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電波

 ロアたちは、小惑星帯から規則正しいリズムを持つ電波を受信した。

 その電波が人工的なものか自然的なものかは分からない。

 だが、確認する以外の選択肢は無かった。


 もしも自然発生した物であれば無駄骨にしかならない。

 だが人工的な電波であった場合は、それが持つ意味があまりにも大きすぎる。


 自分たち以外に、宇宙に出られる文明を持つ知的生命体がいることになるのだ。

 その事実は、今後の方針に大きな影響を与えるのは間違いない。


 ロアは急いで惑星フリーダムに戻ることにした。


 トランスボディによって操るアバターは偽りの体に過ぎない。

 術を解除すれば、母星にある本体へと戻れる。


 目を覚ませば、金属が目の前に広がっている。

 蒸気を噴き出すかのような音が聞こえたかと思うと、金属のフタが開き視界が一気に広がった。


 ライフカプセルの中にいたのだ。

 初めて目を覚ました場所と同じ光景。

 何度も同じことを繰り返した今となっては、目の前の光景をゲームで見たという印象は薄れ、現実であるという意識が上回っている。


 手足の感覚を確かめた。

 アバターと感覚が違うため、この作業が必要となるのだ。


 やがてシステムを呼び出し、ロアは会議を開く旨を主要メンバーへと伝えた。


 ※


「で、その人工的な可能性のある電波……紛らわしいな。電波って呼ばねえか」


 会議室にて、最初に言葉を発した男ハルサ。

 2mを超える巨漢で、無精ひげを携えた姿は粗野な印象を与える。

 彼もまた主要ギルドのリーダーであり、星の方針を決める会議に参加する資格を有する者の一人。

 見た目通りであれば戦闘職だが、ゲーム時代は建築関連で有名なプレイヤーだった。


 ハルサの口調は砕けている。

 それは彼の素養というよりも、この会議室の雰囲気がそうさせていると言った方がいいだろう。


 パイプ椅子にパイプ机。

 会議室というよりも、会社の休憩室と呼んだ方がいい簡素過ぎる空間。

 サイバースペースに設けられた場所ではあるが、椅子や机のデータがこれしかなかったのだから仕方がない。


 またハルサ以外も、すでに口調は砕けている。

 敬語を使っているのは、スヴェンくらいか。

 彼の場合は、それがクセとなっているので例外と考えていいのだろうが。


「賛成」


 ハルサの提案に賛成の意を真っ先に示したのはアカリ。

 見た目こそ天真爛漫な女子高生の彼女だが、ゲーム内において最大規模の人数を揃えた遠征部隊を率いる有名プレイヤーであった。


 面倒見の良さもあり、ゲームが現実となった今でも信頼は厚い。

 この星で大きな問題が起きていないのは、彼女がうまくまとめているという点も大きいとされる。


 アカリの賛成に続き、他の誰もがハルサの提案に了承していく。


「では、今後は電波と呼ぶことにしよう」


 リーダーらしく、ロアがまとめる。

 そして本題へと入っていく。


「まずは、このデータを見て欲しい」


 ロアの言葉と共に、パイプ机の少し上、宙に浮く形で映像が出る。

 同時に雑音も聞こえだした。

 どうやら映像は音の周波数を表しているようだ。


「これが受け取ったという電波だ。電波というのは、受け取る側が受信機などの解読する方法を持っていないと内容を把握できないらしい」


 この手の話は、ロア自身も詳しくはない。

 少し笑って誤魔化しながら、次のデータを表示させる。


「解読は出来なかったが、規則正しい部分がいくつか確認された。このことから人工的な電波の可能性が高いと判断できるそうだ」


 再び、電波の雑音を流す。

 印象付けるためだ。 


「IRISU、知恵の梟、メタルバンカー、この3者がそう語っている」


 ロアの言葉を聞き、一部で顔を顰める者がいた。


「やつらか」


 疲れたような声はハルサのもの。

 彼が、そのような声を出したくなるのも無理はない。

 このIRISU以外の2者は、ゲーム時代は同じフリーダムに属するギルドだったが、色々とやり過ぎていたからだ。


 まずIRISUは、この星を乗っ取った程のAIだ。

 恩恵をあずかった身であるため、文句を言う気はないがヤバさはダントツだろう。


 知恵の梟は、検証班と呼べるギルド。

 ゲームの情報を集めるために、秘密結社を作っていたという都市伝説があった。

 この集団を使い、さまざまな事件や陰謀に関与したとか。

 だが噂のみで確定的な証拠は一切なかったため、ユニオンから処罰を下すということは全くなかった。


 メタルバンカーは、クリエイター集団。

 リアル世界の物理法則を使い、ゲーム世界にリアルな機械を作る。

 このような理想を掲げ、自然豊かな惑星を、いくつもの金属の塊に変えたという前科を持つ変態集団だ。

 だが彼ら自身が一から開拓した星であったため苦情はきていない。

 

「いや、まあ、話を戻そう。この電波についてだが……」


 この話は色々と気まずくなる。

 ロアは、話を戻し会議を進めることにした。


 ※


 会議の終了後、ロアは知識の梟が拠点とする場所へと足を運んだ。


 ゲーム時代、ユニオンに所属するギルドの拠点の多くは、サイバースペース内に作られていた。

 これは現実となった今も同じ。


 知識の梟は、元々塔のような図書館をデジタルスペースに作り拠点としていた。

 

 ゲーム内の情報だけでなく、小説や雑誌、新聞や研究レポート。

 梟の巣と名付けられた塔には、無数の知識が収められていた。

 現実となった世界でも、似たようなことになるだろう。

 秘密結社は勘弁して欲しいが……と、いうのがロアの心情だ。


 梟の巣は、会議室と同様の状態となっている。

 威容を誇った塔の姿は失われ、今は一部屋しかない小屋が彼らの拠点だ。


 IRISUは、この星をゲームの初期状態に合わせて作った。

 魔術書の扱いも同様。


 ゲームにおいて初級の魔術書のみが開始時に入手可能であった。

 その本を知識の梟が回収し、彼らは自らの拠点に保管している。

 ロアの目的は、この魔術書の確認だ。


 知恵の梟の拠点へと辿り着いたロアは、小屋の中を歩いている。

 ギッシリと本が収納された本棚がいくつも並んでいた。


 本はギルドメンバーが自身が作ったのだろう。

 初期のころと比べて、だいぶ本が増えている。

 彼が初めて訪れた頃と比べて、らしくなってきたというのが感想だ。


 中の様相は、本が増えたことでかなり変わっている。

 だが魔術書を探すのに少し手間取うも、わりと早くに見つけることが出来た。


 スマホのような見た目のデバイスを魔術書に向け、モニターに触れる。

 これでデータの同期が完了したのだ。

 同じ作業を、他の本でも行うと小屋を出た。


 そして向かったのは、小屋の裏側。

 ここには知恵の梟のギルドメンバーが意見交換を行っていた。


 彼らは検証班という側面が強かったが、学術の研究場所としてゲームを使っている者も多く在籍している。

 そのせいもあり、彼らの話が聞こえてきても、内容が難しすぎてロアには内容がサッパリ分からない。 


 ここにいては、落ち着いて魔術書を読めないだろう。


 そう考えて、周囲を見回す。

 ほぼ初期状態であり、エリアはさほど広くはない。

 このエリアから出ると、デバイスに保管された魔術書のデータが失われてしまう。

 だから、彼らのいない場所をこの狭い空間の中から探さねばならない。


 周囲を見回すと、木陰となっている場所に見知った顔を発見した。

 そういえば、彼女は読書に最適な場所を見つけるのが得意だったな。

 このように考えながら、少女の座る場所へと移動する。


「隣、いいか?」


 ロアの声に、無感情な瞳を向ける少女。

 しばらく無言のまま時が過ぎていく。


「とりあえず謝って」

「悪い、何を怒っているのか分からない」


 近くに座らせるのが、そんなに嫌だったのだろうか。

 少女から返ってきた言葉は、まさかの謝罪要求だった。


「私のこと、忘れていたでしょ」


 言われてようやく思い出した。

 この星が現実になってから、存在の確認すらしていないことに。 


「…………」 


 沈黙が辛い。

 ジッとこちらを見つめてくる少女の視線が痛い。


「ごめん」


 こういう場合、下手な言い訳は逆効果にしかならない。

 そのことを前世で学んではいるのだ。

 学びが人生で活きたのは、コレが初めてのような気もするが。


「まぁ、いいわ。男の不始末を許すのも女の度量だもの」


 物凄くいたたまれない。

 冗談のつもりなのだろうが、抑揚のない声であるため、怒りを溜め込んでいるようにしか聞こえない。


「……座らないの?」

「座らせて頂きます」


 思わず敬語になってしまう。

 感情を読み取れない美少女というのは、中々に迫力がある物なのだ。


 木に寄り掛かる形で少女の隣に座ると、ロアはスマホのようなデバイスを操作する。


 するとデバイスが、本を中空に映し出した。

 それは触れることもできる立体映像。

 一見すると高度な技術なのだが、この空間そのものがサイバースペース。

 デジタルの世界を五感で味わえているのだから、触れることくらい大したことではなかったりする。


 ロアが読み始めた本は魔導書だった。

 それは、この星で貴重な情報源の一つ。


 魔導書には、ゲーム時代に存在した魔法について記されている。


 ゲームだと調べるだけで魔術が身についた。

 だが現実となった今は、しっかりと勉強をし訓練を行わねば魔術は使えないという違いがある。


 少女は、ロアが魔導書を読んでいることに気付いた。


「それ。ロアが、読んでいないのは意外ね」


 彼女の抑揚のない声は、初めて会話した人間は圧迫されている印象を受けるかもしれない。

 だがロアにとっては慣れた声だ。

 単純な疑問でしかないことを理解している。


「初日に読んださ。でも内容を再確認したくなってな」


 ロアはそう言って、魔導書のページをめくる。

 少女との会話を続けながらも、彼の目は文字を追っていく。

 

「再確認? 何で?」


 少女は首を傾げた。

 表情は何も変わっていないと誰もが思う事だろう。

 だが付き合いの長いロアには、心底疑問に思っているという表情であることがハッキリと分かる。


 それでも何を疑問に思っているのかは分からなかった。

 次のセリフを聞くまでは。


「思い出せばいいじゃない」

「は?」


 少女が何を言っているのか分からなかった。

 いや、分かったが脳が受け付けてくれない。


「一度読んだら、どこに何が書いているのか思い出せるでしょ」


 少女はそう言って、無表情ながら優しく微笑んだように見えた。

 同時に何をおかしなことを言っているの?と、心底疑問に思われているような気もした。


「……そうか」


 言葉に詰まる。

 なんと返すべきか。


 悪意があるわけでもなく、彼女にとっては呼吸が出来て当たり前だと言っているような物なのだろう。


「凄いな」


 ロアはそう言って、少女を見る。

 少女は、何も感じていないように見えた。


「?」


 何を褒められたのか分からないのだろう。

 無表情なまま、称賛の理由を本気で考えているように見えた。 

 これだから出来のいいヤツは……。


「本の続きを読もうか」


 そう告げると、少女は再び本を読み始める。

 ロアもまた敗北感を感じながら、魔導書を読み返し始めた。


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