明石雄二 後編
「とりあえず、座るっしょ。彼女なら部屋で安静に寝かせておけば問題ないっしょ」
「ありがとう明石」
中学時代からの仲の良い友人でもある明石雄二の家に来たのは初めてのことだった。
2LDKの高層マンションに彼は一人で住んでいるようだった。
このとんでもなく広い部屋に一人とはいささか余りある様に感じつつ、ゆったりとソファへと座る。
長年のつきあいでもあったけれども彼が一人で暮らしていることすら知らなかった。
あまり自分のことをお互いに語らない。それが暗黙の信条で俺と明石雄二は友達付き合いをしていたように思っていた。
今日、初めて彼がお金持ちの坊ちゃんであったことに驚いてしまう。
「お前って金持ちだったんだな」
「なんでっしょ?」
「いや、だってこんなに広くていいマンションに一人暮らしだろう?」
「ここは親が勝手に決めただけの住処っしょ。オレ自身は使わない部屋がありすぎて困ってるっしょ」
「部屋があまる気持ちはわからんでもないけど……。俺も親が残した家に暮らして部屋を余らせてる身分だから」
「それよりも何も聞かずに俺とイリューナを泊めさせてサンキューな」
「そのことについてちょっとオレ自身からも話すことがあるっしょ」
「なんだよ突然……。あ、もしかしてあの女についてやっぱり気になるとかか」
ちょっとふざけてみた態度で言葉をかけてみたが明石は無言で真剣な表情をしだした。
まったくらしくない。
いつものように軽い感じののりがない。
「雄馬はついに奴らに狙われてることになってる感じなんしょ?」
「おまえ……何か知っているのか?」
おもわず席を立ちあがり緊迫したように明石を見下ろす。
「落ち着くっしょ。オレは敵じゃない。味方っしょ」
長年の友人の言葉を少しでも信用しようと思いゆっくりと腰を下ろした。
明石雄二が何を知っているのかを聞きたい。
その思いがひたすらに感情任せに口から出かけたその不意を突くように明石が一言いう。
「オレ自身はこの街で雄馬の親に観測を任せるよう言い渡された監察者の一人っしょ」
「監察者……そのこと雪日も言っていた。なんなんだよ監察者って? そもそも、親に言い渡された? それってどういうことなんだよ?」
「まずは落ち着くっしょ。すべてを説明をするっしょ」
明石はゆっくりと一枚のディスクをテレビの下にある戸棚から引き出してきた。
それは何かの映像が記録されているのか。
「これにすべての真実が入ってるっしょ。そして、雄馬が覚えてない過去の記憶も」
明石はディスクをデッキに入れて再生ボタンを押した。