第十一章 ボス:ドラグンティヌス戦!!……戦うの俺らじゃないけどね
プロントール地下ダンジョン最下層 封印の間
それは倒すことが難しく、世の中に放置しておくわけにもいかないモンスターを収容しておくための、いわばモンスターの監獄だった。
七階は洞窟のような一つの広い空間が広がっていたにすぎなかったが、封印の間はきちんと整備された。コンクリートの廊下に左右に別れた部屋のような空間がいくつも存在している。一つ一つの部屋はドラゴンが集容できるほど大きい。各部屋の入り口には封印されているモンスターの名前が表示されていた。
「廊下には……モンスターは居ないみたいだな」
「ええ。部屋へは人間は通れるけど、モンスターは通ることが出来ないようですわ」
初めて見る異様な空間を二人はキョロキョロしながら歩みを進める。
「リーリンはどこへ……?」
「分からない。どこかの部屋に入ったんだと思うけど……」
一つ一つの部屋から恐ろしいボスモンスターの声がする。この封印が解けてしまえばプロントールの街は終わりを迎えてしまうだろう。中には、二人の姿を見るなり突進してきたり魔法を放とうとしてくるボスもいた。しかし、封印されている部屋からは廊下には攻撃が届くことは無い。
「……歩いているだけで生きた心地がしない場所だな」
その様子を恐ろし気に眺めながらアオシは少し速足になる。
しばらくところどころ左右にも分岐する道をひたすら真っすぐに歩いていると廊下の突き当りに一際大きな扉を見つけてグレンとアオシは立ち止った。
【ギガント・ガブリエル】
そこにはプロントールの住人なら誰しも一度は聞いたことのある魔獣の名前が刻み込まれていた。
「これ……まさか、本当にギガントガブリエルなのか?」
アオシはあまりにも有名なその魔獣の名前に驚いた。
「ギガント・ガブリエル……確か……プロントールの3分の2を1日で焼き尽くしてしまったという……おとぎ話に出てくる魔獣ですわよね?」
グレンも首を傾げながら子供の頃に読んでもらった絵本を思い出した。
「……まさかね!?」
「そうですわよね……まさか、本当にギガント・ガブリエルが存在するわけ……」
そう言いかけた時、扉の向こうから聞いたことのない地響きに近い鳴き声が轟いた。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………
「ウワァ!!!」
「ヒィィィ……!!!」
二人はあまりの恐ろしさに思わず叫び声を上げてしまう。
身がすくむ大きなうめき声は大地のうねりに近い声だった。
「行こう!! ここからすぐに離れるんだ!」
「ええ!!」
グレンとアオシは満場一致でその場から走り去る。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………
もう一回ギガント・ガブリエルの声が響き渡る。その声を背中で感じて二人はそそくさとその場を後にしたのだった。
◇
「あっちだ! 声が聞こえる!」
しばらく闇雲に走っていると、何やら騒がしい音がアオシの耳に届いた。
その事に気が付いてアオシはグレンの手を引いて廊下を左に曲がる。
きゃあああああああああ
その時、廊下に響き渡ったのは聞き覚えのある叫び声だった。アオシとグレンはこの声の主がすぐに解り顔が青ざめる。
「あ、あの声は……!!」
「リーリン!!」
二人は声の方向に全力で駆け抜けた。
そして、ついにケフェウス、ヴィンス、リーリンの3人がいる部屋の特定に至る。その部屋の入り口にも収容されているモンスターの名前が刻まれていた。
【ドラグンティヌス】
このモンスターはドラゴン族のモンスター。体長が三メートル程はありそうなこの赤いドラゴンは固い鱗で覆われている上に知能も高い。そこまでは、収容されていない普通のドラゴンも同じことだった。 けれども、他のドラゴンと比べて違う点が一つ。
このドラゴンは人間を食べるのが大好きなのだ。
多数の被害の後、ここのダンジョンに封印されたという経緯がある。理由が理由なので、他のボスモンスターに比べると比較的戦闘力は劣るというのがケフェウスがこのモンスターを討伐に選んだ理由の一つであった。
「ここだな……!! さ……ハイドで入るよ」
「ええ!」
そう言うと、アオシとグレンは封印部屋の中へ入っていく。
端的に言うとここの部屋の出口から出てしまえば、モンスターは出てこれないし攻撃も飛んでこないので死ぬことは無い。
アオシはそう思うと七階よりは安全な気がしていた。けれども、それが大きな間違いだったとすぐに気が付く事になる。
目の前には食べられかけているヴィンスが必死で最期の抵抗をしている所だった。
「ヴィンスさん!!!」
体中血まみれのリーリンはなすすべなくヴィンスに声を張り上げる。
ケフェウスは大型魔法の詠唱中で動くことが出来ない。
「くそっ! こんなところで……こんな所で……死にたくない!!」
「ヒール! ヒール!!」
リーリンは必死でヒールを唱え続けているがもはや手からは何一つ出ていなかった。
「ぐっ! レンジ……ブリザード!!」
最後の力を振り絞ってヴィンスは大型の広範囲魔法を唱えた。
グレンとアオシは咄嗟に柱の陰に隠れる。リーリンもケフェウスも魔法が発動するギリギリのところで柱の陰に隠れたようだった。
ヴィンスが放った広範囲魔法は範囲はこの結界で覆われた狭い部屋で使うには強すぎた。あまりに強力な魔法に、部屋全体が厚い氷で覆われる。辺り一面は一瞬で氷の世界と化した。
「やべぇ……」
アオシが後ろを振り向くと、部屋への入り口は分厚い氷で塞がってしまっていた。
これでは外へ走って逃げることはもう出来ない。重力に関係なく壁中からつららが生え、ドラグンティヌスの体に大きく突き刺さった。その痛みに悶えたドラグンティヌスはたまらず、口にくわえたヴィンスを離した。
「う……うわぁ!!」
ヴィンスはドラグンティヌスの口から落下する。地面からはヴィンス自身が魔法で作った鋭い氷が天井を向いて無数に飛び出ていた。
グサッ……
何本もの鋭い氷がヴィンスのお腹を突き破る。串刺しになったヴィンスは曲がってはいけない方向へ体がくの字に曲がっていた。
「ヴィンス!! ヴィンス!!!!」
リーリンは明らかに助からないヴィンスを見てその場で泣き崩れる。ドラグンティヌスは久々の人間の肉を見て興奮気味に食らいついた。
「団長!! ……ヴィンスが……!! ううぅ……」
思わず目を覆いたくなる光景。リーリンは唯一の味方であるケフェウスの方を向いた。
「ふふっ、何を慌てているんだい、リーリン?」
「……!?」
けれども、仲間が死んだというのに、ケフェウスは薄気味悪い笑みを浮かべて闘気を練り続けている。仲間が死んだ事など何一つ思っていない表情にリーリンは絶望するのだった。




