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SFと魔術

【宇宙空間】


 暗く冷たい宇宙空間。

 そこには、太陽の光が届かない無数の小惑星が浮遊していた。

 時折、彼らの動きに合わせて、小惑星同士がぶつかり合う。

 空気があれば、どれほどの音となったことだろうか。


 見た目が岩でしかない20m程の小惑星の近くで、銀色に輝く人工物が動いていた。


 人型のロボット。

 その姿を見れば誰もがそう呼ぶであろう姿。

 それはアバター。


 ロア達プレイヤーがゲーム内において、宇宙で活動する際に使っていたもう一つの体。


 このアバターに対し、惑星フリーダムで目覚めた本体ともいえるからだはオリジンと呼ばれていた。

 すなわち別の物であるという扱いだったのだ。

 そして現実となったこの世界においても、それは同様。


 なぜならアバターは、偽りの魂を核に封じた上で魔術を行使し、疑似的に自らの体として行使しているにすぎない体。


 すなわちアバターとは、偽物の器に過ぎない。

 故にこの体が壊れようとも、本体が死ぬことは無いのだ。

 また魔導機械とも呼べる存在であるため、生身の肉体では不可能な機関を内部に設置することもできるという利点もある。


 しかしアバターを己の体として扱うには、トランス・ボディという魔術を扱える必要がある。

 今回の宇宙遠征のメンバーに選ばれるには、この魔術の習得が最低条件であった。


 小惑星の少し離れた場所。

 無重力下であるため宙に浮いているアバター。

 それがロアだった。


 彼は、作業を共にする相棒に魔術で声を届ける。


『もう少し離れてくれ』


 相棒が離れたことを確認すると己の肩幅ほどの円盤を手放す。

 すると円盤の縁が淡い青い光に覆われ、小惑星を中心に移動を始めた。


 スキャンを行っているのだ。

 この結果を、近くで停止している作業艇と呼ばれる船に送信し、小惑星のどこに手を加えればよいのか解析されたデータが送り返されてくる。


 しばらく間を置くと、データが送られてきた。

 内容を確認すると共に、2人は作業を開始する。


 先程、スキャンした小惑星にマス目のような青いラインが走っている。

 これはアバターの視界にしか映っていないライン。

 実際の小惑星に描かれているわけではなく、処理された情報が視覚情報として見えているのだ。


 まずは用意した小型のコンテナからブースターを取り出する。

 その後はは視覚情報に従って、指定された場所へと移動していく。

 

 目的の場所につけば作業開始。

 小惑星にブースターを取り付けていく。

 工具を使っている辺り、高度な科学とは思えないのはご愛嬌といったところか。


『いいか?』

『OK』


 作業の終了をお互いに確認すると、小惑星のブースターが噴射をして移動を開始する。

 最初はゆっくりだったが、徐々にスピードが増していく。


 アバター達は、自分にしか見えない視覚情報として表示されているモニターを眺める。

 どうやら無事に目的の場所に向かっているようだ。

 そのことを確認すると、次の作業へと移る。


 この小惑星は、目的地に一定まで近づくとブースターの勢いは弱まる。

 そしてネットのような機材に捕まえられることになる。


 この後は、基地艇に運ばれエネルギーを抽出後に加工される。


 なぜこのような手間をかけるのか?

 それはエネルギーを取り出す作業は特別な設備が必要なためだ。

 設備を持つ基地艇まで、小惑星を運ぶ必要があった。


 資源が足りていないのが現状だ。 設計図がない上に資源も足りず、大型の宇宙船は作れない。

 またアバターを作る資源を節約する必要もある。


 それらの問題を解決する手段として、使いまわし可能なブースターを小惑星に取り付けて、目的地まで飛ばす方法を選んだ。


 作業は続く。


 魔術と科学を合わせた方法で周囲を見ることは出来る。

 もしも真夜中に懐中電灯で足元を照らすような光景が広がっていたら、精神的な疲労でダウンをしていたことだろう。


 だが幸い、本来は光など無い空間であるにも関わらず、真昼の光景であるかのように周囲が見える。

 またトランス・ボディを解除すれば、母星へと戻れる。

 これらは彼らが感じるはずのストレスを、大幅に削減する結果となっていた。


 それでも精神的な疲れは溜まっていく。

 これが原因なのだろう。

 ロアは、作業に集中しすぎていた。

 周囲には何もないはずだという先入観に支配されていた。

 だが、それは大きな間違いだ。


 小惑星のスキャンを終え、ブースターを取り付けようとしたとき背中に衝撃を受けた。

 そのまま小惑星に叩き付けられる。


 銀色の金属で作られたアバターの体。

 それが空気さえあれば、激しい音を立てたと容易く想像できるほどの衝撃だった。


 腰付近を挟む形で後ろから何かが喰いついている。

 何が起こったのか確認しようとするも、押さえつける力が強すぎる。

 かろうじて首を回し、ようやく視界の端に黒く長い何かを確認できた。


『くそっ』


 共に作業をしていた相棒の声が聞こえた。

 そして取り出した銃を撃ったのだろう。

 押さえつけた何かが、銃撃を受けるたびに激しく動いているのを感じる。


 このアバターの体に痛みこそない。

 だが、周囲に張り巡らせたエネルギーの膜が自分の状態を教えてくれる。

 何かに挟まれた金属の腰が、潰れてしまう可能性がある。

 この非常時に、彼は奥の手を使う。


『機創術・モノリス』


 ロアが魔術を発動させた。

 それは彼らが持つ魔法技術。

 機創術は、エネルギーに情報を与え一時的に物質を作り出す技術。


 術の発動と共に、何も無いはずの空間から銀色をした2つの立方体が姿を現た。


 それはモノリスと名付けられた魔導兵器だ。

 人の頭ほどあるそれは、動力が無いにも関わらず不可思議な動きをして腰に喰いついた敵対者に襲い掛かる。


 凄まじい衝撃が過ぎると、腰の圧迫感が消えた。


 それはモノリスが一瞬だけ展開したバリアーによる効果。

 この急速に展開されたバリアーが、衝撃波のような勢いで敵対者を弾き飛ばしたのだ。


『あんなのに喰いつかれていたのかよ』


 ロアは、ようやく自分を襲った存在を視覚できた。

 黒いムカデだ。

 それも5mを超える体長の。


 表面は過酷な宇宙空間を生きれるよう、そうとう丈夫な素材で出来ているらしく、金属質な印象を受ける。


 自分は顎の部分に当たる顎肢によって挟まれていたようだ。

 厄介なことに、地球のムカデと同様に毒牙状になっていたらしく、腰部分が溶けかかっている。

 だが損傷をいつまでも気にしているわけにはいかない。

 すぐさま攻撃へと移る。


『行け』


 モノリスが、宙に投げ出されたムカデに襲い掛かった。

 完成の法則を無視した動きは、地球とは別の技術による兵器であることの証左。

 その不可思議な動きを捉え切れず、ムカデは接近を許してしまう。


『圧し潰せ!』


 モノリスがムカデを左右から挟む。

 そして再度バリアーを展開する。


 各モノリスを包むように展開された球状のバリアー。

 2つのバリアーがムカデを挟むように展開されていた。


 敵を押し潰さんと、更にバリアーが広がる。

 ムカデはバリアーに押し潰される恐怖に震えながら必死に抵抗する。


 出力が足りない。

 ムカデの動きを封じることは出来たが、圧殺するには出力が足りていない。


『頭を狙えっ!』


 相棒に指示を出す。

 銃を乱射し、その数発がムカデの頭を捉えた。


 何発目の頃だったか?

 ムカデがモノリスのバリアーによって押し潰されたのは。


 銃によって、強固なムカデの外骨格についた僅かな傷。

 それがモノリスが掛けた圧力に耐えられなくしたのだ。


 ムカデの体から黒い液体が噴出する。

 それは血ではなく、何らかの油状物質だった。

 それが宇宙空間に広がり、小惑星帯に点々と光る星屑となる。


『助かった……ありがとう』


 アバターであれば命は失わない。

 だが恐怖心はあるのだ。


『今度、飯を奢れよ。って、飯がねぇんだよな』


 資源不足の惑星フリーダム。

 食事を楽しむのならサイバーワールドでも行えたのだが、それはゲーム時代の話。

 今は多くのデータが失われており、食事に関するデータも失われている。


 その事を思い出し、お互いに笑い合う。

 先程までの緊張の反動か、この緩い時間がとても心地よく感じられた。


『ん、ああ。了解』


 しばらく笑っていたロアに連絡が入る。

 その内容は、かなり気になる物であった。


『どうした』

『規則正しいリズムの電波を拾ったらしい。少し移動しよう』


 作業艇からの連絡を頼りに移動を開始する。

 電波らしきものを拾うキッカケとなった物を探すためだったが、それはすぐに見つかった。


 コンテナだ。


 先程の戦闘のせいだろう。

 ブースターを入れてあった、小型のコンテナが本来あった場所から移動していた。

 それに取り付けられていた装置が信号を拾ったようだ。


『どうする?』


 相棒の問いかけ。

 このまま移動し電波らしきものの正体を探るという手もある。

 だが、それは悪手だろう。


『一度戻ろう。あのムカデが他にもいないとは限らないからな。準備をしっかりと行いたい』

『了解』


 この日の作業は強制的に終了した。


 規則正しいリズムの電波。

 それが何であるか?


 もしも人工の物であれば……。

 これは望んでいた状況ではあるが、同時に憂慮していた事態でもあった。


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