明石雄二 前編
閑話休題のような話です。
雪日との出会いは至って普通のように色濃く記憶に残っている。
小さい頃に遊んでいた公園。そこにはいた近所の同い年くらいの女の子。
子供だったから、公園に居れば自ずと集団的になって遊んでいく。
その女の子ともまたそんな感じの始まりだった。
最初は彼女はおとなしい女の子であったのを覚えている。
逆に俺はうるさくて鬱陶しい少年であった。
当時は嫌われてもいた。何度も何度も声をかけて遊びに巻き込んでそのうちに仲良くなって親しみを感じ口をきいてくれるようになった。
なんだか、その記憶は本当に正しいのか。
今はあの写真を見てからその記憶に靄が掛かって曖昧になっていた。
「くそっ」
イリューナを背負いながら人通りの多い町中を歩いていく。
行き交う人々の注目が集まる。
「警察に頼ることもできねぇよな」
内容がないようなだけに遠目に見えた交番を前にしても足は止まる。
大仰にため息をつくと足先は交番を通り過ぎて歩いていく。
行き先をさまよいながら歩き続けて悩んだ。
終着のない旅を続けている感覚。
これだけの人が多い場所であるのならば狙われる危険性も減ると予想して町中にいるけれども足はそろそろ限界に近い。
どこかで休める場所を早い所見つけたい気持ちが先走った。
友達にかくまうのを頼みもしづらい。
「あのバカどもにも頼めないよな」
とも感じて考えていた時、車道を走っていた原付が一台自分たちの傍で停車した。
「おいおい、何してるっしょユウマ」
「明石?」
原付の運転手は明石雄二だった。
ヘルメットから覗く馬鹿っぽい面はわすれようもない悪友の顔。
俺とその背中に背負うイリューナを見て何かを思案した様子を見せる。
「なんか知らないけど、オレになんかできることある?」
「あ……いや……」
「遠慮せず言うっしょ。ちょうど、ウチがこの近くにあるから来るといいっしょ」
「え」
「とりあえず、ついてくるっしょ」
明石は原付を手で押し始めて自分の家へと案内を始めた。




