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倉本明菜の気持ち

急ぎ学校へ向かったことが功をなし、遅刻せず無事学校へ到着した。

 教室に入るなりあくびが漏れた。

 隣でジト目で睨む雪日に慌てて平静を取り繕う。

「眠いんだから仕方ないだろう」

「だからって教室つくなりあくびは少しだらしない」

「無茶言うなよ……ふぁぁ~あ」

 教室内にある自分の座席へ座って、すぐに隣の席に雪日が腰を下ろす。

 その雪日に一人の少女が近づき、ドキリとする。

「おはようっす、ユッキー」

「あ、明菜おはよう」

「今日はいつもより遅かったっすね」

「え? そう」

「そうっすよ。まさか、朝から二人でなんかあったんすか?」

「なんもないわよー」

 隣の会話に聞き耳をたてつつドキドキしっぱなしだった。

 何しろ昨日のことがあっては正直に彼女と目が合わせづらい。

 倉本明菜が雪日へ質問する。

 ジッと見つめていたこちらの視線についに明菜は気づいた。

 その目と目が合うと素早くそらした。

「駄城、なんすか? きもいっすよ。あ、もしかして私に気があるんすか? うっわ、それは無理っす。ごめんなさい」

「誰も告白なんてしてねぇ!」

 好きや気のある一言すら言葉にしていないのになぜか自分は振られた。

 なんだろうか。

 どうでもいい女ではあっても振られてしまうというのは無性に悲しいぞ。

「よ、マイソウルブラザー」

「残念だね」

「つぎがあるさ」

「そうだどん、それはそうとワイの新しいコレクションを見るがいいドン」

「お前ら……」

 自分を勇気づけようと、親友たちが集まってくる。

 茶髪に気崩した制服姿、そして短足という低身長の男で実は低身長がネックな悩みの友人A、明石雄二(あかしゆうじ)

 眼鏡をかけていて実は目が悪くなく、ただの伊達眼鏡、頭髪はぼさぼさで不健康そうな顔をした男、インテリを装っているが実は超絶馬鹿の友人B、相川聡(あいかわさとし)

 あちこちアクセサリーをつけて髪を金髪に染めてチャラい感じをよそっているイキリ系男子、実は小心者の友人C、朝山太一(あさやまたいち)

 最後に大柄で肥満体質、糸目に丸刈り頭の如何にもデブという単語が似合う男子、実はその肥満体のほぼ筋肉という異常な体格をした友人D、寿修三(ことぶきしゅうぞう)

 このいつものメンバーが自分を支えてくれる大事な大事な親友であり自分のソウルブラザー。

「まぁ、そんな次は永遠にねぇけどな!」

 うん、前言撤回だ。

 こいつら、やっぱり悪友だ。

「おい、表へ出ろやユウジ!」

「お? やるかぁ? ヘタレ紳士!」

「うっせぇ! 短足!」

「あ?」

「ああん?」

 周囲の友人ズもヒートアップして喧嘩を仲裁するのとは真逆に煽る。

「オッシャーイケー!」

「俺、短足にオッズ懸ける」

「じゃあ、ワイはヘタレ紳士ドン」

 友人たちは自分の勇士ある喧嘩を他所に賭け事を始める始末。

 やはり、くそな悪友たちだぜ。

 当の自分は目の前に気迫る拳を頬に直撃を受けていた。

 くそ痛いが我慢が男だ。

「うぉらぁああ!」

 今度はこちらの拳を雄二へ撃ち込んだ矢先、その拳は横やりに入った一つの手で食い止められた。

「この馬鹿どもなにユッキーの近くで暴れてんすか? いや、それ以前に教室で暴れてるんじゃねぇっす! いい度胸っすよね?」

「アイタタタタタタッ! ちょっ、倉本さん拳が砕け――」

 ボキャッという音が響くと同時に腕を伝い激痛が走った。

「あぎゃぁあああああ!」

 友人たちは一目散に教室から逃げ出していく。

 当の自分は痛む拳を抑えながら泣きながら彼女へ懇願する。

「倉本さん、お願いですから離して下さぁあああい」

「だったら、二度と暴れんじゃねぇっすよ」

「はい、申し訳ないです」

 そして、傍でその一部始終を見ていた雪日は大仰にため息を零しながら友人へ懇願する。

「明菜、私気にしていないから許してあげて。ホラ、ユウマは保健室行くよ。もう、馬鹿なんだから」

 泣き崩れた俺に手を伸ばし、そのままその手を引き連れて雪日は保健室へ連れていこうとするが――

「いや、ウチが原因っすからウチが連れていくっすよ。雪日には迷惑をかけられないっす。それに、この馬鹿とは話したいことがあるんすよ」

「え? 話したいこと?」 

「はいっす」

 雪日に一方的に彼女は告げて、自分の手を引っ張り強引に保健室へ向かう。

 その時はそう思っていた。




 保健室へ連れて行ってくれるものかと思えば彼女は無言のまま、足先は屋上へ向かう。

「あ、あの、倉本さん保健室へ連れて行ってくれるんじゃないんですか? ねぇ、ちょっと」

「うっさいからついてくるっす」

 冷や汗がだらだらと流れる。

 もしや、自分はこの後止めを刺されて殺されるんじゃないかと嫌な予感がする。

 もう、逃げ出したいけれども雪日と同じ空手有段者の彼女に非力な引きこもり系インドア男子の自分が腕力で適うはずもない。

 抵抗もできぬままに連れてこられた屋上に放り込まれた。

 地面に転がって壊された拳を抑えながら畏怖堂々と仁王立ちする彼女を見上げる。

 まるで、彼女の姿は某アニメに出てくるキャラクター〇オウを思わせる。

「あ、あのなんすか?」

「単刀直入に聞くっす、ユッキーに手を出したっすか?」

「は?」

「だから、ユッキーに手を出したんじゃないっすよね?」

「手を出すってどういうことだよ?」

「だーかーら、ウチが昨日童貞だからとか言って焦った拍子にユッキーでそ、その………」

 彼女が言いたいことに察しがついて恥ずかさがこみあがる。

 全力で反論を口にしないとこのままでは彼女の中で雪日との間に良からぬ思想を抱き続けてしまう。

 それだけは避けねばならない。。

「それは絶対ない! たしかにアイツはかわいいけれども俺の通称知ってるだろ! そんな度胸ないから! つか、自覚あるなら昨日の言葉を不要に言ってんじゃねぇよ」

 この彼女はよくもそんな変態的な妄想がついたんだかは気にかかる。

 そもそも、今軽く自分の発言に傷ついた。

「だったら、なんでそんな目元にクマがあったりユッキーも眠そうなんすか! 本当は昨日はやりまくりだったんじゃないっすか!」

「バッ……、これはイリューナさんに朗読劇をしていたからでだな!」

「いりゅーな? 誰っすかそれ?」

「ギグッ」

 おもわず、失言をしてしまった。

 昨日の一件で召喚された少女、イリューナは異世界の少女でありエルフでそのようなことを真面目に彼女に話せるわけもない。

 それに話したところで馬鹿にされるだけだ。

 ともすれば――

「親戚の子だよ。ウチで預かることになって雪日に手伝ってもらって二人してその子の面倒を見ていたら寝不足になっただけだ。つか、倉本さん妄想たくましすぎだろ」

「何かいったっすか?」

「いえ、なんでもありません!」

 今のは失言が過ぎた。

 反省をする。

 でも、彼女が妄想たくましいのは本当だろう。

 過剰な想像をしすぎているような気がする。

「そもそも、どうしてそこまでアイツのことを気にすんだよ?別に倉本さんには関係ないことだろう」

「関係あるっす、親友っすから」

「親友だからって気にかけすぎだと思うけどね」

 と鼻で笑い飛ばしながら彼女の行動に物申すと側頭部に強い衝撃が走って視界が反転。

「ぶべっ」

 どうやら、蹴りを受けたようだ。

 やはり、ウチのクラスにいる二大暴力女のウチの首領格なだけある。

「なんか言ったら蹴り上げるっすからね」

「もう蹴ってるじゃねぇか!」

 頭部を抑えながらゆっくりと起き上がりつつ、彼女の顔を見てみる。

 どことなく照れた表情をしていた。

 まぁ、その彼女の表情を見るまでもなく察しがついた。

 明菜が雪日に対して思う感情が何かを。

「安心していいぞ、俺は雪日に手を出す気もない。そもそも、俺にとってもあいつは大事な幼馴染だ。あいつに何かあれば俺だってこの身を挺してでも守る」

「……信用していいんすよね?」

「忘れたのか? 俺はヘタレ紳士だぞ」

「でも、変態じゃないっすか」

「それは認めよう」

 彼女が拳を掲げ上げようとしている。

「ちょ、今のはノリだろ? 拳をもうやめてくれよ。さすがに次は死んじゃうから!」

「はぁー、だったら変なことを言うのをやめるっす」

「そっちこそ、アイツの身を案じているなら思いをぶつけたらどうだよ」

「はい?」

「気づいていないとでも思ってんのか? お前さ、アイツのこと――」

 腹部に強烈な衝撃。

 うん、今日一番の良い攻撃だ。

 意識が薄れそうだ。

「倉本さん、ひどくない?」

「何を言ってんすか! ウチは別に親友を思って気にしてるだけっす! 第一女同士では無理なんす。 そもそも、ウチよりもユッキーが好いてるのは……」

「は?」

「いいんす! ウチはユッキーの一番の親友でいいんすよ!」

「そうですか……ぐふ……それよりはよ保健室お願いします」

 そのお願いを口にしたとき、タイミングよく始業チャイムが鳴った。

「え、めんどくさいっす」

「ひどい……」

 ついに意識はこと切れた。

 そのあと1時限の授業は欠席扱いとなり目を覚ました時には保健室のベットの上で二時限目の授業の途中だった。

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