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『冥府の河の向こうは綺麗かな。』  作者: 朧塚
新約・冥府の河の向こうは綺麗かな。
38/60

CASE 霧の街の幽霊ツアー。‐残虐公の伝説。‐ 2


 夕餉は申し分ない程に絶品だった。


 特殊なソースで味わうロースト・ビーフに、フィッシュ&チップス。マフィン・サンド。

 デザートは甘いプディングだった。


 食事が終わると、セルジュとイリーザに向かって占い師が話し掛けてきた。

 何でも、地下でさっそく交霊術なるものを行っていて、この辺りにいる霊達と交信しているとの事だった。


 占い師の女の名はレヴィルダと言うらしい。

 セルジュとイリーザの二人は、シャンパンによるほろ酔いもあって、ほいほいと、この得体の知れない占い師の部屋まで付いていったのだった。


 …………十分後、二人は即座に後悔する事になる。


 レヴィルダの部屋に二人は入る。

 彼女は従業員から特別に地下の広い部屋を借りているとの事だった。

 セルジュとイリーザの二人は、胡散臭い占い師に言われるまま部屋の中へと入る。中から、鍵は開いているから入ってきな、と言われた。


 二人は部屋の中を見て、言葉を失った。


 中央に魔方陣が描かれていた。六芒星だった。

 何かのまじないの人形のようなものが大量に置かれている。

 占い師は、魔方陣の中央に置かれている燭台の炎を強めていく。


「何やっているんだ?」

 セルジュは愕然とした。


「交霊術ですわ」

 女は微笑する。


 部屋の中で、明らかに何か獣やら子供の泣き声のようなものが広がっていた。炎によって出来た影絵はゆらめき、人や生き物の形へと踊るように変わっていく。

 そして、おもむろに占い師は何体かの人形を手にすると、それを次々に暖炉の中へと放り込んでいく。人形は炎に焙られながら、悲鳴を上げ続けていた。

 占い師の女は嬉々とした眼で、暖炉で焼け爛れ、髪も服もセルロイドの肉体も炭へと変わっていく人形を見ながら手を叩いていた。


「おい。それ、何やってるんだ?」

 セルジュは引き攣った表情を浮かべる。


「うふふふぅ。うふふふっ。ひぃーひぃひひひっ。人形焼き、人形焼き、ひーひぃひぃ。依り代である、この人形さん達に霊達を入れてみたの。うふふっ、燃える、燃えるっ!」

 占い師の眼は明らかに正気では無かった。


「ちょ、で、出よう。この部屋全体、やばい…………」

 イリーザは半泣きになって、震え始める。



「クスクス。あの二人も私達と同じようにペアかな?」

「さあ。どうだろうな? 俺には分からない」

「くすくす。あの黒いドレスの女の人。中身、男なのよね。私、ちょっと遊んでもいいかしら?」

「なら。俺はパンク風の格好をした小さいお嬢さんと遊びたいな」


 ホテルの中庭だった。

 何やら、貴族風の青年と白い服のお嬢様の二人が会話をしていた。

 密談みたいだ。

 二人はセルジュとイリーザに興味を持っているという話だ。そして、二人は今日、此処で初めて会った見知らぬ他人のフリをしている。何か理由があるのか。

 ……何か、やらかすつもりだな?

 セルジュはそんな事を考察する。


 あのアタマのおかしい占い師が、地下で今も交霊術を続けている。霊達は彼女の部屋中に集まっている。イリーザの方は部屋の中ですっかり怯えてしまって、枕を握り締めてベッドの中で震えていた。


 セルジュは再び窓から中庭を見る。

 青年とお嬢様はまだ会話を続けていた。



「ディート。家から持ってきた、パイ包みの味はどうだい?」

「美味しいわ。ファルグ。やっぱり、貴方の味付けは最高よ」

「それにしても、此処のホテルの料理はマズイな。みな、よく口に出来るな」

「下品な人達が多かったから、舌が駄目なのよ。ふふっ、よく見たら俗物ばかりだったじゃない」


 セルジュは彼らを尾行して、二人のいる部屋の前で彼らの話を聞いていた。

やはり、二人の会話は薄気味悪かった。

 青年が家から持ってきたパイ包み……、一体、何が入っているのだろうか。直感だが、こういう輩は、どうせロクなものを口にしていやしない。

 青年の方が、ワインを口に入れる音が聞こえる。


 そして、おそらく、この二人は人間では無い。

 彼はそう確信しながら、二人の調査を止めにした。

 …………、やはり、このツアーの参加者は、一癖も二癖もある連中ばかりだ。……分かっていた事なのだが…………。


 彼らが何の為に、此方を狙っているのか分からないが、深入りするのも危険だ。イリーザが動けるようになり次第、早急に、この幽霊ツアーのホテルから去った方が良いのかもしれない。そもそも、一銭にもならない旅行で来た形だ。セルジュにとって、これ以上、いるメリットなど無いのだ。


 部屋に戻ると、霊障に当てられたイリーザは、部屋中に御札のようなものを貼っていた。


「……はあ。猟奇殺人犯だろお前、ホントに。頑張れよ、幽霊の怨念くらいに負けるな」

「いや、もう、人殺しするのと、幽霊の怨念に勝つのは違うのよ。もう、ホント、根本から」

「そういうもんかよ」

「そういうものよ、うーん、うーん……」

 そう言う、イリーザは少し苦しそうだった。

 先程から、熱と悪寒が下がらないらしい。

 セルジュは、鼻を鳴らして、会話の張り合いの無さに少し不貞腐れる。



 やはり、此処に集まっている連中は異常な奴らばかりだ。そして、何か疾しい事を考えている連中ばかりだ。

 ツアーの最終日まで、余り、部屋の外に出ない方が良いのかもしれない。みな、各々、得体の知れない事ばかりをやっているが、正直、関わり合いにならなければ良いだけの話だ。


 貿易商は世界中から集めたという奇妙なものを現地民に売りさばき、老紳士は、何やら塔に関しての情報を集めているみたいだった。そして、あの占い師は地下で交霊術を行い続けている。みな、明らかに、関わっても、ろくな事になりそうにない連中ばかりだ。そして、昨日、偶然聞いた青年とお嬢様の二人組の会話。彼らも警戒要員だ……。


 セルジュは、他のツアー参加者の事は極力忘れるようにした。


 それにしてもだ。

 幽霊と共に生きる街、か。


 もはや、住んでいる人間、集まってくる人間達の全てが、この世界にあらざる者になっているのかもしれない。だが、死者達は一体、何をやっているのだろうか。何が望みなのだろうか。


 …………、もっとも、彼には関係の無い事だったのだが。



 三日目の朝だった。


 貿易商の男が、ロビーの中央で死体で見つかった。

 死体は、全身の血を抜かれてミイラ状になっていた。


 従業員達は大騒ぎだったが……。


「わしは今更、帰るつもりは無いぞ。亡霊や怪異の姿を見届けるまではな」

 老紳士はそう口にする。


 他の者達も同じだった。


 貴族風の青年と、令嬢風の女は、その死体を無表情に眺めていた。

 老婆はケタケタと笑い。占い師も満面の笑みを浮かべていた。


 従業員達は、ただただ、怯えていた。

 


「一応、聞いておくが。お前の仕業じゃねぇよな?」

 セルジュは訝しげにイリーザに訊ねる。


「私じゃないわよ。ずっと、熱出して寝込んでいたんだから。ああ、ホントに、ツアーが台無し…………」

 少女は、頭に当てた冷たいタオルに手をやる。


「それに、この私を侮辱したならともかく、別に殺しても面白くない奴を、念入りに殺害なんてするわけないでしょうが。死体から全身の血を抜くって、手間暇掛かるのよ。死後硬直とか大変だし。生きたまま、血を抜かれたんじゃないの?」

「どうだかな。まあ、殺害方法なんてどうだっていいぜ」

 彼は椅子に腰掛けて、溜め息を吐く。


「処で警察とかは来れるのかよ?」

 セルジュはホテルの従業員達に訊ねる。


「はい。ただ、警察署は街にありますので。既に呼ぶ手配をしております」

 従業員の一人があたふたとしていた。


「冗談じゃない。ツアーを台無しにされて溜まるものか。せめて、我々のホテル滞在までの間、死体を隠し通す事は出来ないのかね?」

「ジョネス様。そんな事を言われても困ります。それに殺人者がこのホテルに潜んでいるのですよ。今すぐ、警察に…………」

 どうやら、老紳士はジョネスという名前らしい。従業員の一人はかなり慌てふためいていた。


 ジョネスは懐からピストルを取り出して、従業員の一人に突き付ける。


「いいか。我々は大金を払って、このホテルに滞在しているのだ。ツアーが終わるまで、警察への連絡は止めて貰おうか!」

「ひ、ひいぃいぃいいいいいいいいいぃっ!」

 従業員は泣き叫んでいた。


「私も同じ意見ね。メインディッシュを平らげるまで、誰も帰ろうとはしない。それに」

 イリーザは、貴族風の青年と令嬢風の女の二人を睨み付ける。


「彼らも私達が帰る事や、ツアーが終わる事を望ましく思っていやしない」


 みな、異様な眼をしていた。

 察そう、死体や血を見て、何処か興奮さえしている様相だった。

 人の悲鳴という音楽に酔い痴れている。死という色彩の鑑賞に喜びを覚えている。


 今更ながら、改めてセルジュは、この心霊ツアーの参加者の全員が異常者である事を理解する。


「おい。イリーザ。確か五日目にチェックアウトだったよな。それまで何をやるんだ?」


「このままでは埒があかん。わしは残虐公に直接、面会に行ってくるっ!」


「おい。何を言ってやがるんだ? あのジジイ」

「シャルル・ペリアルの幽霊と謁見出来ると思い込んでいるのよ。私も行ってみたいけど、やっぱり熱が下がらないわ。霊障が続いている」

 そう言いながら、ジョネスは鞄を手にして、外に出ていった。


「おい。イリーザ。奴はあの塔に向かうのかよ。博物館鑑賞か?」

「違うでしょうね。確かに場所はあっているけど」

「どういう事だ?」

「裏世界があるって言われているの。あの塔にはね」

「何だ? あの博物館に隠し部屋でもあるのかよ? なら、昨日、行った時に教えてくれても良かったじゃねぇかよ」

「隠し部屋じゃないわよ。裏世界。私も生き方は分からない」


 占い師のレヴィルダが、地下に戻るといって、その場を離れた。

 きっと、昨日の交霊術の続きを行うのだろう。



 結局、セルジュはホテルにいるのが居心地が悪くなって、一人、街の中を散策する事にした。イリーザの看病をしても良かったが、正直、自業自得とも思っているし、女を守るなんてのも柄じゃあない。本音では、多少、痛い目にあった方が、今後、無茶な事をやらずに済むんじゃないかとも思っている。


 霧が一面に漂っている。


 あの老紳士は何処に行ったのだろうかと、セルジュは考えて、再び、あの橋を渡って、塔へと向かう事にした。塔に付く頃には正午になるだろう。その辺りで出来れば昼食を取っておきたい。


 橋の辺りに向かうと、あの老紳士ジョネスが何やら橋の辺りを調べていた。手にした杖で橋の石畳を見ている。


 ……なんだ? ありゃ? やっぱ隠し通路でもあるのかよ?


 セルジュはサンドイッチを口にしながら、ジョネスへと近付いていく。


 何か…………。

 …………、視界が歪んでいく…………。


 セルジュは辺りを振り返る。


 街の様相が、明らかに違う。

 服装などが、中世のそれだ。街中では喧騒が広がっていた。

 辺りには城塞が広がっている。


「なんだ? 此処は!?」

 セルジュは思わず、叫ぶ。


 浮浪者が、街の隅々で物乞いをしていた。


「中世ヨーロッパか? しかし、スゲェ、不潔そうで、臭ぇえ場所だな」

 街の通りには、馬車が走っている。


 橋のあった場所は、どうやら建設現場になっているみたいだった。奴隷なのか、単なる労働者なのか。汚らしい人々が、重労働に励んでいる。


 鎖で縛られた女達がいた。

 彼女達は、顔に布切れを被せられている。

 どうやら、これから、建設途中の橋の下に作られている大穴に生きながらにして埋められるみたいだった。

 セルジュは女達の方へと近付こうとする。


 ふっ、と。


 気付けば、元の景色に戻っていた。


 ……タイムスリップ、か……?


気付くと、老紳士ジョネスは、橋の向こう側にいた。


 セルジュは彼を追い掛ける。

 ジョネスは、あの博物館になっている塔の中へと入っていった。



 彼は昨日と同じように、博物館となっている塔の入り口へと入る。

 受け付けを行っている、ガイド達はいなかった。


「なんだ!? 此処はっ!?」

 セルジュは裏返った声で言った。


 鉄錆びの臭いが漂っている。


 鉄製の椅子が置かれている。

 椅子の座る場所には鋭い刺が生えており、赤黒い血がべったりとこびり付いていた。


 こんな部屋が、博物館にあったのだろうか。

 いや、昨日、来た時には無かった。


 やはり……、裏世界…………。


 光が当たらず、陰鬱な空気が辺りには満ちている。

 遠くで、何者かの悲鳴が上がっていた。

 声は、塔のかなり真上から続いていた。


 セルジュは塔の階段を上がっていく。

 

 しばらく上がった先に、部屋があった。

 物陰に隠れて、部屋の向こうにいる者に見つからないようにセルジュは部屋の中を覗き込む。

 部屋の中には、何度も、全身を刃物で突き刺された老紳士ジョネスがいた。彼は全身に何箇所も刃物傷があるにも関わらず、未だ生きていた。

 ジョネスの身体に穴を開け続けている者を見る。

 中世の貴族の格好をした、鉄仮面を被った男だった。

 おそらく、彼が残虐公シャルル・ペリアル……。


 セルジュはゆっくりと、階段を降りて、この場を立ち去る事に決める。


 今すぐ、この塔を出なければマズイ…………。

 彼は塔の外へと続く、入り口へと向かう。

 途中、地下へと続く階段を見つけた。

 悲鳴や哀願の声が聞こえる。

 セルジュは助けを求める、その声が気になって、地下へと降りていく。


 すると。


 肩付近まで泥水に浸されて、縛り上げられた女達が喚き、泣き叫んでいた。おそらくは、何日間も、あるいは何週間も、泥水の中に浸けられていたのだろう。女達の排出した汚物の臭いが混じっている。彼女達は自分達の汚物の混ざる水を飲んで生き長らえていたのだろうか。セルジュは汚水で浸された地下室に一通り、眼をやっていく。死体も水に浸けられていた。首の無い女が数名。おそらく、残虐公に首を刎ねられたのだろう。腐乱死体となって蝿などの虫が集っている。……彼女達は、死体の腐肉と汚物が混ざる水を飲んで生き続けていたのか。


 …………、これは助けている余裕が無い。

 そもそも、此処は過去の歴史の世界だ。全てが幻か何かかもしれない。

 セルジュは踵を返して、階段を登り、今度こそ、この塔の外へと出る事に決めた。


「君は一体、こんな場所で何をしているんだね? 君も彼女達の仲間入りをしたいのかね?」

 鉄仮面の男が現れた。


「テメェが残虐公か? ああ?」

「聞き難い悪名ではあるが、確かに、我はシャルル・ペリアル公爵だが」

 そう言うと、鉄仮面の男は血塗れの剣をセルジュへと向ける。セルジュは……。


 跳躍して、そのまま残虐公の頭の上を飛び越える。

 鉄の仮面の男は、しばし、ぽかん、とした顔をしたが、すぐにセルジュを追い掛ける。セルジュはそのまま彼を無視して、塔の入り口の扉を開けていた…………。


 セルジュは気付くと、現代の世界に帰っていた。


 彼はよろよろと、眩暈に立ち眩みながら、橋の方へと向かう。

 しばらくして、彼は橋を渡り終えた処で、かの残虐公から逃げられたわけじゃない事を理解した。



「乙女が体調を崩して寝込んでいるって時に、セルジュ、あんたは…………っ!」

「煩ぇえよ。自分勝手な奴だな」

「何が自分勝手よっ! 私の心なんて貴方なんかに分からないんだからっ!」

「やっぱり、煩ぇえよ。これだから、女は、周りが気に入らないと、すぐに誰も自分の気持ちなんて分からないっつーてワガママ言いやがるんだからなっ! いい御身分だぜ」


 イリーザは頭にアイスノンを当てて喚き散らし、セルジュが小馬鹿にするようにあしらう。

 貴族風の青年ファルグが、二人に歩み寄ってくる。


「痴話喧嘩している処、悪いが。セルジュと言ったな。残虐公、シャルル・ペリアルが、このホテルに攻め込んでくるんだろう?」

「ああ。過去からやってきやがった。しかも、ゾンビの騎士団を引き連れてだ。ふざけやがって」

 セルジュは、ファルグの揶揄を軽く無視して頷く。


「なら。俺とディードリアが援護しよう。お前達も返り討ちにするんだろう?」

「…………、ああ、そういう事だな。処でお前らは何者だ?」

「俺達か? 一応、職業で殺し屋をやっている。二人でペアだな。此処に来たのは気まぐれなんだけどな」

「そうか。皮肉無しで言う、頼もしいぜ」

 二人は窓の外を見る。

 窓の向こう側には、大量の騎士団が此方側に攻め込んでいた。先頭には、全身、血塗れで、明らかに死体となっているジョネスが剣を手にして、全身がボロボロに朽ち果てた騎士団を先導していた。


 お嬢様風の容姿をしたディートリアは窓に近付くと、おもむろに、細長い鞄の中から何かを取り出した。それはマスケット銃だった。彼女は銃の引き金を引いていく。すると、見事に先頭にいるジョネスの頭を弾き飛ばした。頭部を失っても、なお、アンデッドとなった男は行進の先導を止めず、ゾンビ騎士達を率いて、此方に向かっていく。マスケット銃の引き金が何度も引かれる。今度はジョネスが乗っている馬の脚に命中する。馬は倒れた。


 しばらくして、ディートリアとファルグ。そして、セルジュとイリーザの四名は敵の軍団の様子を眺めていた。彼らは怯む事無く、此方への進軍を止めない。


「困ったわね。どうやって、籠城を決め込む?」

 ディートリアは他の三名に肩を竦めて、苦笑いを浮かべた。


「逃げても追って来そうだな」

 セルジュは、こめかみを引き攣らせながら、敵の兵達を眺めていた。


「ちなみに、俺は剣を少々、操る事が出来るんだが」

 ファルグは冷たく笑った。


「じゃあ。お手並み拝見したいのだけど」

 イリーザは熱を帯びた頭を押さえながら言う。


「貴女の方は、どれだけ出来るの? 貴女、鞄の中、殺人道具、拷問道具ばっかりじゃない?」

 ディートリアは不審げな顔で、イリーザに告げる。


「い、いや、私は、その………」

「このクズ、普通の一般人相手にしか無双出来ないクズなんだよ。クズだから、弱い者を執拗にいたぶるのが大好きなカスなんだよ。クズだから。本物の化け物相手じゃ逃げるんだよ、いつもっ! 弱い者イジメしか出来ないからな」

 セルジュは責め立てるように、イリーザの事を罵倒しながら説明する。

 イリーザはわなわなと震えながらも、言い返せずに押し黙っていた。


「じゃあ、どうする? 俺達、三名でアレらを相手にするか?」

 ファルグは訊ねる。

「ああ、そうだな。三人だな」

 セルジュは面倒臭そうに返す。


「やってやろうじゃないのっ! この私の恐ろしさをあの木偶共に思い知らせてやるっ!」

 イリーザはツイン・テールにしている髪飾りから、暗器にしている数本のボンナイフを取り出すと、それをまじまじと掲げた。彼女の髪は下ろされて、長い長髪が腰の下まで垂れる。


 従業員達は、ただただ、祈りの言葉のみを叫んでいた。



 乾いた射撃音と同時に、薬莢の転がり落ちる音が続く。

 ゾンビの騎士達は、次々と、四肢を撃たれ、馬を撃たれて、進軍を止められる。

 ディートリアは百発百中で、動いている的を撃ち倒していた。


 セルジュは剣を引き抜く。

 彼の剣の刀身は、三つ首の獰猛な犬の頭になっていた。


裏口から現れるアンデッドの騎士達を、犬の頭達が喰い殺していく。


「なんで、私が追われる犠牲者の役を……、犠牲者を追う奴がいいのにっ!」

 イリーザは、ボンナイフを投げ付けて、アンデッド達の脚に命中させていくが、途中、投げる刃物が無くなったので、キッチンへと向かう事にした。


「畜生が。ゾンビ相手の籠城戦かよ。ゾンビ映画じゃねx-んだからな」

 彼はぼやきながらも、襲い掛かってくる腐乱死体の騎士達を次々と屠っていく。


 ファルグは西洋剣を手にしていた。

 その剣で、次々と、ゾンビ騎士達の首と四肢を刎ね飛ばしていく。彼の剣によって切り裂かれたゾンビの乗る馬からは、血が剣に吸われて、気のせいかファルグの血色が良くなっていくようにセルジュには見えた。


「おい。どうやら、このゾンビ達の騎乗している馬達だが。何割かは、近くの農村から拝借してきた生きた馬みたいだな。となると、こいつらは街全体に進軍している、という事になるな」

「それよりも、なんだ? その剣は? 生き物の血を吸うのか?」

「ああ。剣自体は市場に出回っている、割とあり触れたものだ。俺は“吸血鬼”なんでな」

 そう言いながら、ファルグは華麗な剣さばきで、ゾンビ騎士を、彼らの駆る馬達を切り倒していく。

 馬の何頭かは、しばらくすると、死体が空へと雲散霧消していった。


 二人でホテルの裏口に現れたゾンビ騎士の兵団を打ち倒していき、ついには最後の一体を消滅させる。



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