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イリューナの学園来訪 改訂版

 昼休み。

 それは学校で一番長い休憩時間であり、皆が待ちに臨む憩いの時間。

 それぞれが自由に昼食を楽しむ時間である。

 俺こと駄城雄馬の今日は友人と自分の数名の幽霊部員しかいない部室で昼食を楽しむ。

   幽霊部員とは名ばかりで本当は雄馬だけに等しいはずのその部室は騒がしかった。

 その原因は興奮したむさくるしい男が何気ない雑談とエロゲー鑑賞会をしているからだ。

「やっべぇー! ここのエロシーン最高!」

「実にいい感じに責めているヒロインだね。ただ僕はヒロインの泣き顔が見たいね」

「はぁ、はぁ」

 俺が部室のPCでエロゲーをやりながら片手にパンをかじる後ろで友人たちが鼻息荒くしながら感想を言いまくって正直暑苦しい。

 それでも、そのような感覚を一瞬でも忘れさせてしまうほどにエロゲーとは偉大で感情移入できるほどの貴重な作品だ。まさに自分の空間に陶酔している。

 つぎのシーンを期待してクリックをしていると、ドタドタ騒々しい足音が聞こえてきて、暗がりの中に一つの明かりが射しこんで貴重な空間に疎外感が生まれた。

「うぉおい!」

「今いいところで誰なんだね!」

「うわぁああ! 僕は何も見ていないよー!」

「お前ら――っるせぇえ! 後ろでさわぐな! つか、パンくず落とすなよ!」

 後ろの3人の嘆く悲しみに怒鳴り散らし、3人が零し散らかしたクズをカーペットクリーナーでコロコロときれいに掃除しながら文句を口にする。

 さっきまでいい雰囲気を台無しにした諸悪の根源にキツイ目つきを送る。

「んで、おまえはなんだ! 今更来やがって! 正直気分が台無しだし先生だと思ったじゃないか」

「4人共聞くドン!」

 俺たちの気持ちを無視して肥満体質の大きな体を揺らしながら友人の寿は部室へ入り、ずかずかと自分のほうへくる。

 そして、目の前に携帯の画面をかざした。

「この子が雄馬を探しているドン!」

 自分を探す存在など、雪日以外に心当たりがないので、異常に寿が焦る理由がよくわからない。

 つまり、雪日以外の誰かがそれも携帯で写真を撮るほどに重要な存在の誰かが自分を探しているということを意味していた。

 眼前に突き付けられては見にくい。

 携帯を受け取って画面を確認した。

 ―息をのんだ。

「は?」

 近くにいた友人たちは美人やかわいいと評価しまくっていた。

 さらには外人とか俺に対して『浮気紳士』という新たな称号まで与え始めていく。

 当の俺は友人たちの言葉が聞こえているが頭は思考停止中でしばらく見知らぬ土地に取り残された兵士の気分になってしまった。

「で、雄馬このかわいい美人な外国のお嬢様はだ――って、雄馬!?」

 急いで部屋を飛び出して駆け出していた。

 廊下では騒々しく、みんながグラウンドに向かって駆け出していた。

 超絶嫌な予感がする。

「なんで、あいつ家から出てんだよ!」

 急いでグラウンドに向かうとグラウンドには多くの人が集まっていて学校では有名なイケメンどもがさっそく野次馬の元凶ともいえる美女に声を掛けていた。

「その人の元までなら僕が案内するよ」

「何言ってるんだ。彼なら僕の友人さ。その人なら僕が――」

 さっそく、勝手な言い分をつけての彼女の取り合い。

 まったく、知らぬ彼女は今にもお願いしそうな勢いだった。

 俺は声を張り上げて彼女を呼びつける。

 いらだちと共に全力で。

「イリューナ!!」

「っ!」

 野次馬の中枢にいたのは帽子を目部下にかぶりながらもその隠しきれない美貌を振りまき、一着のドレス衣装では隠しきれないグラマラスなスタイルで周囲を魅了する、異世界から召喚された美女、イリューナさんがそこにはいたのだ。

 どうやって、家から出てきたのかはわからないが彼女はその美貌がもはや注目の的になっていた。

「おい、あれが例の奴?」

「って、あれ学校で有名なダメユウか?」

 普段の行いが俺の駄目性を元に認知されていたためにあっという間に自分の関係者であることも露見して広まっていく。

 いずれ、教師がやってきて俺に問い詰めるのも時間の問題か。

「お前なんでここにいるんだよ! どうやってここに来た!?」

「……あなたが誰か存じ上げません」

 急にしらを切り出した彼女の手をつかんで、このまま学校の敷地外に連れ出そうとする。

 彼女は必死に抵抗をした。

「や、やめてください。私はまだこの学園で見たいものがたくさんあるんです:

「あのなぁ、ここはお前が来ていい場所じゃない」

「そんなウソは通用しません。私はこれですべてを理解しました」

 達者な日本語から彼女が知識を身に着けたのは理解したがその時に掲げて見せた一冊の本は常識というものをまだ理解していなかったのだと訴えた。

「は?」

 彼女が手にしたのはTHE エロマンガであった。

 周囲の女子からの悲鳴が聞こえる。

 さらには男子からの嫉妬に狂った怒りの眼差しだ。

「おい、お前隠せ!」

「何を言うんですか! この神秘的で何とも素晴らしい書物を隠せとは! 馬鹿ですか!」

「馬鹿はお前だ! 周りの反応がわからないのか!」

 彼女は嫌々とエロ漫画を隠すことを拒否する。

 なんたる力か。

 さすがは異世界人というべきなのか。

「第一どうやってこの場所を――」

 よく考えたらわかることだろう。

 彼女には常識外れな力がある。

 その力を使えば容易に俺の居場所は割り当てられるか。

「そんなのあなたの情報が詰まったこの本から意思を読み取る魔法を使用してあなたの居場所を特定しました。それはそうと、ひどい映像も見ました! そうです、あなた何と不浄な行いをしているんです! この本に向かってあ、あんな――」

「おっとー! その話はいまするなよー!」

 早いところ、こいつをどうにか移動させねばならないという焦りが出てくる。

 俺は手早く彼女を動かせそうな方法を探した。

 雄馬が目ざとく目を付けたのは本だった。

 後生大事に抱えた本というかエロマンガ。

(そういえば、今日は家からエロ小説持ってきていたっけ)

 切り札をオープンした。

「大人しく来てくれるならこいつを見せてやってもいいぞ」

 ピタリと抵抗していたイリューナがようやく足を止めた。

「な、なんですかその淫猥な絵柄が目立ちますが実に魅力的な書物は」

「淫猥ゆうな。コイツは日本の男女間についてを記した書物だ」

 イリューナの性格は一日で掴めるほどに熟知した。

 彼女はとんでもなく知識欲に飢えた獣だ。

 ならば、本という知識の塊ともなるものを提示すれば食いつくのは当たり前である。

「行きます。ですから、その書物を――」

 イリューナがようやく行く気になったとき、その前に二人のイケメン男子が道をふさいだ。

「おいおい、学校一の劣等生が知り合いだか何だか知らないけど彼女を独占しようとか納得いかねぇなぁ」

「自分の顔面偏差値を考えて行動しろっての! ギャハハハハ」


 まるで、漫画ではよくありがちなテンプレ的セリフを吐くイケメン二人。オレは呆れるように深くため息を零した。

 このような事態になればこの後の展開は目に見えているのもある。

「キャー! 嫌です! 私このような状況をこの本で見ました。確か、この後私は犯されるのでしょうか! 私はそんな破廉恥なこと望んではおりませんよ!」

 周囲がひそひそとその様子を見て男連中を卑猥な存在と決めつけるような噂話が飛び交いだした。

「て、てめぇ卑怯だぞ!」

「俺らに精神攻撃か! 女に言わせて自分は手も出さず女を連れ込もうってわけか!」

「ちげぇよ!」

「やっぱり、私犯されるんですね」

「もう、イリューナさんも黙っててくれないかなぁ!」

 もう、状況は一方的に悪くなる展開だった。

 イリューナの手を掴んで強引な逃亡を考えた。

「おい、逃がすかよ!」

 イケメンの一人が俺の腕をつかんだとき、イケメンどもの後ろから二人の女性たちがやってくるのが見えた。

 学園内でも有名な男女問わず大人気のミス楯宮の二人。

 イケメンがその拳を掲げて笑いを浮かべる。

「へへ、捕まえた。てめぇはこれでねむって――――ぶべへらぁ!」

 後ろから走ってきた女子の飛び蹴りがイケメンの一人を吹き飛ばし、見事に顔面から前のめりに地面へ顔をうずめに行った。

 一瞬でイケメンの意識はなくなった。

 俺は目を伏せって心の中で黙とうをささげる。

 そして、もう一人のイケメンは震えながら二人の美少女に目を向けてガクガクと震えていた。

「え……な、なんで……ミス楯宮の……」

 激しく動揺するイケメン男子ども。

「ちょっと、雄馬これはどういうこと!」

「ここは先生方に変わり、風紀委員の倉本が預かるっす。ほら、みんな散った散った」

 ミス楯宮と学園で評価されている学園のアイドルの二人。

 文武両道、眉目秀麗、学園ではこの二人に勝てる者はいない。

 幼馴染の笹美雪日とクラスメイトにして雪日の親友であり、学園でも信頼が熱く風紀委員という学園の治安を守る倉本明菜の登場に周囲も静寂へと向かって散っていく。

 イケメン男子どもも後から来た、風紀の数人へと連行されていく。

「雄馬、どうしてイリューナさんがここにいるのよ!」

「それは彼女に直接聞けよ……」

 本人は悪気がないと思っているらしく、かわいらしく小首をかしげている。

「ユッキー、その子は誰か聞いていいっすか?」

「あー、アキナ、この子は……」

 説明に悩んでいると、倉本さんが何かを察したかのようにため息をつくと向こう側に見える校舎を見て言う。

「とりあえず、場所を移すっすか?」

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