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ノリと勢いで書き上げました。

最期まで読んで頂けると嬉しです!


不死鳥(フェニックス)の祝福』


 その祝福は強い炎魔法を付与し、しかも自分が受ける炎のダメージを軽減。それに加え、受けた傷やダメージ、しかも猛毒すら回復できるとても希少な祝福だ。

 俺の祝福を見抜いてくれたのは、俺のお師匠だ。しかも俺のお師匠は、あの初代魔王を討ち果たした英雄達の一人……聖剣の担い手!!スゲェカッコいいよな!!

 でも…あのじいさんは身体が弱くて5年間しか俺を弟子にしてくれなかった……だが、今ではじいさんのお陰で敵なしだ。こうして皆をゴロツキから守れるのも、お師匠直伝の剣技のお陰だ。


「っ……!!」

「ウィル!!ケガは無い…!?」

「ああ!大丈夫!!よゆーよゆー」


 俺は駆け寄って来たアルドラとマリナに対して、先程腹部に受けた傷を隠す様に身体の角度を変えた。祝福で傷と出血した跡はキレイに無くなるが、痛みは健在だ。

 痛みを奥歯で堪えつつ、2人の少女に目を合わせた。


 アルドラはおとなし目の可愛い女の子だ。その整った顔と白い肌、薄いピンクが入った白乳色の髪が人々を魅了させるのだ。

 一方マリナは、アルドラとは反対の活発で爽やかな女の子。青い髪と同じ眼の色がよく映える。

 俺がいる孤児院では、2人の事を『昼の華マリナ』『夜の華アルドラ』と有名だ。


 倒れるゴロツキ。その一人の上に座る体躯が良い少年レイクは口を開いた。


「おーおー、今回もウィルがやっちまったかー。どーする?コイツ等の金…貰っちまうか?」

「いやダメだよレイク。確かにゴロツキ達は悪人だけど……だからと言って俺たちも悪人に染まる必要はないよ」

「ほいほい。またお師匠からのアレだろう?…んったく、ここまで来たら正義のヒーローだな」


 燃えるような赤い髪のレイクに「そうだろう?カッコいいだろ!!」と言い返した。

 俺のお師匠との約束で、『師匠の正体』と『不死鳥(フェニックス)の祝福』は話さないようにしている。祝福……それも不死鳥(フェニックス)はとても希少で、じいさん曰く「多くの悪い人間が狙うだろう」だとさ。

 腹部の痛みが完全に引き、傷が完治した事を察した俺は、レイクの方に近寄り、彼は「ほらよっ」とペンダントを投げた。赤い宝石がついた銀のペンダントを受け取った俺は「もっと優しく投げろよー」とレイクに言い、アルドラに手渡した。


「はい。傷一つ無くて良かったな、アルドラ」

「うん!本当に良かった!…ありがとう。ウィル!レイク!」


 アルドラの純粋な笑顔の前では、俺とレイクは敵わないようで「へへへっ」と鼻を指でこするだけだった。

 それを見たマリナは、大きく手を叩き「はいはい!」と場を仕切った。


「このコワーイ人たちが起きる前に行くわよ!!先生も待っている事だし!!」

「へっ!コーワイ人たちって…マリナもビビってたんだな!!」

「ほぉー???レイク、あんた言うわね?一応言っとくけど『本気』の私たちは、あんた達よりも強いんだからね!!ねぇ、そうでしょう?アルドラ?」

「えっ…ん……。……そうかも…ね」


 マリナはアルドラに抱き着いて言った。いつもの光景、いつもの調子なわけで、アルドラは落ち着いた口調だ。ネックレスは既に首に掛かっていた。


 ……。悔しい話なのだけど、2人には魔法の才能があるのだ。マリナは全ての属性を扱え、アルドラは魔力量と雷魔法がずば抜けている。

 確かに、俺がこうやってゴロツキを倒す前に、彼女達の魔法で全てが終わるのだけど……


「よしよし!この話はもう終わりだ!!」そう言って俺は、ビリビリと火花を散らすマリナとレイクの間に入り「もう行こうぜ!……神父様に怒られるのは嫌だからな」と言った。


「それもそうね…。アルドラ、行きましょう?」

「分かった。…じゃあウィル、レイク。いこう?」


 俺はレイクに目線を合わせ頷いた。そして意見が合致した。

 彼女達には逆らってはいけない事に──


「さてさて正義のヒーロー、俺たちも行こうか。あーあ、嫌だなぁ。今日、歯科検診だろう?」

「なんだレイク…お前、歯を磨いて無いのか?虫歯あるんか?」

「そう言う事じゃねぇよ。口の中に工具を入れられるだろう?鉄の味がして嫌なんだよ…」

「あきらめろ。でもお菓子が貰えるからいいじゃんか」

「……。やっすい男だなぁー、ウィルは」




 ◇◇◇◇




 ずっとずっと昔の事──。古来からこの大陸は、たった1体の古竜がこの膨大な土地を独占し、あらゆる種族は飢餓と古竜の業火を恐れていた。

 しかしその古竜は、1人の男の手によって斃された。大英雄『古竜狩り』の誕生である。

 だが古竜討伐の50年後。その男、『古竜狩り』は自殺した。無理も無い話しだ。命を懸けて守ったあらゆる種族が、その抑圧から解放され争いを始めたのだから。


 その数年後、争いごとに紛れ、強大な力を持った初代魔王が誕生した。しかし、その誕生を危惧していた賢人の弟子達によって初代魔王は打ち滅ぼされた。その弟子達は、大英雄『古竜狩り』にのっとり『英雄』と呼ばれるようになった。

 初代魔王を斃した英雄達。その内の一人が俺の師匠だ──


 初代魔王が敗れて50年後、俺は戦争孤児として産まれた。よく戦場にて剣や防具を死体から奪い、金に換えては飯を食っていた。

 俺が8歳を迎えた年、その賢人の弟子、初代魔王を倒した一人が俺に声を掛けたのだ。「どうだ坊主。俺と旅しねぇか?」と──

 当時、学も知も無かった俺は、その小汚いじいさんを逆手に金を得ようと企んでいたが、ことごとく失敗した。何日も何十日も挑み続けたが、諦めの前に尊敬の意が生まれた。恐らく俺は、その時に人間に成ったのだろう。


 そのじいさんは口酸っぱく「俺も若い頃にゃあ、師匠にボコボコに稽古されていた」と言うモノだから、俺もその当時のじいさんに習い、剣技と魔法の稽古をつけて貰った。剣技はともかく、俺には魔法の才が一切ない事も分かった。


 それと同時に、俺に祝福がある事をじいさんは見抜いた。大英雄『古竜狩り』が編纂した数ある禁書の1冊、それを師匠は持っており、そこから導き出したのだ。

 俺も読ませてもらったが禁書には、あらゆる魔法の特徴から、神から与えられると言う『祝福』の一覧が書かれていた。

 特に『祝福』のページは面白く「僕も欲しかった!!!」と矢印や、何度も囲った丸があり、大英雄『古竜狩り』も人間だったんだな、と思った。


 それから5年。13歳になった俺は、見違えるほど強くなった。しかし、じいさんは日に日に弱くなっていった。理由は分かっている。……『老い』だ。


 訪れた最後の稽古。じいさんは腰に付けていた、しかし、今まで抜いたことが無かった剣を鞘から出した。黄金の光を放ったその剣は、初代魔王の討伐時に装備していた『聖剣』だという。


 じいさんの覚悟を決めた顔を見て俺は、剣を構え涙を零した。……そして、その2日後に初代魔王を倒した英雄の一人が息を引き取った。その遺体は、近くの湖のほとりに埋葬した。

 聖剣、禁書に関しては遺言で「オマエに渡す」と言ったので、俺のモノとなった。なのでじいさんと寝泊まりした洞窟、その奥地に安置した。誰にも知られないように…と。


 そして俺は、協会によって建てられた孤児院、その人間に引き取られた。死期を悟ったじいさんが事前に連絡していたのだろう。

 孤児院に一員になった俺は、当初は馴染めず疎外されていた。とても苦しく屈辱的な日々だった。しかしそんな俺にアルドラが話しかけてくれた。「一緒に遊ばない?」と──

 そうして今もこうやって楽しく居られるのはアルドラのお陰だ。だから俺は…彼女を守らなければ為らない。


 今は亡きじいさん、初代魔王を討ち果たした聖剣の担い手は言った。


『守りたい人を守り切れるように力を付けるんだ。そして決して悪には堕ちず、正義であれ』


 俺はじいさんの弟子だ。だからこの剣技も祝福も全て正義のために使う。

 それと……唯一守りたいと思うアルドラに対しても──


 そう想い始め、この孤児院に来て2年経ち15歳になった。

 魔法の才があるマリナとアルドラに肩を並べれるほど強くは無いが、必ず追い越してやりたいと思っている。

 そして俺は──師匠のような人間になるんだ。




 ◇◇◇◇




「はーい、これで歯の検査は終わりますね」


 壇上にて、いつものように歯医者は鼻を高くして言う。


「皆さん、良く歯を磨けていますねー。虫歯になったら大変ですからねー。歯が痛くなったり、病気になったり、そして──」


 カチカチとペンチを鳴らして「抜歯しなくちゃなりませんからねー」と笑顔で言った。

 正直言って俺は、この歯医者さんが怖い。すこし歳がいったババ……いやいや、お姉様なのだけど……

 これでもか、と言う程口の中を覗いて来るのだ。そして針状の器具で歯を見ていくのだけど、キリキリと歯に鉄針が当たる音が嫌いなのだ。それと、歯医者さんの笑顔が相まって怖い。

 だけど──


「はい!皆、よく頑張ったのでお菓子をあげちゃいますね!!……でも、食べたらしっかり歯を磨いてくださいよ~」

「「「はーい」」」


 俺たちよりも下の年齢の子たちは行儀よく手を上げ「わぁー」と歯医者に群がった。

 彼女が持参したバスケットにお菓子が入っているのだ。彼女の娘はお菓子屋さんをやっているらしく『歯みがきの習慣化』という啓蒙活動の下、歯医者のババアは今日も頑張っている、という。

 まぁなんとも献身的なのだろうか。……でもババry


 年下の子の列が終わり、俺はバスケットを覗き込んだ。色んな木の実がふんだんに練り込まれたクッキーだ。

 それを1枚とり「前の飴、美味しかったですよ」と歯医者のお姉様に言った。それを聞いた彼女は「あら嬉しいわ、娘も喜ぶでしょうね。でも、虫歯が出来にくい体質でも歯磨きはしっかりね!!」と釘を刺された。

 たぶんきっと、祝福のお陰で虫歯とは無縁の人生なのだけど、それについては誰にも明かしていない秘密なので『体質』だと嘘を言っている。


 クッキーを一口食べた。見た目以上に木の実の香りが良く、生地をつなぐキャラメルは甘く最高であった。

 あまり大きくないので三口で食べ終わってしまった。

 そこにアルドラから声が掛かった。


「ねぇウィル…これ食べてくれない…?ちょっと合わなくて……」

「え、いいの!?ありがと──」


 少し齧ってある痕跡を見て、俺は固まった。

 コレは俗に言う関節キスと言うモノでは無いのか!?しかし、ここでクッキーを捨ててしまうのは、歯医者のお姉様が残念がるに違いない。

 ならばこの行為は、それ相当の理由があっての行動だ。だから、これに罪は無いし正義であって王道だ。


「あっ…じゃあ、いただき

「お!?アルドラ、ソレ要らないのか?なら、俺が貰うわ!」


 俺の後方からレイクの声と共に腕がクッキーに向けて伸びた。それを手に取った赤髪の少年はそのまま、ヒョイと丸ごと口に入れ飲み込んだ。

「ありがとなーアルドラ!」と頷くレイクに向けて俺は口を開いた。


「殺す…!お前を殺して俺も死ぬ…!!」

「うわっ!?なんだよウィル!!」


「マリナっ…どうしよう、また喧嘩が…」

「またー?……、いきましょうアルドラ。頭が痛くなるわ」




 ◇◇◇◇




 陽が落ち、夕食が終わると俺たちは、孤児院の隣に建てられた礼拝堂に向かい歌を歌う。この国、『サテリーゼ法国』のしきたりだ。


 その昔、法国は異種族に対して厳しい対応をしていたが、俺の師匠と並ぶ英雄の一人である聖女様が、サテリーゼ法国を立て直した。

 その聖女様もかつては法国から迫害されていたが、初代魔王討伐後、法国は異種族への差別・犯した罪について謝罪をし、聖女様を一番高い位に座させ、大規模の宗教改革を行った。『神の下、種族の差など関係ない』として──


 聖女様亡き後もこの法国は、清く正しくあり続け、1年ほど前に古くから相容れぬ存在だった『オロ・ファロス国』と友好関係を結んだ。

 今やこの『サテリーゼ法国』は、この大陸で1番の国となり、法国の国教は他の国にも浸透している。


「はい。今日はこれで終わりにしましょう。明後日には施療院にて歌を歌って頂きますからね。聖歌隊としての腕前を魅せる時です!」


 と、この孤児院の長である<フェブール>神父は優しい笑顔を作って言った。

 この神父は長年、法国の首都にある教会に所属していて、数多くの門下生がいる、と有名だ。実際、この髭を蓄えた優しい顔の前では、泣く子も泣き止み笑顔になるそうだ。

 まぁ……怒ると怖い神父なのだが、規律を守り、誰よりも法典を遵守するその姿は、この法国の一番槍である聖竜騎士ですら感服するそうだ。


「まぁ…長話はこれでお終いにしましょう。皆さん、夜更かしはダメですからね。では、おやすみなさい」


 神父フェブールがそう言うと、礼拝堂は騒がしくなった。無理も無い、これからの就寝時間まで自由時間なのだから。


「やっと終わったなウィル。今日もまた稽古か?」

「あぁそうだよ。毎日やんなきゃ稽古の意味ねぇだろ…」

「あーあ、大変だねー。強さを保つっつのは」


 レイクと軽いやり取りを終わらせ俺は、誰も来ない孤児院の裏手に回った。フェブール神父は俺の過去を知っており、特別に稽古用の道具を置かせて貰っている。

 一時期、俺の師匠と旧友なのか?と考えたが神父は何も話してくれなかった。本心は神父に詰め寄ってでも聞きたいが……やめている。神父に迷惑が掛かるから。

 腹筋や腕立てをして身体を温めた後、重たい樫の木で出来た木刀を振るう。これも全て、じいさんに近づく為に──


 孤児院に入ってこの2年。俺はその自由時間を使って稽古をしている。普通、稽古は指導者が付き物だが、俺の師匠はこの世にはいない。しかし、記憶は鮮明に残っている。

 いつも俺の背中を押してくれるのだ。それが日々の稽古の励みになっている。

 そこに「ウィル」と声が掛かった。視線を向けた先、月明りに照らされたアルドラが居た。『夜の華』の異名を持つ彼女に相応しく、日中よりも儚く美しく見えた。


 木刀を下げ俺は「どうしたんだ?」とアルドラに言った。

「ううん……大した事無いの。ただ…」一度俯く。そして顔を上げて「私も魔法の練習がしたくって」と続けた。


「そうかぁ…。ちょっと俺的には、あまり…ね」

「えっ…!?ダメなの…?」

「いや違うんだ。ただ……俺は魔法の才能があるアルドラやマリナに追い付きたくてさ……。今日の昼だって俺じゃなくても……アルドラとマリナの魔法で…」

「そんなこと無いよ…!!私とマリナだって、才能があるって言われてるけど、まだコントロールが出来なくて…。ああやって無力化出来るのも、ウィルが頑張ったからだよ!」


 アルドラは更に近寄って俺の手を取った。同時に木刀が音を立てて地に落ちる。


「大丈夫だよウィル!私はキミを置いて行かないから…!!」


 満面の笑みを浮かべる彼女には、どうやら俺は敵わないようだ。

 木刀を振りマメだらけの手にアルドラの柔らかい手の感触と熱が伝わる。


 ──私はキミを置いて行かないから


 何を言う。アルドラは俺を何度も救ってくれた存在だ。そんな彼女に俺は……なんという言葉を言わせてしまったのだろうか。もっと強く成らなければ…!!

 16歳になれば孤児院は卒業し、修道院に移る。そこで俺は自分の強さを認めさせて聖騎士に成るのが夢だ。あわよくば、その上の聖竜騎士にも…!!

 強くなって強くなって……国も民も愛する人も守れる人間に…!!じいさんの様に『英雄』と呼ばれるように……!!


「アルドラ…!俺も君を守れるように強く──


 その時だった。

 アルドラが声を上げ指を差した。「孤児院が……」

 赤い光に照らされたアルドラの表情を見て俺は我に返った。後ろからはパチパチと炎の音が聞こえる。

 まさかと思い、冷や汗を一つ流して俺は、後ろを振り向いた。


 真っ赤の炎に包まれた孤児院と礼拝堂。耳を凝らすと子供たちの悲鳴が聞こえた。

 幸いに此処は火元から離れているため炎はまだ立っていないが、無数の火の粉が「ここも安全ではない」と告げていた。


「行かなくちゃ!!」と、アルドラの手を払い地に落ちた木刀を拾い上げた。『不死鳥(フェニックス)の祝福』により俺は、炎に対して耐性がある。ここで満足に救出活動が出来るのは俺しかいない。

 アルドラの「待って!!」と言う声で、俺は立ち止まる。


「どうして……行くの?」

「は……?」

「こんな炎じゃ助からないよ!……ねぇウィル、どうして行くの……?」


『助からない』。この意味は、俺に対してではなく、建物の中に居るであろう人間に対して言われたものだと察した。


「でも…行かなくちゃ……」

「それってさ……ウィルのお師匠様が『そう』だったからなの…?」

「……」

「ウィルの意志は…!?ウィルはお師匠様じゃないんだよ…!!ウィルはまだ強く無いんだよ!!……今日だってお腹に傷を負ったでしょ!?私は知ってるの…全部見てるの…!!いつもキミは傷ついて傷ついて……それはキミの意志なの!?」


 アルドラは大粒の涙を流して言った。

 今まで溜めてきた感情を吐き出す様に、ただただ必死に。

 それでも……俺は……


「ああそうだよ……怖いよ。痛いもの、日々の稽古も、我慢するのも、隠すのも、じいさんに肩を並べると言う夢を追うのも…つらい……辛いよ!!……でも『人を助けたい』っていう気持ちは本物だ……」


 そう言って俺は、アルドラを後にゴウゴウとうねる炎の元に駆けた。

 確かに俺はじいさん……魔王を倒した師匠の様には成れないのかも知れない。道半ばで諦めるかもしれない。

 でも……それでも……自分の正義を貫きたいんだ。




 ◇◇◇◇




 修道士が孤児院の子供達が避難させていたが、フェブール神父、マリナ、レイクの姿は何処にもなかった。

 その事を確認した俺は、周囲の大人達の反対を押しのけて孤児院に駆けて行った。


 煙と熱気によって喉と肺が焼ける。照り付ける炎によって肌が燃える。しかし祝福が、『不死鳥(フェニックス)の祝福』が死ぬことを許さなかった。

 いくら炎の耐性が有るからといって、この業火は辛い。……いや、いままで祝福を隠して生きていたんだ。それが原因で、未だに祝福の本領が発揮できていないのか…?


 燃えるドアを蹴り開け室内に入る。この部屋はまだ火の手は完全には回っておらず、室内の空気は澄んでいた。だが……


「神父!!」


 俺は部屋の中央で血を流すフェブール神父に駆けた。腹部からの出血が激しく、顔色も悪い。

 そんな彼の状態をゆっくり起こし「神父!大丈夫ですか!?聞こえますか!?」と何度も呼びかけた。

 フェブール神父は震える口を開け小さく言った。


「マリナ…レイクは……私の門下生……聖竜騎士が、確保した、安心したまえ…あの2人は大丈夫……だ、信頼できる……人間だ」

「聖竜騎士が……!?……分かりました!!さぁ、ここから脱出しましょう!!」

「いや……いい……。外に出れても……この私は……毒に犯されている…ようだ。……もはや、助からんよ」

「そんな……」


 俺は神父の腹部を見下ろす。真っ赤の血が滲み、ポタポタと床に滴っている。

 今すぐにでも治癒魔法を使いたいが、俺には魔法の才能は一切ない。……このまま神父を見殺しにしろと言うのか……


「ウィル……オマエには、やるべき事が……!!」神父は肺に流れ込んだ血によって咳き込む。その後、俺の腕を力いっぱい握った。しかし秒を重ねるごとにその力は無くなっていく。


「火を放ち……私を刺した者は……アルドラを狙っていた…!!彼女を守ってやれ…!!」

「アルドラが…?」

「早くしろ!!間に合わなくなるぞ!!」

「うぅっ……!!くそぉ!!」


 そう吐き捨て俺は、部屋を後にした。

 フェブール神父を救えなかった。

 俺が無力な余りに。

 しかもアルドラにも危険が迫っている。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」


 孤児院を焼き尽くす業火、頭の中をかき回す恐怖、自信への失望。

 それら……狂気に触れられた俺はただひたすら、叫び走る事しか出来なかった。




 ◇◇◇◇




「あぁ貴方が…()()()()()()()()……。初めまして」


 神父を捨て、俺はアルドラと別れた孤児院の裏手に居る。空からは火の粉と灰。それが雪の様に静かに降っていた。


「ですがまぁ……これでお別れですか。仕方ありませんね…残念です」


 黒いコート、黒い帽子。陰に隠れるような服装の男は、そう淡々と言った。

 その男の後ろ。そこにはアルドラが血を流し倒れていた。

 その風景が先程の神父と重なった。


 俺は木刀にフェニックスの炎を纏わせ駆けた。

 相手が誰であろうと、目的がなんであろうと最早関係ない。

 今ここで殺す。

 頭を潰す。

 今ここで殺す!

 この炎で全てを焼き尽くす!!


「ああぁあああぁぁあああ!!!」

「貴方とは沢山お話をしたかったのですが…お時間です。また──


 男は顔を上げ、青白い肌をさらした。そして健やかに笑い、続けて言った。


「地獄で会いましょう」


 その言葉と同時に、男の身体が、皮膚が膨れ上がり次の瞬間、爆散した。

 深紅の血と白い骨、皮膚や臓器が弾け飛ぶ。

 まるで何かの罰だと言うように。

 完膚なきまでの即死だと、ゴチャゴチャになった脳でも理解できた。しかし……


「アルドラ!」


 事態は変わらない。

 今もなお彼女は大量の血を流している。

 意識はない。


「……アルドラ!!」


 銀のペンダントが落ちている。深紅の宝石は何処にもない。

 鋭利なナイフで腹部を割かれているようだ。彼女の血は止まらない。

 白い肌も、綺麗な髪もすべて血で汚れていく。


 赤。赤。赤。赤、赤──


「おい貴様」


 後ろから声がした。

 ゆっくりと首を動かす。


「ほぉ、今にも死にそうな顔をしてやがる。オレと同じ良い(ツラ)が台無しだな。まぁいい…」


 竜を模った(ヘルム)の隙間からは、何かをあざ笑うような視線があった。

 漆黒のフルプレートに深紅のスカーフ。右手には斧槍(ふそう)が握られていた。

 神父が言っていた聖竜騎士だろうか。スカーフには法国の紋章が見られた。


「その女が『そうなった』以上、生かす訳にはいかないな。貴様、そこを退け。貴様には、法国を支える輝かしい未来があるのだからな」

「……」

「どうした?たかが女一人……。貴様の我が儘で我が恩師、フェブールの死を無駄にする気か?」

「……」

「オレの声すら届かんか。しかしその闇、その悲しみはオレにも解かるぞ。だがしかし…状況が状況だ。……許せ」


 そう言った聖竜騎士は、斧槍を高く構えアルドラの首を見定めた。

 そして重厚な刃が振り下ろされた。が──


「ほう貴様。なかなか良い筋がある男では無いか」


 俺は咄嗟に足を動かし、その一撃を肩で受け止めた。

 皮膚を割き、肉を断ち、鎖骨を半分切り進み止まったソレは、トクトクと血を彼の手元に運んだ。

 痛みは最早なく、俺の頭の中は真っ白だった。だが、それでも……守りたいモノは分かっている。

 斧槍がめり込む肩は、メラメラと赤い炎が上がった。


「…再生の炎?……あぁ、なんとも惜しいよな、貴様も祝福持ちだとは……」


 ズブズブと刃を下げる男は淡々と言った。


「だが上手く扱えていないようだ。……ならばこのオレが、一思いに殺してやろう──」


 本当に悔しい話だが、俺の意識はここで途切れてしまった…




 ◇◇◇◇




「まって!」

「あぁ?」


 聖竜騎士は、少年の背後に立つ少女を視界に入れた。

「目覚めたか…」と小さく漏らし、祝福持ちの男から斧槍を引き抜くと、その深紅のスカーフをなびかせ武器を構えた。


「あれ?私、お願いを言ったけ?良く分かったね、偉い偉い」

「このオレはモテるんでな。女の子の想いは分かっちまうんだよ」

「そうなの!?……じゃあ、これから私が言う事も分かるよね???」

「……あぁ、チビっちまうほどに良く分かる。だがな……コッチは仕事でな。悪いが死んで貰う」

「えぇ!?…せっかくお友達になれると思ったのに……残念。じゃあさ……死んで」


 そう言うと、赤い目の少女は指を鳴らした。

 すると聖竜騎士の足元から数本の赤い槍が襲う。それを華麗に避け、その斧槍をもって破壊した。

 しかし少女の攻撃は止まらない。「それそれ」と玩具を楽しむ赤子の様に、何度も同じ攻撃を繰り返す。そして──


「『1』」


 と、数字を言った。

 すると聖竜騎士の上空、頭の上に一つのドス黒い目玉が出現した。


「呪いの類か…?面倒な…」

「まだまだいくよ!…『2』!」


 少女の声に応えるように2つ目の目玉が聖竜騎士の頭上に出現した。

 このままでは埒が明かない、と判断した騎士は、その赤い槍を食らいながら前進した。

 ただ前へ。少女を殺す為に。


「お兄さんタフだね。でも、いつまで耐えれるかな?『3』!!」


 3つ目の目玉。それがこの呪いの条件だったのか、聖竜騎士の全身から血が溢れ出した。

 ほんの僅かの時間。立ち止まってしまった騎士は、そのまま槍の餌食となり腹部を4本の槍が貫き消えて行った。


「グゥッ…!?……ほぉ?…5秒毎に1のカウントを重ねるのか……。3つ目玉が出現してから呪いが起動し始める……フフフ、面白い!!」

「そんなに余裕ぶってていいのかしら!!『4』!!」


 少女は数字を重ねる。

 すると先程とは打って変わり、溢れた血が槍状になって騎士を貫き出した。

 流石に堪えたのか法国の一番槍と呼ばれる聖竜騎士は、斧槍を地面に刺し、息を荒げ立ち尽くした。


「何で倒れないの!?死んで…死んでよ!!『5』!!」


 少女は声を荒げた。

 常人ならば既に死に絶える攻撃、出血を経ても男は倒れなかった。


「『6』!!」


「まだオレは死んでねぇぜ……お嬢ちゃんよ…」


 そして訪れた最後の数字。

 少女は『7』と数字を重ねた。

 すると騎士の頭上、7個の目玉は一つの大きな目玉と化し、男を飲み込んだ。

 宙に浮く身体。見えないナニカに拘束させた騎士はその後、無数の槍と剣が身体全体に突き刺さり絶命した。

 拘束から解き放たれた死体は地に落ち、身体を刺さるドス黒い武器は消散していった。


「はぁ、はぁ……はぁはぁ」


 少女は肩で大きく息をする。

 今までの彼女の人生では味わう事は無かった『人間の執念』が、赤い瞳の少女の息を乱した。

 パチンと大きく火の粉は散った刹那、パチパチパチ…と誰かが拍手をする音が少女を包んだ。

 ぬっと、まだ焼けていない壁の影から同じ容姿の騎士。しかし、スカーフの色が群青色の聖竜騎士が現れた。


「いやいや……見事な戦いでした。確か…アルドラさんと言いましたかね?いやはや、恐ろしい」

「誰?…貴方も死にに来たの?」

「いいえ。ボクには戦う意志は有りません。ボクは……アルドラさんと交渉しに来たんですよ」


 先程の男とは打って変わり、まるで歌を歌うように言葉を放つ騎士は両手を挙げ『降伏』の意を表した。

 そしてゆっくりと倒れる騎士に寄り、チョンと血に染まる肩に指を触れた。

 すると先程の呪いで絶命したはずの男は息を吹き返し「ゴホゴホ」と咳をした。


「なにをしたの?」

「いやぁ、ただボクの兄さんを返して貰うだけですよ」


 そう言うと群青色の騎士は「お疲れさまでした……兄さん」と小さく呟いた。

 それに応えるように深紅の騎士は「久しぶりに地獄を見たぜ……。いやな、今の装備では殺せんな」と返した。

「そうですね。一度帰還して策を練りましょう」と力なき騎士の脇に頭を通し支えた。


 そして、先程殺したはずの弟を名乗る男は声を上げた。


「我々はここで帰らさせて頂いても宜しいか?」

「なんで?私はさ、弱っている獲物を逃がすと思う?」

「アハハハハ!!全くそうは見えませんね!…いや失礼。では交渉を始めましょうか…」


 ゴホンと咳払いをした群青の騎士は、フリーになっている左腕。その指を顔に寄せた。


「…我ら法国の人間は、今後一週間……あなた方には危害を与えない。……これでどうでしょうか?負けてしまいましたがボクたち聖竜騎士は、法国の主要戦力でして。失くす訳にはいかないのですよ」

「ダメ。1年間にして」

「それは……うーん…。では二週間は?」

「半年」

「1ヵ月間」

「乗ったわ」

「はい。ありがとうございます」


 トントン拍子で期間が決まり弟は、一本のスクロールを少女に投げた。


「それは誓約書です。我々法国が約束を破りましたら、ボクと兄さんが即死する誓約書となります。期間は1ヵ月間。その期間中は大切に保管してください」

「無くしたり、破れたら?」

「誓約書が無効になりますから、どうぞご大切に」

「わかった」

「あぁ、それと……」

「何よ?」

「アルドラさんのご友人。マリナさんとレイクさんから伝言が。『助けに行くから待っててね』と」

「へー、そう?」


 少女は近くに倒れる『不死鳥(フェニックス)の祝福』を受けた少年の元に寄り屈んだ。そして──


「私にはそんな友人は居ないわ。これでウィルとずぅーと二人っきり。……いつも邪魔だと思っていたの」

「…そうですか。勝手ながら、聞かなかった事にします。では、さようなら」


 赤の女王──




 ◇◇◇◇




「ねぇウィル?私、強くなったよ?法国の聖竜騎士もコテンパンにやっつけたんだから!」


「これでずぅーと、ずぅうぅぅぅと!一緒だね!!ウィル!!」


「私がキミを守るからね?キミはもう、傷つかなくていいんだよ?」


「あ、でも…傷つく姿にもキュンとする時があるんだけど……まぁいいか、ウィルが無事ならさ!」


「ねぇウィル…早く起きてよね。ずっと寝てたら許さないからね?」


「起きたら何をしようかなー?法国から出て、美味しいお菓子を巡る旅!!うん、いいかも!!」


「この1ヵ月間、何をしようかなー?あっ!!…私が法国を攻めに行ったら、必然的にあの兄弟は死ぬんだよね!?……私って天才!!スゴク天才!!」


「でも……兄?を確実に殺したんだけど…なんで生き返っちゃったんかな?ウィルと同じ祝福持ちなのかな?」


「まぁいいや。次は確実に殺す手段は考えてあるし。今はウィルに集中しなきゃ…」


「ふふふーん。ほっぺた柔らかーい。ねぇ、ウィル。私はこんなにも、こんなにも愛しているんだからさ、ウィルも……」


 愛してくれなきゃダメだよ?


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