壱.目覚めの朝
──嗚呼、最悪の目覚めだ。
最高に最悪。
あーあ。汗がすごいなあ、もう。
黒髪ロング、寝癖頭の少女は、先程の悪夢もお構い無しにベッドから起床した。
「はいはい…もう何回も見てるから、慣れましたよ~っと。」
「今日の良き日に見なくてもいいのにね~」
「ま、いっか。悪い夢は流しちゃうに限ります!」
独り言を言いつつ、寝汗まみれの衣服を脱ぎ、浴室でシャワーを浴び、洗面所で髪を乾かしながら歯を磨く。
流れるようなルーティン。
「ふんふふ~ん。」
鼻歌。
悪夢を見た後でも、気楽なものである。
それもそのはず、今日は待ちに待った入学式。
ワクワクしながら、新しい制服に袖を通し、開口一番。
「やっぱ、地味だなあ…グレー。」
制服のカラーに愚痴りつつ、ヘアゴムで片方の髪を結んで、サイドテールの完成。
初登校の支度を済ませ、部屋に置かれた仏壇の前に座る。
りんを鳴らし、仏壇に飾られた女性の写真に手を合わせる。
「お母さん。私、東雲 雨千夏、今日から高校生になります!昔の事は、相変わらず思い出せないけどね…えへへ。」
「……まあ、なんとかなるよね!いい出会いがあるように応援してね!お母さん!」
ふと、時間が気になった。
壁時計を見ると8時15分。
「どわわわー、私ってば、ゆっくりしすぎた!」
本人は慌てているようだが、緊張感があまり感じられない。
「行ってきまーす!」
少女は仏壇に立て掛けられていた刀に一礼し、ダッシュで玄関のドアを開けた。
少女はこれから始まるであろう、楽しいスクールライフに胸を躍らせながらも、マウンテンバイクに跨がり必死にペダルを漕いだ。
学校から家までの距離がわりと近くて良かったと思った、15歳の春だった。




