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アジの塩焼きが加わった。

わたし達の伊豆での暮らしはほぼルーティン化していた。


天気が良ければ朝は堤防に釣りにいく。

畑を手伝う。


昼寝する。


畑手伝う

夕暮れの海を見に行く。


夜、寝る。


合間合間に朝食、昼食、夜食が入るだけ。


わたしは莉子がすぐにこの単純な生活に音を上げるかと思ったのだが、意外に農作業を楽しんでいた。

叔父さんがアルバイト代わりとして1時間800円の時給を付けてくれたのも大きかったのかもしれない。

農作業が終わった後の贅沢みかんジュースも気に入ってくれたようだ。


冷たい特製みかんジュースを2人で腰に手を当てながらゴクゴクと飲み干しては意味もなく大きく笑いあった。




初日には「猫ちゃんしかいないじゃん」と莉子に嘆かれたわたしの特等席(堤防)だけど、翌朝の堤防には、ひとりの少年が釣りをしに来ていた。


「ほら、莉子、猫ちゃん以外にもイケメンがいるよ」

「あ、本当だ。やっほー。何釣ってるの? 」


わたしの『からかい』にも気づかない素直さには毎度肩透かしにあうが、この素直さが莉子の良いところ。

そして臆すことない人懐っこさ。

そんな莉子を嫌いじゃない。


「マアジだよ」


「ねぇ、ねぇ、智夏、ほらバケツいっぱいだよ。少年に教えてもらったら? 」

「 ....」


「少年、名は何というの? 歳は? 」

「悠真。 9歳」


「私は莉子で、あっちの釣りが下手なのが智夏」

「わたしは別に釣りが目的じゃないからいいの! 」


「そんな事言っていいの? 私は悠真君に教えてもらっちゃうよ」

「男の子に迷惑でしょ!? 」


「いいよ! 教えてあげるよ! 」


「ほら、あとで私のバケツの中を見て悔しがる智夏が容易に想像できる」

ニヤリとしながら、莉子め! 憎まれ口をたたきおって!



「そこまでいうなら勝負しようじゃない! 」

「っふ! のったわね。悠真君、一緒に智夏をやっつけちゃおう! 」


9歳にしては少し小柄な男の子は少しはにかんだ笑顔をみせた。

正直、ちょっと可愛く見えた。



次の朝も、またその次の朝も悠真君を交えての釣りマッチは続いた。

3日も顔を合わせると悠真君は私たちに慣れ親しんだ。


「そういえば、お姉ちゃん達はどこから来たの? 」

「おフランスさ。ボンジュール、ギャルソン」


「うそだぁ! 」


「ははは。東京だよ」


「莉子、『ギャルソン』って何? 」

「少年って意味だよ」


「あ、あんたフランス語できるの? 発音もそれっぽいし」

「中学の時、英語教室の先生がフランス人だったんだ。それでちょっぴりね」


意外だ!

こんなところで差を付けられるとは思わなかった。


「ところで、悠真君。昨日気が付いたんだけど、その腰に付けてるのってカエル? 」

「これ? うん。お守り。パパにもらったの。海に行くときはいつも付けてるんだ。パパもおじいちゃんからもらったんだって」


「ねぇ、莉子、これってわたし達のと同じぽくない? ずいぶん古びて色も抜けちゃってるけど」

「あれ? ほんとだ。でも変だな? これって新商品なんだけどな? 」


「あっ、お姉ちゃんたちのと同じだね。お揃いだ」

悠真君は太陽にも負けない明るい笑顔を真っすぐわたしに向けてくれた。


ちょっぴりドキッとしてしまった。



「お姉ちゃん達、いつ帰っちゃうの? 」

「わたしたちはまだ帰らないよ。あと10日くらいはいるよ」


「ふ~ん。ねぇ、今日『るるビーチ』行かない? あそこにパパがいるんだ。みんなの安全を守るリーダーなんだよ」


「莉子、これってわたしらナンパされたんじゃない? 」

「あはは。じゃ、悠真君が『莉子のカイト君』だったのね。私、悠真君にドキドキしてきちゃったかも。なーんてね」


そんな莉子の冗談に冷や汗をかく思いだった。


挑戦を受けた釣りマッチの結果は....

莉子の高笑いの末、わたしも悠真君の教えをありがたく乞う事となった。


そしてわたしたちの朝食にはハムエッグと納豆、海苔に『アジの塩焼き』が必ず加わることになった。

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