の子」

「あぁ、オレと同様に地獄を見てきた顔の少年か。なに?雰囲気が似ている…と?下らんな…」

「自己犠牲とでも言いたいのかい?まぁ実際、そんな戦い方だしなー、ねぇーそうでしょ兄さん?」


 ──。──。──


「確かに、ボクたち兄弟を一見すると『そういう風』に映るよね。だけど、これがボクたち兄弟が決めた生き方なんだ。誰になんと言われようが見返してやる。……あはは、懐かしいよ。兄さんが良く言っていたっけ」

「昔の思い出は地獄の業火に焼べ捨てた。今や祖父が夢見た安寧の時代を作る為……それまで剣を振るうだけよ」

「だってさ。残念だけどボクも兄さんと同意見だ。幼少期、地獄を味わったからこそ目指すんだよ。例え、無駄だとしてもね」


 ……。……


「この1ヵ月、オレたちが知りうる技術を全て……出し惜しみなく伝授するつもりだ。強く成りてオレたちの前に、ウィルと言う少年の前に、アルドラという吸血鬼の前に立ち塞がれば良い。ただその時オマエは……眼前の人間にとっての敵になるだけだがな。…あぁ、それと──


 ──魔法に才能が有るからと言って有能とは限らない。最後まで死なない者が有能だ。死んだら全てが終わる。聖騎士として肝に銘じておけ」


 …。

 ……本当にやるせない。


 6月21日。

 大聖堂、その上部にある鐘の音によって起きたマリナは化粧台で髪をとかし、その後に顔を洗った。

 冷たい水の感触と、ふんわりとお香の匂い。孤児院とは違い、上品な香りがした。

 それが法国の聖都。それも聖騎士の宿舎にいる事を実感させた。


 妖精を確保して2日経った──ソティスが提示した日が訪れた。

 宝剣を授かりに行こう。



 ◇◇



「あぁお待ちしていましたマリナさん、レイクくん」

「それで…俺の宝剣は出来たんですよね……!?」

「レイク…うるさい……」


 レイクはソティスの後ろにある、白い布が覆いかぶさる机を見て指を差した。

「ええ」と彼女は反応し、その覆いをゆっくりと持ち上げた。

 そこで露わになったのは2振りの宝剣。レイピアの様な細長い刀身に、持ち手にはツタの様に蛇の装飾が巻いている。全体的に煌びやかな針剣は、微かに青みを放っていた。

 もう一方の剣は、黒く分厚い刃幅の大剣で、誇張するが砂時計のような()()()が見られる剣であった。まるで人の胴体を分断させる為の構造のように思えた。


「この針剣がマリナさん。……あの妖精は『聖剣』と変化しました。祝福されたのですね」

「ありがとうございます…」


 そう言ってソティスは聖剣を取りマリナに手渡した。

 その後「よいしょ」と剣を両手で持ち上げ、レイクに対して口を開けた。


「レイクくん。どうぞ、アナタの『魔剣』です。魔剣だからと言って落ち込まないで下さいね?祝福も呪いも…妖精からみれば紙一重。きっとアナタの力となるでしょう」

「これが宝剣……!ありがとうございます…!!俺、アルドラもウィルも絶対に救います!!」

「そうね…。じゃあ……」


 パンパンと2度、大きく手を叩いたソティスは両開きのドアに視線を向けた。

 その音に反応するかのようにドアは開き、カチャカチャと金属同士が擦れる音が響く。


「謹慎中だとうのに鎧とな……はたまた面倒な…」

「いいじゃないの兄さん、可愛い弟子の前だし。それに明日は完全にオフ日だ。…お菓子巡りでもしようよ」

「そうか……そうしよう…」


 竜を模った兜に赤と青色のマント……聖布が揺れる。

 これが不滅の兄弟。聖竜騎士としての正装なのだろうか…


「では、この子たちを宜しくお願いしますね?お二人さん」


 アルドラが提示した月日は日々近づいていく。

 その日の為に力を、知識を蓄えなければ為らない……


「宜しくお願いします」


 マリナはレイクよりも早く頭を下げ言った。

 それに驚きながらも、赤髪の青年も少女に続く。


「おう……ようやく良い目になったな」

「2人には悪いけど、最初から飛ばしていくね。彼女……アルドラさんとの力の差は、天と地ほど離れているからね」


 そうして私たちは、不滅の兄弟の下に聖騎士としての生活が始まった。

 法国の槍として……孤児院の仲間を助けるために、と決意を固め剣を鞘から引き抜いた。




 キャラ紹介です。


ウィル 15歳 男


・戦争孤児なのでミドルネーム、ラストネームが不明。

・金髪碧眼の爽やかな少年。

・英雄、聖剣アルベールに師をとってもらい剣の才能を開花させたが、未だ満開にならず。

・不死鳥の祝福を持ち、即死級の攻撃すら回復する。ただし祝福の能力を使っていなかった(隠していた)為、程度は低い。

・魔法が一切使えない。祝福によって炎だけは出せる。

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