参拾陸.波乱の予選開始
5月某日────
綺麗だった桜の花は緑の葉に変わり、少しずつ暖かな陽気になってきた。
そうこうしているうちに夏が来るのだろう。
雨千夏達は、前回、刄姫証取得の為の試験を受けた会場に足を運んでいた。
前回の試験の時とはうって変わり、かなりの人で賑わっていた。
その中に、制服を着用した、女性達が目立つ。
そう、今日から、天華刀一戰本戰の出場をかけた予選、東ブロック各校のぶつかり合いが始まるのだ。
雨千夏は改めて、試合会場のドームを眺めていた。
(むむむ⋯熱気がすごいですね⋯六花ちゃん達もこの空気を感じたんですね⋯)
雨千夏の頭のアホ毛がピンとなる。
──バチン
雨千夏の背中に衝撃と少しばかりの痛みが走る。
「おい、雨千夏、いきなり走り出したと思ったら、こんなとこに突っ立って、何、黄昏れてんだよ?」
雨千夏の背中に平手を打ったのは、六花だった。
「いてて⋯六花ちゃん酷いです⋯」
「わりぃわりぃ。しかしよ、東ブロックだけでこの熱気だぜ。本戰はもっとすげえんだ」
六花も瞳を輝かせている。
「やれやれ⋯君達は落ち着く事を知らないのか」
ドームを眺める、2人の後ろ側で声がした。
「おー、委員長じゃん」
「おー、ではない。まったく⋯」
声の主は神楽だった。
神楽の後ろには、まくらと、瑠璃もいる。
「今から、これでは幸先が不安で仕方ないんだが」
瑠璃がしかめっ面で呟く。
「まあまあ⋯」
まくらが瑠璃をなだめる。
「さて、もう少しで開会式だ。会場に入ろうか」
「りょ!よし、雨千夏、会場まで競争しよっぜ!!よ~いどん!!」
そう言うと、六花は一目散に会場へと駆けていく。
「あわわ!!六花ちゃん⋯ずるいですよ〜!!待ってくださーい!!」
雨千夏も慌てながら、六花を追う。
「やれやれ⋯。さて、私達も行くとしようか、まくら君、瑠璃君」
「はい!」
「ああ」
3人も会場へと歩き出す。
(⋯⋯妙な視線を感じる)
瑠璃は足を止めて、辺りを見渡す。
「天羽さん、どうかした?」
まくらが気になって声をかける。
「いや⋯なんでもない。行こうか」
「⋯うん」
──────ドーム内、広間。開会式会場。
各校の刄姫達がドーム内の広間に集まっている。
中には、すでにバチバチと視線で試合を始めている血気盛んな学校もあった。
「ふいー、やっぱ久しぶりってのもあるけど、緊張するわー」
「ふふ⋯らしくないじゃないか、六花君とあろうものが」
「るっせー」
お決まりの六花と神楽のやり取り。
「そんな、いいんちょーも、震えてんべ、手」
「ふふ⋯なあに、武者震いというやつだよ。決して臆したというわけではない」
「はん、どーだか⋯」
「もう、六花ちゃん!」
「へいへい」
まくらには弱い六花。
「へへ⋯緊張しますね、瑠璃ちゃん」
「⋯⋯」
「⋯⋯瑠璃ちゃん?」
「⋯あ、ああ、すまない、その⋯なんだ」
「い、いえ⋯どうかしたんですか?」
「いや、何もない。そろそろ、始まるようだ」
会場の照明が落ちるとともに、ざわついていた会場が水を打ったように静まり返った。
ここにいる刄姫達全員が戦いの始まりを感じ取っていた。
突然、カツカツとヒールの音が鳴り響いた。
ヒールの音は会場の中にある壇上で止まる。
そして、壇上に明かりが灯った。
瞬間、スポットライトに2人の女性が照らし出された。
1人は背中に大剣を背負った少女、もう1人は左右の腰にチャクラムのような円刀をぶら下げた少女だ。
2人を見た刄姫達は一斉にざわつく。
「あー、テステス⋯ごほん⋯静粛にー、静粛にー」
大剣の少女が続ける。
「桜刄姫諸君、今年もこの季節が⋯あー、なんだっけ?」
「紫乃ちゃん!今年の東予選の挨拶任されてるんだから、ちゃんとしないと!」
小声で円刀の少女がすかさずツッコむ。
「んあ?⋯オッケー、オッケー」
「紫乃ちゃん!マイク入ってるから!」
「まずはじめに⋯」
お構いなしに紫乃は続ける。
「えー、スルーされた〜」
円刀の少女がヘコむ。
「ウチらの名前は知ってるとは思うが、知らんヤツらの為に名乗らせてもらう。まず、ウチの名前は雨露木 紫乃、響聖翔女子高等学校所属だ。そして、ウチの後ろのちっこいのが⋯」
「ちっこい言うな!」
円刀少女のツッコミ。
「祭囃子 桐だ」
円刀少女改め、桐はペコリとお辞儀をする。
「さて、今年の東ブロック予選の開会式の挨拶を任されたんだが⋯まあ、あれだな。そこまで強くなさそうだな、東は」
会場がざわつく。
「ちょ⋯紫乃ちゃん!何言ってるの!煽っちゃダメー!!」
桐はあたふたしている。
「え?だって、本当の事じゃん。だから、今回、ウチが選抜してやろうと思ったんだ」
「初耳なんですけどー!!」
桐驚愕。
「選抜⋯!?何様のつもりだよ!!」
「南校のやつが吠えてんじゃねー!!」
「南都の佐藤がイキってんじゃねえよ!!」
あちこちから、野次が飛ぶ。
雨千夏達、綺羅女を含めた、数校のメンバー達は静観を貫いている。
「「おい!!!!!今、佐藤つった奴、前に出ろ!!!!ぶっ潰してやる!!!!」」
紫乃の怒声が響く。
「あちゃー、誰か分からないけど、紫乃ちゃんに、佐藤だけは禁句だよー」
桐が肩を落としながら呟く。
「佐藤は事実だろうがよ!!」
1人の女生徒が壇上まで上がってくると、同時に刀を抜く。
「お前、試合でもないのに、刀抜くって事は、どうなってもいいって事だよな?」
紫乃は眼前の、敵意むき出しの女生徒を、鋭く睨みつける。
「う、うるせー!!!」
紫乃の眼光に怯みつつも、紫乃に駆け寄り、刀を振り下ろ⋯
「うおりゃあぁぁぁぁ!!!!!」
すんでのところで紫乃は背中にあった、大剣を抜くと、そのまま振り回し、カウンターを決める。
鍔迫り合いにすらならなかった。
威勢のよかった少女の刀は粉々に砕け、大剣の反動で、彼女は軽々ふっ飛ばされ、壁に叩きつけられ、そのまま気絶した。
「ひゅー。さすがに、ホームランってわけにはいかねえか」
口笛交じりで紫乃が呟く。
「さて、さっきの話の続きだけど。選抜してやるって話な」
「今年の東ブロックは、見たとこ8校で予選だけどよー。半分の4校はウチがここで潰すわ、まあ、1校は規約違反で即敗退になっちまったけどな。RBF以外で刀抜くのは御法度だろうがよ」
「もう〜、紫乃ちゃん⋯どんだけバーサーカーなの⋯」
(とほほ⋯これじゃあ、部長に説明つかないよお〜)
半べそ状態の桐。
「おい、神楽、どうすんだ、これ」
口を開いたのは六花だった。
「すまん⋯これは、なかなか想定外過ぎて何とも⋯」
神楽は、眉間を親指と人差し指で挟みながら低く唸っている。
「参戦⋯するか?」
瑠璃が腰に差した愛刀を少しだけ鞘から抜く。
「いや、様子を見よう⋯」
神楽が瑠璃を静止する。
「で?残り3校ボコボコにしてやるから、ウチとヤろうってのはいねえのか?ウチを倒せば、本戰に出場できるようにしてやってもいい。しかも、そっちはフルメンバーの5対1でのハンデ戦だ。悪い話じゃねーと思うが?」
「また⋯勝手な事して⋯。もう、桐知らない⋯」
桐、諦めました。
「んじゃま、我こそはという学校は挙手してくれ」
「────」
「──ほう」
会場内、7校のうち、3校の生徒達が手を挙げていた。
「オーケー。そしたら、今すぐ始めようぜ。一瞬で終わらせてやるよ」
紫乃が不敵な笑みを浮かべていた。
ネタバレ
一瞬で終わります




