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『冥府の河の向こうは綺麗かな。』  作者: 朧塚
新約・冥府の河の向こうは綺麗かな。
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CASE 培養液のオレンジ‐無限廃墟を探索して。- 3

 新しい廃墟に到着する。

 そこは、巨大な遊園地だった。


 観覧車にメリーゴーラウンド、ジェットコースターにミラーハウスなどが点在している。当然、廃墟なので、どれも朽ちていて、観覧車に至っては、一台が地面に転がり落ちていた。


 コンパスとフーチを頼りに二人は進んでいく。

 ジェットコースターの辺りだった。

『別荘屋』は二つの瓶をかついで、二人を見下ろしていた。


「俺が行く」

 セルジュはそう言うと、ジェットコースターの線路の上に飛び乗る。そして、黒いジャケット姿の男、別荘屋に向かっていく。別荘屋は身軽に、ジェットコースターの上を飛び跳ねていた。螺旋状にループしている滑走路の上を何度も飛び跳ねていく。セルジュは走りながら、懐からナイフを取り出して、黒い怪人に向けて投げ放った。別荘屋はそれらを容易くかわすと、今度は、一度、地面に降りて、観覧者の方へと向かっていく。


 観覧車のゴンドラの上に飛び乗っていく、別荘屋は楽しそうにセルジュを見下ろしていた。セルジュは追い続ける。セルジュはナイフを投げ付ける。


 投げたナイフの一つがゴンドラに突き刺さると、ナイフが変形していき、大量の刃物が生まれ、ゴンドラを吊り下げている鉄パイプを切り刻んでいく。そして、別荘屋の乗っていたゴンドラはそのまま地面へと激突する。


 別荘屋は余裕の表情を浮かべて、ゴンドラから這い出てくる。

 彼は、あえて落下するゴンドラから、逃げなかったのだろう。そのまま、セルジュを小馬鹿にするように、這い出てくるが。


 目の前にはイリーザがいた。

 彼女はツインテールの髪留めを外していく。

 どうやら、髪留めはサバイバル・ナイフになっていたらしく、ナイフを加工して髪留めとして使っていたみたいだった。


 イリーザは……。

 別荘屋が態勢を整える前に、ナイフを突き出していく。

 イリーザの動きは、セルジュよりも、遥かに遅い。

 簡単に避けられる筈だったが……。


 別荘屋の頭部にナイフが突き刺さる。

 セルジュがゴンドラの落下地点を予測して、中から出てきたこの男の動きを止める為にすでに次の行動の準備をしていたのだった。


 数秒の間、動きを止められた別荘屋は…………。


 何度も、何度も、何度も、何度も、イリーザからナイフを突き立てられて、胸や腹に穴が開き、切り裂かれていく。そして、別荘屋は地面にボロクズのように倒れた。


 イリーザは二つの生きた胎児の入った瓶に触れていく。


「どっちも生きている。瓶も割れていないわ。ミッション、終わったわよ」


 セルジュは大きく溜め息を吐く。

「こいつ、生きていやがるぜ。おい、イリーザ、奪い返されないといいな」


 ズタボロになった黒いジャケットの男は、ゆらゆら、と立ち上がると、まるでペシャンコの紙のようになって、空へと舞い上がっていた。まるで、あらかじめ自分が負ける事を前提に遊んでいるかのようだった。そして、黒いペシャンコの紙状の男は空へと消えていく。おそらくは、また、自身の城の中で収集している瓶詰の胎児を集め続けるのだろう。


 セルジュとイリーザは疲れた顔で、地面に座る。


「帰るぞ…………」

「疲れたわね……」

「あのさ。セルジュ……」

「なんだ?」

「その、フーチ、落とした……。探してくれない?」

「…………、俺はコンパスが無い。畜生が、あのクソ野郎、盗んでいきやがったな……」

「…………、あれ、それって、私達、この無限廃墟の中から、抜け出せなくない……?」


 二人は茫然自失になりながら、遊園地の動かないアトラクションを眺めていた。



「で、良かっただろ、セルジュ。念の為に、私から予備のコンパスをもう一個、買っておいて」

 デス・ウィングは楽しそうに脚を組んでいた。


「…………、まあな。随分と高い値段を吹っ掛けやがってな」

「それにしても、デス・ウィング。この店、凄い洒落ているわね」

 イリーザはチキンを口にして喜んでいた。


 三名は異国のレストランの中にいた。

 頭部が象になっている人型の神ガネーシャが刺繍されたタペストリー。蓮などの文様が描かれた絨毯が敷かれていた。

 香の香りが店内に漂っている。


 三名共、この異国のレストランで出されるカレーを口にしていた。ナンという名のパンカレーに付けて口にする。そして、飲み物やスパイス入りのミルク・ティーであるチャイ。ラッシーという名の酸っぱいヨーグルトだ。イリーザはエビカレーを口に入れながら、タンドリーチキンを頬張っていた。


 デス・ウィングは羊肉入りのカレーを口にしながら、とても楽しそうな顔をしていた。

 なんでも、胎児を送り届けた二人の相手から、多額の報酬を貰えたらしい。更に、別荘屋によって瓶詰にされた胎児は本来の人間では無い存在として加工される。そもそも、一体は無頭症で脳が欠損した状態で生まれた存在だ。彼女達が、これから、どのようにして、人間では無くなってしまった我が子を育てていくのかを考えると、楽しみで夜も寝れないとの事だった。


「『別荘屋』ってのは何者なんだろうな? それに『ドクターQL』ってのにも会った」

 セルジュはチャイを口にしながら、真っ黒なドレスを汚さないように、テーブルに垂れたカレーをナプキンで拭き取っていた。


「私もよく分からない。この世界には、色々な怪人がいるからな。ドクターQLの方は、豪華客船の中で会った事がある。その船は沈没して、死者が千人近く出たがな。事故るトラックやタクシーにも乗車している事があるらしい。戦車にでも、宇宙船にでも、それが事故を起こして乗車している者が死亡するなら、駆け付けるようにしているそうだ」

「ホント、お前と同じように悪趣味な化け物が多いぜ。胸糞、悪りぃ」

「そういえば、セルジュ…………思ったんだが……」

 デス・ウィングはいつものように、冷徹な眼差しをしていた。


「『別荘屋』から連絡があった。胎児の売買ビジネスをしないか、と、誘われた。主に高値で買うそうだ。胎児は人気があるな。食材にしたがる奴もいるし、剥製にしたがる奴もいる。ゾンビの類と縫合させたがる奴もいるし、もちろん、我が子として育てたがる奴だっている。良い金になるんだろうなあ」

 デス・ウィングは最低下劣な商売を、嬉々として楽しんでいるみたいだった。


 セルジュは、少しだけ食欲を無くす。

 イリーザは追加のタンドリーチキンを注文するのだった。


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