エルフの少女 改稿版
エルフの美女が怪訝な顔つきで俺を見ている。それから、周囲に視線を送っていく。
まじか、マジなのかよ。
今目の前にいるのは紛れもなくこの現実ではありえないはずの存在がいる。
流れるような金色の髪、豊満でグラマラスなわがままボディ。
何よりもその妖艶な美貌。まさに神話や物語に出てくるエルフで間違いないといえる存在。
「いったいここはどこですか?」
「よしっ、よしっ、グッジョブネット!」
彼女が聞いてきた言葉など俺には関係なしに心の中が躍り上がった。
失敗するとか思っていたはずの魔術がまさかの成功だ。
これは社会的な革命である。
もう、彼女のことなど気にしていられるかって話だよ。
召喚に成功した喜びでもう、踊ってしまうぜ。
「ひゃっほぉおおい! エルフ、エルフ! よーし、さっそく童貞を捨てさせてもらいましょうか!」
目的を忘れちゃいけない。
さっさと服を脱いで、全裸へ。
イッツ〇ックスタイム。
エルフの少女へ手をワキワキさせながら急接近をしていく。
まずは胸から揉むべきだろう。
あの豊満で極上の柔らかさを誇っていそうな胸。
男ならば揉まずにはいられない性欲が駆り立てられる。
ふと、エルフの少女は突然の目の前にいる俺の変態行動に血の気を引いていた。
怯えているようだ。
(俺に気遣う余裕などない!)
かまわず、実行。
某怪盗アニメのような叫びをあげてダイブをする。
「へ、変態ぃいい!」
次の瞬間である彼女が右手を振りあげた。
身体に何か浮遊感が生まれ――あれ?
「ぎゃぁああああ!」
突如として体を突風が巻き上げて天井を突き破って空へ。
空に浮遊しながら落下地点を見下ろす。
あ、死んだ。
「童貞のまま死にたくなぁああああああ――へ?」
自室の床に叩きつけられる寸前で体は止まった。
そのまま、ゆっくりと身体は部屋の床へ。
倒れた自分の腹を片足で踏みにじりエルフの少女が軽蔑の眼差しで見下ろす。
あ、ご褒美かな?
「人間風情が私に不貞を働くとは万死に値しますが、今は緊急を要します。人間、ここはどこだか説明をしなさいっ」
「あ、あの説明の前に腹にある足をどけて――うほっ」
そのお願いは無碍にされる。
腹へ強く彼女は体重をかける。
息苦しさとMの性癖に拍車をかけてしまい、血流が一部分へ向かっていく。
「ともかく、ここがどこだか説明をしてください!」
「うへへへ」
「ひっ! 気持ち悪い顔をしてなんですか!」
彼女が顔を引きつらせていた。
今の自分がとんでもなくだらしのない顔をしているのは想像できる。
この快楽がそうさせてくるのだからしょうがない。
恐る恐る離れて行く彼女。
間合いを取った。
彼女がギョッとこっちを見た。
屹立した俺のオトコの部分。
「きゃぁあああああ!」
彼女のおみ足が強く股間を踏みつけ、天井へ手をかざした。
「ぎゃぁああああ!」
体を今度は電撃がほとばしった。
意識が薄れていき、ピクピクと体が痙攣する。
なんという至福だ……。
「お、おもわず……仕方ありません。ここはいろんなものであふれていますし何か手掛かりになるものでも探しましょう」
ゆっくりと彼女の背中を見つめながら俺は身体を起き上がらせていく。
このエルフにはちょっとお仕置きが必要であろう。
後ろからと襲いかかる一歩手前。
目に飛び込んだのはエルフの少女が部屋にある一冊の本を手に取って興味深く読んでいることだった。
その本は『THEエロマンガ』。
彼女の目にしているのはちょうど、幼女がモンスターの男に媚びをうるという物語のあるエロ展開。
「ノォオオオオ!」
男ならば女の子にエロ本を見られるという屈辱は大変に耐えられないものである。
彼女の顔はページをめくるごとに顔を真っ赤にしていた。
伸ばした手は遅く、エルフは怒りその本を手に握って燃やし尽くした。
「ギャぁあああああ! 俺のコレクションがぁああああ!」
「な、なんて破廉恥な本ですか! 子供にあのような真似をさせるなんてとんでもない。しかも謎の文字でなんて書いてあるのかはわかりませんが卑猥な絵だけで何が書いてあるかは察せますよ! ここはまさか、悪魔族の居城です? いや、しかし、悪魔族の中になぜ人間が? ともかく、あなたは死刑です!」
燃やされたエロ本の欠片をかき集めて俺は打ちひしがれる。
この時、当のエルフが背後で何かを行おうとしている気配があるが構うものか。
俺にとって命よりも大事なエロ本が燃やされたんだ。
冷静になってみると怒りがわいてきた。
「これはプレミアがついている貴重なエロマンガだったのに……くぅ……おい、エルフ!」
「なんですか人間? やっと説明をする気になりましたか?」
「俺は駄城雄馬だ! よくも俺の貴重なコレクションを燃やしてくれやがって! 絶対にその体に支払ってもらうからな!」
「俺のコレクション? あの本はあなたので? つまり、ここはあなたの部屋ですか?」
「だったらなんだ!」
「汚らわしいですね。やはり、人間は下等な生き物でしたね。殺します」
彼女の右手にはバチバチと電流が走り続けている。
このまま、放電させて自分を感電させるようだ。
だからといっても怒りは止まらない。
「さっきから、俺を馬鹿にしやがって! お前をここに呼び出した主になんたる態度だ! 普通はもっと従順なもんじゃないのかよ!」
「ここに呼び出した?」
「ああ、そうだ! お前を黒魔術で呼び出したんだ!」
「魔術で……」
彼女は部屋の床面を見て、目を大きく見開いた。
まるで、衝撃を受けているかのような様子。
「人間――いえ、ダジョウユウマといいましたか。ここはどこですか?」
「ここは俺の部屋で……」
「そうじゃありません! ここはイストラではないんですか!?」
「いすとら? なんだそれ?」
「ま、まさか……そんな……」
彼女はふらふらとなって床に座ったかと思えば、ガバッと立ち上がった。血走った眼で近づいてくる。
そして、こちらの胸ぐらをつかんだ。
「今すぐ私を帰してください! 私はエルフの村長の娘としてイストラを守っていく使命があるんです!」
「く、苦しい……戻せって……無茶を言うな……」
「帰してください!」
「俺はただ……ネットに書かれていた情報通りにあんたを呼び出しただけだ……戻す方法なんかわからない」
あるがままのことを伝えると彼女は泣きだしてしまった。
興奮はどこへやらか去ってしまい困ったように頭を掻いた。
********
しばらくして、彼女が落ち着き、お互いの素性やここがどこなのかをざっくりと説明をした。
それを聞いた異世界イストラという場所から呼び出しに応じた? エルフの少女、イリューナ・ミシェリィナはため息をこぼした。
「つまり、私はあなたのくだらない欲望を満たすためだけに呼び出されたわけですか。いい迷惑じゃないですか!」
「く、くだらなくなんかねぇよ! こちとら、必死なんだぞ! 童貞捨てたいんだよ!」
「『どうてい』というのは存じ上げませんが、それはつまりは先の行動から女と交じり合いたいということですよね? なんてくだらない欲望ですか! 私はそんなことのために召び出されたのですか! なんたる屈辱ですか!」
彼女、イリューナは心底悔しそうに顔を顰めて、俺が描いた魔法陣を注意深く観察している。
「この魔法陣はイストラで伝わる禁忌の召喚魔法に酷似しています。おおよそ、イストラ人である何者かがこちらの世界にある情報を流す魔法のようなもので伝えたのですね」
「なぁ、それよりさ俺の命令に従って……」
「あ? また焦がされたいのですか? 死にますか?」
「いえ、なんでもございません!」
彼女の眼はまさに鬼だった。
うん、躊躇なく焦がされるのが頭の中では想像できた。
これ以上性欲をぶつけるのは良そう。
いや、待て逆にご褒美もらえるからあり?
なんてくだらない思惑を思っていたら彼女の目が殺気立っている。
確実に命がなくなることになりそうだ。
控えよう。
「それよりも、いい加減に服を着たらどうなんですか!? いつまで、全裸で正座しているつもりですか! その汚らわしいもの引きちぎりますよ」
「ひぅ! やめて! その単語は今一番言っちゃいけない!」
股間が縮み上がる。
いそいそと彼女に命令されるがままに服を着用する。
あれ? おかしいぞ。これってどっちが召喚者かわからないな。
「ともかく、今すぐに私を帰る方法を探さなければなりませんね。そういえば、先ほど『ねっと』とかいうのを使用したといってましたね」
「あー、うん」
「なら、それを見せてください」
「え」
一瞬だけ、躊躇した。
なぜなら、ネットはいわゆるパソコンを使用した情報ツールだ。
パソコンはいわゆる男にとっては重要なものだし、特に俺のような変態にとってはパンドラの箱だ。
このパソコンの壁画は――
(やべぇ、あの壁画を見られたらこのエルフ次こそ俺を殺しかねない)
ポケットからの振動でハッと思い出す。
別にパソコンだけがネットを使用できるというわけではない。
もう一つあった。
携帯を取り出すと着信が雪日から一見来ていたが無視をして今は目先のことを重要視して行動をする。
「わかったよ」
さっそく携帯でネットを立ち上げた。
携帯電話も一種の情報端末機械だ。
これを用いればあらゆる情報を収集できる。
「それはなんですか?」
「携帯電話だよ。遠くの奴と話せたり、世界の地図を表記したり、世界中の情報を集めたりできる万能の情報通信端末。まぁ、わかりやすくいえば情報通信装置かな」
「??」
異世界人のエルフには理解できぬような言葉であった様子で彼女は眉間にしわを寄せて首をかしげていた。
「それで、ネットでどうするんだ?」
「それで、あなたが見たというものを見せてほしいんです。あなたはそれでこの魔法を会得したのですよね?」
「会得っていうか、それの通りに書き記したってだけだよ」
「書き記した?」
「ああ。このネットはいわば情報の集まりで本みたいな感覚想像してもらえればわかりやすいかな」
「本ッ!?」
なんだか、やけに先ほどよりも食いつきがすごい彼女の反応に驚く。
なにがそんなに彼女の琴線に触れたのだろう。
ネットでそのサイトに飛ぼうとしたとき、おかしなことにサイト情報は出てこなかった。
更新をかけても同じだ。
「あれぇ?」
「どうかしたんですか?」
「いや、出てこないんだ」
「はい?」
「俺が見たっていうサイトだ。それが全くでないんだよ」
俺の言葉に疑い深く、彼女はじっとこちらを見ている。
いやん、そんなに睨まれたら興奮しちゃう。
いかんいかん。
「疑うなよ。マジだって。こういっちゃなんだが俺は正直者だぜ? こんなことで嘘はつかねぇ!」
「どうでしょうか? 私が異世界人だというのをいいことに意味の分からない単語を並べ立てて私を帰らせないようとしていませんか? 己が欲のために」
めっちゃ信用度ないな。
それはそうだろう。先刻の一連があれば信用度もなくなる。
「言うておくけど、そんなことしねぇよ! そもそも、させてもらえないんじゃ意味ないしこっちだって帰ってもらうほうがいい。第一、力はそっちが上で無理やりそんなことしたら殺されるじゃん。それに、こちも魔術ができるなら仕切り直し手別の奴を呼び出すまでだ! 今度はサキュバスでも召喚して……うひひ」
エロい妄想がはかどる。
目の前のエルフよりはよっぽどのことがない限り拒絶されないことを祈る。
だが、その前に彼女を帰らせることなのだが、やはりあらゆるサイトを見てもそれらしいものは出てこなかった。
「あー、駄目だ! 全然出てこない!」
断念している間に彼女は部屋にある漫画などを勝手に読み漁っていた。
もはや、こちらに頼らず自分でこの部屋にあるものをあさって情報を得ようという魂胆なのだろう。
言語が読めないのに何を理解しようというのかがわからん。
そもそも、こうして会話をできているのが不思議である。
「あのさ、不思議に思ったんだけど」
「なんですか?」
「あんた字は読めないのに言葉は理解できているよな。これってどういうことだ?」
「そのことですか。それはあなたが行った魔法の力ですよ。召喚の魔法に付属する読解の力が働いているのでしょう。しかし、あくまでそれも一部のみ。つまりは相手の声や音としての認識はできるけれども、文字としての認識は阻害が生まれているのでしょうね」
なんとなく、頭の中には異世界召喚のテンプレが想像できた。
文字は読めないが言葉は理解できるということはどの物語にもあるあるだ。
「あれ? そうだ」
一冊の本を取り出した。
それはちょうど、今の自分とエルフの彼女の立場そっくりな漫画だ。
「なんですかそれは? 本のように見えますが」
「ああ、本だ。こいつは空想の物語を描いた本さ」
「空想の物語?」
「えっと、なんていうのかな。そっちには童話とか昔ばなしみたいなのはないのか?」
「昔から伝わる伝承みたいなものはありますが」
「そうそう、それそれ。そんなやつがこの世界には多くあってさ。そんな話の中にも魔法とか実在しているんだ。あくまで物語の中での話だけど」
「そういうことですか」
説明をしてようやく理解を示してくれた。
ほっとしながら話の続きをする。
「そうだ……、思ったんだけどさこういう漫画だと普通は魔力ってものがないと魔法は使用できない設定があるんだ。そっちの魔法はそういうのはないのか?」
根本的に自らが魔法を簡単に行えたなんて思ってはいない。
何かしらの要素があってこそ魔法ってのは実現するものだと思っていた。
漫画にもそういう設定が多く有り、魔力を持たないから魔法を使えないなんて設定もある。
もしも、その設定と同じならば普通の人間である俺が魔法を使えたということはおかしな話になるのだ。
召喚魔法も失敗するのをわかりきって試したのに成功してしまっているのには正直驚いているのだから。
「それは簡単です。どうやらあなたには魔力が微々たるものですが備わっています。私の知る話では私の世界イストラは古くからあらゆる世界へ飛ばされて帰ってこなくなったというイストラ人の存在の話を耳にします。おおよそ、推測ですがあなたはその者たちの子孫であったのでしょう。ですから、魔力を持っており流されていた召喚魔法を偶然にも知って試し、私を召喚したということではないでしょうか」
自分が異世界人の子孫と言われてもピンとは来ない。
でも、話の流れの中で納得はできる経緯は確かに存在している。
魔力を子孫だからわずかに持っていて召喚魔法によってこうしてイストラという異世界の出身である彼女を召喚出来たということ。
つまりは自分はすごいということではないのか。
「すみませんが、あなたが見たというその情報源をもう一度参照できますか?」
「あーいいけどさ、さっきも言ったがもう公開されていないんだ。何度見たところで無駄だぞ」
今度はパソコンでインターネットを立ち上げるためにおパソコンを起動した。
と、自分がなぜさきほど携帯でネットを使用したのかを思い出してだらだらと汗が噴き出す。
デスクトップ画面が立ち上がり、エルフが裸で身もだえる壁画がデカデカと表示された。
「…………一つ聞いていいでしょうか?」
「なんでしょうか?」
「これはなんですか? ずいぶんとすごいものだとは伝わりますが、それ以前にこの絵はなんですか?」
「…………これはそっちで言えば情報をあつめる魔法の本です。絵は表紙のようなものですね」
「………なるほど、『ひょうし』というのはつまりは絵画……。この世界の魔導書はみんなこのような卑猥なひょうしをしているのでしょうか?」
厳かな低い声で聴いてくる彼女が非常に怖い。
ビクビクとしながらもゆっくりと彼女へ返答をする。
「そ、そうです」
パソコンメーカー様、申し訳ございません。
自分の嘘でパソコンは卑猥な存在として異世界人に認識されます。
「そうですか……そうですか……」
バチバチと彼女の身体から電流が迸っていた。
「ちょちょちょ、待って! これは確かに卑猥な表紙をしているけれどもしっかりと情報を集めるものだって証明するから! ここで電気なんかやったらパソコン壊れるからやめて!」
「なら、はやく例のこの召喚魔法が乗っていたページを見せてください! 出せないならば壊しますよ!」
「見せます見せます! ――って乗っていないんだったぁあああ!」
「壊しましょう」
「待って待って! ほら、こういう感じで見れるんだ! さっきの携帯のようではあるけどこっちはマウスでクリックしたりキーボードで文字を入力して――」
慌てて雄馬は最初に検索したワードを打ち込み適当なサイトを開いた。
「これはっ!?」
非常に興味を持たれたように彼女が画面を食い入るように見つめた。
そして、俺の手からマウスをひったくりカチカチとあちこちをクリックしまくる。
「ちょちょ、落ち着いて! そんな乱暴にクリックした――あ!」
クリックした表紙に昨日オカズに使っていたサイトが表示された。
ブックマークバーをクリックしたようだ。
(アカーン! オワタ!)
もう顔を手で覆い隠した。
「この世界の人間という人類はつくづく変態なようですね」
もう、つぎこそは壊されるのを覚悟したが、聞こえてきたのはため息のこぼれる息遣い。
「なるほど、たしかにあらゆるものを見ることのできるものですか。文字は解読できませんがこれは素晴らしいモノですね」
「えっと……理解してくれたのかな?」
「あなたの見た情報源が本当に実在したというのは信じてあげましょう。ただし、条件があります」
「条件?」
「しばらく、帰る場所を探すまでこれらを貸してください。この世界の情報に興味を持ちました」
「はぁ? はぁあああ!? いやいや、すぐに帰るんじゃないのか!?」
「あなた馬鹿ですか? 帰るにしてもこれらを使用するほかないでしょう。さっきからそういう話をしているはずではないですか? いいですか。私は自分でこれらの中になにかヒントがある可能性がありますので探ると言ってるんですよ」
「まぁ、確かにそうだと思うけど、だけどなこれは……」
彼女の信用性を獲得したはいいけれども、彼女はコレクションを独占するようだった。
そうされたら、オタクライフができなくなってしまう。
「でも、別にコイツだけじゃないんだぞ。情報筋を集めるのは……」
「だとしても、あなたはこれを使い召喚魔法を会得したのですよね?」
「そうだけど……」
「なら、これを貸していただきます。それから、なにかこの世界の文字を習得できる本をお貸しください」
「いや、それならこの情報ツールで簡単に……ホラ」
パソコンで幼児にもわかる日本語レッスン帳のサイトを立ち上げた。
音声ガイド付きだから彼女にもわかりやすいだろう。
(って、俺は何やってんだ! ますます彼女がネットを興味持ってしまう行為じゃないか!)
案の定というか、彼女はしばらくパソコンを離さないといわんばかりに興味津々だ。
「そういえば、不思議に思ったんだけどよ」
「なんですか?」
「なんで、サイトなんかに本物の召喚魔法を記載したりしたんだろうか」
彼女も今頃になって気づいたというようにこちらへ真剣な表情をして振り返る。
「イストラ人をここに召喚するのが目的だとしか言えないよな」
そんなことを笑いながら言うとイリューナが鬼の形相で肩をつかむ。
「な、なんすか?」
「それです」
「え?」
「今すぐにその理由を突き止めて召喚者を探しましょう」
「いやいや、それは無理だって。情報源を公開した人物までを俺に調べることはこれではできないよ。ハッキングとかできるやつがいれば可能だけど」
「つまりどういうことですか?」
「だから、俺の力では無理だっていうこと。これにも色々と制限があるんだ。それにこの世界というか国にも法律とか禁止事項みたいなのがあってさ」
「??」
イリューナは説明をしても困惑していた。
うん、説明が下手だとよくわかった。
とにかく、無理なんだと説得する。
「では、どうすればいいのですか!」
「とにかく、まずはイリューナさんの世界の情報を集めるが先だと思う。そこから、なにかヒントにつながるかもしれない」
検索ワードに『イストラ』と打ち込み、検索をする。
まぁ、出てきたのはゲームやアニメ、漫画の関連したような情報ばかりだった。
その情報を見ていくととある漫画本に目が入った。
それは今の雄馬とイリューナの立場と似たような話を題材にしたものだ。
「えっと、なんと?」
「ヒントらしいものは出てこない」
「そうですか」
「でもさ……さっきイリューナさんが言ってたじゃん。ヒントを探るって。だったら、俺からは当面の目標は提示できるよ」
「はい?」
「帰る方法を探すためにもまずはここの世界のことを知るんだよ。さっき、イリューナさんが言ったようにさ」
「そうですね。たしかにそのほうが賢明です」
「そう、一応調べてみたけどイストラに関してはここの世界の遊具の関連情報しか出ない」
「この世界の『ゆうぐ』と言うのは魔法武器のことでしょうか? 」
「あーそうか。遊具もわからないのか。遊具っていうのはわかりやすく言えば道具って言えば伝わる?」
「ああ、道具ですか。その道具がイストラと何か関係しているのでしょうか?」
「いや、まったく」
「はい?」
「その辺は口で説明するよりも自分で経験していって知ったほうが早いよ」
漫画本を与えた。
それはちょうど、今の自分とエルフの少女のような立場を題材にしたファンタジーコメディの漫画だった。
「これは?」
「この世界の本さ。帰る方法を探すのもいいと思うけどそれを探すのにもこの世界のことを知ってからでも遅くないんじゃないかな」
「………正直、この世界の物事に今非常に興味を……もって……あれ?」
急にイリューナさんは身体を倒れさせてこちらに身を預けてきた。
彼女を思わず抱き留める。
その拍子に彼女の豊満な胸を鷲掴み、弾力を手に感じ取った。
「や、やわらけぇ……って、イリューナさんどうしたん……だって寝てるんかい!」
その時、誰かが部屋にやってくる足音が聞こえた。
そうして、扉が開かれる。
「ユウマ、どうして返信よこさないのよ! 夕飯つくりに……きて……」
部屋の扉を開けたのは堂々と不法侵入をしでかしている幼馴染の笹美雪日だった。
雪日は手に持った買い物袋を落とし、俺と俺の腕に抱かれているイリューナさんを見る。
「朝、モンスター娘が欲しいとか言ってたにしても……まさか……女の子を拉致してコスプレさせて……あまつさえ……」
「ちょっと、雪日さんなんか勘違いしていらっしゃる?」
彼女の顔に陰りがさす。
血の気が引いていく。
「雪日さん、ちょっと待って話を――」
「てんちゅううう!」
「ぎゃぁああああ!」
脳天に彼女の鋭いかかと落としが落とされ俺の意識は暗闇の底へと落ちていった。