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朝の食卓は騒動から始まる

 朝を知らせる鳥の鳴き声が吹き抜けた天井から聞こえてくる。

 疲れ切ってしょぼしょぼになった目やパソコンの画面に映りこむげっそりとクマが出来上がった眼で天井を見ながら思う。

 そういえば、上は直してなかったなぁ。

 そもそもどうしてこうなったんだっけ。

 そういえば、雪日はどうしたのだったか。

 モノふけりながら、手にした一冊の漫画を見落とした。

 傍らでは――

「さぁ、続きはどうなるんです!」

「続きは続きは……」

 うつらうつらとするが隣で過剰に興奮したイリューナにゆすられる。

「もう! 早く読み聞かせなさい!」

「ぎゃぶるるる!」

 身体に走る電撃。

 彼女による放電の攻撃が刺激となり寝かせようとしない。

 あの交渉の結果のあと、彼女がこの場に居座ることを結論となったがよかったがどういう経緯だったか、彼女に漫画の読み聞かせを始めていた。

 読み聞かせからすでに何時間か経過していた。

 読み聞かせ相手のイリューナはすごくのめり込んでしまった。

 エルフとは睡眠をあまり必要としない種族らしく夕方のわずかな時間の睡眠で事足りるらしかった。

 結果として彼女は夜間の読書会が彼女には良い娯楽となって雄馬へ続きを過剰に進めていた。

 雄馬が寝ようものなら自らの欲を優先して雄馬に続きをせがみ電撃を浴びせる始末。

 そうとうに厄介だった。

「続きを読んでください!」

「ぎゃぁああああ!」

 身体に膨大な電流が走り、激痛は絶叫となる。

「ん……何……? もう……あ……さ?」

 すぐに寝落ちしてしまった雪日がこちらを見て首をかしげてくる。

 すごく、死んだ顔をした自分と生き生きとしたイリューナ。

 対照的な二人を見て、何を思ったのか顔を真っ赤にする。

「雄馬……あなたという人は……」

「え」

「まさか、イリューナを誘惑して……それでエッチな……」

「ちょっと、なんで拳構えてんの!? おまっ、さっきまでのこと忘れ……ちょ――」

「せゃああああ!」

「ぎゃああああああ!」

 彼女の拳が顔面を直撃したのだと痛みで理解した。

 痛みは全神経に危険信号を促し、体は徐々に睡眠不足に伴い、体力は失われていき意識は闇の中へ沈んでいく。

 やっと睡眠がとれたがそれは『気絶』ということで眠りにつく。




「誠に申し訳ありませんでした!」

「いや、いいさ。うん……ふぁぁあ」

「まさか、イリューナさんが夜間体質だったなんてね。それに、すごく好奇心が高く読書家だったとは……ふぁぁあ。まだ、眠いわ」

 ダイニングテーブルに雄馬にその向かいにイリューナ、雪日という席位置で座り、朝食をしながら話をしていた。

 昨日はあの二人に迫れた結果、彼女はこの駄城家に居座るという結論についた。

 さらに、当たり前のように朝食を同じように囲う雪日もしばらく住むことになった。

 雄馬としてはハーレム生活万歳だが正直雪日は邪魔だと思っているが、雪日もイリューナという女性が雄馬と居座ることは抵抗を感じているのでそこは断固として譲らなかった。イリューナも雪日は怖いが同性が一人いてくれたほうが安心するのも一つの結論であった。

 だからこそ、この形で収まったのは良かったが、その交渉の後だった。

 彼女がたまたま見つけてしまったこの世界の娯楽である漫画本。

 彼女はさっそく読んでくれと頼んだのだ。

 しぶしぶ1巻だけなら30分程度ですむと思っていた思っていたのだが――

「あれから、まさか数時間もかかる朗読劇をやらされるとはな」

 合計で何十冊の朗読をしたのかはわからない。

 途中途中、雪日にも変わって読んでもらうことをしたが彼女は12時を回った段階でダウンした。

 結果、雄馬だけの朗読劇だった。

 これが話の中のことについて。

 イリューナは好奇心が強いうえに読書家だけでならず、特に夜は勉強に励むことが常であるということだった。

 なので、イリューナにとっては夜は活発的活動を行うのだという。

 それに付き合わされればあまり睡眠をとれず、とったのも気絶でわずか1時間。

 1時間しか睡眠をとらなかったのもこれからある場所に行かねばならないからだ。

 自分ら二人の服装を見てイリューナが怪訝な表情をしていた。

「どうかしたかイリューナさん」

「いえ、お二人のその格好はもしや、学校とやらの服装ですか?」

「ああ、そうだが……ってさっそく漫画の知識が生かされてるな」

「はい! あの作品とても面白いものです! あのような書籍がまさか遊びのための本だとはとても思えません! 大変に面白く私にはためになるいい作品です!」

「そこまで評価するなら作者はうれしいだろうな」

 よっぽど気に入ったのかイリューナは熱を入れて『エルフの指輪物語』を評価する。

 『エルフの指輪物語』は自分がイリューナに読み聞かせていた漫画。

 人間の世界に突如として呼び出されたエルフはこの世界に呼び出した少年に世界へ戻すように言うが戻す方法がわからずに人間世界で戻る方法を探し長い時を過ごしていくうちに少年と恋をしていくというストーリーだ。

「特にあのヒロインはすごくわかっています! 知的で勇敢さがまた素晴らしい! ただ、あのいけ好かない主人公に惚れるのは納得いきません。惚れるのならそうですね、主人公の幼馴染の人ですか」

「いや、そいつ同性だろう。何言ってんの?」

「え? 同性とはこの世界は婚姻を結ばないんですか?」

「いやいや、国によってはあるけどこの世界のこの国ではないかな」

「国? もしや、この世界は複数の国が存在しているんですか?」

「そうだけど……」

 彼女の好奇心に火が付いたのがはっきりと分かった。

 彼女の顔が尋常じゃないくらいに輝いている。

 ずいっと顔を寄せてくる。

 それを見て雪日が「ちょっ」と声を出すがイリューナは構わずどんどん顔を近づけていく。

「いったい幾つ国があるんですか! 国によっては種族も違うんでしょうか? もしや言葉も違ったり? 能力も違ったりしますか?」

「ちょちょ、落ち着けって」

 男としての自分は恥ずかしくなった。

 だって、童貞だもん。

 顔は赤くなっているに違いない。そのテレを隠すように左手で顔を隠し、右手で彼女の肩を押してすこし突き放す。

 テーブルに手をついて乗り越えてくるほどだからおもわず圧倒されてしまった。

 咳ばらいをしながら落ち着きをはらう。

「国は全部で196ヵ国ある。国によって種族というか人種の違いはもちろんあったりする。言葉も違う。能力ってのはないよ。そもそも、話したようにこの世界には魔法という概念は存在しないんだ」

「なるほど、興味深いです!」

「まぁ、俺も世界の歴史が得意なわけじゃないから国の数は正直ただしいかどうかはわからん。ちなみにここは日本って国だぞ」

「日本というのがここの今いる場所の名称なのですか?」

「いや、ここは日本の神前町ってところになる。まぁ、そういう場所や地形の詳しい内容はまず文字を覚えて、自分で本を読んで理解したほうが早いな」

「というか、学校にでも行ければいいのよね」

 何気ない自分の言葉に雪日が言葉を重ねて進言する。

 それを聞いたイリューナがまたしても反応する。

「そうです! 学校とはいろんなことを学ぶべき場所なんですよね! 私もぜひ通いたいです!」

「いや、それは……」

「どうしたんですか?」

「イリューナ、それは無理なのよ」

「え」

 心底ショック受けた表情をしているのをみるだけで心が痛む。

 彼女を通わせるには手続きや戸籍情報がいるわけでそれらを持たない彼女はいわば不審人物扱いで警察に捕まってもおかしくないのだ。

 そんな人物が学校へ通えるはずもない。

「どうしてですか!」

「いろいろと個人の情報が必要なのよ。この世界の住人である証とかね」

「それはどこで手に入るんですか!」

「手に入るというか……うーん」

 学生の身分であるので戸籍の登録なんてことをどうすればいいのかなどよく知らない。

 そもそも、異世界人が戸籍登録できるのであろうか。

「市役所にいけば登録できるかな雄馬」

「俺に聞くなよ。しかし、保護責任者とかいろいろありそうだよな。それに彼女見た目からしてもう異世界人じゃん。なんか、言われそうだし」

「だよね」

 互いにうなってしまう。

 結論から思えば、無理に等しいかもしれない。

「学校通えないんですか?」

「そうだな……。申し訳ないけど」

「でも、お二人はこれから学校行くんですよね?」

「ああ、そうか。イリューナさんを連れてくわけにもいかないからここで待ってもらうしかない」

「………そうですか」

「そう、がっかりした顔しないでくれ。こればっかりは難しい。学校通いたい気持ちがわかるけどさ」

 彼女の好奇心の意欲はよほど強いらしい。

 どんだけ、学校行きたかったんだよ。

 あまり言っても楽しいとも思えるような場所ではない。

 特に自分という人間は学業なんて大嫌いな人種である。

 学園でも成績は下から数えたほうが早いレベルの馬鹿だ。

「――って雄馬、話ている間にもう時間よ!」

「え? うっわ! やべぇ! クッソ眠いのに!」

「急いで!」

 二人して慌てて玄関まで向かう。

 イリューナに「そうだ」と一冊の本を手渡した。

「これ、俺の母さんが小さいとき使ってた音声ガイド付きの日本語学習本、あったから読んでみるといいよ!」

「雄馬、早く!」

「ああ、今行く! じゃあ、なんかごめん! とにかく留守番よろしく!」

 そういって家を出た。

 残された彼女は大丈夫だと信じて。

 だが、この後に衝撃を受ける結末を迎えようとは思わなかった。

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