梅雨姫
雨宿りした傘屋で出会った「梅雨姫」という名の傘の話です。現代ファンタジーになります。
※ツイッターで発表した小編を手直ししたものになります。
(2022年9月追加)
※この作品は「ノベルアッププラス」にも掲載しております。
(2022年11月追加)
※この作品はYouTubeで、AI音声による朗読動画を公開しております。
【雨宿り】
軒先で雨宿りしていると、木戸が開いて「傘あります」の貼紙を指差された。
木戸の内にはずらりと傘が並んでいる。その幾多の傘の中に「梅雨姫」という名の傘があった。
「それですね」
何も言わないうちに私はそれを渡された。梅の花のその傘は、私と雨の街を歩きたいようである。
【鈴の音】
梅の花が描かれた傘は、どう見ても女物なのだが、黒づくめの私には丁度良い差し色である。
幸い気にする人も無く、私は「梅雨姫」という傘を差して趣のある街を歩いた。傘が揺れるとチリンチリンと音がする。
「紫陽花の小道を歩こうか?」
そう尋ねると、小さく鈴の音が鳴った。
【友人】
「傘があるのに、どうしてそんなに濡れているのだい?」
入ってきた私に向かって友人が尋ねた。
私は、風が強くなってきたので、傘が壊れないように畳んだのだと説明して、梅雨姫という傘を広げて見せる。
「無事で良かった」
「実に君らしいね」
友人は笑いながら納得してくれた。
おしまい
現代の少しだけ不思議なお話に感じて頂けたら幸いです。御一読ありがとうございます。