食事と代償
涙目のまま、全身に暖かい湯気をまといながら食事場へと向かう一人の女の子がおりました。
(じんじん…)
足の痛みが退かないまま女神さまの元へ向かうライム。
足の小指が痛い…
痛みをこらえながら部屋に入る。するとテーブルの上にはすでに夜ご飯が準備されていた。
「あ、もう準備出来てるから座って座って~」
「え、あ、はい。」
急いでテーブルの椅子に腰を掛ける。目の前にはパンとサラダと白いシチューが置かれていた。
もう出来てるなんて、早いなぁ…
「今日の夜ご飯は白いシチューよ~」
「このシチューってのは、甘いんでしょうか?」
「ふふ、それは食べてみてからのお楽しみよ」
「そうですね、せっかく味わう事ができるんですから、聞くよりも行動ですね」
すると手を合わせる。そして同時に
「いただきます」×2
女神さまはスプーンを手に取りシチューを食べようとする、それを見たライムもスプーンを掴み取る。
(パクッ…モグモグ)
「あ、美味しい…」
女神さまは満面の笑みを浮かべていた。それを見たライムも見よう見まねで食べようとする。
(カチャカチャ)
う、何かを使って食べるのって難しい…
スプーンを初めて使うライムは悪戦苦闘を強いられる。そしてやっとの思いでシチューを口にする。
「これは、舌触りが滑らかで甘くてクリーミーですね。しかも、甘いと言ってもお菓子見たいな甘さじゃなくて…。とにかく美味しいです!女神さまは料理も上手なんですね~」
シチューを口の回りに付けながら、美味しそうに食べるライム。その姿を見て女神さまは微笑みながら体を前に倒し、手を差し述べる。
「ふふ、まだまだ練習しないと行けない事が沢山あるみたいね?」
ライムの口の回りをキレイに拭き取る。
「あ、ありがとうございます」
顔を赤くしながら少し下を向く。
「少しずつ慣れていくわよ~。あ、このじゃがいも、ホクホクしてて美味しいわぁ」
「そ、そうですね。えっと、これは豚肉でしょうか?」
「うん、お肉も柔らかくて美味しいわね~」
「お肉は噛み締めると旨味がでますね」
それからライムは、パンに手を伸ばし始める。
(すっ)
あ、このパン柔らかい。
(パクリ)
「このパン冷えてるのに、ふわふわしてて美味しいです」
「本当ね~。しかもこのパン、シチューと一緒に食べると美味しいわ~」
「…俺も試してみます」
手に持っていたパンを、シチューに付けてから頬張る。
(モグモグ…)
確かに、これは合うなぁ…
味わっているライムを見ながら、女神さまはくすりと笑う。
「素手だと上手に食べられるのね、ふふ」
「あ、いえ…その通りですね…スプーンを使うのは苦手です…」
「これから美味しい物を食べながら、練習していきましょう~」
「はい、精進します」
「でも、このサラダは微妙ね~」
「そうなんですか?」
女神さまは、苦そうな顔をしながら食べていた。
「この赤いトマトは好きだけど…その他の、緑の葉っぱ系は何だか苦手だわ~」
ライムもサラダを食べてみる。
フォークは刺すだけだから簡単だ。ではいただきます
(しゃくしゃく)
「ん~、これと言った味は無いですけど、美味しいと思いますけど」
「そう?じゃあ、私のサラダもあげるわね~」
「えぇ、食べないんですか?」
「だって、微妙なんだもの…」
女神さまはトマト以外の野菜をライムのお皿に移す。
トマトは食べるんかーい。
食事を満喫する二人。すると女神さまがコップの水を、一口飲んでから質問をする。
「ところで、初めてのお風呂はどうだった?」
「えっと、お風呂は最高に気持ちが良かったですよ?体もポカポカしてゆっくりできました」
「うんうん、それなら良かったわ~」
「あ…でもお風呂から上がって、足の小指をぶつけた時は小指がもげたかと思いましたよ…」
「ふふ、ちょっと大げさじゃないかしら~」
「初めての痛みだったからかも知れませんが、死ぬかと思いました…」
その時ライムはふと思った。
もし、人の姿で大怪我とかしたらどうなるのだろう。痛みながら死んじゃうとか有るのだろうか…
ライムは恐る恐る聞いてみる。
「あの、女神さま?」
「何かしら?」
「もしも、俺が人の姿ですごい怪我を負ったりしたら、どうなるんですかね」
「そうねぇ…まず人の姿では死ぬ事は無いけど痛みは有るでしょうね~」
「そ、それは死ねない体と言う事ですか?」
「そう言い訳じゃ…えっと、簡単に説明すると。人の姿は変身スキルによるものだから一定以上の大きなダメージを受けるか、即死するような事があると強制的にスキルが解除されるの」
なるほど、人の姿でやられると強制的にスライムの姿に戻される感じなのか
「例えば、ライムちゃんが人の状態で首を一刀両断されたとしましょう」
「えぇ…」
「すると痛みを受けながらスライムの姿に戻されるんだけど、死んではいないの」
即死は防げる訳か…
「でも、即死は防げても瀕死状態になっているから回復するまでは動けないわ。だから瀕死状態で生き残ったとしても、とどめを刺される可能性が高いから気を付けないといけないわね」
「死ぬほど痛い思いをしてから、とどめを刺されるなんて最悪ですね…うう、殺されない様にがんばります」
「大丈夫。世界のために頑張ってるライムちゃんを、私が絶対に助けてあげるから」
少しばかり感動するライム、しかし思う。
スライム作りも少しは手伝ってくれると助かるんだけど…
そんな会話を交わしながら食事を済ませる。
「ふぅ…お腹が満たされると、なんだか充実した気分だわ~」
「そうですね、お腹いっぱい食べるとなんだか満たされますね」
(ごくごく)
最後に飲む水がすごく美味しく感じるなぁ
すると女神さまがゆっくりと立ち上がる。
「さてと、お風呂に入ろうかしら~」
「食べてすぐに入るんですか?」
「満たされた状態でお風呂に入りたい気分なのよ~」
太るとか体によくないとか関係無いからいいんだろうな
「あ、食べた後の食器とかは、そのままにしておいていいからね?」
「あ、いえ、俺が片付けときますよ?」
「いいのいいの、後で私がやるからそのままにしておいて~」
そう言い残して、お風呂場へと向かう女神さまであった。
さてと…今のうちに
ライムは女神さまがいなくなったのを確認して動き始める。
今のうちにスプーンの練習をしようかな。まずは洗ってから…あれ?
回りを見渡し、あるものを探すライム
水は、無い…のか?
テーブルの上にあるケトルの中には飲み水が入っているが、それ以外の場所に水がないのだ。
そうなると、この飲んでる水は一体どこから…?
部屋の中を隅々まで探し始めるライム。
しかし、見つかる事は出来なかった。そうこうしている間に、女神さまがお風呂から戻ってくる。
「あら、何か探してるの?」
「あ、女神さま。えっと、水はどこにあるのでしょうか」
するとケトルを持って微笑む。
「ここにあるわよ?」
「あ~、えっと、食器を洗ったり、料理する時に使う様な生活用水を探してたのですがー」
「それなら、無いわよ~」
「え?」
「だって不要でしょう?」
「え…あの、水を使わずにご飯を作ったんですか?」
女神さまは首を傾げる
(?)
「私は作って無いわよ?」
「え!それじゃあ一体誰が作ったんですか?」
「あら?言ってなかったかしら、食べ物はランダムに民家の方々から拝借しているのよ~」
「初耳ですよ!と言うかそれは泥棒なのでは…」
「拝借よ?盗んでないわよ~。それに、ちゃんとお礼にスラちゃんを一匹送ってるのよ?」
さっき、盗みは許せないとか言ってた気が…
そう言いながら食器を歪んだ空間に入れ始める。
「返却しておかなくちゃね~」
「食器はちゃんと返すんですね」
「あっても邪魔になるから~」
「なんだか、盗んだ物を食べてると考えるだけで気が引けるのですが…」
「ん~、ライムちゃんは世界のために働いてるみたいなものだから、お礼として食事を拝借してると考えたらいいんじゃないかしら?」
あくまでも拝借にこだわるんですね…でも確かに労働の見返りとして考えるのは有りなのかなぁ。
ライムは自分を、無理矢理納得させるのであった。
「とりあえずそこは割り切りました。ですが…ひとつだけ伝えておく事があります」
「あら、何かしら~?」
「えっと、女神さまがお礼に送ったスライムの事なんですけど」
「うんうん」
少し考え、苦笑いをしながら。
「そのスライム、すぐさま殺されちゃってます…」