第二十一章 大ピンチ!?ギルドマスター本部を守れ!!
噴水広場へ走りながら、ファザーは2人に指示を出す。
「グレン君、アオシ君は2人1組で動くんだ。互いがピンチの時に助け合えるように」
「はい!」
「了解致しましたわ!」
二人もファザーの後を着いて走る。もう、あと少しで到着すると言う時、ファザーは転がった大き目な瓦礫の影に隠れて立ち止まった。
噴水広場ではギガント・ガブリエルが建物を壊しながら北を目指している。
「狙いは、やはり、ギルドマスター本部のようだな」
ファザーはギガント・ガブリエルの歩む方向を確かめると二人に向き直り、懐からアイテムを2つ取り出した。
「良いか。ギガント・ガブリエルはギルドマスター本部へ向かっている。2人は先まわりして屋上で待機しろ。これを……グレン君に渡しておく。タイミングを見計らって使うんだ」
ファザーがグレンに渡したのは手榴弾だった。しかも、ただの手榴弾では無く破裂と共に爆破魔法エクスプロージョンが炸裂する、ギルドマスター特性の手榴弾。グレンも存在こそ噂には聞いたことはあったが、実際手にするのは初めてだった。
「私がガザルダークの相手をする。その間に水晶を壊す事が出来なかったら、君達が水晶を壊すんだ。水晶を壊せばガザルダークはあそこから出てこざるを得なくなる。ガザルダークを叩かない限り、ギガント・ガブリエルは止まらないだろう。隙を突いてあの赤い水晶に投げ込めば、きっと水晶は壊れるはずだ」
「分かりましたわ!!」
グレンはしっかりとその手榴弾を受け取り、ポケットへしまい込んだ。
「アオシ君にはコレを」
アオシが受け取ったのはグローブのようなものだった。
「クッショングローブだ。正面に強い風を送ってクッションの役目を果たす。これから私が戦闘を始めたら、何が君達に飛んでいくか分からない。これで避けてくれ」
「分かりました」
アオシはグローブを受け取ると早速それを手にはめようとした。その時、手の甲の刻印がファザーの目に止まった。そこにはヒビ割れた刻印がある。
「な!? ちょっと待て!」
ファザーはアオシの左手を掴んで制止した。
「へ? ど、どうしたんですか?」
「刻印にヒビが……壊そうとしたのか?」
怪訝な顔をするファザーにアオシは慌てて首を振った。
「いや! 違いますよ! さっき、死にかけた時に怒りに身を任せていたらパリンって割れたんだ!!」
それを聞いてファザーは尚の事怪訝な顔をしたが、それ以上の追求はしてこなかった。
「……? ……まぁ、良い。とにかく、仲間が集まるまでなんとか街を守るんだ。行くぞ!!」
「はいっ!!」
「ええ!」
その言葉を最後にファザーは噴水広場へ、アオシとグレンはギルドマスター本部へと向かって走り始めるのだった。
◇◇
ギルドマスター本部の統括であり、冒険者全てのを導く皆の父。ファザーとは敬愛の意を込めて冒険者達が彼につけた愛称だった。
ファザーは冒険者の中で最も強く、最も賢いとされている冒険者だ。桁違いの強さに神の化身だと言う人もいる程だった。ファザーの手には刻印がない。刻印自体、ファザーが自分より弱い冒険者の為に開発した物だからだ。刻印が無い故に、魔力も闘気もフルで使え、防御力もあり、さらに言うと回復さえできる。
常軌を逸した存在。
それがファザーだ。
ファザーはギガント・ガブリエルと戦える唯一の人間だろう。
「よぉ。化け物。よくも私の街と市民をこんなにしてくれたね……?」
その目には怒りが宿っている。
「グアアアア……!!!」
ギガント・ガブリエルもまた、ファザーを見つめる。新しいおもちゃを見つけたような顔をすると、ギルドマスターへの進軍を止め、後ろを振り向いた。
「ぬ……お主は……ほぉ。ふけたのぉ……ファザーよ!!」
忌々しいものを見るような目でガザルダークはファザーを見下す。
「よぉ。久しぶりだな。ガザルダーク!!」
ファザーもまた、唾を吐き捨てるような口ぶりでガザルダークに声をかける。
お互い、数秒だけ睨み合うと、お互い何も言わずに戦闘が始まった。
最初に動いたのはギガント・ガブリエルだ。ファザーめがけてその鋭い爪を振りかざした。
けれど、ファザーは体に風を身に纏い自由に空を飛んで回避する。ギガント・ガブリエルはちょこまかと空を飛ぶファザーを何度も払いのけようとしたが、スピードが速すぎて攻撃が当たらない。
今度はファザーが左手をかざしたと思うと、ボーリング玉くらいの火の玉があたり一面に現れ、全てがギガント・ガブリエルをめがけて飛んでいった。逆に体が大きいギガント・ガブリエルは火の玉を避けられず、すべて被弾した。
「グアアアアアアアアア!!!!」
痛みにギガント・ガブリエルはよろよろとした。追撃を試みようとファザーが闘気をたぎらせた足で宙を蹴ると、それは一本の風の刃と化してギガント・ガブリエルに向かっていく。
けれども、その刃は突如現れた反射バリアによって打ち返される。ファザーは自分で放った風の刃をすれすれで避けた。ギガント・ガブリエルの額を見ると、ガザルダークがこちらを見て笑っている。
「ガザルダークめ……バリアを張れるのか。一筋縄にはいかないようだね……」
ファザーは眉をしかめると、次の攻撃に取り掛かる。今度はギガント・ガブリエルの足もとめがけて氷の魔法を発動する。かなりの広範囲の床が氷となり、ギガント・ガブリエルは足を滑らせて横転した。
「グアアアアアアアアアア!!!!」
ギガント・ガブリエルが転び額にある水晶の中にいるガザルダークも体勢を崩す。その隙をついてギガント・ガブリエルにファザーが接近する。足にはかなりの量の闘気が纏っているのが一目で分かるほどファザーの足は黄金に光っている。
「チッ!! こざかしい!」
ギガント・ガブリエルにファザーの蹴りが炸裂して、メートルは10メートルはある巨体は腹がくの字に曲がったまま宙を舞った。
「グアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
ギガント・ガブリエルの悲鳴に似た鳴き声が町中に響く。
宙を舞ったギガント・ガブリエルの巨体は町中から見える程だった。
「す……すげぇ……」
「流石……ファザーですわね……」
ギルドマスター本部に到着したアオシとグレンの二人は扉のチャイムを鳴らしながらその様子を見ていた。
「アオシ君! グレンちゃん! こっちです!」
ギルドマスター本部の扉が開くとそこにはフルフェイスのメットを光らせたまま、ドアを開けてくれたマリンが居た。
「こっちです! ついて来てください!」
アオシと グレンは誘導されるがままにギルドマスター本部に入っていく。屋上への階段に至るまでには指令室を通過する必要があった。指令室……そこはまるで別の戦場だった。
広い部屋に所狭しとモニターが置かれ、100人くらいのオペレーターがひっきりなしにマイクを使って冒険者に呼びかけている。
「地点(B:35)闘気使えるもの移動を!!」
「(F:15)地点へ回復できる人を派遣して!」
「だめだ!! そっちへ行っては!! 引き返すんだ!!」
「上級魔力系誰でもいい! 空いてないか!?」
東西南北で起こっているもう一つの戦争の指令をギルドマスターの面々で行っている。様々なモニターから様々な情報が流れてきていた。それを見て、状況判断しつつ冒険者を精一杯サポートしている現場をアオシもグレンも初めて見る。
「すげぇ……こんな風になってるのか……」
「皆様が……わたくし達を支えてくださっているのですね……」
3人は指令室を通過しつつそんな言葉を漏らすと、マリンは二人に誇らしげに笑いかける。
「ふふっ……そうだよ! 私達は直接戦えない分、誰一人死なない世界を目指しているんだ。ファザーと一緒にね!」
「誰一人……死なない世界ですの……?」
グレンは目から鱗が落ちた気分になる。冒険者である以上、寿命を迎えずして死ぬことは普通にある事だった。グレンは格闘一家だったからこそ、それは当たり前だと思っていた。実際グレンの父はグレンが幼い頃に他界している。グレンは胸に熱いものを感じた。
「そうよ。誰も……。ひとりだって冒険者を死なせたくない。それが私たちの想い描いている未来なの」
その熱い思いにグレンの目が輝いた。
「わたくしも……!! わたくしもその未来……一緒に想い描きたいですわ!」
グレンはマリンに向かって飛び切りの笑顔でそう言った。マリンはその言葉に思わず笑みがこぼれる。
「ふふっ! ……さぁ! 早く。こっちです! 正直に言いますと、もし、ファザーが食い止められなかった場合……ここを守れるのはあなた方だけになります。ここが潰れたら、今は優勢に進んでいる東西南北のダンジョンで起こっている戦争も劣勢へ傾くでしょう。そうなれば……分かっていますね?」
マリンは心配そうな顔でアオシとグレンを見る。
「絶対に……ここだけは守って見せますわ!」
「まぁ、ファザーの様子を見る限り大丈夫……」
そう言いかけたその時……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ものすごい地鳴りがした。
「……!? ああ!! ファザー!?」
フルフェイスのメットを見たマリンが叫ぶ。
「グレン!!」
「ええ! アオシ!!」
二人はその様子に階段を駆け上がった。
--バタン
グレンは乱暴に屋上へのドアを開け放つ。
プロントールの街の中心から少し北にそれた所にあるギルドマスター本部屋上からはプロントールの町並みを一望できる。普段ならその見晴らしのよさに感激するだろう景色も、いまは絶望に近い景色に変わり果てていた。
激しい戦闘の跡に街は瓦礫の山と化し、その瓦礫の中央部分には忌々しい魔獣がいる。
「グアアアアアアア!!!」
屋上へ出てまず目に留まったのは、ギガント・ガブリエルがこちらに向かって歩いて来ている姿だった。
「え……ファザーは!? ファザーはどこですの!?」
「……あああ! グレン! あれを見て!!」
アオシが指を差したのは、ギガントガブリエルの額だった。
「ガザルダークが居る水晶!! ほら!!」
「……ああああああああ!!!」
グレンとアオシ、二人が見たものは水晶の中に閉じ込められたファザーの姿だった。ドンドンと水晶を叩いて何かを訴えている姿が目に留まる。
「あれは……きっと出てこれないんだ!」
けれども、そこにいたはずのガザルダークが居ない。
「え……!? が……ガザルダークはどこですの……!?」
二人は嫌な予感がしてあたりを見回した。
「……何を探しているのかね?」
二人が探している、最強の魔物ガザルダークはアオシとグレンの真後ろにいた。
「なっ!!!」
「や……やばっ!!!」
緑の手の平がかざされたと思うと、闇の力が黒い塊となって球体となる。今にも解き放たれそうな球体を冷や汗を滲ませながら二人は睨みつける。
「さっきはよくもやってくれましたね。グレン・ミルバインド!」
「え!? わ、わたくしですの!?」
思ってもみない名指しにグレンは慌てる。
「瓦礫ごと降ってきた冒険者はあなたが初めてだ。流石の我も虚を突かれたわ」
「……あああ……あれ……ですわね」
先程のランダムワープの件を思い出してグレンは苦笑いをする。
その間もガザルダークはじりじりとこちらへ歩みを進めている。
(ま……まずいぞ……あの球体からはとても強い力を感じる……当てられたらひとたまりもねぇな……)
アオシは流れ落ちる冷や汗を感じながらグレンと手を繋いだ。
「へ!?」
急に手を繋がれてグレンは一瞬戸惑ったが、アオシの顔を見て理由がすぐに解った。グレンもしっかりと手を握り返す。
「おやおや、死ぬときは二人仲良くが良いということかね? さすがレベル2の最弱コンビだ」
その様子をガザルダークは鼻で笑った。
「誰が最弱コンビだ。お前が俺らをハメなかったら今頃最強コンビだったんだぞ?」
アオシはグレンの手を引きながらゆっくりと後退する。そこはもう、屋上の縁の近くまで来ていた。
「グレン……ありがとう」
「お安い御用です事よ」
二人は目配せする。そして、その様子にガザルダークもただ手を繋いだだけではない事に気づいた。よく見ると二人の繋いだ手からは赤い霧が発生している。
「……? 何か企んでおるな? 何もさせぬ!!」
ガザルダークは間髪入れずに黒い球体をグレンとアオシめがけて飛ばした。
「やばっ!!!」
アオシがグレンをグイッと引き寄せると腰に手を回す。
「グレン!! 捕まって!!!」
「ええ!!!」
アオシの足が赤く光る。その赤はグレンの闘気によるものだ。繋いだ手はグレンからアオシへ闘気を移動するため架け橋だったのだ。
「豪脚炎風陣!!!!」
グレンを抱えたアオシは屋上の縁を闘気に滾らせた足で力いっぱい踏み出した。
二人はギルドマスター本部の屋上から思いっきり宙へジャンプしたのだ。
向かう先は、もちろん、ファザーが閉じ込められてしまっているギガント・ガブリエルの赤い水晶だった。ガザルダークが放った黒い球体は斜め上を飛んでいった二人の足元で木っ端みじんに砕け散った。
「あれは直撃じゃなくても、近くにいるだけで危なかったですわ……」
抱かれたまま背中の方を振り向いてグレンが顔を引きつらせる。そして、アオシは別の意味で顔を引きつらせていた。
「あ……や……やばい!!!」
「え……?」
その一言にグレンも前を向く。
「飛距離……足りない……」
「えええええええええええ!?!?!」
二人はあと数メートルという所で落下を始める。
「アオシ君!!クッショングローブを下に向けて使うんだ!!」
「!!!!」
ファザーの声が水晶から二人に届いた。
そして、アオシは言われるがままにグローブを下に向けた。
「最大出力!!」
アオシの目の前で風が巻き起こる。本来、防御に使われるその風の勢いでグレンとアオシは宙でバウンドした。ギガント・ガブリエルは目の前で変な動きをしたグレンとアオシを見て爪を光らせ、大きく振りかぶった腕を二人めがけて振り下ろして来る。
「来てるぞ! 避けろ!!!」
ファザーの声にアオシは咄嗟にグレンを上方へ投げ、上に向かってもう一度グローブを発動した。
「最大出力!!」
「きゃぁ!!」
1人で最大出力の風を受けたグレンは先程にも増した勢いで上へ、そして反動でアオシは下へ宙を跳ねる。空間ができた二人の間を、ギガントガブリエルの爪が通過した。
「グレン!! そのままあれを投げるんだ!!」
下に落ちていったアオシはクッショングローブを使って上手く着地しながらそう叫んだ。
「はっ!! 解りましたわ!!」
勢いのまま、グレンはギガント・ガブリエルの頭の高さまで飛んでいく。目の前には、ファザーが閉じ込められた水晶が色鮮やかな赤に光っていた。グレンはすかさず、ポケットから手榴弾を取り出し、乱暴に口でピンを抜いた。
「いっけえええええええええ!!! ですの!!」
グレンの手から勢いよく手榴弾は飛び出す。手榴弾が水晶に当たるコツンという音が響いたと思ったその瞬間……
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
グレンの目の前で爆破魔法エクスプロージョンが炸裂した。目の前の水晶は木端微塵に散り、ギガント・ガブリエルは頭で爆破を受け地面へと倒れて行った。
響き渡る魔獣の雄たけびの中、グレンは成すすべなく爆風に飛ばされた。
「キャァァッ!!」
グレンが飛んでいくその先に、地面などありもしない。
「お、落ちますわあああああああ!!」
地面がどんどん近づいていく。グレンは体勢を立て直せず頭から落ちていった。
「グレン!!」
アオシも慌ててグレンの落下先に駆けていくが距離が遠すぎて間に合わない。
「きゃああああああ!!!!!!!」
グレンは目を瞑って死を覚悟した。
しかし、待てども待てども衝撃は来ずグレンはそっと目を開ける。そこには優しく風で包まれ、宙に浮いている自分がいた。
「へ?」
「大丈夫か!? グレン君!!」
グレンが地面に落ちるギリギリのところでファザーがグレンを風の魔法で飛ばしてくれていたのだ。
「あ……ありがとうございます!! ファザー!!」
「いや……今回ばかりはお礼を言うのは私の方だ。ありがとう、二人ともよくやってくれた」
ファザーとグレンがゆっくりと空から地面へ降りてくる。
その様子をアオシは力の抜けた表情で見守った。
「良かった……」
アオシはその様子に安心して大きく息をつくのだった。




