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他文明

【宇宙空間】


 星々の光は届かないほど遠く。

 生きている者の命を繋ぐ大気は無く、また冷たさに凍えることしかできない宇宙。

 そこは冥府と呼ぶにふさわしい世界だ。


 だがロア達の体は、金属で造られた偽りの物。

 どれほど凄惨な壊れ方をしようとも、彼らが死ぬことは無い。

 彼らは過酷な宇宙に身をおこうとも、冥府とははるか遠い場所にいるのだ。


 ロア達は、小惑星帯の中にいた。

 フライザーと呼ばれる、肩幅程度の円形をした道具に掴まっている。

 その姿は、プールでビート板を使って泳ぐ姿に似ていた。


 だがビート版との違いはある。

 この道具は、推進システムを有しているため、力場を形成し移動することが出来る点だ。


 小惑星帯のような障害物が多い場所では、フライザーのような小型の乗り物が必要となってくる。

 防御面では心許ないが、小惑星と衝突しながら進むよりもは遥かにマシであると言えるだろう。


 またムカデに襲われる可能性もある。

 そのような不安はあるが、電波を確認するためには進むしかない。


 フライザーを使っているのは、メンバーの中で高い戦闘力を持つ2人。

 ロアとフロウル。


 どちらもアバターは同じ姿であるため見分けはつかない。


 まず彼等2人が先行し、道中の安全を確認する。

 その後、4人が遅れる形で合流する予定だ。


『ムカデは来ないが……いるな』


 作業中とは打って変わり、ロアは周囲を警戒していた。


『数は分かるか?』

『こっちに来る様子はないから、気が滅入るだけだぞ。それでも聞くか?』


 索敵にも魔術が用いられている。

 ロアは運動神経は並よりも下であるが、魔術適正は高い。

 魔術を使った基礎的な技術に関しては、今のところ独壇場と化している。


 フロウルも、索敵の魔術は使える。

 しかしロアの方が一頭抜けているという感じだ。

 だから、まずはロアが魔術による索敵を行い、その後にフロウルが念のために周囲を確認するという形をとっている。


『やっぱいい。だが小惑星の近くを通り過ぎるとき、何かいたら教えてくれ』

『わかった。早めに伝える』


 不必要な情報を得ても、神経をすり減らすだけだ。

 どちらも己の役割を最大限に果たしながら、また余計な事をしないように己の領分を守りながら宇宙の暗闇を進んでいく。


 それから、どれだけの時間が経った頃か。

 宇宙船ほどのスピードは出せないフライザーでは、相当な時間が掛かったのは確かだ。

 アバターでは肉体的な疲労は感じない。

 だが精神的な疲労は溜まっていく。


 目的の場所に、この精神的な疲労が大きくないうちに辿り着けたのは幸運だったと言えるだろう。


『あれが電波の発生源みたいだな』


 フロウルが見下ろす先にある小惑星。

 そこに金属の塊が存在していた。

 宇宙船だろうか?


 まるで半分に折れて、ブースターのある後ろ側だけがそこに辿り着いたかのような姿。

 半分になっているようには見えるが、船はとても大きい。


 よほどの偶然が重なったのだろう。

 今いるのは周囲が小惑星に囲まれている場所だ。

 障害物に邪魔されることなく、小惑星帯の奥深くまで入り込んでしまっているのだ。

 乗っていた人間の中に、よほど運の悪い者がいたのかもしれない。


『この距離から仕留められるか?』


 船から離れた場所にある小惑星に、ロアとフロウルは姿を隠している。


 彼らは何を仕留めようというのか?

 それは船に集まっている3匹のムカデ。

 ロアを襲った、あの5mを超える体長のモンスターだ。


『当てることは出来るだろうが、威力が足りるか心配だな。強化術式を頼む』

『分かった』


 フロウルは、ライフルを構える。

 これは小惑星を回収していたときには無かった装備だ。

 また彼らのアバターだが、装甲が追加されている。


 動きが制限されるため、ライフルも装甲も作業中には使っていなかった。 

 だが危険が存在する可能性が高いと分かっている場所に、軽装備で飛び込むようなバカではない。

 彼らは十分……とは言えないながらも、持ちうる最高装備でこの場にいる。


 ──機創術モノリス


 ロアは魔術を用いて、銀色の立方体を2つ作り出す。

 そしてフロウルの構えるライフルの銃口、その先にモノリスを飛ばす。


 銃口を挟むかのように並んだモノリス。

 そしてモノリス達の間に、複雑な文様が現れるも、それは一瞬。

 今はガラスのような透明な板にしか見えない。


『後は頼む』


 これは狙撃用強化術式。

 ライフルから放たれる弾丸の威力を数倍に高めてくれる。


『じゃ、お仕事と行きますかね』


 軽い調子でライフルの照準を合わせる。

 だが纏う空気は、口調にそぐわない張り詰めた物へと変わった。


 緊迫感に満ちた時間が過ぎていく。

 タイミングを計っているのだ。

 3匹のムカデを最も効率的な狩れる瞬間を、決して取り逃がさないために。


 そして一匹のムカデが、これまでとは違う動きをとったときであった。

 船の残骸から、何か白いものを引きずり出したのだ。


 ムカデは、船の残骸から何かを引きずり出して食べ始めた。

 その姿は、まるでゴミ漁りをするネズミのようだ。


 しかし、そのネズミは5mもある巨大なムカデ。

 牙には強力な毒があり、一度噛まれれば死に至る。

 その毒は、アバターの金属の体にも効くのは、ロアが身をもって経験済みだ。


 フロウルは、そんな恐ろしい相手に対しても動じていない。

 彼にとってライフルは、前世からの長い付き合いの相棒なのだ。


 彼は引き金を引いた。

 銃声はない。


 ここが宇宙だからとかいう理由からではなく、そもそも存在しなかったのだ。


 フロウルが手にしているのは魔銃。

 金属並みの強度を持つ弾丸を生成し、獲物を遥か遠くから葬り去る魔導兵器。


 音もなく獲物へと向かう弾丸は、ムカデの頭部を貫いた。


 見た目通り虫並みの生命力を持っていたのだろう。

 痛覚を持っているかは分からないが、もがき苦しむかのように体をしばらくバタつかせていた。


 死を確認できるまで油断はできない。

 だが、いつまでも観察しているわけにはいかなかった。

 他にも2匹のムカデがいるのだから。


『次を狙う』


 フロウルが魔術を用いてロアへと伝える。

 観察は、索敵を得意とするロアに任せた。


 彼は移動を開始する。

 

 小惑星にも多少の重力はあるが僅かしかない。

 ましてや、フロウルが隠れている大きな岩とも呼べるサイズともなれば、誤差とも言えない程だ。


 隠れていた小惑星を軽くけると、無重力同然の空間をフライザーを用いて移動し始める。


 全部でムカデは3匹。

 うち1匹はじきに死に絶えるだろう。


 過酷な宇宙空間でも生命活動を行えるほど強固な外殻を持ったムカデ。

 だが、そこに穴が開いてしまえば命を守る物は失われる。


 死因は、狙撃による頭部の損傷だろうか?

 いや、おそらく死因は別になるだろう。


 真空に近い環境の宇宙では沸点が下がるため、常温でも水分が蒸発してしまう。

 あのムカデは、水分が蒸発し頭部の中身が乾燥することが死因となるかもしれない。

 もしくは別の要因となるか?


 ロアは、フロウルの仕事を邪魔しないように注意をしながら、彼の後ろをついて言っている。


 機創術で作ったモノリス。

 ある程度までの距離なら、問題なく動かすことが出来る。

 だが一定以上ロアから離れてしまうと、存在を維持できなくなり消滅する。

 このためフロウルのためにモノリスを使うためには、彼と共に動く必要があった。


『ムカデが動かなくなった』


 魔術を用いてムカデの様子を確認していたロア。

 彼はフロウルへと、仕事の結末を伝える。


『そいつは重畳』


 特に喜ぶでもなく、安心するでもない。

 フロウルは次の獲物を狙撃できるポイントへと向かう。


 2匹目。


 弾丸が音もなく飛び出し、ムカデの背中に命中する。

 驚いて身を震わせるムカデ。


 あの銃創から体液が水蒸気となって逃げだしているかもしれない。

 人間であれば、それだけで死を感じさせるには十分な状況となる。


 だが相手はモンスターだ。

 それだけでは死ななかった。


『腕が鈍っているか』


 それはフロウルの呟き。


 いや、これで鈍っているのなら俺の立場が無いんだが。


 狙撃……戦闘技術……運動。

 こういった体を動かすテストが人並み以下。

 そんな中々に酷い成績だったロアは、少し居た堪れない気持ちになった。


 だが今は機械の体だ。

 そのような感情をフロウルが察する術などあるはずがない。


『二匹仕留めた』


 ロアが余計な事を考えている間に、フロウルは2つ目の仕事を終えていた。


『すごいな』


 ロアとフロウルは、最後の一匹を探す。

 しかし、どこにも見当たらない。


『どこ行った?』

『分からない。隠れてるのか?』


 索敵の魔術。

 その出力を上げれば、感度は上がる。

 だが余計な情報が大量に入ってくるため、今度は大量の情報の中からムカデに関する物を探す必要が出てくる。


 現状の索敵の魔術で把握できないのであれば、自分達の五感に頼るしかない。

 彼らは張り詰めた空気を纏いながら、周囲を警戒する。


『気をつけろ。急に襲ってくるかもしれない』


 ロアとフロウルは、周囲を警戒しながらフライザーを動かす。

 小惑星の影から影へと移動する。

 その時、フロウルの目に飛び込んできたものがあった。


『いたな』


 最初に見つけたのはフロウルであった。

 魔術関連であればロアの方が上ではあるが、五感を使った事に関しては彼の方が上だということだ。


 小惑星の影に隠れ、フロウルがライフルを構える。

 銃口の先を見て、ようやくロアもまた最後の一匹を確認できた。


 最後のムカデは、船の残骸から離れていた。

 その代わりに、何かをくわえていた。

 別のムカデが、船から引きずり出したものとよく似ている。

 おそらく、人間の死体だ。


『やることに変わりはない、か』


 フロウルが発した声は、普段の雰囲気とは違う冷たさのこもった物であった。


 僅か数秒の後。

 フロウルが引き金を引く。

 弾丸が音もなく飛び出し、ムカデの頭部に命中した。


『三匹仕留めた』


 もがくこともなく、 ムカデは死体を落とすし動かなくなった。


 仮に生きていても、復讐のために……などと言うことはないだろう。

 そこまでの知能があるとは思えない。


『遺体の確認はいいのか?』

『構わない。グズグズしていたら他のムカデが来るだろうからな』


 宇宙服を着た死体らしき物を調べれば、色々な情報が手に入るはずだ。

 しかし宇宙船の内部には、より重要度の高い情報があると考えている。

 その情報を手に入れる機会を損ねてまで、あの死体を調べるほどの重要性はない。


 名も知らない人物の遺体を横目に、彼らは宇宙船へと向かった。

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