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参拾伍.ザイン2

めっちゃ間空きましたね⋯

色々あるんですよ⋯


「待ちわびましたよ…ザイン」


木津辺は鍔迫り合いながら、続ける。


「────っ、あなたは、ここで消しておいた方が、よさそうですねえ…」



「……………」


「気味が悪いんですよ…アナタは我々の中でも異質すぎる…」

木津辺は凄まじい連撃を放った。


雨千夏は木津辺の連撃を最小限の動きで捌いていく。


「おやおや、守ってばかりじゃ、試合になりませんよ」

木津辺の瞳の色もいつの間にか、燃えるような赤に染まっていた。


「───よく、口が回るじゃねえか、オーヴェイル」

雨千夏の口から飛び出した言葉だが、厳密にいうと、雨千夏の言葉でなく、ザインの言葉だった。



「…雨千夏くんの様子がおかしくないか。」

2人の試合を観戦していた神楽が、険しい表情で口を開く。


「おお…なんつーか、空気がピリピリしてやがる…雨千夏ってあんな重苦しいオーラ放つような奴だったか?」

六花も空気の重さを肌で感じだったのか、武者震いしている。


「雨千夏…何故お前が、その刄気オーラを…」

瑠璃も何かを感じ取ったのか、困惑気味で呟く。


「……。」

まくらは3人とは対照的に沈黙を貫いている。



「あなたは確かに討滅されたはず…それなのに何故!!」


木津辺の剣速が一段と激しさを増す。


「…知ってどうする?」

ザインは、木津辺の剣撃を軽くいなしながら、冷やかに答える。


「くく…これは失礼、裏切り者に問うだけ時間の無駄でしたね…」


攻防一体のせめぎ合いが続く。












───────。


──────────。






(真っ暗だ)


(私は一体どうなってしまったのだろう)


───────────見知らぬ空間。


────(ここは私の心の中?)


1人の少女が暗闇を彷徨っていた。


────彼女は東雲 雨千夏。


しばらく空間を彷徨っていると、微かに光が差している場所を見つけた。


(光だ…とりあえず行ってみよう…)


雨千夏はその光を目指して駆ける。


しばらくすると開けた空間が現れた。



──見覚えのある白い空間だ。


振り返ると、来た道は暗闇に塗り潰され、その空間だけが、まるでこの世界に唯一取り残されたかのように存在していた。


元来たくらやみを眺めていると、背後に人の気配を感じた。


「─────よお。」


雨千夏は、即座に、声が聞こえた方向に対して振り向くと、

先ほどまで伽藍堂だった白い空間が、無数の大きな鳥居に囲まれ、季節外れの紅葉が舞う、石畳の雅な空間に変容していた。

先ほど来た道も鳥居に塞がれている。



雨千夏が歩いてきた方向とは、対角線にあたる鳥居の前に、先ほどまで存在していなかった、ボロボロの賽銭箱がいつの間にか置かれていた。

その賽銭箱の上に、何者かが腰掛けている。


全身がモザイクに覆われた、不気味な何者かが。


「───あなたは、あの時の…」

恐る恐る口を開いた雨千夏。


モザイクだらけの人物は、凄まじいプレッシャーを放っていて、雨千夏は近付く事ができなかった。


「へえ…俺が分かるのか」


「は、はい…その声…瑠璃ちゃんと戦っていた時、私の体を操っていた方ですよね……えっと…」


「名前に意味はない。ザインとでも呼べ」


「お前があまりにも不甲斐ない雷舞らいぶしてたから、少しだけ、体を借りたのさ」


「……今も、ですか?」

先ほどまでプレッシャーに気圧されてていた雨千夏が重々しく口を開く。


「…だったら、どうした?」


「こっ…この試験は、みんなの…私の、未来がかかった、大事な戦いなんです…っ」


「今のお前じゃあ、オーヴェイル……あー、木津辺だったか。奴には勝てねえよ」

真剣な眼差しの雨千夏を、冷ややかにあしらう、ザイン。


雨千夏はプレッシャーを押し退けるように、ゆっくりと、ザインの元へ歩み寄り、ザインと向き合う形で静止した。


「…なんだ」


次の瞬間…雨千夏はザインの両肩をがっしりと掴み、前後に激しく揺らし始めた。


「これは!!私の!!戦いなんです〜〜〜〜!!!!」


「うわ…何をする!!やめろ!!」

慌てるザイン。


「やめません〜〜〜〜〜〜」


「お前…っ!自分が何をやっているのか分かっているのか…!?」


「分かりませんし、分かりたくもないです〜〜〜〜」


「くっ……接続が……っ!!」


─────空間が音を立てて、崩落していく。


「………ちっ。仕方ねえ、返してやるよ」


「は、はひ!ありがとうございます!!」



雨千夏とザインを眩い光が包む。


ゆっくりと2人が光に溶けていく。











──────────。




────────────。



「ほらほらほらぁ!!!!どうしました?守り一辺倒じゃないですか!!」


「ちっ…」

木津辺の猛攻をしのぎながら、反撃に転じる隙を伺うザイン。


木津辺が不用意に振り下ろした刀に合わせる形で、ザインがカウンターを決める。


「──なっ!」

ザインのカウンターが、木津辺の刀を弾き返す。


仰け反る木津辺。


チャンス─────だった。


突然、ザインが頭を抑え、片膝をついた。


「くっ……接続が……っ!!」


「……ちっ。仕方ねえ、返してやるよ」



「……………」



「────────────」


ザインが体の支配権を放棄した為、抜け殻状態になった雨千夏の身体はコントロールを失い、前に倒れ込む。


「……はっ!!私の体!!」


すんでのところで、自分の体の支配権を取り戻した雨千夏は、地面に倒れ込む前に、自らの右足で踏ん張る事で何とか体勢を立て直した。

雨千夏はペタペタと自分の体を触り、安堵のせいか息をついた。

これが、大きな隙を生んだ。


「馬鹿野郎!!どこ見てんだ雨千夏ぁ!!」


「雨千夏君!!前だ!!」

六花と神楽が叫ぶ。


「雨千夏ちゃん!!避けて!!」

まくらも雨千夏に叫びかける。


「…ふえ?避けて…って?」


「……ククッ……遅いですよ!!」


前を向いた雨千夏の目に映ったのは、体制を持ち直し、目の前の獲物を狩る為に凶刃をふるう木津辺の姿だった。


接続リンクでも切れましたか?…だったら、宿主と共に消えてもらいましょうか!!!!」


「…しまっ…!!」

雨千夏も咄嗟に反応するが、間に合わない。

目を閉じるしかできなかった。


「ククク……死ね…」

雨千夏に、容赦なく振り下ろされる凶刃───



「な……!?」


木津辺の刀を握る手に伝わってきたのは、肉を断つ独特な感触ではなく、同じ金属…刀の感触だった。


「…」

目をゆっくりと開ける、雨千夏。

自分が斬られていない事に驚きつつ、何故自分が斬られていないのだろうと、思いつつ前方を確認した。


「……っ!?」

雨千夏は驚いた。


「…ほう。あの距離から、よく間に合いましたね」

木津辺は嬉しそうに目を細める。


「…雨千夏はやらせない」

雨千夏の瞳に映ったのは

雨千夏に向けて襲いかかった凶刃を受け止める為、間一髪で間合いに飛び込んだ、瑠璃の後ろ姿だった。


「……ほう、どなたか存じませんが、素質がありますねえ。それに、凄まじい程の負の感情…あなた、名前は?」

木津辺は、瑠璃の手に握られている刀を見ながら、目を細める。


「貴様のような下衆ゲスに名乗る名などない」

瑠璃は木津辺の刀を受け流すと、一瞬の隙を見逃さず、渾身の頭突きを見舞った。


「ぐっ…」

鈍い音とともに、木津辺がよろめく。


「…失せろ」

すかさず、木津辺の胴体に刀を振り下ろす、瑠璃。

瑠璃の刀が、木津辺の胴体に食い込む。


「ぐああああっ!!!!」

斬られた傷口から吹き出たのは、血…ではなく、黒く濁った泥のような液体だった。


瑠璃は咄嗟に後ろにさがった。


「…くくっ…そろそろ、頃合いですかね。ザインを消せなかったのは残念ですが、収穫もあった事ですし」


「…なっ…」

瑠璃は木津辺を見て驚愕した。

致命傷を負わされたはずの木津辺がピンピンしていたからだ。

確かにつけた刀傷が、嘘のように木津辺の体から消えさっていた。


「では、皆さん、また会う日まで───ごきげんよう」


木津辺はそう言うと、右手で自分の背後の空間に触れる。

木津辺が触れた空間は、いびつに捻れ、ワームホールのような渦が発生した。


「────待て!!」

瑠璃の制止の叫びも虚しく、木津辺は、そのワームホールに吸い込まれるように消えた。

それと同時に、空間のひずみも、跡形も無く消失したのだった。


「大丈夫か⋯雨千夏」

瑠璃は雨千夏に手を差し伸べた。


「は、はい⋯助かりました、瑠璃ちゃん⋯」

雨千夏は瑠璃の手を取り、立ち上がる。


「おーい!雨千夏ー、大丈夫かー?」

六花達、3人も雨千夏に駆け寄る。


「は、はひ⋯皆さん、心配おかけしました⋯」


「しかし、あの木津辺とやら⋯何者だったんだ?奇妙な術のようなものも使っていたようだが⋯」

神楽は眉間にしわを寄せ、低く唸る。


「刀を交えて、感じたんだが⋯奴は、恐らく人ではない。致命傷を与えたつもりだが、一瞬で傷口が塞がっていた」

瑠璃も険しい顔をしている。


「つか、お前、刀なんて、持ってきてたっけか?」

六花が不思議に思い、瑠璃に尋ねる。


「⋯⋯⋯」


「ちぇっ⋯シカトかよ!」

不貞腐れる六花。


(驚いているのは⋯私の方だ。刀は確かに私の家に置いていたはず。それが何故⋯私の手に握られている?オカルトも大概に⋯)



「⋯今回の出来事は、我々とって、理解の外すぎるな」

神楽はまた眉間にしわを寄せている。


「つか、瑠璃、服とかすごい事になってんべ?」

六花は瑠璃の服を見るや、黒い汚れのようなものを指摘した。


「ああ⋯奴を斬った時に浴びたんだろう⋯返り血のようなものだ」


黒い泥のようなものは、瑠璃の腕にも付着していた。


「瑠璃くん、せめて腕の汚れだけでも、これで拭き給え」

神楽は瑠璃にハンカチを渡そうとした時だった。


「⋯⋯な!?」

神楽は絶句した。

瑠璃の腕と衣服に付着していた黒い汚れはみるみるうちに小さくなり消えていったのだ。

消えたというより、瑠璃の身体に吸収されたという方が正しいのだろう。


「瑠璃ちゃん!大丈夫ですか!?」

雨千夏は心配そうに瑠璃に近寄る。


「ああ⋯問題ない。むしろ洗濯の手間が省けた」


「しっかし、これどうすんだ?試験どころじゃねえだろ⋯」

六花が困り顔で発言する。


皆が途方に暮れていると、突然、試験会場のドアが開いた。


「⋯⋯⋯はあはあ、ギリギリセーフっ!!」

肩で息をしながら、1人の女性が入ってきた。


「失礼ですが⋯あなたは?」

神楽は、訝しげに女性に近寄る。


「はっ!私ですか!私は本日、刄姫証取得試験の試験官を務めます、荒木あらきと申します!約束の正午になりましたので、試験を開始───」


「ちょっと待てよ!試験官って木津辺って奴じゃねえのか?」

六花が荒木に突っかかる。


「わわっ!ちょっと落ち着いてください!そもそも、木津辺って誰ですか!?そのような名の試験官、うちには在籍していませんよ!!」


「「⋯は?」」

六花と神楽がハモる。


「それに、ちょっと待て、今が約束の正午だと?!」


「は、はい⋯そちらの時計も丁度正午をさしていますし⋯」


神楽達は恐る恐る、時計を見る。


「⋯!?」


「ありえない⋯試験は確かに正午に開始した⋯筆記と実技で各1時間として、今は14時過ぎのはず⋯⋯。なのに、なんで⋯⋯」


時計の針がさしていたのは、丁度、正午の12時だった。


「おいおい⋯どうなってんだよ、これ」

六花も混乱している。


「はて?ちょっと状況が読めませんが、とりあえず時間ですので、試験に移らせていただきますね!」







─────結局、この後、雨千夏と瑠璃は再試験を受け、見事、合格した。



晴れて、刄姫証を取得できたのだ。


これを以て、桜刄姫道部、正式に発足。



しかし、今回の出来事は、結局、謎のまま、全員の心の中にモヤっとした不快感を残す事となった。







─────そして、舞台は、天華刀一戰・予選へ











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