第五話
第五話
屋敷の奥まった広間で後ろ手に縛られた全裸のセイジが転がっている。疲れがたまっていたのか死んだように眠っている。
抵抗しなかったのが幸いしたのか、それほどダメージは無いように見えた。
一方サユリは服を着替え、お茶と団子をほおばりながら、ここの代表者らしき腰の低い男となにやら話し込んでいる。
「さあっ、終わったぞ。おきるのじゃ、セイジ」
「うう、サユリ、なにか飯を…、あと服も」
「そうじゃったな、粟稗もろこし。ほれ雑穀おにぎりじゃ」
「うう、何とひもじい…」
「阿呆、これが普通じゃ、ちゃんとお礼をせい。服はとりあえずその白い腰布と着物じゃ」
「これ、ふんどしっていうんじゃ…」
仕方なく股間を隠すように布を巻き、見様見真似で着物を羽織った。セイジは誰に向けるでもなく、手を合わせ、一言いただきますと大きな声で挨拶をし、ひさしぶりの飯を味わった。
「さて、次は天井の二人と床下の二人じゃ、わしらに敵意がないことはわかったじゃろう、ゆっくりと姿をみせい。」
天井から女性の声が聞こえる
「わかりました、そちらへ参りますので、しばらくお待ちください。」
暫く経った後、ふすまの向こうから女性の声が聞こえた。
「失礼します」
引き戸が静かに開くと剣聖一行の四人が入出し、代表者は一旦退出した。
ユーコ、ハルと上座から順に四名が横並び、ヨシミツ、シノ、両名は一歩前に出ると、深々と土下座の姿勢をとり、頭を床に垂れた。ハルはその場に片膝を付きうつむく。ユーコは一歩前に出ると深々と頭を下げた。
「私の名はユーコ、控えるのがハル、ヨシミツ、シノ、勅命により魔王討伐の責を担い各地の魔物を駆除して回る一行です」
「先ほどあなたたちの命を狙い行動していたのは、私たち四名です。誤って許されることではないが、この通り謝罪と共に、弁明をさせてほしい。」
ユーコ達はかいつまんで、この国のいきさつを説明した。
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北の海に突如現れた通称「魔大陸」。そこから出現した「魔王軍」は陸路で日本国を南下しながら領民を懐柔し各地を占拠。各地から出土されるこの赤い宝石と旧文明の遺物「アーティファクト」を探しながらさらに領地を広げようとしている。
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「私たちは、天皇の勅命により、言葉を話す魔王本人や幹部を探しながら、魔王軍の出没地点に出向きそれを殲滅して回っている。」
「目撃情報でこちらに駆け付けたところ、ちょうどあなたたち魔王軍の幹部と思われる二人に遭遇してしまったわけです。聞いたところあなたたちは何も関係がない様子。本当に申し訳なくここに謝罪いたします。しばらくはここの領主があなたたちの生活をしばらく面倒するように手配させていただき、ほかにも何かあれば存分に申しつけてもらって構わない。」
深々と頭を下げるユーコ。それに控える三人は、頭を下げたまま微動だにせず緊張を侍らせている。こちらが何かアクションするまでずっとこの体勢でいるに違いない。
サユリの顔をのぞくセイジだが、そちが判断せい、といった様子で、顎をクイとこちらにあげた。
謝罪を受け入れる、拒否する。まずこの二択となるだが、拒否はメリットがほぼない。
受け入れるに際し、どこまで譲歩を引き出せるかだが、日も落ちてきたし、ひとまず先延ばしにしよう。
「わかりました、顔を上げてください。謝罪は受け入れます。先ほどの話によると、みなさんとても忙しい様子なので、討伐が完了次第また追々ということで」
「そう言っていただけると助かります。では私たちはこれで一旦失礼いたします」
使用人がふすまを開けると、四人はその場から退出していった。
再度、領主と使用人が入室し、私たちを案内する。
「当面の間、お過ごし頂くお部屋を用意させていただきましたので、ご案内いたします」
部屋に通されたセイジとサユリ。現代風に言うと年季の入った旅館といったところだろうか。
案内してくれた使用人は、ひとしきり説明をした後、戸の外で控えておりますので用がありましたら申しつけくださいと残して部屋を出た。
セイジはサユリの耳元で囁く。
「これ、ほとんど軟禁だよな…」
「いや、あからさまに軟禁だな。」