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宇宙

【宇宙空間】


『基地艦、固定完了』

『了解。そのまま確実に訓練通りに作業を進めてくれ』


 宇宙船内で交わされる会話。

 それは全身を銀色の金属で包んだロボットのような者たちが行っている。


 一見すると、宇宙で使うバトルスーツにも見える姿。

 だが実際は生身の部分などなく、魂すらない体。

 ゲーム内にも存在していたアバターと言う機体だ。


 この体を動かすのに必要なのはトランス・ボディと呼ぶ魔術。

 それは核へと仮初の魂を入れることで生きていると世界に錯覚させ、アバターを己の体として扱うことが出来る。


 仮にこの体が壊れようとも、それは偽物の体を失ったに過ぎない。

 本体となる体も魂も、惑星フリーダムにあるため死を免れることができる。

 この有用性故に、トランス・ボディを使えることが、宇宙船に搭乗する最低条件となっていた。


『作業艇、接続する』 

『了解』


 基地艦と呼ばれる船は少し大きい。

 大き目の小惑星の表面に固定させることで、基地として機能させるためだ。

 内部に作業区や倉庫などはあるが、人間の生活スペースは存在しない。


 搭乗者がトランス・ボディを解けば、惑星フリーダムの本体に戻れるためだ。

 そして適切な手順でトランス・ボディを解いたのであれば、再びベースシップのアバターへと戻ることも可能となっている。

 だから生活スペースは必要ないのだ。

 この仕様は他の宇宙船も同様となっている。



 基地艦の設置された小惑星が、豆粒程度にも見えない場所。

 やや小さめの宇宙船もまた作業を終えようとしていた。


『接続の完了を確認した』


 こちらは作業艇。

 作業用の宇宙船であり、今回の場合は惑星帯にまで出向き、そこで小惑星を回収するために使われる。


 あと一隻、輸送艦と呼ばれる船がある。

 こちらは基地艦で加工された資源を、惑星フリーダムへと運ぶのに使われる。

 今は惑星フリーダムにあるが、基地艇に資源が溜まったら来る予定だ。


 ここまでは訓練通りだ。

 輸送艇に乗るロアは、初めての作業を終えて人心地付けた。

 AIによってサポートされているとはいえ、ほんの数か月前まではパイロットの素人だったのだ。


 確かにサイバースペースに用意された設備を使い訓練をした。

 だがゲーム内では充実していた設備も見る影もなく、初期化された設備でしかない。

 ましてや、それらを使うのは実際に宇宙に出たことの無い素人にすぎないのだ。

 訓練の効率が良いはずもない。


 そんな環境下で成績が良かったとはいえ、自信を持てる者がどれほどいようか?

 少なくともロアの心臓は、神経をすり減らさずにいられるほど強くは無かった。


『作業艇の乗組員は休憩に入ってくれ』


 作業艇に乗っているのは3人。

 トランスボディを使っているので機械の体なので、3人というべきか3機と呼ぶべきか迷う所ではあるが……。


 3人は船に設置された金属の箱メンテナンスカプセルに己のアバターを収めると、トランスボディを解いた。


 ※


【サイバースペース】


 作業艇から惑星フリーダムに戻ったロアは、公園でくつろいでいた。

 この場所もサイバースペース内だ。


 惑星フリーダムは、基本的に金属ばかりで癒しという言葉から程遠い風景が広がっている。

 そのため、精神的な疲れをとるのならサイバースペースを利用した方が効率的だ。


 ロアは出待ちだ。

 基地艇の方で準備が終えるのに合わせ、再びアバターへと意識を戻す。

 そうなれば本格的な資源回収作業が始まる。


 正直、気が重い。


 失敗しても大きな問題が無いのなら、ここまで神経を疲れさせないで済んだだろう。


 しかし資源が少なすぎる現状では、そういうわけにはいかない。

 船を失うような失敗をすれば、かなり面倒なことになるのは確かだ。

 次の宇宙船が完成し出航するタイミングというのは、エネルギーが枯渇しかけている状態となってしまうだろう。


 この作業で船を失っても次はある。 

 しかし、その次は住人2000人が生きるか死ぬかの瀬戸際となってしまうのだ。

 それを考えると、本当に気が重い。


 少しどころか、かなりリーダーに立候補したことを後悔している。


 だが今さらだ。


 もう引き返すわけにはいかない。

 意識を空に浮かぶ雲に集中させ、ネガティブな感情から気を逸らす。


 現実逃避ともいえるが、大人になれば必要になる技術だ。

 などと、自分に言い訳をしていると明るい声が響いた。


「あっ、サボっている」

「ただの休憩だよ」


 ベンチに深くもたれかかっていたロアに、不名誉なレッテルを張ってきたのは赤髪の少女。


 アカリという少女であった。

 ボブカットや、そんな感じの短めの髪型。

 あまり髪型に詳しくは無いので、ロアは判別できなかったが。


「そっちこそトレーニングしなくていいのか?」

「ただの休憩中だよ」 


 ロアの返しに、同じセリフを言って笑う。

 そのまま許可をとることもなく、当たり前のように隣に座る辺り勝手を知ったる仲であることが分かる。


「初めての宇宙はどうだった?」

「ずっとレーダーやら計器やらを見ていて疲れたな」


 一応は、周辺の空間は映像としてモニターで見れた。

 しかし、そちらは地球で見た夜空とあまり変わらないとしか言いようがない。

 地球で見るよりもは鮮明ではあるが、黒い宇宙空間と星しかないのだ。

 一応は基地艇や小惑星という名の灰色の岩は見えたが、味気の無い光景でしかなかった。


「もう少し感動があると思ったんだけどな」

「贅沢者ー」


 確かに、少し贅沢な発言であったと少し反省する。

 熾烈とまでは言わないが、それなりの人数が宇宙船への登場を希望していたのだ。

 彼らの事を思えば、このようなことは口にするべきではなかったかもしれない。

 それでも感想を変える気はないが。


「アカリは、惑星探査が希望だったな」

「そうだよー。他のギルドメンバーも同じ感じだね」


 アカリが率いるギルドは、ゲームにおいて様々な惑星を探索して動画配信をしていた。

 探索の頻度は多く、彼女たちのギルドに所属する物の本質的な物だったのだろう。 


「探査の前に、コロニーの設置なんかをすることになるかもしれないから、そっち方面も勉強しておいてもらえるか? さすがにテラフォーミングをすぐに行う事はないだろうけどな」

「飛びつきそうな人が何人かいるから勧めてみるよ」

「助かる」


 作業訓練の希望者は多い。 

 だがゲームと現実の違いのせいだろうか?

 次々にやめていくのが現状だ。

 だからアカリの話は素直にありがたかった。


「でもテラフォーミングなんて出来るの? 全部の作業が終わるのに百年とか千年単位かかると思ったんだけど」


 テラフォーミング。

 それは惑星や衛星などの環境を人為的に改変し、地球型の生命体が居住できるようにすること。

 ゲームではこれを惑星に行い、ユニオンやギルド単位で街や国を作ることができた。


「IRISUによれば、人間が住めるようにするだけなら2年くらいで終わるらしいぞ」


 地球では、完全に終えるまでに千年単位の時間が必要だとすらされていたテラフォーミング。

 それが2年で終わる。


 生態系や地形の調整には時間が掛かる上に、様々な条件を満たした星を見つける必要もあるとIRISUは言っていたが……。


 それでも2年というのは脅威としか言いようがない。

 なお、トランスボディで使うアバターが活動するためのテラフォーミングであれば、半年にまで短縮できるとのことだ。


「それ、ゲームよりも早くなっていない?」

「ゲームだと5年だったよな……」


 なんでフィクションの世界よりも、リアルの世界の方が早いのだろう?

 色々と思う所はあるが、自分たちがとんでもない技術の結晶を手にしているのは分かる。


「魔法、凄いね」

「凄いよな」


 多分、どれほど凄いのか考えるのは胃に悪いだろう。

 そう結論付け、これ以上の詮索をするのをやめた。


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