第二十五章 さぁ、皆様!わたくし達ならきっと……
空に浮かんでいた、ファザーは3人の元へ降りたった。
「君達、再び、力を貸してくれ」
「ファザー!」
「もちろんですわ!」
「頑張ります!」
幼馴染3人は力強くファザーに頷いた。
「マリン!! バリアの詳細を!」
「了解です!」
刻印からマリンの声が響いた。カタカタという入力音が響いてものの数秒、マリンが分析結果を報告する。
「バリアの分析完了です! ……えっと……魔力にも闘気にもかなりの耐性があるみたいです。……この強度、物理的に矢や銃などでは弾かれるでしょう。うわー……これは非の打ち所がないバリアですね……!!」
マリンの声が思わず敵を称賛するとファザーは口角を下げてマリンの声に突っ込みを入れる。
「おい。敵をほめてどうする」
「あはは。……ごめんなさい」
マリンの困った顔で笑う様子が目に浮かんだ。
「強度はどれくらいだ?」
「かなりですね……上級魔法50発打って壊れるか壊れないか……です」
それを聞いてファザーは腕を組んだ。
「まいったな……流石の私も50は無理だ……。せいぜい10が限界だ」
上級魔法を10発も連続で打てる人間などファザーくらいなものだった。
「君たちは?」
ファザーはアオシとグレンをチラリと見る。
二人は首を横に振った。
「俺……1回打てるか打てないかです……」
「わたくしも……ですの」
回復職のリーリンに至っては攻撃手段などない。
「お手上げ……か?」
ファザーはちらりとギガント・ガザルダークを見る。
ギガント砲の球体はどんどん大きくなっている。
バリアを破れない以上、終わりの時を指をくわえて見ている事しかできない。
「く……くそ!! 何か手はないか!?」
「うううぅ……悔しいですわ!!」
気持ちばかりが焦る。けれども目の前のバリアが文字通り立ち塞がる。
「他に誰か、上級魔法や奥義を使える人っていないの?」
そのリーリンがすがるようにファザーに聞くと、その言葉にファザーは困った顔をした。
「ギルドメンバーで戦えるものはもう出て行ってしまっている。今残っている面々は非戦闘員の情報専門家なんだ。」
「そんな……!!!」
万事休すかと思われたその時、ファザーの周りに3つの特大のワープホールが開いた。
「ファザー……!! 俺らを忘れてもらっちゃ困りますよ!!!」
3つのワープホールからは次々と冒険者が飛び出てくる。
「君たちは……やってくれたんだな! 本当にご苦労だった! ご苦労だった!!」
ファザーは次々と出てくる冒険者たちに声をかけた。
「これって……戦争へ行っていた冒険者の皆だよね!」
「ああ! すごい! みんなが帰ってきたんだ!!」
噴水広場はあっという間に総勢300名程の冒険者で溢れかえった。
「東西南北のダンジョン、全て鎮圧! 冒険者全てがプロントールに帰還しました!! 東西南北の戦争は我らの勝利です!!!!」
マリンの朗らかな声が噴水広場に響き渡った。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
冒険者の勝利の雄たけびが噴水広場の空気を震わせる。
力強い雄たけびにギガント・ガザルダークはこっちをチラリと見たようだった。
「道中、皆様に状況をお伝えしています!」
「マリン! ありがとう!」
ファザーはマリンにやさしくお礼を言うと冒険者たちに向き直る。みんなの顔が見えるように、風を纏い宙へ浮かんだ。
「皆!! 聞いてくれ!! いま、プロントールは最大の危機を迎えている!! このバリアを突破してギガント砲を止められなければこの国は終わりを迎えるだろう。どうか……どうか皆の力を貸してくれ!!」
「もちろんだ!!! ファザーの頼みならなんだってやってやるぜ!!」
「まかせな!」
「絶対に俺らの俺らのプロントールを守るんだ!!!」
ファザーの声は全ての冒険者の心にしっかりと届いた。
「ありがとう!! このバリアを取り囲んで、一斉に攻撃を仕掛けるぞ!!!」
「さぁ、みんなに通達しますよ!!」
マリンはそう言うと冒険者全ての刻印を光らせた。
「ギガント砲の発射まであとおよそ10分程度しかありません! 全員で攻撃を撃てば、このバリアだって壊せるはずです!! 各自持ち場を送付しますので、バリアを全員で取り囲みます!!! どうか、力を貸してください!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
冒険者の雄たけびはマリンの声に呼応した。
全員が持ち場へ駆けていく。
その中にはアオシ・グレンそして二人に手を轢かれたリーリンも共に円を囲んだ。
「いいか! 合図をしたら自分が放てる一番強い攻撃を撃つんだ!」
ファザーの言葉に皆が各々の技の準備をする。
そんな中、グレンはアオシとリーリンに向かって困ったように話しかけた。
「ねぇ、アオシ、リーリン? わたくし実はもう、上級を放てるほどの力が残ってないのですわ?」
その言葉を聞いてアオシもふぅと息を吐く。
「奇遇だね……俺もなんだよ」
先程ガザルダークを攻撃した時に魔力も闘気もほとんど全て使い果たしていた。
「じゃぁ、中級技を打つの?」
リーリンは首を傾げてアオシとグレンを見る。
けれどもそれさえグレンは首を横に振る。
「中級でさえ打てるかどうかって感じですの……だからせめて……」
グレンがアオシとリーリンに耳打ちをする。
「まぁ、他の冒険者もいるし。やってみるだけやってみようか?」
「いいよ! 私も、やってみる!」
ゴニョゴニョと3人はバリアの前で何やら準備を始めるのだった。
そうこうしているうちに、ファザーの声が再び空から響き渡った。
「さぁ、みんなの心を一つにするんだ!! 全員攻撃準備……!!」
そして、全員の紋章が一斉に光り輝く。
その光はプロントールの未来への希望のようだった。
「攻撃開始!!」
その声と同時にすべての冒険者は一斉に攻撃を放った。魔法でも、奥義でも、物理攻撃でも、とにかくバリアに攻撃を仕掛けに行く。
「ギガントファイアー!」
「風蹴破!」
「チャージアロー!」
「イージス・ブレイク!」
それぞれの得意攻撃が炸裂する。バリアは大量の攻撃を一度に受けてグラグラと震えた。
「もう少しだ!! 皆!! 諦めるな!!!!」
バリアは徐々にピシピシとひび割れていく。
「いけえええええええええええ!!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
冒険者達の力の咆哮が噴水広場に轟いた。
そして、ついに……
グワッシャアアアアアン!!!!
盛大な音と共にバリアは崩れ去った。
「やったぁ!!!」
刻印からマリンの喜びの声が響く。
「よしっ!! 総員!! ギガント砲を止めるんだ!! 一斉攻撃だ!!!」
ファザーはすかさずに指示を出す。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
崩れ去ったバリアと共に冒険者が雄たけびと共に噴水広場の中心へなだれ込む。
しかし、その直後、全冒険者が愕然とした。
再びギガント・ガブリエルの中心から再びバリアが発生したのだ。
中心へと走ってきた冒険者たちはバリアに押し戻される形で、噴水広場からはじき返された。
全員の力を合わせてようやく破ったバリアはあっという間に元通り。
愕然としている冒険者をギガント・ガザルダークは鼻で笑った。
「ふあーっはっはっは!!! バカめ!!! バリアが一回しか張れないと誰が言った?」
あざけ笑うようなガザルダークの声に皆が絶望の色をにじませる。
「グッ……これじゃ……止められないではないか!!」
ファザーは目を見開いて歯を噛み締めた。
「あ……! もう時間がありません!! あと3分程度でギガント砲発射です!!!」
「なんだって!?」
マリンの刻印を見てファザーは本格的に焦った。
「なにか……何か方法が……!?! マリン……何か方法はないか!?」
「あ……ありません……」
二人は愕然としながらすでにほぼ完成してしまっているギガント砲を見た。
そこには勝利を確信したガザルダークがニヤニヤと笑っていた。
「クソ……くそおおお!!!」
ファザーが怒号を上げる。
冒険者達もそれを悔しそうに眺めた。
けれども、一発だけそのままバリアを通過してギガント・ガブリエルに命中した攻撃があった。
ドガンという爆発音が響き渡りギガント・ガブリエルは少しだけよろける。
「グア!!」
ギガント・ガブリエルは突然飛んできた攻撃を直撃して顔をゆがませた。
「な……なにっ!? このバリアは闘気も魔力も効かないはずなのに!?」
顔を上に向けたまま、目線で攻撃元を探る。
ファザーも、他の冒険者も攻撃の主を探して、バリアの外側へ視線を向ける。
そこには【最弱】と笑われたあの2人が手を繋いでギガント・ガザルダークを見据えていた。
二人の肩にはリーリンが手を添えて、三角形を作っている。
「ま……まさか……」
「あれは……」
それを見た全冒険者達が絶句している。
「だれだ!! 今の攻撃をした奴!!!」
ファザーが慌てて空から飛んできた。飛んできて納得したように笑って見せた。
「わたくしとアオシとリーリンですわ!!」
そこには3人が力を合わせてトリニティーブラックを放ったままの姿で立っていた。
「……君たち……! また何かをしでかしてくれたのか?」
ファザーは最早驚かない。
歯を見せて笑うと、ファザーが逆に聞いた。
「どうすれば良いかな? 教えてくれないか?」
その一言にアオシとグレンは目を丸くする。
その言葉の主はあの最高位のファザーだ。3人にとってこれほど光栄なことは無い。
「もう時間がない。指示をしてくれと言っているんだ!」
グレンとアオシはリーリンを見る。リーリンは一瞬だけ戸惑ってから力強く頷いた。
「……はい!!」
そして3秒考えすぐに指示に出す。
「魔力保有者はアオシに魔力を、闘気をグレンへ、そして回復を私へ……皆の力を全て私たちに注ぎ込んでください!!」
その言葉は刻印を通してそのまま全冒険者に流された。
「了解!!」
その言葉にファザーが冒険者たちを代表して返事をする。
「皆!! 聞いたな!!! もうこれしか手は残っていない!! 行くぞ!!!!」
そう言うとファザーはグレンに闘気を、アオシに魔力を、そしてリーリンに回復を注ぎ込んだ。
「す……すげぇ……一人でこんな力が……!?」
「ファザー……ありがとうございますわ!!!!」
「絶対に成功して見せます!!」
3人はその力を心を一つにして混ぜていく。
アオシ、グレン、リーリンのそれぞれ手から放たれた力が綺麗な正三角形を描き始める。
魔力の青、闘気の赤、回復の黄色が混ざり合い三角形は綺麗な漆黒へと色を染めた。
「す……すごいわ!!」
「俺らも!! 俺らの力も3人に注ぐぞ!!!」
「ああ!! ありったけの力を3人に!!!」
冒険者達は残りの力を振り絞る。
思った以上の力に3人の体に大きな負担がのしかかる。
「うっ!!!」
「凄まじい力だね!!」
「頑張り……ましょう!!」
すべての冒険者の力を受け、グレンとアオシとリーリンはますます心を一つにした。
「……絶対に……俺らで……」
「大好きなこの街を……」
「私たちの未来を……」
「守るんだ!!!!」
すべての冒険者の想いが三人の手によって一つになる。
全ての力が混ざり合ったその時、三人は声をそろえた。
「「「ジェットブラック・トリニティー!!!!」」」
漆黒の三角形がバリアを通過する。
「通過……だと!?!?」
ギガント・ガザルダークは驚きを隠せない。
「この……黒い力は……魔力でも闘気でもない……新可能性を秘めたエネルギーだよ!!」
「皆の力を混ぜ合わせて初めてできる物ですわ!!」
「仲間の大切さがわからないお前に、この力は絶対に負けない!!」
3人がそう言うと、ギガント・ガザルダークは鼻で笑う。
「だから何だというのかね!! ギガント砲は完成した!!!」
ギガント・ガザルダークの口から巨大なエネルギーが一つの円に凝縮され終わった。
「ギガント砲!!!」
あまりの巨大なエネルギーに空気が震えた。
放たれた巨大な丸は漆黒の三角とが激しくぶつかり合う。
大地はうねり、空気は揺れる。
衝撃波が辺りの瓦礫を凄まじい勢いで吹き飛ばしていく。
「グッ! グレン、リーリン踏ん張るんだ!!」
アオシが衝撃波に目を細めながら二人に精一杯声をかける。
「あ……あたりまえ……ですの!!」
「負けるわけには行かないもんね!!」
2人もアオシの声に応えながら足を踏ん張った。
ジェットブラック・トリニティーとギガント砲の力は激しくぶつかり合ったまま拮抗している。
ガザルダークはそれを見てさらに力を振り絞る。
「グアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ジェットブラック・トリニティーは徐々にギガント砲の力に押し戻され始めた。
「ウ……ウワッ!!」
「クソッ!!!」
「ハァッ!!! ハァツ!!!」
3人の顔は徐々に疲労に満ちていく。
ガザルダークは3人を見下して叫び散らす。
「お前らは死ぬんだ!! 仲間? 笑わせるな!! 仲間のせいで我は全てを失った!! あの時、仲間さえいなければ我は……」
そう言いかけたガザルダークにリーリンとグレンが反論する。
「違うよ!! 仲間が居なければ、あなたはそこへ行く事さえ出来なかったはずだよ!?」
「そうですわ! 仲間のせいにするくらいならあなた一人で魔王を討伐へ行けばよかったじゃありませんか!! 何故あなたはファザーや仲間と共に魔王を討伐へ行ったのですか!?」
ガザルダークは目を見開いた。
「な……何故? 何故我は……?」
ガザルダークはリーリングレンの言葉を聞いて、自分自身に疑問を持った。その答えはファザーが明朗に断言する。
「そんなの、簡単な事だろう!? お前にも、仲間が必要だったからだ!」
ファザーがガザルダークを見据えてそう言った。
「ファザー……? そんなはずはない! 我は……魔将軍……? いや、それは魔王を討伐した後の事だ……」
ガザルダークはギガント砲を打ちながら自問自答を続ける。
「……ガザルダーク。私は、お前を……今でも友だと思いたい。仲間だと思いたい」
「ぐ……また、そんな言葉で惑わされる我ではないわ!! 仲間は弱い者が集まって強い者にすがる都合のいい言葉!! そんなものに……」
その言葉にアオシが反論をする。
「仲間が弱かったなら、お前が導いて強くするべきだったんだ!! このファザーのように!! 見ろ! ファザーが立ち上げたギルドマスターによってこんなに冒険者が……仲間がいるんだ!」
アオシの目がガザルダークを睨みつける。その言葉に3人に力を送る冒険者達からも次々と抗議の声が上がる。
「そうだそうだ!! 仲間がいるから俺たちは強くなれるんだ!!」
「守るものがいるから私たちは頑張れる!!!」
「こうしてみんなの力を合わせれば……何にだって立ち向かえる!!」
次々に沸き起こる反論にガザルダークは歯を噛み締めた。
「うるさい!! うるさい!! 黙るがよい小童ども!!! さっさと塵と化すが良い!!!」
一層強くガザルダークが吠えるとギガント砲がより一層強く光った。
「皆!!! こっちも行くぞ!!!」
ファザーが冒険者に声を張り上げる。
「いっけえええ!! みんなの力を一つに!!」
決意を抱いた冒険者たちのジェットブラック・トリニティーの勢いは急激に増していく。
「グ……グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
今まで優勢だったギガント砲がどんどん押し戻されていく。
そして、その瞬間、二つの大技の均衡が崩れた。
ギガント砲はジェットブラック・トリニティーに飲み込まれ、ついにギガント・ガザルダークに到達した。
「なっ!? なんだと!?!? 何故……我が!! こんな奴らに……ウ……ウガアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
ギガント・ガザルダークの巨体は漆黒に包まれる。
その瞬間……
ドッガアアアアアアアアアアアン
プロントールはこれまでにない程揺れた。
その様子を冒険者全員が息を呑んで見守った。冒険者達の全力のジェットブラック・トリニティーはギガント砲をも飲み込み、ギガント・ガザルダークに見事打ち勝ったのだ。ギガント・ガザルダークの巨体は地響きを立てながら全冒険者の目の前で倒れたていった。
「我が……弱い者の……集まりに……敗れるはず……!!」
「……ガザルダーク……認めるんだ。お前の負けだ!!」
最早倒れたまま動かなくなったギガント・ガブリエルの体から、黒い魂が抜けていく。
「……ファザーよ……我の……負けなのか?」
「ああ。さらば、友ガザルダークよ」
ファザーは静かに黒い魂にそう言った。
「……仲間……か。ファザー……いい仲間を……もったな……」
「!!?」
ガザルダークの魂は最期にそう言うと、晴れ渡る空に溶け込むように消えて行った。
「……ああ。自慢の仲間だ」
ファザーも静かにそうつぶやくと、口元に寂しい笑みを浮かべながら仲間たちの元へ戻っていくのだった。




