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肆.六花の災難

学園生活2日目。

簡単な授業を数時間受け、雨千夏はまくらと一緒に昼休みを過ごしていた。

否、勧誘活動に勤しんでいた。

「桜刄姫道興味ありませんかー!私達と一緒に桜刄姫道やってみませんかー!」

元気に勧誘を続けるが、なかなか足を止めてもらえない。

「え…えと桜…刄姫道、部員ぼ、募集中でしゅ!」

人前が苦手なまくらは、時たま噛んでいる。

「いへへ…」

「はわ!まくらちゃん!どうかしましたか?」

「へへへ、ひたをかんへひまいまひた…」

どうやら、実際に舌を噛んでしまったようだ。

「まくらちゃん、焦らずに気楽に頑張りましょう!」

「は…はい!」

そう言いながら、勧誘を続けようとした矢先、1人の女生徒が2人の前で立ち止まった。

「え、えと!もしかして入部希望者ですか!」

雨千夏は目をキラキラさせながら女生徒を見た。

「はあ?」

「はわ!希望者…ですよね?」

「はい?うぜえんだけど。桜刄姫道?興味ねえし。」

そこには金髪で肌の黒く焼けた少女が腕を組みながら、気だるそうな顔をして立っていた。

「つか、まくらさあ。アンタ、まだこんなくだらねえ事やってるわけ?」

「六花…ちゃん。」

まくらは彼女の顔をまともに見ることができないのか、終始俯いている。

「はん!桜刄姫道なんてさ、やっても無駄無駄。なんで、アンタはそれに気付かないんかね。」

「あ、あの!」

黙っていた雨千夏が口を開いた。

「な、なんで、無駄なんでしょうか。」

「あ?なんだお前。」

「私はお前じゃないです。雨千夏ってちゃんとした名前があります。」

雨千夏はキリッとした目つきで六花を睨んだ。

「おお、怖い怖い。まくらぁ、友達は選びな?先輩にこんな態度とる下級生はねえと思うわ。」

雨千夏を煽りつつ、尚且つ、まくらに忠告をしつつ、雨千夏を睨み返した。

「桜刄姫道を馬鹿にするつもりならお引き取りください。」

「ほう。やけに執心じゃねえか。ただのチャンバラごときによお?」

「あなたみたいな、ヘラヘラした人に桜刄姫道を語ってもらいたくありません。」

辛辣な言葉の応酬。

それに待ったをかけたのは、蚊帳の外状態だった、まくらの言葉だった。

「六花ちゃん、これ以上はやめて!雨千夏ちゃんも!六花ちゃんも本当は桜刄姫道を…」

それを遮るように

「まくら!!!!」

六花の怒声が、休憩時間であちこち賑わっている校舎に響き渡った。

「っ!!」

六花の怒声に気圧されて、まくらは慌てて言葉をつぐむ。

「いいか、余計な言葉を言うんじゃねえ。そいつには何にも関係ねえ!!」

「六花ちゃん…」

「ちっ…胸糞悪むなくそわりぃ。帰るわ。」

六花はそう吐き捨てると、近くの自販機横に置いてある空き缶用のゴミ箱に蹴りを入れた。

その衝撃で、ゴミ箱は転倒し中の缶が辺りに散らばった。

そのまま去ろうとした六花だが、バツが悪いと判断したのか、一旦止まった後、くるりとUターンを決め、倒れたゴミ箱を起きあがらせ、そこに空き缶を一本ずつ投げ入れ、最後にやや乱暴だが、きちんとふたをしてから去っていった。



しばらくして、まくらが口を開いた。

「…六花ちゃんは口は少々アレですが、根は悪くないんです。」

「うん、何となく分かったよ…まくらちゃん。」


こうして、何の収穫もないまま昼休みは終わりを告げた。







リンゴーン、リンゴーン。

最後の授業終了の鐘の音が校舎全体に鳴り響いた。

しばらくしてから、担任が教室に来て、ホームルームが始まった。

「えー、最近、この辺りで女子生徒を狙った、グループの犯罪が相次いでいます。犯人グループはまだ捕まっていないので、特に1年の皆さんは授業が終わって、用事、部活等がなければ速やかに下校し、寄り道しないよう、真っ直ぐに帰宅する事。いいな?」


担任がそう言うと、教室内から生徒達の様々なトーンの、はーいという返事が響いた。

「それ以外の連絡は今日はない。以上だ。委員長、号令!!」

「起立!礼!さようなら!」

「さようなら!!」

学級委員長の後に続いて、生徒達が一斉に挨拶をした。

「はい、さようなら。真っ直ぐに帰れよ。」

そう言うと、担任は教室を後にした。

その後、すぐに教室を出る者、ホームルームでの話についてトークをする者、部活動の準備をする者、様々だったが、しばらくすれば教室内の生徒も数えるぐらいになっていた。


「さてさて、帰りますかね~」

独り言を言いながら、帰りの準備をする、雨千夏。

教室から出ると、まくらが廊下に立っていた。

「わ!まくらちゃん!もしかして、待っててくれたんです?」

「うん。一緒に帰ろうと思って。」

「じゃあ、帰りましょうか!」

雨千夏は昨日の事が気になっていたが、深く考えないようにした。


校門を出た時だった。

2人の女生徒が血相を変えながら走ってきて、まくらと雨千夏の両袖を掴み、その場に膝を折って座り込んだ。

2人ともゼェゼェと息が荒い。

制服を見るに、同じ綺羅女の生徒みたいだ。

「頼む…助けてくれ!げほっげほ」

「け、警察…!!」

よく見ると、六花とよくつるんでいるギャル仲間だった。

「ど、どうかしたんですか?」

「とにかく、落ち着いて…」

雨千夏とまくらが座り込み、2人の女生徒の背中を擦りながら事情を聞く。

「りっ、六花が!!」

六花の名前を聞いた瞬間に、まくらの表情が一変した。

「六花ちゃんがどうしたんですか!?六花ちゃんに何かあったんですか!?」

片割れのギャルの両肩を掴みぐらぐらと揺らす。

「まくらちゃんも落ち着いて!」

雨千夏がすかさず制止する。

「ご、ごめんなさい。」

数分後、水を飲み、呼吸も落ち着いたギャル達が口を開いた。


「あれは、今から大体15分ぐらい前だったかな…」

「ああ…」








「はー、カラオケはストレス解消にうってつけだわ。」

「六花、相変わらず歌うまいねー」

「たりめーよ!」

「あんまりアゲると、六花、調子に乗るからやめときなー。」

六花達は昼間から授業をサボり、夕方になるまでカラオケをしていた。

「てかさー、六花から誘ってくるなんて珍しくね?」

「それなー。槍が降ってくんべ?」

2人してゲラゲラと六花を笑う。

「ちょっとイラってする事があったんだよ。」

「もしかして、この間、六花が怖い顔で見てた2人組?」

「オメーらにはカンケーねぇよ。」

六花の機嫌が少し悪くなった。

「ちょ、六花ー、そんなに怒んなよー」

「怒ってねえし。」

六花は、少しむくれながら携帯を取り出して時間を確認した。

「そういえばさー、六花の携帯に付いてるソレ。めっちゃ綺麗じゃんね」

「あー、ウチも思ったー。ね、それ。売ってたやつ?」

「ああ、これ?」

そう言うと、六花は携帯に付けていたチャームストラップに触れた。

不思議な色の石が付いている、携帯ストラップだ。

「貰ったんだよ。」

「え?まさか?彼氏?」

「ないない!六花が彼氏なんてないない!」

「っせーよ。」

どうでもいい会話をしながら帰ろうとした時だ。


数人の男に囲まれた少女2人組が人気のない路地裏に消えていくところを六花達は目撃してしまった。

「あ…あれって、最近女生徒ばっか狙ってるって噂のグループじゃね?」

「ヤバイよぉ、六花ぁ。」

2人はすっかり萎縮いしゅくしてしまっている。

「行ってくるわ。ああいうの、ムカつくんだよ。」

「六花…やめなって!」

「オメーらは隠れて見ときな。何かあったら助け呼んできてくれよ。」

2人の制止を振りきると、六花は真っ直ぐ、男グループに向かっていった。


「ごめんなさい、お金なら渡します。どうか、私達を帰して…」

「ひっく…怖いよお…。なんで、私達がこんな目に…うっぐ…」

2人の表情を見ながら、ゲスのような笑い声をあげる男達。

強面の男達に囲まれた2人の少女達はなす術もなく、路地裏に停められていた大型のバンに連れ込まれるところだった。

「おい。クズ野郎。その子らを離せよ。」

不機嫌そうな六花が腕を組みながら立っていた。

「あん?何だクソガキ。」

「ロリコンが群れてイキッてんなよ。」

「俺達さあ、お前みてえな、ギャル好みじゃねえんだわ。だから、そこでおねんねしてな!!」

グループの1人が六花に躊躇ためらいなく拳を振り下ろした。

ボギンッ!!

ベギンッ!!

鈍い音が2回響いた。

「うがああああああああ!!!!」

悲鳴をあげ、地面にのたうち回っていたのは男の方だった。

六花の手には近くに落ちていた角材が握られていた。

男の拳をかわすと同時に、六花は瞬時に相手の両腕に一撃ずつ見舞ったのだ。

先ほどの鈍い音は男の骨の折れる音だった。

「アンタには不知火しらぬい流使うまでもねえわ。素振りで充分。」

そう言いながら、六花は角材を右手に持ち、2、3回振った後、肩にポンポンと軽く当てながら、左手を男達に向け、人差し指と中指をクイクイっと挑発行動をとった。

「このクソアマぁぁぁ!!!!」

「ただじゃ、おかねえ!!!!」

残りの男達も一気に頭に血が上ったのか、一斉に六花に襲いかかった。

「4対1ならどうだよ!!!ぶち殺してやんよおおお!!!!」

不知火家しらぬいけ、家訓!!多勢に無勢の場合に限ってはその力を存分に行使すべし!!」

「な!?」

六花がニヤリと笑うと同時に、男達の視界から姿が消えていた。

「ぐが!!」

「があっ!!」

「おぐっ!!」

汚い断末魔と共に男達がバタバタとコンクリートに沈んでいく。

男達に六花の姿は捉えられない。

気付けば背後にまわられて、一撃を浴びせられ昏倒させられるという寸法だ。

「踏み込みがあめぇんだよ。」

「残ったのはテメェだけか。とりあえず、どこの骨折られたい?」

「…くそがぁぁぁ!!!!!」

すでに男には勝機はない。

「勝ち目ないのに、威勢だけはいっちょ前だな。それに免じて一撃で楽にしてやるよ。」

六花は男を視界に入れ、集中。

今にしてみれば悪手だった。

周りが見えなさすぎた。

瞬間、鈍痛が体を突き抜ける。

手にした角材は折られ、腹に重い一撃。

軽い体はあっという間に吹っ飛び壁に叩きつけられた。

六花は信じられなかった。

今、コンクリートのマットに沈んでいるのが、自分であるという事実に。


もう1人いたのだ。


六花は血を吐きながら、自分が一撃を入れられた方向に目をやった。

そこには黒人の大男がいた。

全身にタトゥーが彫られていて、シャツからはそれが透けて見えている。

「HEY、ガール。ユーは調子ノリスギ。」

「ボス!!」

残っていた男が大男に駆け寄った。

「とっとと、連れてイクヨ。」

「ボスのやった女はどうします?」

「ツイデに連れてイクヨ。」

その会話を最後に六花の意識は途絶えた。

自分の体だけが持ち上げられる感覚を残して。






「…という事があったんだ。」

「六花まで連れていかれて…」

「あ、あの!連れていかれた場所とかって…分かりません…よね?」

「分かる訳ねえだろ!向こうは車なんだ!」

「は、はひっ!そうですよね、ごめんなさい。」

雨千夏は頭を抱えた。

「くそっ!!一体どうすれば!!」

万策尽きたかと思えた時、まくらが口を開いた。


「多分、ですけど、場所の特定が出来るかもしれません。」


普通であれば信じられない言葉だった。

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