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男女の抗争 前編

「えっと、お前らの耳にも入っていると思うが今日はこの学園に他国から留学生が見学に来ている。決していざこざなどないように皆仲良く、この学園の真面目な生徒として節度をもって接しろ」

 目の前で呆れたような途方に暮れて疲れ切った表情を顔に出す学園でも美人な教師で有名だが、性格は不良のそれと変わらないこのクラス担任の女教師、弓月迦楼羅(ゆみづきかるら)先生の言葉に全員が浮足立つように聞き耳を立てた。いつもならば、聞き耳を立てるふりをしながら別のことを考えるのがこのクラスの暗黙のルールなんだけど、今だけは違った。彼女の傍に控えるようにしている金髪と青い瞳が美しい美女。イリューナ・ミシェリィナとそのままの名前で他国の留学生としてこの学園に来る予定という偽りの身分を通して本日から授業を見学するという立場になった彼女がいた。

 クラスの男どもは俺のことを睨みながら舌打ちを続ける。

 なにせ、クラス全体で彼女が俺の知人だというのはもう周知の事実。学内の敷地であれだけの騒ぎがあれば広まるというものだった。

 説明をするうえで彼女が俺の知人であるという紹介もしているのでなおのことである。

「特に監督者の駄城」

 呼ばれたような気がして先生のほうへと目線を向けると何か厳しい目つきをしている。

 全く何も聞いていないので自分が何かやってしまったのではないかと不安な気持ちを抱いて唇を震わせながら問い返した。

「な、なんですか?」

「彼女に粗相を働くなよ」

「いやいや、なんで俺が名指し何ですか! 監督者の俺がそんな愚かな真似するわけないじゃないですか!」

「このクラスで一番の問題児なのはてめぇだろうが。そんな言葉信用できるか」

「えー」

 教師に信用されてはいないとは思ってはいたが直接的にそう断言されると精神的に痛いものがあるぞ。

「だから、倉本と笹美お前ら二人で彼女のことは頼んだぞ」

「はい、先生」

「了解っす」

 最初からこの二人を監督者として指名しておけばよいのだが、学園側の体裁的にも知人である俺が監督者であるという名目だけでも建前を作っとくために俺を指名しているというわけだと嫌でもわかった。

 (俺は名義上だけの監督者かよ)

 酷い話で泣けてくる。

「では、授業を始めるぞ」



 

 まぁ、案の定クラスで異様に目立つことになった。

 イリューナは授業のたびに質問の連続を行い進行を阻害する行為を連発。

 さらには異世界人だとばらすぎりぎりのような不可解な発言をしてくれた。

 例えば英語の授業の時に、「その言語はイストライアの言葉ですか?」などどこの国だよと突っ込みたくなるような発言。クラス全員が首をひねって一瞬凍り付いた空気がよぎったのはわすれない。

 今は本日最後の授業となる体育で女子は教室、男子はクラス合同で行うために隣の教室で別クラスの人と着替えていた。

「いやー、それにしてもイリューナさんかわいすぎっしょ」

「しかも、ミステリアスなところが素敵だね」

「だな」

「わい、あの子にもう……うっ」

「…………はぁー」

 悪友たちの節々に彼女を過大評価する点を考えながら俺は彼女のことを思う。

 あいつは確かにかわいいけれど中身は好奇心旺盛すぎてやばいただの変人なだけ。

 この世界でもただ自由にやりすぎてこちらは迷惑をかけられているとも知らないのだ。

 とはいえ、愚痴ったところでコイツには何もわかるまい。

「おいおい、元気ないっしょ。つか、お前さんはずるいっしょ。あの爆乳もちの留学生と今は同棲しているとか死刑っしょ」

「そうだね、俺っち的にも許せない。あの脚線美を独占するのは実に許せない」

「あの煌びやかに輝く金髪を独り占めにするとはさ、もう死刑だな」

「そうだドン。あの小ぶりないい美尻を舐め回すようにいつも見ているとは許せんドン」

「おまえら、隣で女子着替えてるんだぞ。よく堂々と言えるな」

 まさに性癖にオープンな悪友たちの発言にさすがの俺も苦笑いだ。

「なぁ、隣騒々しくないか」

 クラスの誰かがそのような一言を言うと俺も落ち着いて耳元をすました。

「ベランダしかも、外からだね」

 悪友の一人である相川聡がその騒音の元に気付いたのかベランダのほうへと歩いていく。

 窓際に多くの生徒が集まっていく。

 つられて俺も窓際によって隣のベランダを窺う。

 ぎょっとした。慌てるようにベランダへ出ると数人がついてくるようにベランダへ出てベランダがあふれかえってしまう。

「おいおい! 押すなって!」

「マジかよ空に浮いてんだな!」

「あれ、なんかのマジックどん?」

  俺たちのクラス教室のベランダから柵を飛び越えて浮遊している体操着姿のイリューナがいた。

「ちょっと、イリューナさん戻ってきなさい!」

「あぶないっす! どうやってるか知らないっすけど戻るっすよ」

 隣のベランダでは女子の主にクラス委員の倉本とイリューナの存在を知っている雪日が悲鳴をあげていて騒音になっていたのだ。特に雪日は焦って戻るように言うてるが彼女は全く聞く耳を持たない。

(あの、馬鹿何を考えているんだ?)

 彼女の姿を見て、体操着姿は似合うとは思うが短パンであるからエロスに欠けると思った。

 ――というのはどうでもいいとして、その非常識なことを行うイリューナはくるりと妖精のごとく回りこちらに気付いた。

「あ、ユウマさん、そこにいたのですね」

 イリューナはこちらのベランダへと降り立ちに入ると、モーゼのごとく男子生徒共は彼女の着地点を開けた。まるで、おとぎ話のお姫様と王子様のような出会いの空間がベランダに生まれた。彼女が俺の手を握るとそのまま降り立った。

「今日は男女ともに体力測定なるものを行うそうなんです! ですから、今皆さんに私の実力を見せてみました。いかがでしたかユウマさん」

「……イリューナお前……」

 俺は何も言えなくなった。

 ようやく、この教室に女子の二名、倉本と雪日が入ってきた。

 男子の悲鳴が上がる。

 そりゃぁ、男子でも着替え中に女子が入ってくれば悲鳴を上げるもんだ。

「何入ってきてるんだね! まだ着替え中なんだね!」

「うるさいっす!」

 実に横暴な逆ギレで強引に教室の中に入ってイリューナに近づいてくる。

 というか、イリューナの傍にいる俺を睨みつけながらイリューナの手を取った。

「イリューナさん、危険じゃないっすか。何してるんすか! さっきのはどうやったかは知らないっすけど早く戻るっす。こんなイカ臭いところいたら妊娠するっすよ」

「妊娠してしまうんですか!?」

 顔を青ざめさせて身体から何やら不気味なオーラが放出し始める。

 嫌な予感がする。

 これは明らかに自分を吹き飛ばした時のモノと同じ傾向だった。

 慌てて彼女の逆サイドの手を握って、その肩に触れる。

「ちょいちょい、すとーっぷ! しない! しないから! 倉本さんもなに紛らわしいこと言うんだよ!」

 それに便乗してほかの男子も抗議をする。

 倉本に罵詈雑言を浴びせる。

「イカ臭いっていうなら匂いを嗅いでみろっていうんだね!」

「僕ちんたちの何がイカ臭いって?」

「俺っちは臭くないって自信があるんだね」

「考えがもう処女っぽいドン。逆に興奮するドン」

 最後はどうでもいいがその男子からの発言に倉本の堪忍袋の緒が切れたのか近くにあった机を蹴飛ばした。

「なんかいうたっすか? 獣共が黙って消えろ。つか、なんすか? ウチは何も間違えてないっすよ。年がら年中発情している男子を正しい評価しただけっすけど」

 その瞬間、明石が一歩前に出てくる。

 彼は背丈が足りない。

 下から上に見上げる形で彼女を睨みつけて突き指を立てた。

「おうおう、言うてくれるっしょ。なぁにが年がら年中発情しているだぁ。勝手に決めつけんじゃないっしょ」

「エロ本もってきている連中が何を言うっすか」

「エロは正義っしょ」

「それがイカ臭いって話っす」

 明石は彼女にとんどもないことをしでかす。

 その胸へと突き出した指で胸を突き刺した。

 それは軽いレイプだ。

 男子全員が「うぉおおお!」と歓声を上げる。

 明石は次の瞬間、後ろへと軽く飛んでいた。

「あかしぃいいいい!」

 悪友たちの壮絶な叫び。

 倉本の近くに雪日が来て気遣うように彼女の肩を支えた。

 倉本は身体を震わせて涙目で「信じられない、このレイプ魔ども!」と怒鳴ってきた。

 うん、今のは明石が悪い。

「イリューナさんも見ましたっすよね。こいつらはそういうやつらなんす!」

「えっと」

 イリューナは事の展開が読めていないプラスあまりにも勝手になんか進みすぎてついていけていないように見受けられる。正直言えば、俺だってどうしてこうなったのかと思いたい。

「ちょっと、明菜、落ち着きなよ。どうしたの? いつもの明菜らしくないよ」

「ユッキー止めないでほしいっす。今日はこいつらがどれだけ危険か思い知らせないといけないんすよ。特にイリューナさんには」

「明菜、だけど別に……」

 相川が眼鏡のツルを押し上げて倉本へと睨みつけて指を突き付けた。

「これは先生に報告だね。勝手な決めつけて君たちは俺っちたちを罵ったのだよ。これは立派ないじめだね」

「何がいじめっすか。そもそも、そっちがいつも変態なことをするからいけないっす。いつ、イリューナさんに手を出すかわかったもんじゃないっす。現にさっきだって本当は手を出す一歩手前だってありえたかもしれないっす」

「お前いいかげんにするんだな。僕ちんたちを犯罪者呼ばわりするのは勝手だけどここにいる全員はないんじゃないかだな」

「男子は全員一緒っす」

 一触即発だ。

 俺は頭を掻きむしって悩んでいるとスッとイリューナが何か目をキラキラさせて出てきた。

「あの、もしやこれは決闘の申し込みというやつでしょうか! このあと、何かをかけて対戦でもするんですか!」

『え』

 だれもが想像もしていなかったことをイリューナが突然に口にした。

 誰からともなく『そうか、決闘か』と口にして流れるようにして――

「いいっすね、決闘。女子と男子の全面対決っす」

「いい案だね。悪くない」

「なら、まずは条件」

 話を切り出すように倉本さんが黒板に書き始める。

「今回は男女合同の体力測定っす。運よくこのクラスはちょうど半々。女子の総合的数値と男子の総合的数値で競うのはいかがっすか」

「いい案だね。なら、賭ける対象は勝ったほうを一日自由にできる権利というのはどうかな?」

「いいっすよ。その変わり、イリューナさんは女性だから今回はこちらに加わってもらうっすよ」

「待て、それは卑怯だね。彼女は部外者だ。今回の――」

「いいえ、彼女は来月からはもうここの学園生徒。これに入る義務はあるっす」

 相川の傍に殴り飛ばされた明石が近寄ってくる。

「相川別にいいさ。いくら女子が一人増えたところで男子には勝てねぇよ。第一こっちには朝山と寿がいるっしょ」

 女子で運動神経が抜群なのが目の前の子の二人だとすればこちらは寿と朝山なのだ。

 もちろんのこと、彼女たち二人に比べたら全然劣るのはわかっている。

 だが、まるで明石は勝算があるかのように微笑んでいた。

「わかった、条件を飲もう。ただし、追加だ。僕たちが買ったら謝罪も付け加えるんだね」

「なら、私たちが勝ったら謝りなさいよそちらがね」

 俺は目の前にいた雪日と目が合うと大仰にため息をつく。

 ただ一人、鼻息を荒くしてこの状況を作り出した現況は実にうれしそうにしていた。

「決闘楽しみです!」

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