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第二十章 叱られるのは嫌いですが、きっと、それも優しさの内なんですわ。

 グレンとアオシが南教会の扉を出ると、正面にはギガント・ガブリエルが暴れている。

 2人は噴水広場に向かって駆け出した。


「グレン。俺が向こうに行く本当の目的は救出活動の為じゃないんだ」


 アオシはギガント・ガブリエルをみて静かにそう言った。


「あら、奇遇です事。わたくしも同じくですわ?」


 グレンはアオシを見てニヤリと笑う。

 アオシもグレンを見てニヤリと笑った。


「何処の魔将軍かは知りませんが、わたくし達を良いように利用してくださったようじゃありませんか!」


 グレンの目が怒りに満ちた赤に光る。


「どうやら、同じ事を考えてるみたいだな?そもそも、俺らに来たクエスト、救援クエストじゃないしね」


 アオシはパラメータを開くとそこにはこう書いてある。





【ギガント・ガブリエルを討伐せよ】




「行こう、グレン」

「ええ。行きましょう!!」

「ギガント・ガブリエル、そして、魔将軍を【討伐】に!!」


 二人はお互いを見て強く頷いた。

 けれども、その決意が一瞬で打ち砕かれる。その理由は刻印から響いた声だった。



「コラ!! 2人とも待ちなさい!!」



 刻印から聞こえたのはギルドマスターのマリンの声だった。アオシの刻印が光るとマリンのホログラムが出てくる。いつもとは違った険しい顔をしたホログラムにアオシとグレンは顔を見合わせた。


「アオシ君! さっき死にかけたばっかりでしょ!?」

「え!? ど、どうしてそれを!?」

「グレンちゃん! 無茶しないようにって言ったよね!?」

「い……言われましたわ」


 マリンは二人を諫めるように叱った。二人は明らかに怒っているマリンに気圧され、さっきまでの勢いは見事にかき消される。


「命はね? 一回しかないの! 絶対に無謀なことはやめなさい!!」

「で……でも!!」


 アオシが反論しようとするとマリンの怒りがさらに爆発する。


「でもじゃありません!! 力量という物を少しは考えなさい! 相手は上級者が束になっても敵うか分からない敵なんだよ!? 腹が立つのは解るけど、いい加減にしなさい!!」 


 マリンの正当なお叱りの言葉にアオシもグレンもぐぅの音もでず、しょんぼりとした。


「は……はい……」

「すみません……」


 それでも、何か言いたげなアオシを見て、マリンは一呼吸置いた。


「ふぅ……ねぇ、アオシ君?」

「な、なんですか?」


 アオシは名前を呼ばれて顔を上げる。


「あのね? グレンちゃんも聞いて? ……私はギルドマスターの一員だけど……戦えないの」

「え……?」


 冒険者はほぼほぼすべての人が戦うすべを持っている。その言葉にグレンとアオシは驚いた。マリンは少し困った顔で笑う。


「私は、臆病者だから、戦闘スキルを一つも習得できなかったわ。いつも逃げてばっかり」


 寂しそうな声でマリンは話を続けた。その表情には哀愁が漂っている。


「でもね? 臆病者がゆえに相手を索敵する能力が高かったの。ファザーはそこに目をつけて戦いとは違う道を提示してくれた。それが、上級魔法「千里眼」だよ。千里眼を使って、冒険者をサポートするのが仕事。天職だと思った……最初はね?」

「最初は……ですの?」


 グレンがマリンに聞くとマリンはゆっくりとうなずいた。マリンはそのまま二人の目を見たまま話を続ける。


「……強い敵から回避できなかったり、敵わない敵に無謀に突っ込んでいった仲間たちは……死んだわ。君達みたく、忠告を聞かない仲間の事だよ?」

「あ……」


 アオシはそう言われて目線を逸らす。マリンの無念さや怒りや憤りが混ざった言葉に自分達のしようとしている事が間違いである事を少しずつ感じていった。


「私はね、この部屋からずっと人が死んでいくのを見ている事しかできないの。仲間が死んでいくのを看取るの。私がサポートに入っても、全員死んでしまった事もあった。……もうね、嫌なんだ。仲間がこれ以上死んでいくのを見るの」


 アオシとグレンは悲しみに満ちたマリンの表情に、無謀な行動をしようとした事を反省した。


「……ごめんなさい」


 アオシはマリンを見て謝った。素直に謝ってきたアオシにマリンはいつもの優しいマリンの顔に戻る。


「解ってくれたかな?」

「はい」

「ええ」


 二人はしょんぼりとしながらギガント・ガブリエルに突進することを諦めた。


「あ、あと! 言っておくけど……ランダムワープがたまたまギガント・ガブリエルの真上に飛んだり、教会の中に不時着するなんて事……普通は無いからね? アオシ君を助けるために私がサポートしてたんだよ?」


 衝撃の事実にグレンは目を見開いた。ランダムワープを操作するなんて事は普通の冒険者には出来ない。


「そうだったんですの!? わたくしてっきり運がめちゃくちゃ良かったのかと思いましたわ!」


 グレンは驚いてマリンを見るとマリンは胸を張っていた。


「あ……ありがとうございます……助けてくれて」


 アオシも驚きながらその話を聞いた。


「うんうん! アオシ君が助かって本当に良かった!」


 マリンがいつも通りクシャっと笑うとアオシは自分が知らず知らずのうちに助けられたことに初めて気が付いた。その優しい心に、アオシの心も動かされる。


「マリンさん……。ありがとうございました。もう、ギガント・ガブリエルに突っ込んでいくのはやめます」


 アオシは改めてマリンに頭を下げてお礼を言った。

 そして、頭を上げると真剣な目でマリンを見る。


「けど、俺……何か……何かしたいんです! このままじゃ、気が収まらないんです」


 その言葉に返事をしたのはマリンではなかった。



「ならば、私のサポートに来い」



 突然アオシとグレンの真後ろから声がして二人は驚きの声を上げた。


「ファ……ファザー!?」

「どうしてここに!?」


 伝説と謳われたギルドマスターの創始者、ファザーは普段とは違う戦闘服に身を包んでいる。


「もちろん、奴を止めるためだ」


 ファザーの視線の先にはギガント・ガブリエルがいる。


「戦闘は私がする。君達は私の戦闘をサポートをしろ。絶対に自分で戦おうと思うな! 良いな?」


 冒険者にとって、最高位のファザーのサポートができるなんてこれほど光栄なことは無い。

 アオシとグレンの表情は瞬く間に明るくなった。


「は……はい!!」

「了解です!!」


 グレンとアオシは真剣な顔で頷いた。


「それなら良いか? マリン」


 ファザーはマリンのホログラムに笑いかけると仕方がなさそうにマリンは頷いた。


「その代わり、責任持ってその子達を守ってくださいね?」

「あぁ。任せておけ!」


 ファザーはマントを翻しながら自身に満ちた顔をする。マリンもその表情を見てアオシとグレンが同行する事に納得した。



 この国の最強の冒険者ファザーは歩き出す。


 伝説の魔獣と、最強のモンスターと謳われたガザルダークに立ち向かう為。


 最弱の冒険者グレンとアオシと共に。 

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