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旧校舎の密談 改稿版2

 俺たちがイリューナを連れて入ったのは学校内では旧校舎と呼ばれて滅多に人は入ることはない木造建築の古びた建物の一室である。

 その中でイリューナを前にして大仰にため息を零しつつ彼女の姿を見た。

 どこか、怪我をしたとかいう様子は見られない。

 スムーズにここまで来たのだと確認できる。

(つくづく魔法ってのは便利なもんだな)

 感慨にふけりつつ、家で何かがあって逃げ出してきたとかそういうわけではないようで安心をした。

 ならば、何ゆえにここまで来たのか。

 いうまでもなく、それは彼女自身が言ってたように好奇心からなんだろう。

 ずいぶんと行動性豊かな話であり、こちらとしてはだいぶ迷惑だというのを理解してほしい。

「ここが教室というやつなんですね! すばらしいところです! ここでみんなが一緒になって勉学に励むというわけですか! なんてすばらしいことでしょうか!」

 イリューナさんはこちらの怪訝な眼差しを気にせずに周囲の環境に感嘆の言葉を呟き、無邪気な子供のように走り回っていた。

 走るたびに古い校舎だけあり軋んでいた。

「頼むからイリューナさん大人しくしてくれ! というか、一度お話をしよう! な?」

 落ち着かない彼女に必死で懇願してどうにか彼女の走ることをやめさせて注意をこちらに向けさせた。

警告は遅く、ズボッと見事に床板が抜けた。

 彼女はそのまま、落下していく。

 慌ててイリューナのその手を掴んだ。

 引き上げようとしたが――

「あ、あの、どうしたんですか?」

「へ?」

 どうやら、胸がつっかえたようでそのまま1階へ落下ということはなく助かったようだった。

 逆にイリューナさんは握られた手をマジマジと見ていた。

 おもわず、恥ずかしくなってその手を離す。

「も、もしや私が落ちると思って救ってくれようとしたとか……」

「そ、そんなわけねぇだろう!」

 照れ隠しから即否定してしまった。

「あ、あの失礼っすけどこの方はなんなんすか? さっきから馬鹿な行動が見受けられるっすけど世間し知らずにもほどがあるっす。あなた方の親戚と言いますがどうにも見た目は外人さんに見えるっすけどそれにしたって」

「明菜、遠い親戚って感じなの。今まで外国のほうでもずっと山奥の田舎暮らしだったから世間の常識というかそういうのを一切知らないのよ。おねがいわかって」

「うぅー、まぁ、ユッキーが言うなら信じるっすけど」

 倉本明菜にしてみたら彼女の行動は不審な点ばかり。

 さきほどからこちらも内心彼女のことをどう隠したものかと焦る。

 一応、遠い親戚と説明はしている。エルフとバレないのもイリューナ自信が魔法で認識を阻害しているらしくそれが原因だった。だが、一度彼女をエルフと知っている人間にその魔法は通用しないらしい。

 だからなのか、俺と雪日には普通にイリューナが見えていた。

 その大はしゃぎのイリューナはと言えば、穴に落ちる寸前で巨乳が引っかかって助かる珍事を起こした状態のままいた。

 彼女はどこか苦しそうにもがいていた。

「おい、大丈夫か?」

「あ、あのやっぱりちょっと手伝ってもらえますか? 抜け出すことができなくって」

「わ、わかった。だけど、暴れるな。それ以上暴れたら――」

 次の瞬間、穴は大きく広がっていき、床下まで抜けた。

 悲鳴と共に生まれてくる浮遊感。

 身体に伝わる強い衝撃。

(いっつ~、あれ? なんだ目の前が暗いし、息が苦しい)

 手探りで明かりを探すように何かの柔らかな感触をつかんだ。

 なんだこれ?

 ふにふにとした至上の柔らかさ。

 それを最近どこかで触ったような覚えがあった。

「んぁ……ユウマ……さ……んっ……だっ……めぇえええ!」

 ようやく光が見えた。

 目の前には倒れ伏した乱れたイリューナの姿。

 やけに体に暖かな感覚が満ちていた。

 主に男の尊厳たる場所も熱い。

「ユウマ、大丈夫! どこか……けが……を……」

「おまえ……」

 そこへ二人の声が聞こえた。心配で来てくれたのか。

 助かった。

 ようやく視界に光が差し込んで見えた光景に真っ先に疑問符が浮かぶ。

 息を乱れさせ、服を乱れさせるように倒れたイリューナの姿とその傍らに脱力しきった自分の姿。

 その光景を見ながら、俺のある一部を見て二人は顔を真っ赤にしてる。

 俺も二人の目の先に気付いた。

 冷や汗が流れ始める。

 今この二人の考えていることが自ずとわかった。

「待て待て、誤解だ! 何もしていない!」

 ミス楯宮と呼ばれる文武両道、眉目秀麗なものに選ばれる称号。

 二人の少女は有段者。

 有段者の美少女二人が近づいてくる。

 両者はバキポキと拳を鳴らしてにこやかに笑顔を浮かべた。

「ちょまっ――」

「「死に去らせ女のてきぃいいいいい!」」

「ぎゃぁああああああ!」

 

 

 あれから数分後。

 イリューナこと私は目の前の女の鬼を前にして震えるようにこの世界で言う正座という行為を行っています。これはこの世界では謝罪の意味を込めた誠意ある座り方だということらしいです。

 なんでも、今回私は大変な罪を犯してしまいました。

 まず一つは、無断でこの学園に来たことです。

 どうやら、それはいけなかったことのようであり、彼女の怒りに触れた様子。

 そして、もう一つがよくわかりません。

 ボロボロになったユウマが彼女に殴られ続ける光景を私はずっと見させられています。

 次は私に違いありません。

 こわい、この世界の女性が上位というのは十分に伝わりました。

 私は生きやすい世界なのかもしれませんが何よりも目の前の女性二人が怖すぎます。

「あ、あの何か怒っていますか雪日さん?」

「怒ってる? いいえ、怒ってないわよ」

「あ、あの明らかに怒ってますよね」

「うんうん、怒ってるのはねユウマに対してだけよ! どうして、彼女にエロマンガなんて貸したのかしらねぇ!」

「俺は持たせて――ぐふぅ!」

「なんかいったぁ?」

「ひぃ!」

 ユウマさんの顔面に向かい振り下ろされる拳。

 どうやら、彼の書籍を私が持っていたことが気に入らないのでしょうか。

 ひどく、ぐちゃぐちゃの真っ赤。血がいっぱい出てます。

 その傍らにいるアキナと呼ばれていた女性はその光景を何と思ってはおらず、どういうわけかじっとこちらを観察していました。

 というよりも、私はこの方の目が何となく不気味なものに感じてしまいます。

 いえ、至って見た目は普通の人間ですがなんでしょうか。

 私を見る目が違うように見えてしまいます。

 ですが、雪日の友人というなら信じます。

「ユッキー、ダメユウのことはそこまででいいっすから、彼女をどうするか決めないとっすよ」

「あー、そうね。イリューナさんをどうにかして帰さないと」

「え、それは困ります! 私まだ学校というものを体験していません!」

「あのねぇー、イリューナさんここは簡単に入っていい場所じゃないのよ」

 どうやら、ユキヒが言うには学校には手続きというものが必要らしいのです。

 その手続きとやらは容易ではないので私は学校を体験できない。

 なんて、残念ことなんでしょうか。

「どうにかできないんですか! あ、そうだ魔法で――」

 突然に、私の口を塞ぐユキヒ。その目は笑顔なのに怖い。

「ねぇ、ユッキー、今その子なんて言うたんすか?」

「なんでもないの、なんでも。イリューナ、あまりべらべらとしゃべらないの」

 どうやら、身分を晒すのは本当に駄目なようです。

 困りました。

「認識阻害を使えばどうにかできると思うんです」

「そんなことしたら、雄馬に襲わせるわよ」

「ひぃ! なんてひどいことを言うんですか!」

 やはり、このユキヒさんは怖い人です。

 アキナという女性が大仰にため息をつくと携帯を取り出しました。

「しょうがないっすね」

 そう彼女は一言いうと何やら奇妙なものを手にして独り言を話します。

 そして、事は大きく進むのです。

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