労働と記憶
巨大な大木の下で、優雅にティータイムをしている女性が一人。泉の前で、ぴくりとも動かないスライムが一匹おりました。
女神「大丈夫よ、ライムちゃん。慣れれば日常の一貫になるわよ~」
紅茶をすすり、クッキーを手に取る。
えっと、このスライムを作る作業というのは、いつまで続ける予定なのでしょうか?
(もぐもぐ)
クッキーを頬張りながら答える。
女神「へかいがほろふそろひまへ?」
あ~、聞き取れませんでした、もう一度いいですか?
紅茶で流し込む。
(んぐんぐ、ごくん)
女神「世界が滅ぶその日までかしらね~」
超過酷な労働がまってるー!
ライムは少し考えた。
この仕事は、俺みたいな考える事が出来る、知能あるスライムがやるべきじゃないような。スライム生成を使い続ける無知のスライムを作った方が良いのでは?こんな単純作業を永遠にやらされたら、知能ある者なら精神から壊れる恐れもあるし…
ライムは深々と考えていた、すると女神さまが一息ついてから話し出す。
(ふぅ)
女神「ライムちゃんじゃないと、ダメなのよ」
その言葉にライムは、きょとんとした。
なんで、俺じゃなきゃダメなのでしょうか?しかし、ラブストーリーに出てきそうな台詞ばかりを…
女神「ライムちゃんが生まれるまでは、身を隠しながら一人で魔素供給をやっていたわ。長い時間を独りで過ごすと、やっぱり寂しくなるものね。そこで私は思ったの、一緒に楽しくお喋りしたり、一緒に笑ったり喜んだりできる。そんな家族ができたらなって…」
しんみりとした風が吹き抜ける、そして話を再開する。
女神「長い長い時間を、これから過ごす事になるのだから、一緒に美味しい物を食べたり、歩いてお喋りしたり、効率よくスラちゃんを作ったり。私は、ライムちゃんと一緒に、家族として暮らして行きたいと思っているわ!」
女神さま…
ライムは少しだけ、心がジ~ンとした。しかし、思ってはいけない事を思ってしまったのである。
俺、口が無いから、一緒に食べたりお喋りできねー!でも、確かに今までは、女神さまが独りでやってきたお仕事なんだよな…。
(ぴょん)
考え直したライムはテーブルの上に跳び乗り、女神さまを見上げる。
俺、やりますよ!女神さまのためにスライムを作らせて頂きます。あと、生まれたばかりで話のネタは無いですが、楽しく話し合えるそんな家族になります!
(ぷるぷる)
少し強めの感情で女神さまに決心を伝えたライムは、ほんのり震えていた。
女神「ライムちゃん、ありがとう~」
(むぎゅー)
目の前のライムを抱き締め、その状態で伝える。
女神「あ、そうだ。まだ言ってなかったけど、ライムちゃんのスキルは特別だから、話のネタは沢山手に入るわよ?」
え、スライム生成以外にも何か有るんですか?
女神「ライムちゃんが使える、スライム生成自体が特別なのよ」
ん~、スライムを作るこのスキルで話のネタ集め…?
何匹目で精神的にくるとか、そういう系の話だろうか…
女神「え~っと…この場合、話すより実際にやってみた方が早そうね。ライムちゃん、スラちゃんを一匹出してくれる?」
抱き締めていたライムをテーブルの上に移す。そしてすぐさまスライムを一匹作りだす。
(ポンッ)
女神さまがすぐに両手で掴み取る。そして、まるで赤子をたかいたかーいをするかのように、空へと持ち上げる。
あの、女神さま?いったい何をーー
(チュッ)
女神さまは、持ち上げたスライムを赤子の用に扱い、そして軽いキスをする。
ーーーやってるんですかっ!
女神「こんなものでいいかしら。」
い、いったい何をやろうとしてるんだ。
女神「それじゃあ、いくわよ~」
左手にスライムを乗せ、右手は人差し指を立てる。
女神「えいっ」
(ヒュッ、ブシュ。パァァァ…)
女神さまは、スライムに向かって人差し指を突き刺す、するとスライムは、青白い光を放ちながら宙に消えていく。
えぇ、女神さま何してーー
(ピリッ)
ライムに何かが伝わる、そして困惑する。
え、これは…今のスライムの記憶、なのか?
女神「ライムちゃんの頭の中に入ったのは、今ここにいた、スラちゃんの記憶すべてよ~」
う…間違いないですね。俺から生み出されてから、女神さまのキスを受け、そして人差し指に殺されるところまで、しっかりとありますよ。
ライムをなでながら、笑顔を見せる。
女神「これからは、作ったスラちゃんの分だけ、色んなお話が手に入るから楽しみね~」
これ、毎日10000匹でしょ…ものすごい情報量が。
女神「大丈夫、ライムちゃんは特別なスライムだから、すぐに慣れていくわよ~」
うう…とにかくやると決めたのですから!やらせて頂きますとも!
やけくそ気味に気合いを入れる。
女神「それじゃあ、今日の目標である、残りの2998匹を作りましょ~」
あ、さっきの一匹もカウントしてくれてる。
よし、やってやる。とにかくやるっきゃない!
(ぴょーん、ピリッ)
勢いよくテーブルから飛び降りる、それと同時に伝わる。
あー、あ…。女神さま?
女神「やる気満々で飛び降りたのに、どうかしたの?」
えっと、女神さまによって泉に投げられた、初めの一匹目が、死んじゃったようです。
女神「あらあら~、もう作ったスラちゃん全滅ね~。ちなみに、どんな記憶なのかしら?」
まず泉に投げられて入った瞬間、平原が目の前に。それからは、自由気ままに平原を動き回ったり、コロコロ転がったり。
女神「転がったり…かわいいわね、それ」
本当に自由に生きてるって感じですね~、後はずっと自由に散策してたみたいですが、ちょっと開けた場所で、近づいてきた馬車の車輪に踏まれて…
女神さまは、あちゃーっと言ってるような素振りをする。
こんな感じですね、はい。
女神「まぁ~、スラちゃんだから、仕方ないわね~」
スライムだから、そんなもんなのですかね…
俺もいつか、踏まれて死なないか心配だ。
今の話に尾を引きながら、ライムは作業にとりかかる。
さぁ、やるぞ!スキル発動っ
(スライム生成スライム生成スライム生成)
(ポンッ、ポンッ、ポンッ)
うん、疲れはしないけど、数が…
(スライム生成スライム生成スライム生成スライム生成スライム生成スライム生成スライム生成………)
(ポポポポポポポン)
これ、予想以上に時間かかるぞ。
~1時間後~
やっと2000匹、あと1000匹…
ちらっと女神さまの方を見る、するとスライムの大群に埋もれているのに気が付き、急いで駆け寄る。
わわ、女神さま大丈夫ですか!
女神「ふわぁ、至福の時間…」
沢山のスライムの中、満面の笑みを浮かべていた。
うわー、幸せそうだなー
ライムは持ち場に戻る、それから1時間過ぎる頃には3000匹に到達するのであった。
お、終わったー!なんだろう、達成感がある気がする
終わった所に女神さまがやってくる。
女神「お疲れ様、初めての感想はどう?」
疲れはほとんど無い感じですね~、あと、作業中にも記憶が飛び込んできましたけど、全然苦ではなかったです。むしろ記憶の整理をしながらの方が、気が楽でした。
女神「疲れていないのは、魔素が全然減ってないからでしょうね~、慣れたら一回のスキルで20~30匹ぐらい作れると思うわよ?」
一度にそんな数を…が、がんばります。
すると、ライムを持ち上げる。
(ひょいっ)
女神「ライムちゃん」
わわ、なんでしょう?
笑顔で伝える。
女神「改めまして、これからよろしくね」
(にこっ)
ああ、この美しい笑顔を、忘れることはないだろうな。
女神「ライムちゃん。さすがにそう言われると、照れちゃうわ~」
うん、思考を読まれての会話だから丸聞こえですね。恥ずかしいー!!
夕焼けに照らされ、女神さまの頬が赤く見える。
と、とにかく、俺の方こそ。よろしくお願いします!
女神「うふふ、よろしくね~。それじゃあそろそろ暗くなるし、家に帰りましょうか?」
そうですね、帰りましょう。
二人並んで家に向かう途中、ライムは、気になっていた事を質問する。
あのー、女神さま?ひとつ、聞きたいことがあるのですが。
女神「なにかしら~」
なんで俺の名前を、ライムにしたんですか?
スライムのスを外して、見た目や色がライムっぽいから決めたとか、流石にないはず。
すると、女神さまは言葉につまる。
女神「それは~、えっと~、」
…女神さま、まさか。
女神「あ、何かしらあの白い花は!初めて見るわ!」
花のところへ小走っていく
女神「これは、新種ね。なにかしら、特殊な力を感じるわ」
話を誤魔化されてる…。これは完全に、図星かーい!
女神「これを使えば、何かできそうね…」
(ぶつぶつ)
白い花を目の前に、なにやら呟いている。
まぁ、何にせよ女神さまから貰った名前ですから、ありがたく名乗らせて頂きますよ。さぁ家に入りましょうか。
白い花とのにらめっこは続く。
(ぶつぶつ)
もう名前の事は気にしませんので、家に入りましょうよ。…というか、スライムの俺じゃドアを開けれないんですよーーー。