玖.放課後の闘い
1本しか上げられませんでした!すみません!来週は複数上げますので、どうかご勘弁を!
見てくれている人がいたらの話ですが…
空一面が橙に塗りつぶされ、1日の終わりを告げるかのようにカラスが鳴いている。
「先生さようならー」
「ああ、さようなら。真っ直ぐ帰れよ。」
生徒達は元気よく、教師と挨拶を交わす。
そのまま帰宅する者、部活動に精を出す者、それぞれだ。
朝から色々とあったが、長かった今日が無事に終わり、雨千夏とまくらも放課後の校庭を歩いていた。
しかし、2人の表情はどことなく険しい。
そう、彼女達の今日はまだ終わっていない。
──放課後空けとけよ
六花との約束があるからだ。
といっても、向こうが勝手に取りつけた約束なのだが。
放課後…何かあるのだろうか?
「六花さんはああ言っていましたが、待ち合わせ場所が分かりませんね…。こうやってあてどなく歩いていますが…」
雨千夏はため息混じりに呟く。
「ごめんね、雨千夏ちゃん。六花ちゃんは昔から肝心なところが抜けているから…」
まくらは自分のことのように照れくさそうに笑っている。
「ほー。まくらちゃんと、六花さんは仲良しさんなんですねえ。ベストフレンドってやつですか?」
「ベ…べ、べ、ベストフレンドな、なんて、そんな…」
雨千夏のクリティカルなワードをくらい、まくらは動揺した。
「あー、まくらちゃん、顔が赤くなってます!可愛いですなあ?」
「う、雨千夏ちゃん酷いよ~」
微笑ましい会話をしながら歩いていると
「おー!いたいた!おーい、ウッチー!マッキー!」
2人の後ろから声がした。
そして、このあだ名で呼ぶ人物といえば…
振り返らずとも誰なのか分かったが、2人はとりあえず振り返った。
察しの通り、エリカと千明の2人が手を大きく振りながら駆けてきていた。
「あー!エリリンとチアキングだ!」
「エ…エリリン?」
「チアキングぅ!?」
雨千夏の凄まじいネーミングセンスにエリカと千明は互いを見つめながら苦笑いした。
「…それはないよ…雨千夏ちゃん…」
まくらもさりげなく突っ込む。
「おい、ウッチー、変なあだ名つけんな!」
千明はそう言いながら雨千夏にヘッドロックを決めながら、蟀谷を左の拳でグリグリした。
「いたたたた!チアキングやめてくださいよ~!」
「まだ言うかあ~!」
「あはははは!アタシはエリリン気に入ったよ。
千明も、チアキング語呂いいじゃんか。」
「語呂は問題じゃねえ!」
エリカに秒でツッコミをいれる千明。
「あ、あの…私達に何か用事ですか?」
「おお!そうだった!こいつが変な事言うから忘れてたわ!」
まくらの問いに、雨千夏を釈放した千明は思い出したかのように答えた。
「うえー、頭がキンキンしますう」
「そうそう、アタシらは六花の遣いで来たんだよ。」
「そそ、待ち合わせ場所決めてなかったから、お前らを連れてくるように言われたんだわ。」
呆れ顔で、ぼやき気味にエリカと千明は、雨千夏達に伝えた。
この2人も六花のそういう所に振り回されながらも友人をやっているのだと思うと、まくらは苦笑いで返すしかなかった。
だけど、六花のズボラな所に愚痴を言いつつも、こうして付き合ってくれていた2人に、まくらは内心感謝していた。
いつか、自分が六花の隣にいられなくなっても、この2人はずっと友人を続けてくれるだろう。
気付けば「ありがとう」とエリカと千明に聞こえないぐらいの声でぼそっと呟いていた。
我に返り、秒で恥ずかしくなったまくらは少し顔を赤らめた。
「ん?マッキーどうかしたかい?顔が赤いけど。熱でもある?」
「い、いえ!」
慌てるまくらに対して、エリカは自分のおでこに右手を、まくらのおでこに左手を当てた。
「んー、熱はないみたいだね」
硬直するまくらに対してエリカはまくらの耳元で更に続けた。
「こちらこそ、ありがとね。」
どうやら、さっきのありがとうはエリカには聞こえていたらしい。
もう一段階赤くなった、まくらは俯いた。
「おい、どうかしたのか?」
「んーん。何でもないよ。ね?マッキー。」
千明の心配をよそに、まくらに歯を見せ悪戯っぽく微笑む千明。
「は、はい!」
まくらにも自然と笑みがこぼれた。
「そうか?ならいいけどよ。」
雨千夏はまたヘッドロックをくらわされていた。
「痛いですってばー!」
そうこうしながらも、4人は六花の待つ剣道部の道場に辿り着いた。
入り口前でドアにもたれ掛かり、腕を組ながら、六花は待っていた。
「おせーぞ。」
六花はぎろりと4人を睨み付ける。
「ごめんごめん、ちょっと色々あってさ。ね?」
エリカは両手を合わせ、ウィンクしながら舌をペロッと出して見せた。
「まあ、いいわ。お遣いご苦労。エリカと千明は帰っていいよ。」
「えー、マジで言ってんのかよ、六花~」
千明は不満そうに漏らす。
エリカも腕を組みながら。うんうんと頷く。
「悪いけど今日の所は帰ってくれ。今度埋め合わせするからよ。」
申し訳なさそうにする六花。
「えーと、それじゃあ…」
エリカと千明は顔を見合わせて
『駅前の行列のできるクレープ屋、スペシャルクレープ超絶甘々エクストラビート奢りで!ヨロ~!』
どっかのラーメン屋の呪文のようなセリフを見事なハモりを決め、どや顔でピースするエリカと千明。
「あ~…オッケ、分かった。」
完璧なハモりに負けたのか定かではないが、押しきられる形になった六花は渋々了承した。
「六花、約束だかんな!忘れんなよ~!」
「わーってるよ。」
頭をぽりぽりと掻きながら千明に返答。
「ウッチーとマッキーもじゃあね。」
「は、はい!チアキングとエリリンさん、さようならです!」
嫌そうな顔をする千明。
それを見て笑うエリカ。
「あははは、ウッチー面白いねー、やっぱ。それじゃあね。」
「エリカさん、千明さん、さようなら!」
「うん、マッキーもまたね。」
エリカと千明は3人に手を振りながら校門へと消えていった。
「さあて、うるさいのも帰ったし、本題に入るぜ。その前に中に入れよ。」
六花は剣道部部室のドアを親指でくいっと指差した。
ガラララ。
多少建て付けの悪くなった扉を開くと、目の前に道場が姿を表した。
部員数も約40名を誇るせいか、道場もかなり広い。
「これ、勝手に入って怒られないですか?」
「ああ。生徒会長には話を通してある。」
「そ、そうですか…」
「へえ、お前みたいな奴でも緊張するんだな?雨千夏。」
これから、ここで何が始まるのか。それを察して雨千夏は緊張していた。
この道場の空気がそれを手伝っているのかもしれないが。
「ほらよ。」
六花は、壁に立て掛けてあった、竹刀スタンドに差してある竹刀を雨千夏に放り投げた。
「わ!とっ…と!」
乱暴なパスに慌ててキャッチする雨千夏。
2人は道場の真ん中に移動し、向かい合って静止した。
まくらも緊張からか、ごくりとツバを飲んだ。
「ここに2人の刀を持った刄姫がいる。この意味が分かるよな?雨千夏。」
「私が勝てば、六花さんは同好会に入ってくれる…です」
「ほう。察しがいいじゃねえか。当たりだ。それに負ける事も考えてねえ…上等だよ、お前。」
六花は無邪気に笑いながら答える。
雨千夏も覚悟を決めて竹刀を構えた。
「まあ、そう逸るな。まくら、審判頼む。」
「わ、分かった、六花ちゃん。」
「安心しろ。別にこいつが負けても特に何も無ぇよ。ウチが同好会に入るか、入らねえか、それだけの話だ。じゃあ、頼むぜ審判さんよ。」
「う、うん。」
まくらはこくりと頷く。
雨千夏と向かい合った六花は上段に竹刀を構えた。別名、火の構えとも呼ばれている、攻撃的な構えだ。
会話の無い、道場内はあっという間に静けさに包まれた。
日も傾き、外も少しずつ闇に塗りつぶされていく。
無とはこういう事を言うのだろうか。
突如、静寂を裂くように外で1羽のカラスが鳴いた。
「今から桜刄姫同士の対戦を始めます!両者構え!!」
いつもの、おどおどしたまくらではなく、審判としてのまくらがそこにいた。
六花はやるじゃねえか、と鼻をふんと鳴らし、再び雨千夏へと視線を戻す。
雨千夏も、六花を真っ直ぐに見つめ、竹刀を正眼に構える。
それを見た、まくらはこくりと頷いた後、
「東!東雲 雨千夏!」
その掛け声に雨千夏の眉がピクリと動く。
「西!不知火 六花!」
六花は歯を見せ、不敵な笑みを浮かべる。
「双方、桜刄姫として、悔いの無きよう、全身全霊で舞い、その冴え渡る剣技を披露せよ!!」
まくらは大きく息を吸い込んだ。
その数秒、再び静寂が場を支配する。
そして──
「始めっ!!!!」
「はああああ!!!!」
「うおおおお!!!!」
まくらの開始の合図を火蓋に、放課後の闘いが幕を開けた。




