イリューナ飛びます
「うーむ、なかなかに露出度が多いです」
私ことイリューナはこの世界の競争着用着のようなもの胸元を引っ張りました。
白地のシャツに短めの下着という感じであるのでしょうか。
身動きの取れやすい格好ではあるが着慣れない自分には落ち着かない格好と言えましょう。
「イリューナさん、むやみに胸元伸ばさない!」
私が胸元を伸ばしていれば近くにいたこの世界で知り合った人間の雪日に怒られてしまいます。
うむ、何ゆえ彼女が怒ったのかわかりません。
「もう、周りが見てるんだからね」
なるほど、彼女に言われて周囲に目を向けると一部男子が私を見ていました。
おぞましくはありますね。
あったばかりのユウマを思い出しました。
震えた私を放置して雪日が頷きました。
「さてと、準備はいいわね」
どうやら、哀れんで納得したわけではなく準備完了の合図のようでした。
「これが50めーとるなる訓練?」
ただ単に白線を引いただけのように見えます。
ライン上にいくつかの何か金属物のような道具を設置しています。
私もそれを設置するのを手伝いましたがなんでしょうか。
到着ラインには二人がいます。
一人は例の教官です。
その様子を観察していた私に雪日が急に「ごめん」と言ってきました。
「なぜ、謝るのですか?」
「イリューナさん私あっちのほうも手伝ってこなくちゃだめだから。ここにいて待っていてくれる?」
「なるほど、そういう意味での謝罪でしたか」
「えっと、それで……」
「かまいません、お待ちしています」
「ありがとう」
私を放置して雪日はその場を離れて先ほどの「くらもとあきな」とおっしゃっていた人物の元へ移動してしまいました。あちらでの別種目の準備を手伝うとは彼女の優しい性格があらわしています。
(いえ、優しいのはその時によりけりでした)
雄馬を怒るときの彼女を思い出すと身震いします。
「そうです。なるべく彼女の負担を減らせば彼女は喜ぶのじゃないでしょうか?」
私は名案に気付いてしまいました。
視線の先にはこの私たちが準備した種目の記録係になると言い出した例の教官がいました。
「ちゃんと、記録をとるからな。しっかりと走れよー」
「教官!」
私は知識で得たことを生かそうと思いました。
この世界で言う教官は物事を教えてくれる先生というらしいはずです。
書物の知識が正しいのならば彼女は正しく教え導いてくれるでしょう。
「どのように、訓練を行いましょうか?」
「あ、訓練?」
「違うのですか?」
「あ、いや、訓練といえば訓練だが……正しくは体力測定でだな……」
「たいりょくそくてい?」
「ああ」
「なるほど、それではみんなと同じように走ったりすればいいのですね」
「ああ、そうだが雪日にそういうことは聞けばいいだろう」
「ユキヒさんはあのように準備で忙しいので私一人で努力をしようかと思いましたので」
「あー、そういうことか。ったく、なら簡単に教えてやる。とにかく、みんなのやり方を見て走れ。てか、お前の国ではないのかハードル走」
「ハードルそう? 50めーとるそうでは?」
「うちでは両方一緒だ。とにかく、見て覚えろ」
何とも雑な教え方ですがやり方としては正しくもありますね。
なんせ、私も部下に戦闘の極意は見て覚えさせます。
教師に言われるままにさっそく、『はーどるそう』なるものへ挑戦をすることにしました。
50メートルくらいある白線の引かれたラインに沿って走る少女の姿です。
一人ひとり順に走っているようでありますね。
金属物のあるのは飛び越えて走っていきます。
(なるほど。金属を飛び越えて走る訓練というわけですね。ですが、どうしてみな一気に飛びこえないのでしょうか?)
ふとした疑問が湧きました。
でも、これならば簡単な訓練です。
日夜、狩りでモンスターを追いかけて疾走している私にとっては走ることなど造作もないです。
走りは得意なんですから。
「えっと、次……って、え?」
順番が回ってきて皆が出発点としているラインに私は立ちました。
見ていた際にもう一点わかりましたが、そばでは合図を行う者たちがいてその合図が鳴ったら走ればいい様子でありますね。
その合図を送るものが戸惑った様子を見せていました。
周囲も何やら騒がしい。
なんででしょうか。
「なんで、合図をしないのですか?」
周囲は困惑をしてから「ユキヒはああ、忙しいのか」と何かを納得したように頷きました。
「えっと、じゃあ、行くよ」
彼女が手にした合図を鳴らすものが強い音を立てました。
合図に乗って足は動いて駆け出します。
確かにこれは躍動を与えてくれる素晴らしい魔法のようでありますね。
風に乗っていく感覚がします。
「と、飛んでるぅううううう!?」
「ちょっと、誰あの子!?」
「うっそっ!? これ走り幅跳びだっけ!? っていうか、それでもとびすぎぃいいい!」
なにやら騒々しいですね。
自分がいつの間にか地面から足元を離れさせていたことに気付きました。
いつも木々を超えていく癖が出てしまい、跳躍をしてしまったようであります。
だが、風に乗って走っていることにはかわらないのでこれでいいでしょう。
ゴール地点へ着地すれば終わりでしょうからね。
「よし、着地!」
風を巻き起こしながらゴール地点に着地して何か黒い物体を持つ少女のほうに向きました。
どうやら、記録をとっている教官に目を向けました。
「どうです、すごかったですか?」
「あ、ああ」
「そうですか!」
うーむ、どうやら記録は良かったようであります。
ならば、次は皆がやっている跳ねるほうも挑戦すべきなのでしょうか。
「お、おい、おまえこの何か運動とかしていたとかあるのか?」
「運動とは何ですか?」
「いや、それは今やっていたものだが」
「あー、この手の訓練は得意なんです。なんて言っても私エンシェント級です」
「え、えんしぇんと?」
戦級のクラスを自慢したのですがどうやら困惑しています。
私のすごさに圧倒されているんですね。
これは自慢できますね。
(あとで、ユキヒとユウマに自慢しまくりましょう)
私はさっそく別の訓練項目の場所へと移動を始めて空を飛びます。
「まさにエンシェント」




