第四話
第四話 剣聖一行
時をさかのぼること数刻、垣根に囲まれた、ひときわ大きな領主の屋敷に四名の一行と腰の低い領主、他数人の使用人の姿があった。
リーダー格らしき武装した女性『剣聖ユーコ』と領主が話をしている。
他三名はそれぞれ、武士らしき男性『ヨシミツ』。くノ一の女性『シノ』、軽装の女性『ハル』。一歩下がって事の次第を見ている。
「それで領主、のぼり旗と化け物の群れが現れたのは、あの亀山とよばれる丘の方で間違いないか?」
「はい剣聖様、夜になると畑の作物が荒らされ困っておりました。御触れが出ている魔王軍かと思い、後を付けさせたところ。すでにあの丘に陣地を城築し、なにやら作業している様子。詳しい数は皆似たようなオオカミの姿恰好なのでよくわかりませんでした。」
「人的被害はないのだな?」
「ええ、畑を荒らす獣を槍で追っ払った若者が多少傷を負った程度です」
「そうか、魔王軍で間違いないな。また、アーティファクトやらを探しているんだろう。攻めてこないという事は侵略部隊はおそらくいないのであろう。今晩までに合議し翌朝攻め入るぞ。現場を見たもの、地理に詳しいものはいるか?呼んでまいれ!」
領主と使用人たちが慌ただしく動き出した。
「どうぞ、ユーコ様。」
軽装の女性が屋敷の台所からお茶をもってきた。
「ありがとう、ハル。皆なにかここまでで提案はあるか」
大きな太刀を腰にさしたまま、小刀や懐の小道具を確認しているヨシミツ
「今回もハズレのようですな、魔王軍の主力はいったいどこに消えたのであろうか」
関係者から情報を聞き書き起こした地図を確認しているシノ
「そうですね。こう後手後手で芽をつぶすだけでは、何か別の所で大きな企みが進んでいるのかしれません」
動じぬようすのユーコ
「占拠した土地で狼藉を働かないのは助かるが、五行を操るというあの魔王をなんとかせねば」
ユーコの後ろに控えなにやら手紙、報告書のような物を書き留めているハル
「勅命ですものね…」
屋敷の入り口からバタバタと騒がしい音が聞こえてくる。使用人から話を聞いた領主が慌てた様子で報告に来た。
「剣聖様、大変です。奇妙な服を着た男と、魔王軍の旗印を身に巻きつけた幼子がこちらに向かって歩いてくるそうです。しかも言葉を話し、意思疎通できそうとのことです」
「それは早急に対処する必要があるな、ユーコどの、ここは某と、シノで」
「わかった、ふたりは早馬を飛ばしてくれ、私とハルは村人達を避難させ、追って向かう」
「はっ!では、行って参ります」
ヨシミツは返事を、シノは軽く頭を下げ屋敷の入り口へ向かっていった。
……
(くっ、なんという圧力だ、あの奇妙な男が声をあげるたび、頭が揺さぶられ、膝が落ちそうだ。)
(シノが後方から遠弓で射殺す手筈だったが、身体がすくみ、合図がだせん。そもそもシノのアーティファクトでこいつらをなんとかできるのか…)
『うーん、詳しく説明しづらいんだけど、この女の子がやっつけてくれたというか、自滅したというか…』
ヨシミツはなんとか気力をふり絞り、腰の刀に手をかけ殺意を全力であらわにした。
(シノ、頼む…)
ヨシミツはシノから放たれる矢尻の剛速光が、男の頭部に吸い込まれるのをはっきりと見た。続けざまの第二射も確かに少女の頭部を捉えた。
捉えたはずだったのだが、矢は少女の手によっていとも簡単に払われていた。
散々魔物の頭を射貫いてきたあの矢をまるで歯牙にもかけぬとは…
「くっ、こんなはずでは…」
煙幕を放ち、素早く騎乗し踵を返す。
シノが心配だが、ここは一刻も早くユーコ殿と合流し対応を練らなくては…