第十七章 わたくしの筋肉がここぞとばかりに輝く救援活動ですわ!!
アオシ、グレン、リーリンの3人はすぐに噴水広場へと向かった。
ギガント・ガブリエルは間近でみると建物程に大きい。二本足で形は立つ姿は人間にも似ているが、毛むくじゃらで4枚の翼があり、顔はゴリラに近いモンスターだ。
両手足には鋭い爪が見え、見るものすべてをなぎ倒して暴れている。
「リーリン、どうする!?」
「え!? 私が指示するの!?」
アオシが早速、団長のリーリンに指示を仰ぐ。
「そうですわよ!? 団長なんですもの!」
「ええ!?」
リーリンは初の団長としての役割に一瞬戸惑った。
「大丈夫ですわ? そんな気負わないでくださいませ」
「分かったけど、どうしたらいい?」
リーリンが戸惑っていると、目の前から悲鳴があがる。
「く、来るぞ! 伏せろ!!」
「キャー!!」
ガッシャーン!!
目の前の家屋がギガント・ガブリエルの手によって崩壊した。
「っ……!!!」
リーリンはその悲惨な状況を見て、両方の手で自分の頬をパァンと叩いた。
「……今、そんな事言ってる場合じゃないよね!」
「あぁ。その通りだ。失敗しても、俺らも居るからさ!」
「ええ! 市民の皆様を1人でも多く助けましょう!!」
アオシとグレンがそう言うとリーリンは覚悟を決めた。数秒考えを纏めて初クエストの作戦を言い渡す。
「とにかく、被害を最小限に抑える必要があるよね! 近くの住民を街の端に……南口広場へ避難誘導をお願いするよ!」
リーリン達が今いるのは噴水広場から見て西側の通路。アオシもグレンもそれを聞いて頷く。
「グレンはここから北を通過しつつ、東側へ走って!」
「了解ですわ!!」
「アオ君はハイドで近づいて足元の負傷者を運んできて! 絶対に見つからないように!」
「ああ。任せろ!」
「では、私はこの近辺に声をかけてから南へ。その後負傷者の治療に当たるため南教会前で合流します」
グレンとアオシはここまで一息に言い切ったリーリンの作戦を聞いて肩をすくめながら笑う。
「ふふっ! さすが、リーリンですわ!」
「やればできちまうんだよな」
その様子にリーリンは照れて顔を赤くする。
「そ、そんな事ないよ!? ……さぁ! ギルド【果たされた約束】……初クエスト行くよっ!!!」
「エイエイ……オ-!!!」
その掛け声を機に、リーリンとアオシとグレンは3方向へ駆け出すのだった。
◇
一番足の速いグレンは大声で避難誘導を叫びながら噴水広場の周囲を円を描き北回りに走り抜ける。
噴水広場の北側にはギガント・ガブリエルに既に壊されてしまった建物もチラホラと目に飛び込んできた。人々は右往左往して逃げ惑っている。その人々達に向かってグレンは明瞭に指示を出す。
「緊急事態ですわ! ここは危険です。街の南口広場へ避難してくださいませ! 繰り返します! 南口広場へ避難してくださいませ! 負傷者は南教会へ!」
人々はその声を聞いて右往左往するのをやめ、すぐさま南口へと避難を開始を始めた。
粗方逃げ惑っている人々に声をかけ終えると、グレンは北を通り抜け東へ走る。東側は北側よりも被害が大きいようだった。
グレンの元へすぐに住民からSOSが届く。
「助けてくれ! 息子が足を挟まれてる!」
「はい! 今行きますわ!」
グレンがそこに向かうとそこには建物が崩れ、瓦礫に足が挟まってしまっている人がいた。グレンは早速、落ちている木の棒を瓦礫に引っ掛け、梃子の原理で瓦礫を浮かす。
「今です!! 息子さんを引っ張って!!」
「ああ!! よいしょ!!」
男性は息子を引っ張り、なんとか、抜け出すことに成功した。
「た、助かった! ありがとう!」
「怪我をしていますわ……。南教会で治癒担当者がしばらくしたら駆けつけます。そちらへ行ってください」
「冒険者さん! ありがとうございました!!!」
二人はグレンに軽く礼をすると指示のあった南教会へと向かっていく。
グレンはこうしてしばらく、被害が大きい東の救出活動に精を出すのだった。
◇
一方リーリンは西の付近の住民に声をかけている。
「冒険者です! 現在、魔獣ギガント・ガブリエルが出現しています! 市民の皆様は南口広場へ避難をしてください!!」
けれども、西側はまだ被害が少ないからなのか、リーリンの呼びかけで移動する人は少ないように思えた。
「うー……早く逃げないと!! 取り返しのつかない事になるのに!!」
リーリンは地団太を踏みながらそう言うと、自分に能力アップの魔法をかける。刻印が黄色く光る。
「マックスボイス!!!」
リーリンは自分の喉を強化する魔法をかけた。もちろん理由は声を大きくするためだ。肺いっぱいに空気を吸い込んでから思いっきり吐き出す。
「みぃなぁさあああああん!!!! 魔獣がきますぅぅぅぅ!! 南口広場へぇぇぇぇ!!! 避難してくださぁぁぁぁぁいいい!!!!!」
騒音に近い声が響き渡る。ビリビリと空気が揺れ、窓がガタガタと揺れた。
「うるさいな!!! なんだよ!!!」
「街中での迷惑行為はギルドマスターに訴えるわよ!?」
あまりの声の大きさに住人が次から次へ外の様子を見に来る。そして、嫌でも目に入るギガント・ガブリエルの存在に気が付いて顔を青くした。
「って……あれ!!! あれを見ろ!! 本当に避難指示だったんだ!!」
「訴えるとか言ってごめんなさい! すぐに避難します!」
人々が慌てながら避難を始める様子を見て、リーリンは満足そうな顔をした。
(よかった! 皆、ちゃんと避難をしてくれて始めた!!)
リーリンは小さくガッツポーズをすると南へ向かって走り出した。
(私は……南の人に声を掛けたら教会へ行かなきゃ。次は怪我をしている人の治療だ!!)
リーリンはちらっとギガント・ガブリエルを見る。ギガント・ガブリエルは足元の瓦礫を蹴り飛ばしている。先ほど、足元の人々の救出を指示したアオシの事が心配になる。
(アオ君……大丈夫かな!? ……でも、今は南の教会へ急がなきゃ!!)
リーリンは普通の3倍は大きい声で避難指示を叫びながら、南に向かって走り抜けていくのだった。
◇
その頃、アオシは結構なピンチを迎えていた。
ギガント・ガブリエルの暴れている噴水広場にいた五人を保護した。その他に怪我をしている人もいて、アオシは足を怪我した1人をおんぶしてなんとかギガント・ガブリエルに見つからずに逃げる方法を探っていた。
(ぐ……この人数……厳しいな……!!)
先程、怪我人の一人がちらっと見えてしまったのか、ギガント・ガブリエルは執拗に足元を探っている。
不安そうに住民の人々がアオシを見つめる中、アオシはギガント・ガブリエルが向こうを向いた瞬間に次の隠れ場に足を進める。
「……よし、こっちだ……!!」
自分と背中の人を含めると7人。何とか、少しずつあの巨大な猛獣から距離を離していけている。
「次、奴が向こうを向いたらあっちへ」
「ああ」
「はい」
7人は固唾を飲んでギガント・ガブリエルを見つめる。ギガント・ガブリエルはさっき自分たちが居た瓦礫をごそごそと漁り始めていた。
(あ……あぶねぇ……あと少し遅かったらアウトだった)
その様子にアオシは肝を冷やした。アオシは次の逃げ場を再度確認する。
「あそこまで行けたらあとは、影が続いている。もう少しだ。頑張ろうな」
アオシは怪我をしている人々に声をかける。今アオシと共に隠れている人々は大なり小なり怪我をしている。だから、あまり早く移動ができなかった。けれども、今ばかりは走ってもらうしかない。ギガント・ガブリエルが反対を向いたその時、アオシはみんなに合図する。
「今だ!!」
「!!」
7人は一斉に移動した。ギガント・ガブリエルはむこうの瓦礫を漁っている。アオシは何とか、影の場所までたどり着き、保護した人達みんながこっちに移動し終わるのをじっと待った。
1人、また1人と移動が完了する。
しかし、最後の一人がなかなか来ない。アオシは心配になって影から顔を出した。
「あっ!!」
一番小さな女の子の足が瓦礫に挟まって動けなくなっているのを見つけアオシは小さく声をあげた。
女の子は一生懸命足を引っこ抜こうとしても自力じゃ抜けないようだ。
「なっ!? やべぇ!!」
アオシは背中の人を瓦礫の影に下ろすと女の子に駆け寄った。見ると、女の子の足はすっぽりと瓦礫の隙間にハマってしまっている。アオシは少し強く女の子の足を引っ張った。
「い!! いたい!!」
女の子から小さな悲鳴が漏れる。
「グアアアアアア……」
そして、その小さな悲鳴はギガント・ガブリエルに届いてしまったのだ。
「……や……やっべ……」
アオシとギガント・ガブリエルの目が合う。少女は震えあがっているが、足はそれでも瓦礫から抜けない。
「わりぃ……お嬢ちゃん。ちょっと手荒に引っ張るよ。すぐにあそこの人たちと南の教会に行くんだ」
そう言うと、アオシは力尽くで女の子の足を引っこ抜いた。女の子の足にくっきりと手形が付くほど強引に引っ張ったので女の子は痛みに顔をゆがませる。
「い!! いたっ!!!」
女の子は叫んだが、アオシからすると、そんな些細な怪我は今はどうでも良かった。
今は生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。ギガント・ガブリエルがこちらに向かってゆっくりと歩みを進めている。アオシは深く深く息を吐いた。
「俺はあいつを引き付ける。お嬢ちゃんはみんなと逃げな」
「冒険者さん!! 私のせいでごめんなさい!」
女の子は泣き出しそうな顔をして謝った。
「気にすんな。市民を守るのも冒険者の役目だからさ。それと、あの足を怪我しているあの人をみんなで連れて行ってくれ。頼めるか?」
「わかった!!」
女の子はすぐに影に走って行き、大人たちに今の話をする。一人が足を怪我している人に肩を貸し、ヨタヨタと南教会へ向かって逃げて行った。アオシはその様子を少しほっとして見守ってから正面に向き直る。
「……さぁて……どうしたもんかなぁ……!!」
アオシはそういうと、怪我人達が逃げた方向とは正反対に走り出すのだった。
◇
北の救助に尽力していたグレンにはひっきりなしに救助要請の声が響いていた。
「こ……これで15人目ですわ!!」
何とか瓦礫を避けたり、崩れ落ちそうな場所の人を助けたりしていた。流石のグレンもクタクタになりつつある。けれども、そんなグレンに別の住民が助けを求めて走り寄ってきた。
「オーイ!! 冒険者さん! こっちも頼む! 瓦礫が崩れて建物から出られない人がいるんだ!!」
「分かりました! 行きますわ!」
住民に着いて行くと、目の前には大きな瓦礫で出口が塞がれた建物に沢山の人が閉じ込められていた。中には10人以上の人がいる。
「今、助けますわ!!」
グレンは今までの中で一番大きな瓦礫を見て、ふぅっと息を吐いた。そしてそのまま、闘気を滾らせようとしてハッとした。少し前の自分ならこれくらいの瓦礫なんてすぐに動かせた。けれども、ステータスの闘気は0だ。このサイズの瓦礫は生身の筋肉だけでは動かせそうもない。
「あ……。どうしましょう!?」
グレンの手が一瞬止まる。その様子に外からも中からも声があがる。
「助けてくれ!! 冒険者さん!!」
「早くしないと! またアイツがこっちに来ちゃう!」
グレンはその声に自慢の筋肉で瓦礫に取っ付いた。
「考えていても始まりません……うりゃぁぁあああ!!!」
力任せに瓦礫を転がそうとしたがまるでビクともしない。
「う、動かない……!?」
グレンは焦った。今までは筋肉だけでなんとか瓦礫をはねのけて助けてこれたが、これは無理そうだった。その様子に絶望に満ちた声が広がった。
「そ、そんな!? 冒険者さん! 頑張ってください!」
「もう、お終いなのか!?」
救助を待つ人々から落胆の声があがる。
「なんとか助ける方法を考えますわ! 皆様、もう少しだけ、辛抱ください!!」
そうは言うものの、助けを呼んだところでアオシにもリーリンにもこの瓦礫は動かせないだろう。
(何か、何か方法は!?)
その時、グレンは自分の腕にまだ巻かれたままのアオシの三つ編みブレスレットを見てある事を思いついた。急いでポケットを探るとそこには昨日使わなかったランダムワープの魔法札が出てくる。
「どこへ飛んでいくかは、……運次第ですが!!」
グレンはアオシの魔力を練り始める。魔法札が青く光り始める。そして、瓦礫にべったりとへばりつく。
「冒険者さん!? ど、どうするつもりで!?」
「この瓦礫と共にワープしてきますの!! わたくしにはこの瓦礫は持ち上げられ無いもので! わたくしも共にワープしてしまうので、瓦礫が無くなったら貴方が皆様を南口広場へ避難誘導してくださいませ!」
「ええっ!?」
「ランダムワープ!!」
グレンの体と巨大な瓦礫は忽然と姿を消したのだった。




