記憶巡り 濡れ衣
とある民家にて、テーブルの下にひっそりと隠れるスライムが一匹おりました。
(カチャカチャ…)
キッチンでは一人の女性が、洗い物をしていました。
「ふんふふ~ん♪」
鼻唄を交えながら、慣れた手つきで洗い物を済ませていく
「あぁ、早く食べたいな~」
その女性は、にやけながら独り言を続ける
「今日の夜ご飯のために、お昼を少なめにしたからお腹がペコペコだわ」
すると洗い物が済んだのか、手洗いをしてからテーブルの方へと振り向く。
(くるり)
「…あれ?」
目を擦りながらもう一度テーブルを見渡す。
「え、えぇぇーー!!」
その女性は大きな声で叫び出す。
「無い!今日の夜ご飯が消えてる!」
すると、ドタドタと音が近付いてくる。
(ギィ…バタン!)
「ど、どうかしたのか!」
扉を力強く開けた男性は、少し息が切れていた。
「あなた、大変よ!」
「ふぅ…、一体どうしたんだ」
「晩御飯が、消えたのよ!」
「消えた?」
男性は部屋を見渡す。確かに料理をした形跡はあるものの、食べ物は何も無かった。
「私は、確かにこのテーブルの上にシチューとサラダ、そして今日のパンを準備していたの!なのに無いのよ…」
「な、パンも消えてるのか!?」
「えぇ、そうよ…ついでに、テーブルの上に置いてた食器とかも全部無いわ」
すると男性は怒りをあらわにする。
「あのパンは入手困難で…囚人だけでなく王家までもが愛する、冷めても美味しいふわふわ食感の幸せを呼ぶ幻のパン。エターナルハッピーブレッドだぞ!」
長いキャッチフレーズをすらすらと喋る。
「あのパンを狙った泥棒か!!」
「私も初めはそう思ったわ。けど、それなら食器ごと消えたシチューとか不自然なのよ…」
「確かに、食器も…と言うかコップすら無い!」
「エターナルハッピーブレッドが狙いだったのなら、他の物を持っていく必要は無いはずなのに…」
女性はテーブルに、手を叩きつける。
(バンッ)
「私が楽しみにしていたフェアリーズトマトまで!!」
「あの伝説の妖精が愛したと噂のトマトまでも…くそ!犯人の野郎、許せねぇぞ」
(ガタッ)
その時、テーブルを叩く音に驚いたスライムは動いてしまう。
「ん?何だ今の音は」
「何か聞こえたかしら?」
「足元でしたような…」
男性はテーブルの下を覗き込む。すると一匹のスライムと目が重なりあう。
「……」
沈黙する男性。少ししてから驚きはじめる
「わ、何でこんなところにスライムがいやがるんだ」
「え?」
すぐさま女性も覗き込む。
「スライムが何で入り込んでいるのよ!」
「そんな事、俺が知るかっ」
ちょっとしたパニックになる。しかし女性はふと冷静に考える。するとスライムを片手で握り掴む。
(ガシッ)
「お前か?私達の晩飯を喰らったのは」
女性の雰囲気が、ガラリと変わる。それを見た男性は少し落ち着きを取り戻す。
「で、でもスライムって物を食べるのか?」
「食べるかは知らないわ。けど、こいつ以外に犯人らしいのは居ないでしょう?」
「確かにそうだけど…」
「大体、家の中にスライムが現れるなんて聞いた事が無いわ、すなわちこのスライムは、元々盗む目的で侵入していたのよ!」
女性に握り締められてスライムは逃げられない。するともう片方の手に包丁を持ち始める。
「食べ物の怨みはね、恐ろしいのよ?」
顔を近づけ、包丁をスライムの目の前に突き出す。それを見た男性は完全に縮まりこむ。
「美味しかった?いや、美味しかったでしょうねぇ?あれを手に入れるためにどれだけ大変だった事か。あなたみたいな泥棒は成敗しなきゃ駄目よね…」
女性はスライムに語り続ける。
「ふふ、主婦歴5年の力を見せてあげるわ…」
するとスライムを宙に投げ上げる、そして包丁を構え、片目をギラリと鈍く光らせる。
「お前は万死に値する。秘技!三枚下ろし!!」
そう聞こえた時にはスライムの目の前には包丁の刃が…
そこから世界は真っ暗になる。
「ってな感じで、女神さまがお礼にと送ったスライムは、泥棒の汚名を付けられて殺されちゃってますよ…」
「あらまぁ、そんな日だってあるわよ~」
「大抵こうなってしまうのでは…?」
「まぁ、倒されても魔素を放出するから、いいんじゃないかしら?倒した人も少し元気になるわよ~」
少しだけ…。しかし、今のを見る限りじゃシチューより、パンとサラダの方が高価だったのかな
すると女神さまは立ち上がりあくびをする。
「ん~、そろそろ寝ましょうか」
「俺は記憶の整理でもしますかね」
「人の姿なら夢も見れるから、寝てもいいのよ~」
「いえ…さっきみたいな変な記憶もあるでしょうから見ておかないと」
女神さまは、少し目を泳がせる
「とりあえずベッドに行きましょうか~」
寝る準備万全の状態で寝室へと向かい、それぞれベッドに入る。
「それじゃあおやすみなさい~」
「おやすみなさい」
寝るわけじゃないけど。さて、
するとライムは、スライムの姿に戻る。
(ポンッ)
寝落ちとか嫌だから、こっちの姿でやろうっと。それにベッドから落ちて痛い思いもしたくないし…
ライムは目を閉じて集中する。そして記憶を徘徊する。
スライムの色々な記憶を見て周り、ついでに世界の情報も蓄えるのであった。
(つんつん)
「ライムちゃん起きて、もう朝よ~?」
ライムはバッと目を開ける、すると目の前に女神さまの顔が現れびっくりする。
近い…
「おはようライムちゃん。朝食の準備できてるわよ~」
もう朝になっているとは、集中すると分からないもんだなぁ
すると女神さまは寝室を出る。それを追う様にライムは人の姿になり移動する。
(ポンッ)
「おはようございます、今日も早いですね」
「楽しい朝御飯の時間だから、早く起きちゃうのよ~」
「朝御飯が一番楽しみなのですか?」
「そうね~、朝は比較的に甘い物が多いから好きかしらね」
「なるほど…。今日はパンと…ジャム。あと牛乳ですか?」
「そう、シンプルだけど美味しいメニューね。早く食べましょう」
テーブルの椅子に座る、そして
「いただきます」×2
女神さまは、早速パンにジャムを塗り始める。
(ペタペタ)
「このジャムって何味なのかしら?香りは良いけれど…初めて見るわ~」
(ピリッ)
「…あ、それはいちじくで作ったジャムみたいですね」
「あら、ライムちゃん分かるの?」
「えっと、その…泥棒扱いされて殺されたスライムの記憶が、今来ましたので…間違いないかと」
「あら…もう見つかってしまったのね」
残念そうにしながらパンを食べ始める。
(モグモグ)
あ、これ絶対楽しんでるやつだ…




