第四章 ギルド【アーバン・ジャイアンツ】……って人気だけど、実はブラック?
ルーキー・アライバル当日の夜、プロントールで一番大きい酒場ではギルド【アーバン・ジャイアンツ】の面々がリーリンを取り囲んで楽しそうに笑っていた。
その中央には団長の「ケフェウス・モニカ」がジョッキに溢れんばかりに注がれたビールを宙に向かって掲げる。
「新しい仲間、リーリン・ララバイに……カンパーイ!!!」
「カンパーイ!!」
総勢50名を超える大所帯のギルド【アーバン・ジャイアンツ】を取り仕切るのは風を操りしハンターで名高いケフェウス・モニカという男だ。
ケフェウスは羽の付いたつば付きの帽子を酒場でも被ったまま大盛り上がりしていた。その隣にはまだそのテンションについていけないリーリンが困った顔をしてちょこんと座っている。
「リーリン! 君が来てくれて本当にうれしいよ!!」
紳士的にケフェウスはリーリンにお辞儀をしてリーリンの肩を抱き寄せた。
「い、いえ! 私こそこんな素晴らしいギルドに勧誘されることになるとは思ってもみませんでした」
リーリンは手の平を左右に振りながら、そっと団長から離れると緊張した笑みを浮かべる。
「いやいや! 我らはいつだってNO.1を目指しているんだ。毎年NO.1しか取り入れない! つまり、君はこのギルドにふさわしい!」
そう言うとケフェウスはリーリンの手を両手で包み込む。リーリンは手を離そうにも離せず、困惑した表情を浮かべた。
「明日、さっそくダンジョンへ行く。君の初陣となる仕事だ!」
明るくリーリンに向かってそう言うと、ギルドのメンバーも盛り上がりをみせる。
「おー! 頑張れ新人!」
「最初はきつく感じるかもしれないが、根性だぞ!」
「団長が直々にメンバーに選抜するなんて、光栄な事なんだよ?」
次々にいろんな人に声を掛けられ、リーリンは引きつった表情で首を縦に振った。
「が……頑張ります!!」
リーリンのその一言にギルドのメンバーは更に盛り上がる。
「カーリー! あと……ヴィンス! 君たちも付いて来てくれないか?」
ケフェウスがギルドの面々に向かって声をかけると奥の方から二人が歩いてきた。
「……え?」
そのメンツを見てリーリンは硬直する。
「ウチ、カーリーっていうの。パラディンやってまーす!」
ごつい鎧を着た女の人は金髪のパーマを指でクルクルいじりながら笑っていた。その手には黄色い「タフネス」の刻印が輝いている。
「……パラディン!? 上級ジョブ……ですよね?」
「そうだよ!」
リーリンは今日、初級ジョブ「アコライト」になったばかりのLV1冒険者。対するカーリーは上級ジョブ「パラディン」のLV546だ。レベルの差にリーリンは驚愕した。するともう一人、ヴィンスと呼ばれた男がのっそりと歩いてくる。その髪はとても長く、地面にまで到達していた。
「ヴィンスだ。広域魔術師やってる。よろしくな。」
「広域……魔術師?」
優等生だったリーリンでさえ聞いたことのないジョブの名前だ。
「ああ。知らないのも無理はない。特定のスキルのレベルを上げ続けた人しかなれない特殊ジョブってやつだ。」
「特殊ジョブ!?」
リーリンは驚いた。この人生で今まで特殊ジョブに付いている人を見たことが無い。さらに言うと、このすごいメンツと自分が同じパーティーでダンジョンに潜るだなんて想像もしていなかった。
「明日……サラマンダーの秘宝を取りに行くよ。」
「サラマンダーの秘宝!? って……南の砂漠地帯にあるダンジョンですよね!?」
リーリンの記憶では、砂漠地帯にあるそのダンジョンは弱くても中級ジョブ以上、下手をすると上級ジョブでも痛い目を見ると噂のダンジョンだ。
「ま、待ってください!? わ、私まだLV1ですよ!?」
驚いてケフェウスにそう言うと、ケフェウスは先ほどまでの紳士的な態度とはかけ離れた鋭い眼光でリーリンを見ていた。
「……だから?」
「え?」
そう言われて、リーリンは背筋に冷たいものを感じる。あたりのギルドメンバーも気味悪くにやにやと笑っているようだった。
「僕の言った事は……絶対だ。いいね?」
「……!?」
その鋭い眼光に、まるで蛇が蛙を睨みつけているような感覚を覚えてリーリンは怯える。
「新人! ダメだよ? これは、このギルドに加入した人が絶対に受ける試練」
ニヤッとした顔でカーリーが笑った。
「つまり、団長の新人いびりだ」
ヴィンスも静かにリーリンを見てほほ笑む。そんな二人にケフェウスが割って入った。
「こらこら! 新人を怯えさせないでくれよ二人共! LVの低い子を高いダンジョンに連れて行って、ある程度レベル上げを手伝ってあげるのは最近の上等手段なんだよ? ごめんねリーリン、カーリーもヴィンスも人が悪いから!」
取り繕ったような笑顔でケフェウスはリーリンに笑いかけた。リーリンの表情は怯えたままだ。
「明日の8時半、ここの酒場に集合だからね? リーリン・ララバイちゃん。期待してるよ? 頑張ろうね!」
「は……はい!」
それでも、リーリンはこのギルドに所属してしまった以上、団長には従わなくてはならない。リーリンは明日からの日々に不安を感じずにはいられなかった。
(グレン……アオ君……これから、私、どうなっちゃうんだろう?)
リーリンは心の中でそう呟く。幼馴染の二人がどうなったかも分からないまま、不安だけが大きくなる。
こうして、ルーキー・アライバルの日は終わりを迎えるのだった。