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対談

 脳天が割れるように痛い。

 ほんの数分ほど前にかかと落としを食らったばかりの頭を押さえながら雄馬は正座をしていた。

 目の前には不満そうに唇を引き結び、睥睨する一人の少女。

 雄馬は仕方なく事情を説明した。

 どういう経緯でエルフの少女、イリューナとあのような状態へ至ったのか。

 それを聞いたとき、雪日は怒りに肩を震わせて雄馬に正座を強いた。

 結果として、雪日は大仰にため息をついた。

「その話が事実だとして、彼女を襲おうとか考えてないでしょうね?」

「えーと」

「まさか、もう!」

「まだ手は出してない!」

「まだぁあ?」

「違います! 手を出すつもりはございません!」

 必死で弁明をするが、彼女の眼は決して信用していない。

 日頃の行いを鑑みれば疑われても文句は言えない。

 特に話をしたときに、かいつまんでとはいえ、召喚をした愚行の理由は話をしていないのだ。

「ねぇ、召喚をしようと思った理由を聞いてなかったけどなんで?」

「へ? そ、そんなこと今はどうだっていいじゃないか」

「よくないわ。雄馬が異世界の人に大きな迷惑をかけたんだから雄馬の監督責任者として召喚理由を知る義務がある。その理由に対して私も相応の処遇を考えて彼女への謝罪も考えないと」

「そんなの、俺がしたからいいんだよ。それに彼女の今後のこともしっかりと話し合ったしさ」

「今後のことってどうするつもりよ」

「この世界のことをまずは学んでいこうって! 彼女元いた世界に帰りたいみたいなんだ」

「はぁ? この世界のことを学んでどうしても世界に帰る理由に繋がるのよ」

「それは、あるじゃんか。漫画やアニメとかではそういう魔法とかの論理が。何かヒントがあるかもしれないじゃん。それに探す間にもいろんな人と接触して話す機会もあるしこの世界でのいろんな知識を持っておくに越したことはないじゃないかなぁーと」

 必死な説明に彼女は眉をひそめた。

 アニメや漫画などには多くのファンタジーに関連した概要を元に設定した物語が多くある。

 特にその中には召喚とか転生とか世界を行き来する話なんて存在している。

 もしも、それらの中に『イストラ』の魔法に関連した何かがあれば彼女の手助けになることは間違いないだろう。

 だが、考えにどこか納得いかない様子の幼馴染の反応。

「雪日?」

「雄馬の言い分は分かる。だけどね、それっていつになるの? 彼女だって早いところ帰りたいんじゃない?」

「それは……」

「確かに一番妥当な選択肢かもしれない。でも、より早い解決方法は雄馬の見たそのサイトってのを探してそこから得られることを探すことじゃないの?」

「そのことなんだけど」

「なに?」

「それがさぁ、サイトがないんだよ」

「はい?」

 雪日がやってくる直前に自信が見たサイトを捜索したこと、そのサイトがなくなっていたことを話す。

「なんで先にそのことを言わないのよ」

「だって、聞かれなかったし」

「あのねぇ! あー、もう」

「うっ………」

 言い合いをしていると、イリューナがゆっくりと起き上がり始めた。

「イリューナさん、目を覚ましたのね。よかった」

「う……ん? あなたは……」

「私はこの馬鹿の友人の笹美雪日よ」

「ゆうじん……」

 まだ寝ぼけた表情をしている。

 うつらうつらとした彼女はそっと、雪日の首に腕を回す。

 すると、その唇に自らの唇を重ね合わせた。

「ンッ!?」

 近くでその光景を目撃して、おもわず食い入るように見つめた。

 二人の間で濃厚なキスが交わされる。

 舌と舌が絡まり合い、イリューナは雪日の舌を貪るように吸いつくしていく。

 彼女の瞳は陶酔しきっていて頬を紅潮させていた。

 唾が糸を引いて唇を離すとイリューナは口元をぬぐいぱっちりと恍惚とした表情が平常な顔つきになっていく。

 吸われた雪日は身体を痙攣させてそのまま床に横へ倒れ伏した。

「あれ……私……ん?」

 イリューナは今自分がした行いをまるで理解していないのか。

 小首をかしげて足元に倒れている雪日を目撃して声を上げた。

「も、申し訳ありません! 見ず知らずの方! 私ったらまた……」

 沈痛な面持ちをしながら平謝りする彼女を見て雄馬は呆気にとられた。

「やべぇ、生のレズキスを見ちまったぜ。ごちそうさまでした」

 感謝を込めて雪日に頭を下げた。

「何がごちそうさまよ!」

「ぐひゃぁ!」

 顔を雪日の手がつかむ。

 徐々に力が増していき、顔面の形がゆがんでいくほどにいたい。

「イタタタタタタタッ」

 キッと頭蓋を握りしめながら、雪日がエルフの少女を鋭く睨みつけてる。

「あなたもあなたよ! 私の大事なファーストキスどうしてくれんのよぉおおおお!」

 骨が砕ける音が聞こえた。

 溜まらず絶叫した。


 


 ―――数分後、顔を抑えながら目の前の二人の少女と改めて対談する。

 イリューナはビクビクと先ほど見た恐怖の光景が忘れられないのか怯えていた。

 怯えているイリューナを見て雪日はすごく困った顔をする。

「あの、イリューナさんそんなに怯えないでもらえる? 私は何もしないわよ」

「ひっ! ごめんなさいごめんなさいです。魔力を摂取するためにキスしてしまい申し訳ございませんでした! もう、私は何もしませんので許してください」

「………雄馬、あなたのせいよ」

「俺は悪くないぞ。雪日がゴリラだからわるいんだ」

「あらー? もう一度やられたいって聞こえたわよー?」

「俺が悪かったです!」

 もはや上下関係の構図がはっきりしていた。

 この場で主導権を一番握っているのは雪日だろう。

 だが、雪日にも甘い部分はある。

「くそぉ……俺だって好きでこんなことしたわけじゃないんだよぉ……」

「雄馬……」

 ウソ泣きをしながら情に訴える。

 案の定、雪日は心を揺さぶられたように動揺して唇を尖らせた。

「私もやりすぎたわ。わるかったわよ。もう、怒ってないからっていうとでも思った?」

 あれぇー、どうやら失敗したぞー。

 俺の尻を蹴りながら雪日がイリューナのほうへ目を向けた。

「そうそう、そういえば、まだ聞いてなかったわ。ねぇ、イリューナさんでしたっけ? あなたこの馬鹿にどういう経緯で呼ばれたのか聞いてもいい?」

「ちょ! まっ――」

 抑止の声は遅かった。

「それは彼が自らの性欲の発散のために私を呼んだと……。私も襲われかけて……うぅぅ」

「ちょっと! 今泣く!?」

「雄馬……」

 厳かな声が耳に聞こえる。

 ゆっくりと、背後を振り返ると手を掲げ上げる恐ろしい般若の雪日様。

「あなたの不純な権化を断ち切ってあげるわ!」

 彼女の眼は雄馬の性欲の権化の一部を的確にとらえている。

 慌ててその場から逃げる。

「あ、こらまてえええ!」

「ぐぉおおおおおお!」

 命が危ない危険な鬼ごっこ。

 しばらくして、お互いにつかれてきたところで、雪日があきらめた。

 イリューナの今後についての相談を話し合うことに着手を始めた。

 イリューナが今後、この世界を学ぶことはもちろん決定事項な上でもう一つ決めねばならぬことはある。

 それは彼女の生活だ。

「生活ですか?」

「生活拠点をどうするかだ。それに着替えとかもいるだろう。その格好じゃあ目立つだろうし」

 今の彼女の格好は西洋民族っぽいドレス衣装を着用している。

 この日本の街中で非常に目立つ格好だ。

 指摘した言葉に対して彼女は首をかしげる。

「生活拠点はここではだめなのでしょうか?」

「いや、駄目じゃないよ。ここでいいなら!」

 てっきり彼女は別の場所へ行くものだと思っていたが予想外の答えに歓喜する。

 それに隣にいた雪日が蹴り飛ばしてきた。

「イリューナさん! よく考えてコイツは変態よ! どうせなら、私の元でもいいのよ!」

「ひっ!」

 雪日がイリューナに快くしようと声を掛けたがイリューナは未だに雪日への恐怖心がぬぐえず怯えた表情で彼女から距離をとった。

 ざまぁ、ないな。

 あれほどのことやってればそれは怖がられるさ。

「ごめんなさい、ごめんなさい! 私は自分の身は自分で守れますしそれにここは私が呼ばれた場所でもあるので調べたいことならできればここで死体といいますか、正直ここがいいんです! すみません!」

「こ、こわがらないで。なにもしないわ! ね?」

「ひぃいい」

 雪日を過剰におびえるイリューナの図を見ておもわず笑う。

 それに対してギロリと鬼の雪日の眼光がこちらを射抜いた。

 さすがに自粛しよう。

「そ、それに名前も知らない……人のところにお世話になるのも……」

「名前? さっき教えたと思うんだけど、笹美雪日よ。さっき言ったんだけど聞いてない?」

「も、申し訳ありません! その先ほどは寝ぼけていましたので!」

「そう、おびえないで。なにもしないわ。それより、生活拠点を本当にここにしていいの?」

「はい、ここでお願いしたく思います。言いました通り、何かここにはあちらの世界とこちらの世界を結ぶ境界がある可能性を感じますので研究拠点にもしたく思いますので」

 イリューナの説明に雪日は納得したように低くうなった。

 彼女の言い分は筋の通る立派な主張だ。

 召喚元である場所の傍にいたいというのはわかる。

 それに世界の戻る道につながる可能性が確かに大きいのも召喚された場所であるというのもありうる話だ。

 もしかすれば、またここから帰る道もあるかもしれないのだ。

 ここで、何かしらの研究や調査を行うのが妥当。

「言い分はわかるけど、何度でもいうけどこいつは変態よイリューナさん。あなたの身が心配だわ」

「わかっております。ちゃんと、襲われたときは魔法で撃退しますので大丈夫です」

「そうはいうけど……」

 彼女が天井を見上げる。

 雪日はそれで大体の事情を察したようにため息をつく。

 それから、睨みつけてくる。

 思わずビクッとして一歩距離を雪日からおき、土下座しながら弁明を口にする。

「あれはそのさ……かわいい女の子がいたら襲いたくなっちゃうじゃん!」

 こちらの言葉を聞いた雪日の盛大なため息。

 大きく彼女は息を吸い込んだ。

「あなたって本当にそうよね。決めたわ私もここに住む」

 唐突に雪日は腹積もりを決め込んだように宣言する。

「は? いやいや、ちょっと待てよ! どうしてそうなるんだよ!」

「どうしても何もないでしょ! 雄馬と二人きりなんて彼女の貞操が心配だわ」

「雪日は知らないかもだけどな、イリューナさんはそんな弱い人じゃないぞ! 逆に俺はのされたんだ!」

「自業自得じゃない! イリューナさんが弱い人じゃなくっても住むわよ」

「そ、そんな……」

 もしも、雪日がここに住んだことを考えた。

 部屋に多くの隠された秘蔵コレクションが雪日に見つかるケースが大きく出てしまう。

 それに男のストレス発散の日課ができなくなることも考えた。

(あわよくばエルフ少女との同棲の中で恋へとの発展が駄目になる!)

 幼馴染という邪魔な存在がどれだけ自分へ不利益となるのかあらゆることが想定出来た。

「なにか不満そうね。やっぱりなにか邪な考えを起こしていたわね」

「な、なんもかんがえてねぇよ!」

「じゃあ、いいわよね。私も一緒に住んで」

「お、おまえおばさんたちになんて言うんだよ」

「雄馬と私の関係は今更じゃない。しばらく雄馬のところで暮らすからなんて言っても母さんはなんも言わないわよ」

「うぐぐっ」

 ますます、自分への不利な方向へと事が運び、これ以上の言葉を放棄する。

 もう、勝手にしてくれよ。

「えっと、ユキヒさまもこちらに?」

「ええ」

「そ、そうですか」

 イリューナの表情はまだ怯えはまだ続いている。

 これ見よがしと含み笑いをしてやる。

「イリューナさんも怖いだろ? こんなゴリラ女が一緒じゃ不安だよな!」

「誰がゴリラ女よ! あなたみたいな変態より同性の私と一緒のほうが安心よね?」

 二人して最後に彼女へ問いかけるように名前を呼ぶ。

 彼女は圧倒されてしまってか、口をつぐんだ。

「え、私は……」


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