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思い出シンドローム

作者: なの

目が覚めるといつもの天井、そして、横にはまだ眠りこけている彼女の姿がそこにある。

眠っていただけなのに、ひどく疲れを感じる。

そうか、昔のことを夢に見ていたんだ。


飲みかけのまま置きっぱなしにしていた、ポカリスエットをみてそのことに気がついた。

もう、6年前のことだ。

俺には、付き合っている女性がいた。

その子は、高校の部活動で一緒だった先輩だ。

先輩であることをやたらと気にする人で、何かと先輩らしさをアピールするところがあった。

しかし、先輩は元がズボラで抜けているところが結構多くあって、そのことを指摘される度にぷりぷりと怒ってしまう、そんなひとだった。

また、そこが彼女のかわいいところだった。

好きだった人は忘れられないと言うものの、それはどうやらあながち間違いではないのかもしれない。

彼女は、ポカリスエットを愛飲していて、よく僕にも飲めといってきた。

「ポカリは、人間の体液にすごく近いんだよ!

だから、君も、はい、ポカリ!」

屈託のない笑顔で渡されると、断るに断れない

部活中によくあった、光景が夢のなかで再現されていた。

彼女とは、付き合ってからとても仲良くしていたものの、彼女自身が大学に行くと言うことで上京したことをきっかけに、連絡が途絶えてしまい、そこで実質的な別れとなってしまった。

何度メールを送っても、メールが返ってくることはなくて、思わず涙が溢れた夜もあった。

社会人になった今とは、全然違って、ケータイもいわゆるスマホではなく、ガラケーが主流だった。

きっと、携帯の機種変時にデータ移行がうまくいかなかったのだろう。

頭の中では、そう思っているものの、どうしても当時のガラケーを今もお守りの様に持ったままの自分はやはり女々しい。

今の彼女とは、大学で出会い、同級生だ。

僕たちが2年生になったときに、先輩と1年以上連絡が取れなくなってしまい、抜け殻のような僕をみかねて、話に来たのがきっかけだった。

彼女は、ただ優しくて、その優しさに甘えてしまっている自分がどこか嫌だった。

告白も彼女からだった。

でも、そんな彼女のおかげで社会人となって一年を越す頃には、彼女と同棲し普通に暮らすまでになっていた。


デートの途中で、一度だけガラケーを見られてしまったことがあり、それは何?と聞かれたが、そのままの答えを言うのも憚れ、変な間ができたことがあった。

彼女は、それ以上追求することはなかった。

これでは、前とは逆だなと、思った。


まだ眠る彼女をおいて、家を出る。

なんとなく、郵便受けを開けると宛名がない封筒が一通。

何かの間違いかと思ったが、宛名がないのでは、誰宛なのか、どうすべきかもわからないので、そっと封を開けた。


すぐにその理由はわかった。

字を見た瞬間、気がついてしまった。

この手紙は、僕に宛てたものだと言うことに。


『拝啓、かわいい私の後輩くんへ』


その手紙は、彼女のもので、内容は彼女の結婚報告だった。

夢に見た理由は、これだったのかと、奇妙な運命を感じながら、彼女には気がつかれない様に、そっと公園にいき、一人泣いた。




「おかえり、どこかいってたの?」

彼女は、僕に問うた。

「ちょっとコンビニに行ってきた。」

目の下が少し腫れてしまっていることに気がつかれない様に、気を使って少し目をそらしてしまった。

彼女は、そっかと一言。

「僕たち結婚しよう」


彼女は、おそらく初めてびっくりした顔を見せた。

僕も、前に進もう。

手紙の中に書いてあったことは、衝撃の秘密だった。

結婚報告ももちろん、衝撃だったが

今の彼女は、先輩の妹だった。

僕と連絡がとれなくなった理由は、先輩は夢を叶えるために東京に行ったからだった。

夢に本機になることと、僕と一緒にいることは両立し得ないと考えた末のことだと。

それを妹の彼女に話していたらしく、大学でたまたま一緒になった僕を見たとき、彼女は僕に気がついた様だった。

反対に僕は、彼女が先輩の妹だと言うことに気がつかなかった。

それに対して、ものすごく悲しい気持ちになった。

彼女に対して、助けられることはあれど、僕からはちゃんと見ていることもできていなかったと。


「うん、嬉しい」

彼女は、初めて心の底から笑った様に見えた。



「あと、これ!はい、ポカリ!」

彼女はそう言って、姉みたいに僕にそれをくれた。

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