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第三章 世界最強の魔術師になるはずだった俺→終了のお知らせ

 ルーキー・アライバルの会場は現在のツートップが同時に付与を行うとも会って盛り上がっていた。



「いきますよ!」


 付与担当者の声が朗らかに響くと、魔方陣がアオシとグレンの足元に展開される。その途端、二人は体が硬直して身動きが取れなくなった。魔法が付与される時には付与をする人が動かないように体が動かないようにする魔法が施されているのだ。


 しかし、それとは別の異変をグレンは感じた。足元を見ると自分が付与されるはずのフィジカルの色とは違う青い色の魔方陣が展開されている。


「ちょっと待ってください!! わたくしの魔方陣……メンタルの刻印となっていますわ!」


 グレンが慌てて付与担当者に抗議する。けれども、付与担当者はグレンの抗議などお構いなしに付与を続けている。その表情は心なしかニヤついていた。

 アオシの周りは逆に赤く光り、アオシも慌てながら大声で制止する。


「オイ!! やめろ!! このままじゃ逆に刻印が付与されちまう!! 今すぐやめろ!!」


 魔方陣がひときわ輝くと二人の体の硬直は溶けた。それを境に二人は攻撃態勢に入る。

 アオシが手の平を付与担当者に向け魔力を集中した。

 グレンは闘気を滾らせ、足に力をためる。


「……豪脚炎風陣!」

「フリージング・アロー!!!」


 グレンの足が赤く光り、アオシの手が青く光る。二人の攻撃が付与担当者目掛けて放たれたその時……



 アオシの左手が赤く光り、グレンの左手は青く光った。



 先程まで豪脚炎風陣を放つために赤い光を纏っていたグレンの足は普通の足に戻り、アオシの手の平からは何一つ魔法が放たれない。ただの攻撃になったグレンの足は付与担当者に薙ぎ払われた。


「なっ!?」

「えぇ!?」


 二人は急に使えなくなったそれぞれの得意技に驚きつつ、自分の手の甲に授けられてしまった刻印を見る。


 グレンには「メンタル」、そしてアオシには「フィジカル」がくっきりと刻まれていた。



 二人にはあべこべの刻印が付与されてしまったのだ。



「なにが……起こったんだ?」

「技が出なかった?」

「魔法も急に・・・。」



 目を丸くして観客たちはその様子を見守っていた。すべての冒険者が見守るステージのディスプレイには大きく二人のパラメータが表示される。


 =========================================


【グレン・ミルバインド(冒険者)】

【闘気:0 魔力:531『能力上限値30』 耐久力:246 信仰力:13 】

【攻撃力:0 防御力:246 魔法攻撃力:45 魔法防御力:276 回復力:19.5】


【合計値:586.5】

 =========================================


【アオシ・バロック(冒険者)】

【闘気:606『能力上限値52』 魔力:0 耐久力:125 信仰力:16】

【攻撃力:52 防御力:177 魔法攻撃:0 魔法防御力:125 回復力:24】


【合計値:378】

 =========================================


 その表示にグレンは膝をついて崩れ落ちた。

 アオシもただその表示を見て立ち尽くしている。


「うそ……でしょ?」


 この数値は今時、小学生でも珍しい程低い数値だった。

 それを全ての冒険者の目の前でさらしている。

 自分がさっきまで想い描いていた未来は急に音を立てて崩れ落ちたのだ。


「貴様!! 何故こんなことをした!!」


 アオシは血管が切れる勢いで怒り付与担当者に詰め寄る。


「ケケッ! 俺は雇われただけなんでなぁ! 何にも知らないぜぇ!?」


 薄気味悪い顔で笑う担当者に、アオシは再度魔法を撃とうとするが魔法は何一つ出なかった。その隙をついて、付与担当者は逃げるためにワープの門を開く。


「待ちなさい!!」


 マリンをはじめとするギルドマスターの面々が特設ステージから飛び込むように付与担当者へ向かったり魔法を放つが、何一つ付与担当者に届かないまま門は閉じて行った。




 残されたのは絶望に満ちたグレンとアオシだけだった。

 二人は顔を真っ青にしてディスプレイを眺めている。

 そんな二人にファザーが駆け寄った。


「なんという事だ! ……君達……無事か?」

「無事……じゃないですよね……」


 ファザーとマリンがグレンとアオシに声をかけるがあまりの出来事に二人共その場で呆然とするばかりだった。ステージを取り囲んでいたギルド関係者はその数字を見て憤慨した。


「おい!お前らを雇おうとこっちは必死で金をかき集めたのに!!」

「どういう事だ!! さっきのステータスと全然違うじゃないか!」

「ふざけんなよ!! お前らなんて誰もいらねぇよ!!」

「さっさとステージから降りろ!!」


 先ほどまでの歓声とは裏腹に、二人を雇おうとしていた冒険者たちは罵声を浴びせる。

 一方で関係のない者たちはアオシとグレンを指を差して笑った。


「それにしても、この数字・・・世界最弱記録なんじゃね?」

「ウケルんだけど! さっきまで世界一になるとか言って粋がってたのに!!」

「ある意味世界一になれてよかったな!!」

「あっはっは!!!」


 絶望に打ちひしがれている二人に向かって、観客たちはブーイングや罵声、嘲笑やヤジがひっきりなしにステージから浴びせられた。先程までの歓声と真逆の声に二人の絶望はさらに増した。

 マリンが静かに二人の肩に手を置いた。


「……こちらへ」

「……」

「……」


 マリンが二人を誘導しステージを下ろす。二人は何も言えないまま、控室へ移動する。


 そして、何事もなかったかのように、ルーキー・アライバルはリーリン・ララバイを一位としたまま続行した。自分達に向けられるはずだった熱気がリーリンを取り囲んでいるのを横目で見ながら二人はステージを後にするのだった。


 ◇◇


 グレン、アオシの二人はマリンに連れられ関係者控室に連れて来られた。

 来賓用の部屋は高級そうな背の低いテーブルを囲むようにふかふかの黒いソファが向かい合うように設置されている。


「そこに腰掛けてお待ちください」


 二人はゆっくりとそこに腰掛けた。今日は自分の晴れ舞台になるはずだったグレンは、今起きたことがいまだに信じられずに自分の手を見ると、そこにはやはり赤ではなく青い紋章が刻み込まれている。


「なんで……こんな事になってしまったのでしょうか……」


 震える声でグレンがそうつぶやく。


「グレンがくだらない事を考えずにさっさと付与を済ませていればこんな事にはならなかっただろ」


 アオシはグレンを睨みつけるようにそう言い放った。


「はぁ!? わたくしのせいだというのですか!?」


 グレンは声を荒げ、アオシの胸ぐらをつかんだ。しかし、生命力が0になってしまったグレンはいつもの力など一切出ずアオシに手を振り払われる。アオシも自分が強靭な力を持っていたグレンの手をこうも簡単に振り払えると思っておらず、顔をしかめた。


「……」

「……」


 二人の睨み合いはしばらく続いている。




「二人共やめないか!!!」



 そこへ扉が開き、部屋の中へファザーが入ってきた。その後ろをマリンもついて入ってくる。


「……お座りください」

 マリンが二人を再びソファへ誘導した。

「……はい」

「……」

 二人は力なくソファに座る。


「私はこのギルドマスターの最高位、司令官のファザーだ」


 ファザーが軽く挨拶をしつつ二人の正面のソファに腰掛けた。


「え!? ……は、初めまして!」

「お、お会いできて光栄ですわ!!」


 二人はそんな偉い人が出てくるとは思っていない。慌てて急に姿勢を正してかしこまった。


 ここ、プロントールに居ればファザーの名を知らない者など居なかった。けれども実際にファザー自身に会える機会など全くなく、二人はその名前しか知らなかったのだ。その司令官ファザーはアオシとグレンの目の前でため息をついている。二人は少しだけ顔を見合わせた。


「君達、何が起こったか説明してくれたまえ」


 腕を組んで二人を見据えるファザーの目は真剣そのものだった。その様子に少しずつグレンは状況を説明し始める。


「……わたくし達……どっちが先に刻印を付与をするかで……その……小競り合いをしていました」


 グレンは素直にそう言った。アオシは目線をファザーに合わせようとしなかった。あまりにもくだらない小競り合いの話をファザーにしている事が恥ずかしくてたまらない。


「本当なのかな? アオシ・バロック君」

「……はい。グレンの……言う通りです」


 そっぽを向いたまま静かにアオシはそう答えた。正直認めたくはないが事実は事実だ。


「リーリンに言われて挨拶をした後、付与担当者の所へ戻ったのです」


 グレンはありのままを時系列順に話を進める。ファザーも真剣にその話に耳を傾けた。


「すると、挨拶をする前までは『一人ずつしか付与出来ない』と言っていた担当者が急に、『時間がないから二人同時でもいいですか?』って言ってきましたの。わたくし達は何も疑わずにそれを了承してしまいました」

「なんだって……?」


 ファザーはそれを聞いて誰かの陰謀を感じずにはいられない。

 ギルドマスターの人間ならその付与の締め切り時間が生徒を時間までに収集するためだけのものだと知っていた。時間が理由で二人同時に刻印の付与をすることはあり得ない。


「同時に付与を始めたわたくし達は、付与されるはずだった刻印が逆につけられたみたいですの。わたくしの手にはメンタルが、そしてアオシの手にはフィジカルが……」


 グレンは悔しそうに自分の手を見た。

 そこに光っている青い刻印は本来ならアオシが受け取るハズだったものだ。


「……それに……」


 ここまで黙っていたアオシはゆっくり口を開く。ファザーもアオシの方に視線を移して言葉を待った。


「それに、あの担当者『俺は雇われただけで何も知らない』って言ってました」


 アオシも赤い「フィジカル」の紋章が付いている手を強く握りながら悔しさをにじませる。


「……雇われた? ……どこかに、君達を陥れようとした誰かが居る……という事なのかもしれないな。マリン、すまないが、調査を頼む」

「はっ。畏まりました」


 そう言うとマリンは部屋から出て行った。残されたグレンとアオシはファザーに一番聞きたいことを尋ねる。


「この刻印……付与の解除は出来ないって聞いたことがあります……。ファザーのお力で何とかできないでしょうか?」


 グレンはすげるような目でファザーを見つめた。アオシも食い入るようにその様子を見ている。




「それなんだが……。正直に言うと無理なんだ……」



 ファザーは、しっかりと二人を見ながらそう言った。


「そんな……!?」

「あなたの魔法なんだよな!?」


 二人は同時にファザーに詰め寄った。


「その刻印自体が特別な物なんだ。刻印は体内のエネルギーを操作する。……外から力を加え、無理に壊すことはできなくもないが……。それによってパラメーターが元に戻るとは限らない。内側のエネルギー変換が正常に戻らない限りは新しい刻印も付与できない」


 ファザーは首を横に振りながら状況の深刻さを伝えた。


「それって……俺らはずっとこのままって事ですか!?」

「そんな!?」


 今までの努力は全て水の泡となり、地の底にたたきつけられた。過酷な修行も、訓練も、地位も名声も、そして力をこの一瞬で失って二人は愕然とした。


「何とかする方法を探してみるが、しばらくはそのままでいてもらう他ない」


 そう言うとファザーはソファを立つ。


「ま、待ってください!! わたくし達はどうすれば良いのでしょうか?!」



 グレンはすがるようにファザーに問う。




「……君たちは能力が高い二人だ。グレン君が魔力を鍛え、アオシ君が生命力を鍛えて上限値を上げればそれなりに戦える冒険者となるだろう」




 ファザーは静かにそう言った。


「え!?」


 二人は顔を見合わせる。


「つまり、今まで体を鍛えてきたグレン君、君は魔術師を目指しなさい。そして、アオシ君。君は逆に体を鍛えて武闘家を目指すんだ。二人とも数値だけならそれでも中級職に匹敵するほどの能力値な筈だ」


 二人の表情とは裏腹にファザーは解決策を見つけたような口ぶりで二人に説明をする。


「ま、待ってくれ!? それって!?」


 アオシは慌ててファザーに詰め寄るがファザーは肩をすくめるだけだった。




「そうだ。目指すジョブをチェンジしなさい。」




「はぁぁぁぁぁ!?」

「えええええええ!?」



 グレンとアオシはその一言に大きな驚きの声を上げた。けれどもファザーは我関せずといった雰囲気でこう続けた。


「今までの努力と同じだけ努力すればきっと君達なら打開できると信じているよ」


 他人事のような口ぶりでファザーはスタスタと扉へ向かう。


「すまないが、今日は特に忙しい。今、ステージでは学生たちがどのギルドに所属するか決められているはずだ。私はこれから学生全員の情報更新をしなくてはならない。……調査が進んだらまた、きちんと報告をしよう。では、失礼するよ」


 そう言うと二人に軽く会釈をしてファザーは扉を出て行ってしまった。




 取り残されたグレンとアオシはしばらくその場で呆然とするしかなかった。外からは盛大な歓声が聞こえてくる。


「リーリン・ララバイ!! 所属ギルド【アーバン・ジャイアンツ】に決定いたしました!!!」


 窓から外を眺めると先ほどまで同じ舞台に立っていたはずのリーリンはとても遠い存在となっていた。ギルドの中でも、憧れのギルドNO1と名高いギルド【アーバン・ジャイアンツ】への所属が決定したらしい。自分たちが浴びるはずだった歓声は全てリーリンに注がれている。


「……ねぇ、アオシ」

 その歓声を聞きながらグレンはアオシに問いかける。

「……なんだよ、グレン」

 グレンはアオシを見ないまま返事をした。


「……超カッコ悪いですね……わたくし」


 泣き出しそうな声にアオシはハッとしてグレンを見た。いつも自信満々に笑う幼馴染は見る影もない。背中を向けたグレンの表情はアオシからは見る事は出来ないが、肩を震わせるその姿にアオシも心を揺さぶられる。


「……ああ、そうだね。超カッコ悪いね……俺ら……その……二人共な」


 グレンの背中に向かってアオシはわざわざそう言った。その一言にグレンは一呼吸おいて窓の外を見た。窓に反射してグレンからはアオシの姿が見えた。


「……そうですね……あなたも一緒だと言うのが唯一の救いかも知れませんね……」


 それを聞いてグレンは穏やかにそう返した。アオシはそっと立ち上がって扉に向かう。


「まぁ……。絶対に……許せねぇよ。どこの誰がこんな事してくれたのか解んないけどさ?」


 ドアノブを睨みつけてアオシがつぶやく。その言葉にはそこはかとない怒りが滲み出ていた。


「……ええ」


 静かにグレンも頷く。グレンが頷いたのだけ確認するとアオシはそっと扉を出て行った。


 アオシは自分のパラメーターを見てこの数時間が現実である事を認識する。魔力は今も「0」のままだった。一度だけ目をつむり、深呼吸をするとジョブ選択の画面を開く。ジョブを決めなければ、どこのギルドにも所属できない。きっと、今ジョブが未選択なのはグレンとアオシだけだろう。

 ジョブは一度決めたらなかなか変更をすることが出来ない。

 それでも、アオシは震える指で自分のジョブを選択する。


 そのボタンは「武闘家」を差していた。


「俺……世界一の……魔術師に……なりたかったんだけどな……」


 アオシは一人、静かにそう呟くと新人獲得に沸き立つステージを後にした。

 こうして、筋肉などほとんど無い【世界最弱の武闘家】が誕生したのだった。


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