イリューナの苦悩
駄城家の中で黙々とイリューナは音声ガイド付きの広辞苑でこの世界,地球の日本語を習得に奮闘していた。もとより、容量は良いほうで、だいぶ『日本語』が熟知してきた。
イリューナは勉強意欲に駆られていく。
この日本語は一つの言葉で多くの意味を持ったりしている。
それらが興味をそそった。
だいぶ把握しきれた辺りで雄馬が読み聞かせてくれた漫画も一人で読めるにまで至っていた。
そこまでに至った時間は2時間程度。
元より、自分のいた世界でも他国の言語を習得するのにさほど時間をかけずに習得する頭脳を持っている。
イリューナには魔法という便利な力があるので習得力や頭脳を一時的に底上げして一瞬で物事を解読する力を発揮できる。
読んでいけばいくほどにこの世界のことが知りたくてたまらない。
大空を見上げて感嘆の吐息をこぼす。
「あらゆる国が存在しているといっていましたがこの広い空に多くの土地があるのですか。それに数々の娯楽が山のようにあるとは夢のようです」
開けた天井にイリューナは手をかざした。
「さすがに寒いですね」
直していいものかどうかはわからないが魔法によって修繕を施し始めた。
雄馬の部屋の天井はふさがり、元の綺麗なままになった。
落ち着いたように息を吐くと、目の前のパソコンに目が向かう。
イリューナは一度見ていたものもそのまま頭の中に記憶として保持できる能力も有しているために雄馬の操作を覚えていた。パソコンの起動からソフトを起動するまでも時間はかからない。
彼のやっていたことを頼りにあちこち触っていくと何かをポチリと押し込めた。
画面が点灯し、目をキラキラさせながらイリューナは椅子へ腰を下ろす。
「おおー! そうです、これをしてみたかったのですよ! これはどういう魔法なんでしょうか? 光の魔法? いいえ、雷?」
雄馬の行っていたことと同じように彼女は手元のマウスで操作する。
要領よく記憶している自分にはさほど苦にもならずキーボードまで打ち込み始めてディスプレイ画面表示される。
あらゆるアイコンに目が奪われ、覚えたての日本語で解読していく。
「『君に迫られたいオトメたちのゲーム』『モンスターパニック~ハーレムウハウハ俺の棒で貫くぜ』『ゆらめく心に突き動かされて、学園支配のハーレム王国』……なんでしょうか、このタイトルのゲームたち。妙に卑猥な感じがします」
その中でも無難なタイトルもあった。
『妖怪学園』という女の子のようなデザインのされたアイコンにマウスカーソルを移動させてイリューナはクリックした。
画面上にロゴ表示が出てきて、そうして、かわいらしい女の子のボイスが耳朶をうつ。
イリューナは突き動かされるように「はじめる」をクリックするのだった。
冒頭はとある町に住むいじめられっ子の平凡な少年のセリフから始まって行く。
ひょんなことからその少年が地のどん底に落ちている帰り道に猫を救い出す。
数日たったある日に猫は実は猫又と呼ばれる妖怪で主人公の少年の前に恩返しで美女の姿をして現れて自分が通う学園に招待を申し出た。
そして、話はどんどんと進むにつれて、少年は妖怪たちが通う学園でいろんな女の子と関わっていく。
その学園では少年はいろんなことを学ぶと同時に誰かと結ばれなきゃいけないという宿命を課せられていた。
「学園……」
イリューナは気になってしまった。
学園という存在。
朝に雄馬と雪日もその学園とやらに登校をしていたのを思い出す。
自分の世界にはなかった子供が勉学を行うための施設。
魅力的なものである。
イリューナのように知識に飢えた人には大変魅力的。
イリューナは天井を見上げて魔法を使用してふさぐ。
「これでよし」
この世界には戸締りという習慣があるのを漫画で理解した。
それにイリューナのような存在が外にいれば騒ぎになることもわかる。
ならば簡単な話だ。
(意識操作を行えば学園に行っても問題ありませんよね)
イリューナは一冊の本をもって雄馬の部屋を飛び出した。
その手に持っていたのは『いやらしい女の子の表紙』の雑誌であった。