参.出会い
声をかけられた雨千夏が振り返ると、片眼が前髪で隠れた、雪のように白い髪と肌をした少女が立っていた。
「あ…あの、いきなり…すみませんっ!桜刄姫道部にっ…興味ありませんか!…けほっけほっ…」
彼女なりにキャパ以上の声を出したせいなのか、咳き込んでいる。
「え…えと、この学園には桜刄姫道部は存在しないと、お聞きしましたが?」
大丈夫ですか?と、雨千夏は少女の背中を擦りながら返した。
「す…すみません…もう、大丈夫です。確かに、今は桜刄姫道はありません…ですが、また作りたいのです。今は部員が足りないので、同好会からスタートなのですが。」
おどおどしながらも真剣な眼差しを雨千夏に向けながら続けた。
「そうしたら…また六花ちゃんと…」
「六花ちゃん?」
「あ!いえ、何でもありません。」
六花ちゃんとは、クラスメイトの名前だろうか?
「そ、そういえば自己紹介がまだでした!私は2年の辻堂まくらと申します。今は桜刄姫道部を蘇らせる為に部員集めをしているのですが、メンバーがなかなか集まらず…」
そう言い終わると、まくらは俯いた。
「あわわ!私は新入生の東雲 雨千夏と言いますっ。」
慌てて、雨千夏も自己紹介で返す。
「ところで今は何人ぐらい集まっているんですか?」
雨千夏は目をキラキラさせながら続けた。
瞬間、妙な間が生まれた。
雨千夏はツバを飲み込んだ。
真剣な表情で、こちらを窺う雨千夏に罪悪感を覚えたのか、再び、まくらは俯きながら答えた。
「…実は、雨千夏さんが入ったとして、残り3人集めないと部には…昇格できなくて…」
「ええっ!?部活って確か5名以上ですよね?!」
「は…はい!」
「という事は私が入ってもまだ同好会って事ですよね!?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
雨千夏の反応に反射的に謝罪を言葉にする、まくら。
「あ、いえ。私もちょっとびっくりしちゃっただけなので…こちらこそ、ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ部員をちゃんと集められていなくてごめんなさい!」
ごめんなさいの応酬。
いつの間にか謝罪合戦になっていた。
数十分間の謝罪合戦の末、いつの間にか2人は時間を忘れて、笑いあっていた。
「えへへへへ」
「雨千夏さん、面白い人ですね。久しぶりに笑ったかもしれません。」
「あの…同好会の事なんですが。」
「ええ、分かっています。いきなり誘ってしまってごめんなさい。」
「いえ。まくら先輩、改めて宜しくお願いします。」
「え!?」
まくらは驚いた。
「私、東雲 雨千夏。桜刄姫道同好会に入ります!」
「ほ、本当ですか?」
「はい!この学園に桜刄姫道部が無いと知った時は絶望でしたが…無いなら無いで作ればいいんですよね。うん!頑張って部活にしましょう!」
まくらは感動の余り、我を忘れて雨千夏に抱きついた。
慌てふためく雨千夏。
「はわ…せ、先輩!苦しいですっ!」
「はっ!ご、ごめんなさい!」
慌てて離れるまくら。
意外と力が強い。
「あ、あの!!ついでと言うわけではないのですが!!」
真っ直ぐに雨千夏を見つめながら、まくらは続けた。
「よかったら、友達になってくれませんか…」
言い終わると恥ずかしさからか、まくらは俯いた。
「はい!実はまだ友達がつくれていなくて、結構寂しかったんですよ~。なので、宜しくお願いします!まくら先輩っ!」
まくらは目を丸くしながら雨千夏を見た。
即答だったからだ。
1人で桜刄姫道部を復活させようと奔走する変わり者として見られていた為か、まくらも友達をつくれずにいた。
その自分が、今日、ようやく自ら友達をつくれたのだ。
これ程嬉しい事はない。
気付けば、まくらの瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「はわ!まくら先輩、大丈夫ですか!?」
突然、泣き出したまくらに驚いた雨千夏はどうしたらいいか分からず、アワアワしている。
「ふふ…本当に雨千夏ちゃんは不思議な人だね。」
涙を拭きながら、まくらはくすりと笑った。
「そ、それじゃあ!もう今日は下校時間過ぎちゃってますし、一緒に帰りましょう!」
雨千夏は笑顔で言う。
すでに日は暮れかけていて、辺りはオレンジに包まれている。
「わあ…友達みたいだね。」
まくらが返す。
「やだなあ、もう私達は友達です!フレンドですよ!まくら先輩っ!」
雨千夏はまくら先輩にVサインをつき出した。
「ふふっ…ごめんなさい。そうだったね、もう友達だもんね。」
「そうですよぅ~、えへへ。」
お互いの笑い声が、下校時間を過ぎ生徒の数もまばらになった校庭にこだました。
その様子を、遠くから面白くなさそうに見ていた生徒がいた。
髪は金髪で、肌は焼いているせいなのか、季節の割に黒々としている。ギャルといったところだろうか。
「六花~、ごめ~ん。待った?」
六花と呼ばれた女生徒が振り返ると、
「おせーよ。」
待ち合わせに遅れたギャル2人組を睨み付けながら不機嫌そうに返した。
「六花、怖~っ」
「てか、何見てんの?」
「なんでもねえよ。カラオケ行くんだろ。早くしろし。」
雨千夏と、まくらを横目に軽く舌打ちをして彼女らは学園を後にした。
雨千夏とまくらは談笑しながら下校していた。
すっかり、先輩後輩の垣根は無くなっていた。
駅前の交差点に差し掛かったところで、まくらは申し訳なさそうに
「雨千夏ちゃん、私、電車で来てるから…名残惜しいけど、ここで…」
言葉に詰まった、まくらを見ながら雨千夏は笑顔で返した。
「うん!バイバイだね!」
「あ、うん。さよならだね。」
「ううん、バイバイ!」
「バ、バイバイ…」
手を振った雨千夏に、まくらは恥ずかしそうに手を振り返す。
「うん、またね!まくらちゃん!」
そう言って、ここまで押してきたマウンテンバイクに跨がろうとした時である。
「待って、雨千夏ちゃん。」
決して大きな声ではないが耳に刺さるような不思議な声だった。
雨千夏はマウンテンバイクに跨がるのを止め、まくらを見た。
「どうしたの?まくらちゃん?」
まくらは重い口を開いた。
「…どっちが、本当の雨千夏ちゃんなのかな。」
「え…?」
まくらの口から飛び出した予想外の言葉に困惑した。
どっちがとは?分からない。分からない分からない。
突然、一陣の風が吹いた。
雨千夏は、先程のまくらの問いの答えを探しつつも、めくれあがりそうなスカートを押さえるのが精一杯だった。
それほどまでに強い風だった。
そして、雨千夏は見てしまった。
まくらの隠れた片眼が、風により前髪が靡いたせいか一瞬だけ確認する事ができたのだが…
その瞳は血のように赤く染まっていた。
雨千夏が言葉を失っていると、いつの間にか、まくらは笑顔で
「ごめんなさい。気にしないでね。私たまに変な事言っちゃう癖があって…」
「そ、そうなんだあ、あはは…」
「ふふふ。それじゃあね、雨千夏ちゃん。」
そう言うと、バイバイと手を振りながら、まくらは駅の地下へと消えていった。
雨千夏はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、すぐに我に返った。
「…は!!」
「んー、今日は色々あったから、きっとお疲れなんですよ!私!」
「ですです!」
自分に言い聞かせて、再びマウンテンバイクに跨がりペダルを漕いだ。
「さーて、帰りますよー!」
奇妙な出会いにはなったものの、友達が出来たという意味で雨千夏の心は弾んでいた。
こうして、雨千夏の学園生活が幕を開けたのである。
先の展開を練っていたら、投稿しづらくなってしまいまして。
やっぱりこういうのは料理と同じで温かい内に提供すべきですね。




