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『冥府の河の向こうは綺麗かな。』  作者: 朧塚
新約・冥府の河の向こうは綺麗かな。
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CASE 不死の霊薬。-海底都市にて。‐ 1


「今度の依頼は不死の霊薬の所望だ」

 デス・ウィングは本をめくりながら告げる。

 ドイツの幻想文学だ。


「不老不死ね。またかよ?」

 セルジュは呆れた顔をしながら、店内にある品物を物色していた。


「みな。求めたがるんだよ」

 デス・ウィングはせせら笑う。

 彼女自身、不死であり不老の存在だ。

 故に、それに至ろうとする者達が何処までも滑稽に思えてしまうのだ。


「なあ。いっそお前も着いて来ねぇか?」

 セルジュは大欠伸をして屈伸運動を始める。

「それこそ。お前が不老不死だろ。なんか縁があるだろ。お前も着いてこないか?」

「ギャラの半分は私が貰うぞ?」

「あー。構わねぇよ。なんか不死のアイテムって危ないものが多かったからなあ。付いてきてくれると助かる」

 セルジュはいつものように、面倒臭げに言った。


「で。場所は何処だ?」

「海の底の都市だ。魚人達が占めている」

 デス・ウィングはにんまりと笑った。



 誘われてきた場所は、海底の底にある街だった。

 街全体を何重もの透明なカプセルに覆われており、巨大なクジラや大王イカなどが街の外を泳いでいた。

 文化形態が、人間世界のそれとはまるで違っている。


街並みの印象は、中華街だった。

 闇の中はサイバーチックな怪しげな光沢を出している、金色の建造物が並んでいた。

 人々は何か怪しげなものを売っていた。大体は肉饅頭や餃子。杏仁豆腐などの甘味などが売られているが、中には得体の知れない漢方や古い何に使うか分からない道具などを売っている商人もいる。

 セルジュとデス・ウィングは食べ歩きを始めた。


「で。今回はなんだ?」

 セルジュは烏龍茶とホイコーロー饅を口にしながら訊ねる。


「悪女伝説だ」

 デス・ウィングは薄ら笑いを浮かべる。


「時の皇帝からの寵愛を受け、選ばれる為に、皇帝の愛人として敵対する女を残酷に殺した悪女の伝説だな。憎い相手を生きたまま四肢を外し、喉を焼き、眼球をくりぬき、酒樽に入れた。権力を手にした際には、ただただ不老長寿と不死の薬を求め続けたらしい。そんな悪に魅入られた者達のお話だぞ」


「はあ。イリーザがやりそうな事だな」

 セルジュは友人の残虐な拷問趣味の少女の顔を思い浮かべる。


「そして、そんな悪女様が求めた不老不死の霊薬がこの街の奥にあるとされている」


 この中華街の住民達は人間とは異なる姿をしていた。

 魚の頭を持つ者。タコの頭を持つ者。エビやクラゲの頭を持つ者など様々だった。所謂。魚人といった処だろうか。


 中華街の奥は、女帝を祀る為の神殿になっている。


 道案内のガイドを呼んでいた。


「わたしの名前はシャイユと申します」

 中華風の衣を纏った、サメ頭の男がうやうやしく二人に礼をする。

 

「今から神殿まで案内させて戴きます」

 そう言うと、サメ頭の男は二人の先頭を歩いていった。


 神殿内には、この街の歴史となるものや遺跡から発掘されたものが飾られていた。さながら神殿は博物館といった処だろうか。


 珊瑚で作られたお城の断片。

 かつて海を泳いでいたと言われる、ダイオウイカ並みの大きさのウミガメの剥製。

 頭が三つあるシャチの骨。

 

 神殿の奥には、即身仏のように祀られているミイラ化した女性の服を着せられた死体が厳かに飾られていた。おそらくは、この街を過去、支配していた悪女と呼ばれた女帝なのだろう。顔面を見ると、魚などのそれでは無く、人間の頭をしていた。


「お前達のように魚やタコみたいな姿じゃなかったのか?」

 デス・ウィングはサメ頭のシャイユに訊ねる。


「伝承によると。女帝様は我々と違う姿をしておりました。それ処か、女帝様が収めていた時代に生きた者達は我々とまるで違った姿だったと」

 サメの魚人は淡々と返した。

 おそらくこの街の歴史は本当に分からないのだろう。


「不死の霊薬を求め続けたんじゃないのか?」

 デス・ウィングは訊ねる。


「はい。女帝様は肉体と魂を分離する方法を研究していたと。そして、その霊薬は肉体の死後も魂が永遠に不滅になる霊薬だったと伝えられております」


 シャイユは何度も訪問客から聞かれた質問に答えている、業務作業といった感じだった。



「情報に関して言えば、特に何の成果も無かったな」

 セルジュは面倒臭そうな表情をしながら、気だるそうに腕を上げていた。


「何も無ぇーだろ。本当にこの街にあるのかよ。観光に来ただけじゃねぇか。肉まんとか買って帰るわ」

 セルジュは毒づく。


「そうだな。情報に間違いがあったか。だが霊薬を持ち帰らないとビジネスにならないぞ」

 デス・ウィングはそう言うと、セルジュは大あくびで返す。


 ふと。

 博物館の入り口で、小さな子供が二人の様子を伺っているみたいだった。エイのような頭を持った子供だった。唐の赤い装束を身に纏っている。子供は二人に近付いてくる。


「ねぇねぇ。お姉さん達。不老不死の薬を探しているの?」

 子供は訊ねる。


「なんだよ。お前が売ってくれるってのか? 風邪薬とかじゃねぇんだぜ」

 セルジュがそう言うと、エイ頭の子供は首を横に振る。


「僕達の教団に来て貰えば。不老不死の薬をお渡ししてくれるかも」


 セルジュとデス・ウィングは互いに互いの顔を見る。

 ……明らかに胡散臭い。


 だが、どの道、無駄骨なら行くだけ行ってみるのもいいだろう。



 教団は街の隅にあった。

 なんでも女帝様の魂を教祖となる巫女の身体に降ろして、女帝の依り代となった巫女の口から託宣を貰う団体らしい。教義は色々あるが、最終的には女帝の復活であるとの事だった。


 セルジュは途中、うんざりした顔で教団の前に来るまで肉饅を口にしていた。デス・ウィングの方も甘い甘味のゼリーが入った容器に入った中華茶のようなものを、ストローをがりがり齧りながら飲んでいた。


 話を聞けば聞くほど、胡散臭い。

 

 教団の入り口である門には謎の紋様が描かれており、受付係は亀の頭をしていた。エイの子供が何かを語り掛けると、セルジュとデス・ウィングの二人は教団の中に入る事が出来た。

 

 教団の者達は何やら並んで瞑想をしており、瞑想場所の檀上には巨大な女帝の黄金像があった。教団員達はみなでそれを拝んでいるみたいだった。


 二人は教団員の一人から、月餅と茶を出される。


「女帝様は冥界より我々に不死の力を授けてくださっているのですよ。わたくしの旦那も、消化器系を患ってましたが、見事に治りました」

 巻貝の頭をした女性が、少し恍惚とした表情で言う。


 デス・ウィングは月餅を口にしながら、熱心に教団員の教義を聞いていた。

 セルジュは終始、面倒臭そうに聞き流していた。


「此処の教団。女帝の不死の薬を作る為の施設があるな?」

 デス・ウィングは訊ねる。


「見ますか?」

 巻貝頭は訊ねた。


 二人は頷く。



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