寿修三の変化 後編
ランジェリーショップから離れた俺はそそくさとある男の後を追跡し始めていた。
「見つけた。アイツに彼女なんてありえねぇ」
目の前には大柄な体格の男が一人の女と腕を組んで歩いている光景。
自分の記憶が確かであるのならば彼のような男が彼女がいたなどと言う話を聞いたことは全くもってない。
それなので、目の前の光景が全くもって信じられずでいる。
彼らのことを追跡していくが仲睦まじい姿で買い物を楽しむ光景を見るたびにその関係性は確実なものへと分かっていく。
「明らかだ……ありえねぇ、あんたブタ野郎にそんな……」
自分と同郷の存在と決して疑わずに思っていた相手に裏切られた。
そんな気分が現実として押し寄せるとがっくりと腰を落とす。
「あの野郎……。少し痛い目を見せてやるか」
そう思うと、寿はどこかの店の中に入っていく。
「は? カラオケ店? あいつ歌とか大嫌いだったじゃん」
入っていった店はカラオケ店。
カップル中のデートが遊ぶのに定番の一つとも思える場所。
個室で二人きりな状況にもなれるので何が起こってもおかしくはない。
「よもや……」
俺の頭の中で妄想は膨らんだ。
同時に吐き気を催す。
「くっそぉ、考えるんじゃなかったぜ」
彼らが受付を終えてすぐに部屋に向かった後に俺も即座に受付を行う。
寿がエレベーターに乗っていたのは確認済み。
(6階のフロアか)
奇跡的にも運よく、寿が割り当てられた部屋と同じフロア階層の部屋に自分もなった。
急いで6階へと向かう。
6階につくといくつもの部屋があり、廊下を歩きながら彼らの姿を探す。
一部屋ずつさりげなく扉のガラス窓越しから中を覗き込む。
「ここでもない、ここもちがう、コイツらも違うな」
5つの部屋を確認した後に6つ目の部屋でようやくそれらしき人物のいる部屋を見つけた。
中では何かを楽しそうに話す二人。
女性が何かを寿に渡すのが見えた。
「え……」
袋に入った白い粉上の物体。
それを開けて何かの紙の上で開封し始めた。
直感で分かる。
あれは駄目なやつだと。
「おい!」
おもわず部屋を開けて怒鳴りこむように入り込む。
驚いた様子の二人が俺の顔を見る。
「びっくりだどん」
「ちょっとぉ、誰? ここアタシらの部屋なんだけど」
二人の会話を無視して俺は寿が手にしていたものを弾いて飛ばす。
女の胸ぐらをつかんだ。
「てめぇ、女だからって容赦しねぇぞ。大事な友達を何闇の道に引き込んでんだ! 警察に突き出してやる!」
「ちょっとぉ! 離してよぉ!」
俺の怒りは頂点にまで達していた。
「寿、おまえもこんな女に――」
と抑止の言葉を投げかけようとしたときに、俺は衝撃で吹き飛ばされていた。
壁に背中を打ち付け、痛みと脳震盪が起こったのかぐらついた思考で目の前の光景がうまく定まらない。
「わいの彼女に何するんだドン!」
「寿……おまえに彼女がいたのは憎いけど祝福したい。でも、その女は危険だ。おまえが手にしてるのは明らかに人間としては駄目な奴だろう!」
寿の手に握ら手ているのは白い粉の物体。
「コレはただの薬だドン。人が生きていくために必要なものだドン」
「何を言ってんだ」
明らかに部屋に充満する異様なきつい匂い。
脳を溶かしてしまっていくかのようなふわふわした感覚に身が侵されていく。
それが白い粉が放つものだとわかる。
「あのさ、ぶっきー。この男誰?」
「わいの友達だドン」
「はぁ? 友達ぃ?」
女が堂々と禁煙のはずの部屋でタバコをふかす。
ずっと女の背中しか見えていなかったがだいぶ派手な格好をしている女性だった。
年も寿よりも2歳は年上。
年下好きの彼が好むような女性のタイプでもない。
「寿、おまえこんな女がタイプだったのか……」
その言葉に女がキレ、俺の腹を直情的任せに蹴り上げてきた。
「ぐぅ」
思わぬ強烈な一撃に腹を抑えてうずくまる。
「ぶっきー、しらけちゃったし別のところで楽しもう」
「そうだなドン」
「おい……寿……おまえそんなことでいいのか……」
「はぁ。なぁにいってんだドン。わいも成長しているんだドン。昔のわいとはもう違うんだドン」
「こと……ぶき……」
俺は充満する空気に当てられそのまま意識を失ったのだった。