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1章 終わり

現在、感想の返信を行えないため感想欄を閉じておりますm(_ _ )m

 最初は白がどこまでも続く空間だった。

 光に満ちているようにも見える。

 だが目への刺激は無く、まるで闇のような静けさすら感じた。


 しかし少女が目を開くと同時に、この場所は木で出来た部屋となる。

 木目の一つ一つ、檜の乾いた臭い、窓から差し込む光。

 この上ないほどの現実。

 しかし全ては偽り。


 サイバースペース。

 電脳空間に作られた偽りの世界。

 それがこの場所の正体。


 少女の表情は変わらない。

 その目に感情の欠片すら窺えない。


 そこへ木扉をノックする音が響く。


 だが彼女は動かない。

 戸惑う様子もない。


 ノックの主はしばらく待つも、やむなくドアノブを回し扉を開けた。


「失礼しますよ」


 白衣を着た男であった。

 彼の笑みを商売道具だと考える物の方が多いだろう。

 そのような胡散臭さが滲み出ている人物。


「いやー。初めまして、アナタのお世話をさせて頂く者の一人でナガミネと申します」


 沈黙。

 やはり少女の顔に感情は見られない。


 それは生来の物か。

 もしくは脳に手が加えられたためか。

 今はまだ誰も答えを知らない。


「今回はご負担になるだろうと考え、私のみご挨拶にうかがいました」


 *


【サイバースペース】


 サイバースペースに設けられた一室。

 応急措置的に作られていたこれまでとは違う、手の込んだ家具の置かれた部屋。

 様相は地球の近代的なオフィスビルにある一室。


 中央に大きなテーブルが置かれ、それを囲むように椅子が並べられている。


 ここが新たな会議室。

 未だに資源が存分にあるわけではない。

 だが仮想空間であるサイバースペース内であれば、多少の贅沢が出来る程度にはなった。


 この空間の家具も贅沢の一つ。


 ようやくというべきか?

 それまで職場の予算をケチった休憩室程度だった場所が、それなりの見栄えのする会議室になっている。

 だが温もりを感じさせる木などが使われていないため、部屋は冷たい印象を拭い去れていない。


 IRISUが分析した素材をサイバースペース内では使える。

 だが、これまでに分析させた素材の由来は、金属の塊である惑星フリーダム、小惑星、回収した宇宙船など。

 それらから木材を手に入れることは出来なかった。


 ロアが手元近くに浮かぶモニターに触れると、画面が消える。


 回収した宇宙船にあった人の脳を使った装置。

 それをサイバースペースに繋いで、脳の主に仮の体を与えた。

 この際に、何かしらの情報保護システムやウイルスの存在などを考え、星に専用の区画を作った上に、脳の主たち専用の簡易的なサイバースペースを作るなど、割と大がかりな準備が必要となってしまった。


『その価値はあって欲しいが、どうなることか』


 果たして、これ程の手間をかける価値があったかどうか?

 椅子に深くもたれかかったロアは、意味のない思案に心を委ねる。


 ナガミネという人物に、脳の主たちへの接触を任せた。

 その道のプロだと聞いている。


 だが彼のレポート内容は、芳しい物ではなかった。

 サイバースペース内に体を再現された者達には、記憶の混乱が見られるとのこと。

 このため情報の聞き取りは、まだ難しそうだ。


 次にロアが考えたのは、回収した宇宙船について。


 多くのデータを確認できたが、巧妙に偽装されているという前提で解析が行われている状態であり手間取っている。

 しかし積まれていた兵器や宇宙船そのものは、自分達であれば容易く再現できるレベルであることは判明していた。


 偽装しているという前提が正しいのなら、最新艦や旧型艦ではなく一般的に使われている技術の船であると考えるべきだろう。

 最新艦や旧型艦の場合、目立ってしまうため偽装する価値が損なわれてしまうからだ。


 他にも多くを考える。


 だが、いずれも情報が少なすぎる。

 彼の問いに答えが出るハズなど無い。 


『まぁ、次のリーダーに丸投げすればいいか』


 じきに選挙が行われ、星の方針を決めるリーダーたちが決まる。


 その選挙にロアが出る予定はない。

 最も危険な時期を乗り越えられたのだ。

 おかげで、ある程度ではあるが、状況は落ち着いており腰を据えて次の方針を決められる。


 これで次のリーダーたちが失敗をしても、いきなり星の存亡が危ぶまれるようなことなどないだろう。


 なによりも、ロアは最も面倒な時期に貧乏くじを引き受けたのだ

 星の住人に吊るし上げられても、庇ってもらえるだろうという打算もある。

 だから、自分がリーダーである理由は既にない。


 そう結論づけると、彼は考えるのをやめた。


 だが脳を休めたせいで、思考に空白が生まれたせいかもしれない。

 ロアの脳裏に一つの単語が思い浮かんだ。


「──絶滅危惧種、か」


 小さくそう呟き、溜め息交じりに苦笑いを浮かべる。

 厄介な状況だと思いながらも、今は出来ることなどない。


 特に何かするわけでもなく、ロアの姿が消える。

 サイバースペースからログアウトしたのだ。


 絶滅危惧種。

 今は無き地球において哺乳類の場合は、絶滅危惧種の平均生息数は1000個体未満とされている。

 対してロア達の総数は592人。


 絶滅危惧種とは、まさしく彼らの現状を表すのに相応しい言葉であると言える。


 どのようにこの現実と付き合っていくか?

 その答えは、この宇宙に散らばる星の数だけあるのだろう。


 だが星の多くは、生命を育むことはない。


 彼らの選ぶ未来は、果たして彼らの生命を受け入れるだろうか?

 その答えは、未だに暗い闇の中にある。

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