陰謀者たち
「何? 見失っただと? どういうことだ! 今すぐに魔力でも何でも使って奴らを探せ!」
神前町の中でも特に公共施設が多く隣接している地区の一つ、公共特区。
その特区内の神前区役所の最上階フロアの部屋から神前町を見下ろしながらスーツ姿の厳つい顔立ちをした男は携帯を乱暴に切り、後ろを振り返る。
「どうやら、君の出番のようだ」
「あ~、やっぱしそうなるってわけ」
「君が的確にくれた情報は大変役に立った。おかげで彼の動向を探ることもできた上に、彼の隠された能力を引き出しうる可能性も見いだせた。だが、あの馬鹿どもがミスを犯した」
「まぁ、それは痛いさね」
「そこでだ、君には普段通りに彼らに接触を図り対応を頼むぞ。君は重要な存在なのだ」
「でも、ボスさ、俺ちんより優秀な存在であるボスの子供たちは使わないんすか?」
ボスと称されるこの神前町の大物は目の前の工作員の部下を睨みつける。
工作員はにらまれたところで怖気づくことはなく逆にへらへらと笑い返した。
「なにさ? 俺ちん間違えたことを言うたさ?」
「君は知っているだろう。私の子供がへまをしたことを。よもや、人形を使い彼を連れ去ろうとした甘い行動。さらには自らの血の同胞に裏切られる始末だ」
「あはは、でもそれはボスも裏切られたってことさね」
「おい、立場が分かっていないのか?」
「すんません。で、その二人はまさかミスをしたから使えないとか?」
「その通りだ」
「いやいや、1度のミスくらいで使えない判断はないと思うさ。もう少し寛大な心で判断したらどうかと思うさ」
「君という男の堂々とした軽薄さにはもう何も言葉が出ないな。では、君はその二人に慈悲を与えろというのかね?」
「というか、あの二人を俺ちんの部下にしていいかって話さ」
「なに?」
「俺ちんもそろそろちょうどいい手ごまが欲しいなって思っていたところさ」
堂々とした軽薄さもここまでくると感服した。
工作員はよもや自らの上司の子供を自分の手ごまに加えさせろと進言してきた。
殺されても仕方ないような発言である。
だが、彼には殺されないという自負もあった。
「いいんじゃぁねぇか。第一にあのバカ兄妹はそういう方法でしか役に立つ方向性は見えねぇだろうぜ。特に兄貴のほうをどう生かすかってのも重要だなぁ、ケケッ」
「弓月くんいたのか」
「どうも、長官」
「その呼び方はやめるんだ、それで何をしに現れた?」
「ちょいとした報告だ。例の部下共が見失った連絡は来たかい?」
「ああ、先ほどな」
「それ、理由はあの馬鹿雄馬の奴が召喚者として放棄されたからだぜ」
「なに? では、あのエルフはどうした?」
「エルフは不思議なことにまだこの世界に健在だ。だが、襲撃の際に負傷してるだろうから今は床に出も伏せってるだろうよぉ」
「どういうことだ? 契約の切れた異世界人はその体が自然消滅されるはずだと記憶しているが……」
「ああ、それな。アタイの人形が認識したんだがどうやらコイツを持っていたようだぜ」
弓月はボスのデスクの上にガシャンとした音を立てて放り投げる。
それを目にしたボスは声を震わせた。
「こ、これは! 断罪の刀」
「そうだぜ、あの笹美の娘は異世界の魔具を持っていやがった。コイツで切れれば霊的パスは遮断される。同時にあのエルフも消滅することなく魔具で斬られたわけだから自分の魔力がすべてなくなるわけではない」
「召喚者と召喚されし者は霊的パスで繋がり、その繋がりを絶つことはできないと言われているが、実際は断つことはできるんでしたっけさね。その繋がりを絶つことでそれは異世界人が消えてしまうという危険性があるから断つことはできないと流布された偽の伝承って記憶してるけど」
「なんだい、ガキいたのか」
「いましたって……。それで断罪の刀ってそんなにすごいもんなのかいさ?」
「すごいぜ。なにせ、コイツは異世界の扉でさえ、斬る」
「へぇーそりゃぁすごいさ。そんで、召喚者と召喚されしもののパスが斬れたからって探索不能になるのはやっぱりそのパスを探知していたからでしたっけ?」
「ガキのわりにしっかりとお勉強熱心だねぇ。普段はちげえってのに」
弓月の目が工作員の男を咎めるように睨み、その刀に手を触れた。
だが、ボスがその手に重ねるように手を置いた。
「彼を殺すことは許さん」
「冗談だぜ長官」
「君の冗談は信用ならんのだ。先の話が事実だとすれば通常の探知では彼らを探せぬということか。では、どう対応する?」
「そこはアタイとそこのガキで任せてくれって話だぜ」
弓月はそう言いながら含み笑いを見せた。