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第五章 わたくしが最弱ですって!?それでも……わたくし諦めませんわ!

 ルーキーアライバル翌日。


 グレンがギルドマスターへ昨日の事件について、何か進展がないかを聞きに行くために家から出ると、アオシが待ち伏せをしていた。


「よぉ」


 アオシが不機嫌そうに挨拶をする。


 グレンは少し驚いた表情でアオシを見ていた。刻印の冒険者情報を表示していれば、誰でもその情報が開示でき、自動で名前と職業とレベルが冒険者の頭上に文字として現れる。

 グレンが驚いたのは、アオシの職業欄を見たからだった。


「アオシ……!? まさか、本当に武道家になったのですか!?」


 アオシのパラメーターは武道家になっていた。


「……ああ。最悪の気分だけどな?」


 そのパラメーターを自分で見てアオシは口角を下げた。それでも、昨日解散した時よりはマシな表情になったようにも思える。


「受け入れるのですか!? この状況を!?」


 信じられないものを見るようにグレンはアオシに叫ぶ。グレンは今の状況をどうしても受け入れることが出来なかった。昨日まで学生NO1として君臨していた自分が最弱の魔術師にならなければいけない理由がどうしても分からない。


「……本当ならこんな事したくねぇよ俺だって。でも……俺、やられっぱなしって大嫌いなんだよ」


 アオシの目がギラリと光るのをグレンは見た。その青い目はとてつもない怒りを宿している。


「で、グレンはどうすんだ? このまま攻撃力0の武道家になる訳か?」


 そう言われてグレンは下を向いた。自分がどうしても受け入れることが出来ない事実を、目の前の男は受け入れて前に進もうとしている。けれども、グレンはまだギルドマスターが何とかしてくれると思いたかった。


「なぁ、グレン? あのファザーの話を聞いたよな?……刻印は本当に外せないんだ。それとも……冒険者自体を諦めるつもりなのか?」


 アオシがグレンを見ると、じッと地面を向いたまま動こうとしなかった。アオシは肩を落とした。


「……そっか。それでも……動かねぇか。グレン……お前に武道家の事教わりたかったんだけどな」


 そうポツリとつぶやくとアオシはその場を去ろうと後ろを向いて走り出した。それでも、何も言い返してこないグレンにアオシはガッカリするしかなかった。


 グレンはそんなアオシの背中を戸惑いながらじっと見つめる。グレンは走り去るアオシを横目で見送ってからギルドマスターへと移動を始めるのだった。



 ギルドマスターへの道のりは徒歩で15分程だ。

 街の中心部の噴水広場から見て北に位置する大きな建物、それがギルドマスター本部だ。入り口から中に入ろうとすると、昨日、自分たちを誘導してくれたフルフェイスメットの女性が出てくる。


「あ……貴女は。確か昨日の被害者ちゃん? えっと……」

「わたくし、グレンですわ」


 軽く会釈をするとマリンはフルフェイスを外して顔を出す。水色のボブヘアーに桃色の目は特徴的だとグレンは思った。


「私はマリンだよ。よろしくね、グレンちゃん」

「ええ、こちらこそ!」


 手を差し出してきたマリンにグレンも手を重ねて握手を交わした。


「そうそう、君の刻印を外す方法探してるんだけどね……やっぱり難しいみたいなんだ」


 手をそっと放しながら申し訳なさそうにマリンはグレンにそう言った。

 その言葉にグレンは眉を顰める。


「どうしても……ダメなんでしょうか?」


 諦めきれないグレンはそれでも食い下がる。


「……外から力を加えて刻印を壊すと、体の中のエネルギー変換式は元には戻らないの。壊した後に……そんな物は存在しないんだけど……例えば「体のエネルギーを元に戻す刻印」みたいなのを付与して初めて元に戻る。グレンちゃんを本来のフィジカルを付与した状態にするにはその刻印をさらに壊して、フィジカルを付与しなくちゃいけない。論理的にはそれで戻るんだけどね?……実際はそんな刻印自体存在しないし、上手くはいかないと思う」


 それを聞いてグレンはがっくりと肩を落とした。昨日ファザーが無理だと言う理由を詳しく提示されて現実味を帯びる。マリンは悔しそうに下を向くグレンにこう付け足した。




「……冒険者はもう諦めるしかないかもしれないよ?」




 残酷な言葉だとマリン自身が思った。けれども、無理をして冒険者になるのは辛いだけだろうと思い、この発言をしたのだ。それなのに、目の前の赤紙の少女の目は死んではいなかった。


「……わたくし、それでも諦めません。約束……しましたの」

「へ?」


 グレンが唐突にマリンにそう言う。


「幼馴染三人で最強のギルドを作るっていう、約束ですの。子供の頃からの約束ですわ。それを胸に、アオシも、リーリンも頑張ってきましたの……それなのに……」


 マリンは目を丸くしてその話を聞いた。アオシ、グレン、そして今年一位のリーリンに繋がりがある事さえマリンは知らなかった。そして、三人が本当に上位の三人になっていた事が夢に向かって頑張り続けた証だった。その何年も積み重ねた努力の末に叶うはずだった夢が誰かの陰謀によって阻まれたのだ。マリンはその強い思いを汲んで言葉を選ぶ。


「……冒険者になるなら……今から魔術師を目指すしかないんじゃないかな。けど、グレンちゃんも分かっている通り、そんな簡単に能力なんて上がらないからね?子供の頃から何度も何度も修行し続けて、ようやく身についていく。それを今からやるのって……かなりの覚悟が必要だと思う」


 申し訳なさそうに、それでも現実的なことをマリンは通告した。


「……そう……ですわよね」


 悲しそうな目にマリンも同情してしまう。どんな意図があったにせよ、誰かの陰謀によって明らかに故意に蹴落とされた結果だ。この女の子には何の非もないだろう。けれども、マリンの心配とは裏腹に力強い声が返ってきた。


「……わたくし、ダメもとでも……頑張ってみますわ! その……今から血反吐吐いても……絶対に諦めません!」


 そう言うとグレンは歯を見せてにこやかに笑ってみせる。マリンはその決意に満ちた顔に驚いた。


「へぇ……!! グレンちゃん……君、良いね! 私、そう言う青臭いの嫌いじゃないよ? でも、現実は厳しい。君がめげない事を祈っておくね」


 グレンの真っすぐな赤い目を見て、マリンもクシャッと笑った。


「フフッ……ありがとうございます」

「それじゃ、私は行かなくちゃ! またね、グレンちゃん!」


 軽く手を振ってマリンはワープの門を開くとそこに飛び込む。あっという間にマリンはその場から消えて行った。グレンはマリンが去った後、今朝のアオシの目を思い出していた。あの青い目は自分たちの未来を壊したものへの復讐心で滾っていた。自分も立ち止まっている場合じゃない。そう思うと力が湧いてきた。


 グレンは刻印から自分のパラメーターを開く。


「……はぁ。……腹……括るしかありませんわね……!」


 ジョブ選択の画面を開くとパパっと職業を選択して走り出した。

 そのジョブは魔術師。

 こうしてグレンもまた、『世界最弱の魔術師』として歩み始める。


「おーい!! アオシー!! どこにいますのー!?」


 グレンは青い幼馴染を探して、先程来た道を引き返す。


 ◇


 意外なことに、アオシはすぐに見つかった。

 川辺で体を鍛えようと腕立て伏せをしている。けれども、一般人以下の筋肉しかないアオシはすぐに地面に突っ伏してしまった。


「……無理」


 そうぼそりとつぶやいて仰向けに寝転ぶとそこにグレンが顔を覗かせていてアオシは驚いた。


「わっ!? ……な、なんだ。グレンか」

「ふふっ! 頑張っていますわね!」


 どことなくすっきりした顔をしているグレンを見る。直ぐにグレンのジョブが魔術師になっていることにアオシは気が付いた。


「……あ……」


 目を見開いてアオシが指を差す。


「……ま、そう言う事ですわ! アオシはわたくしに魔術を教えろですわ! わたくしがアオシを武闘家にしてやる! ですの!」


 口に手を当てて上品に笑うグレンはいつものわがままなお嬢様だった。


「それが人にものを頼む態度か? ……まぁ、俺もその方が助かるからいいけどな?」


 そう言うとアオシも目を細める。二人は久しぶりに笑いながら川辺に並んで座った。


「わたくし、魔術師の中で最弱なんですって」


 ランキングを表示してグレンが笑う。


「俺もさ。本当、このランキング、勘弁してほしいよな? こんな形で一位なんてとりたくないのにさぁ?」


 そう言うとアオシも自分のランキングを表示した。二人共ぶっちぎりで最弱だった。


「じゃぁ、わたくし達、最弱コンビですわね!」


 グレンが肩をすくめて笑う。


「ここから最強への道のりは本当に長そうだな。ま、どんな道のりだって絶対に最強になるから関係ないけどな?」


 アオシも空を見ながら笑う。

 二人はどん底に落ちて、それでも夢を諦めなかった。




 【グレン、アオシ、そしてリーリンの幼馴染の三人で最強のギルドを結成する】という夢を。




「さぁて……! グレンは『瞑想』から始めよう。魔力の基本は精神力だ」

「じゃぁ、アオシは……せめて10回腕立て出来るようになりましょうね!」


 そう言うと二人は早速修行を開始した。



 二人を見て通りゆく人々は指を差して笑ったが二人はそんなこと気にしなかった。そうこうしているうちに一日はあっという間に過ぎた。パラメーターは1も上がらない。


 それでも、二人はめげずに再び明日ここに集まると約束してその日を終えるのだった。


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