第十三章 二人共!天才アオシ様の作戦についてこい!!
「あの男だけは絶対に許せませんわ!!」
グレンは怒りに満ちた。
あのケフェウスという男はわざわざ自分達が帰還する手立てを目の前で奪って行った。アオシの思いや、リーリンの悲しみ、死んでいった冒険者達。
全てがこの男に踏みにじられたのだ。そう思うとはらわたが煮えくり返る。
そして、さらなる危機がグレンには迫っていた。
先程ケフェウスに噛みつこうとしていたドラグンティヌスは標的を赤髪の女の子に狙いを変更したようだった。赤いドラゴンからよだれが垂れている。
「ああ……あぁ……!!!」
リーリンが震える声でグレンを指さす。
「やべぇ!! グレン!!! 早く逃げろ!!」
アオシもグレンに向かって走り始めた。
走り始めたアオシはすぐにグレンの異変に気が付いた。グレンの体から赤い霧が溢れ出してきていたのだ。
「あ……あれは!? この間の酒場の時の霧に似てる!!」
グレンはドラグンティヌスを鬼の形相で睨みつけている。その怒りは計り知れない。
どんどん赤い霧はグレンの体から噴出した。
知能が高いドラゴンであるドラグンティヌスは不意に出た赤い霧を警戒して少し距離を取った。ドラグンティヌスとグレンの睨み合いは続いている。
「……あの時、俺の体から出た青い霧……今回……グレンの体から出てきた赤い霧……」
走りながらアオシは考える。
「……急激に強くなった『ホット』の魔法……」
そして、アオシの中でファザーの一言が脳裏をかすめた。
【合わない数値分のエネルギーは空気中に漏れ出てしまってるはずだ。抱えきれないほどのエネルギーがどんどん流れてきても、器が小さければ零れるだろう?】
頭を駆け抜けた一言にアオシは閃いた。そして、ある仮説に行き着いた。
「あれって……まさか? ……エネルギー? 感情の高ぶりで変換しきれなくなった闘気エネルギーが……空気中に漏れ出ているって事なのか!?」
アオシは天井に空いた大きな穴を見つめる。さらに、アオシは使えるものが無いかと、辺りを見渡した。
辺りにはヴィンスが最後に放った氷柱が山なりに積み上がっている。行き場を失った氷魔法は壁で反射したのか、まるで階段のように天井に向かっていた。更に上をみると、天井からも多数の氷柱がぶら下がっているようだった。
「もしかしたら……俺ってマジで天才だな!」
アオシは一人、ボスのいるこの封印の間から脱出できる手立てを思いつく。けれど、それにはどうしてもグレンの闘気の力が必要だ。
けれども、ドラグンティヌスは赤い霧に特に効果がない事を悟り、再びグレンを食べようと近づき始めている。
アオシはグレンの元とは反対方向に走り始める。山なりになっている氷柱の一番下まで辿り着くと、氷の階段をドンドン駆け上がった。
「グレン!! 聞いて!」
「何ですの……!?」
グレンは一触即発のドラグンティヌスと睨み合いをしたままアオシに答える。高い位置から見るとグレンを取り囲むように赤い霧が発生していることがよく見える。地面からの視界だと何も見えない程の濃い霧だが、グレンとドラゴンティヌスとの距離も氷の山の上からならよく見えた。
「リーリンを助けるぞ!! 気合いを入れろ!! めいいっぱい闘気を練るんだ!!」
「え!? 闘気ですの!?」
グレンはその言葉に驚いた。闘気を滾らせたとしても、今のグレンには技一つ出すことはできない。
「考えがある!! 急げ! ドラグンティヌスが近づいてる!!」
「わ、わかりましたわ!!」
そう言うとグレンは闘気をたぎらせ始める。アオシはグレンの赤い霧の発生が強まったのを確認すると仮説が事実であると確信する。
「グレン、いいぞ!! その調子だ!! ……リーリン、歩けるか!?」
リーリンはそれを聞くと最後の力を振り絞り自分の足に出来るだけのヒールをかけた。血は何とか止まったが痛みは引かない。それでも足を引きずって2歩ほど歩いて見せた。
「い……行けるよ!」
リーリンは限界をとっくに超えている。それでも力の限り、アオシに向かって手を掲げた。アオシはその手にこたえて親指を立てた。
「よし! 偉いぞ、リーリン! あと少しの辛抱だ。頑張ろう!!」
「偉い……?」
その言葉にリーリンは目を見開いた。今まで罵倒され続けて酷い目に遭ってばかりだったリーリンは冒険者になってから誰にもそんな風に言ってくれた人は居なかった。
「……やっぱり……本当の仲間っていいな……。二人の為なら……私!!」
リーリンは必死で走っているアオシを見てポツリとそうつぶやいた。もう一度集中して自分の足をめがけて回復を放出する。
「ヒール!!!」
アオシの言葉が力に変わり、もう一度だけヒールを可能にした。リーリンの足は見事に治る。
それを見たアオシはリーリンに感嘆の声を漏らした。
「リーリン!! やっぱり、リーリンってすごいな!!」
リーリンはアオシの言葉に、赤い霧の中でにっこりと笑うのだった。
「で、でも! どうするつもりですの!? ケフェウスに魔法札を使われてしまいましたのよ? もう無理……」
グレンがもう無理だと言いかけたその時、その声を掻き消すようにアオシは力の限り叫んだ。
「グレン!! 脱出するんだ!! そして、俺らだけの新しいギルドを作るんだ!!」
アオシの強い思いが封印の部屋に響く。
グレンは思わず、困った顔で笑う。
目の前には今にも自分を食べようとしているドラゴンが居るというのに、グレンは思わず歯を見せて笑った。
「……!! そうですわよね!! アオシ、わたくしは貴方を信じます!!!」
アオシの力強い声に呼応するかのようにグレンの胸が高鳴る。胸の高鳴りによって赤い霧はどんどんとあたりを赤く包み込んだ。ついには部屋いっぱいの赤い霧がグレンを取り囲み、グレンからもドラグンティヌスを目視できないほど濃いものになった。
これで、ドラグンティヌの視界はさえぎられた。
「グレン、そのまま180度振り向いて、後ろへ走れ!」
「分かりましたわ!」
十分な霧が発生した時、アオシはそうグレンに指示を出した。
グレンは指示通り、回れ右をして走り出す。グレンとドラグンティヌスの距離は徐々に離れていった。
しかし、赤い霧で視界を奪われたドラグンティヌスは鼻をスンスン動かしている。
「アイツ……嗅覚もすぐれてるのか!?」
アオシはその様子に嫌な予感がした。
「グレン! そのまま真っ直ぐ! 出来るだけ早く走るんだ! その先にリーリンがいるから合流だ!」
グレンは何も喋らないままアオシの言葉に従った。声を出したら位置がバレるのを悟ったからだ。
(あの話ぶり、アオシにはわたくしが見えているに違いありませんわ! 今は信じて走り抜けて見せます!!)
グレンは闘気を滾らせたまま走り続け、ついにはリーリンにぶつかった。
「!!」
二人は再会して抱きしめ合った。グレンがリーリンの手を握ったのを確認して、アオシは次の指示を出す。
「グレン、今の体の向きから左の肩の方向へ急ぐんだ! ヤツも近づいてる!!」
「!?」
リーリンとグレンはそれを聞いて歩みを早める。するとすぐに壁のような物にあたり、グレンは足を止めた。目の前にはヴィンスの氷の山がある。
(この山を登るのですか!? リーリンもいるのに……ドラグンティヌスに追いつかれてしまいますわ!?)
グレンはアオシの作戦に無理があったように思えてならなくなる。
「あ!!」
真後ろから鼻息を感じて、グレンとリーリンは青ざめた顔で後ろを振り向いた。
二人のすぐ後ろには既にドラグンティヌスがいる。
ヌチャァという音と共に口が開き、鋭い牙からヨダレが垂れた。
「きゃぁぁあああ!!」
思わずリーリンは悲鳴を上げる。
「二人共伏せろ!!」
「!!」
咄嗟に響いたアオシの声にグレンはリーリンを押し倒すように地面に伏せた。
「行くぜ!」
その一言を境に、赤い霧は嘘のように晴れた。気流の流れが目に見える。それは上に向かっているようだった。その先にいるのは歯を見せて笑うアオシだ。
「……豪脚炎風陣!!!」
それは、ルーキー・アライバル会場でグレンが付与担当者に繰り出したあの大技の名前だった。
「え!? そ、そんな大技!! アオシには出来ません……って……!?」
「……グレン!! 見て!!! アオシの足が赤く光ってる!!!」
アオシは自分の足が赤く光るのを確認して天井付近にあるつららを力の限り蹴り飛ばす。
一個数メートル級の巨大つららは何本も天井からドラグンティヌスの大きな胴体目掛けて落ちて行った。
「グアアアアアアアアア!!!!!」
つららはドラゴンティヌスの強靭な鱗をも貫いた。何カ所も体が貫かれたドラグンティヌスが痛みに体をのたうち回らせる。
「今だ! こっちへ!!」
アオシが氷の山の頂上付近から風穴を指さす。
「出口は……あそこと言う事ですわね!!」
「うん! 急ごう!!」
グレンとリーリンは氷の山をよじ登り始める。けれども、ドラグンティヌスはその巨体に刺さった氷をしっぽで粉々に砕くと、鼻息荒くこちらを睨み始めた。
「や……やべえ。思ったよりもダメージ与えられてねぇかも……」
アオシはそれなりにダメージを与えて、あわよくば倒すくらいのイメージでいた。けれども、ボスは想像以上に強いようだ。
「リーリン! グレン!! 急げ!!」
アオシがそう叫ぶと、ドラグンティヌスはリーリンやグレンではなく、アオシの方を睨みつけた。
「グルルルルルル……」
「……げ……」
ドラグンティヌスは太い尻尾の鞭をアオシに向かって掲げていた。アオシはもう一度、足に闘気をためたが技には程遠い。それでも、若干光った右足で地面を蹴り、ぎりぎりの所で振り下ろされる尻尾の鞭を避けた。
しかし、その攻撃により崩れ去ったものがあった。
上の階に繋がる氷の道とアオシの作戦だ。
グワッシャーン!!
盛大な音と共に、氷が割れた。
「ああ!! 脱出経路が!!」
攻撃は避けることが出来たが、風穴への氷の道を尻尾の鞭で壊されてしまったのだ。
「ま、まじかよ……。」
アオシは盛大に崩れ落ちていく氷の道を青ざめた顔で見つめるしかできない。
絶望的な状況にアオシの心も崩れそうになるのだった。




