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『冥府の河の向こうは綺麗かな。』  作者: 朧塚
新約・冥府の河の向こうは綺麗かな。
33/60

CASE 人形の島‐呪詛の堆積物‐ 3


 紅極楽鳥の羽根。

 それが、結界を張れるとの事だった。

 イリーザとセルジュは手分けして、ホテルの周辺に羽根の尖端を突き刺していく。

 一通り、羽根を突き刺すと、イリーザは屈伸運動を始めた。


「あー、お腹空いた。そろそろ、何か食べよう」

「そうだな。そして、寝るか」

 昨日は走り回って、クタクタだった。

「そう言えば、トルティーヤって美味しいよねー」

「ああ。スパイスが特にな」

 セルジュはそう言って、ホテルのレストランへと向かう。

 何も無ければ、此処は本当にリゾート地なのだ……。



 真夜中の事だった。


 再び、あの呪物で作られた巨大な怪物が二人の方へと向かってきた。

 今度は、海の底に隠れていたのか、海の中から這い上がってきたのだった。


 大怪獣となったその化け物は、二つの腕をホテルへと伸ばす。

 だが、途中、紅極楽鳥の羽根によって作られた結界が発動したのか、怪物の全身に大嵐が生まれて、怪物の身体は崩れ始める。やがて、辺り一帯は大きな台風へと変わっていく。

 島全体が大きな風に包まれていく。

 そして、怪物の全身は崩れ去っていき、風に呑まれていく。そのまま、怪物の全身の無数の呪物達は、空へと飛んで去っていく。

 それは、約二時間程続いた事だろうか。

 怪物は完全に崩れ去って、何処かへと飛んでいってしまった。


「終わったわね」

 イリーザはむしゃむしゃとマンゴーを食べていた。

「楽しいリゾートだったぜ。ホント、お前って退屈させないよな」

 セルジュは嫌味たっぷりに言った。

「じゃあ、残りの日も沢山、楽しもうー。私、海で泳ぎたいー」

「勝手にしろよ。ああ、ホント、疲れたぜ。俺はスマホでも弄っている」

 そう言いながら、セルジュはソフト・クリームの乗ったメロン・ソーダを口にするのだった。南島へのリゾートなんて、災難極まりないんじゃないのか? と、溜め息を吐く。



 それから、無事に、渡し守りに通過を払って、不気味な海原を超えて元の世界に戻る事になる。


 元の世界に到着した後、イリーザからろくに報酬を貰えないまま、セルジュは彼女と真剣に今後、関わる事を止めようか考えながら、スマホを弄っていると、幾つかのニュースを見た。


 どうやら、世界中で、原因不明の不審死が相次いでいるとの事だった。

 不審死を遂げた者達に共通している者は、何故か、ボロボロの人形だったり、十字架だったり、グロテスクな像などが被害者の家の付近に空から落ちてきたとの事だった。


 ……あの結界で、あの化け物の身体が、世界中に四散したのかよ…………。


 セルジュはわなわなと震える。

 

 数日後の事だった。

 街中を歩いていると、こつん、と、セルジュの頭に何かが当たる。

 どうやら、空から降ってきたものみたいだった。それなりに硬い。


 地面に転がったものを見ると、それは風雨に晒されてボロボロになった人形だった。

 全身から、明らかに怨念と思われるものが湧き上がっている。その後、人形は突然、阿鼻叫喚の悲鳴を上げ始めた。

 セルジュはウンザリした顔で、その人形を蹴り飛ばす。

 たまたま、近くの道路を走っていた車のフロントガラスへと激突した。


 運転手は混乱して、その後、恐怖に顔を歪めながらハンドルを握り損ねる。


 車が爆破炎上する音が聞こえた。


 セルジュは愕然としながら、燃える道路を眺めていた。

 偶然に偶然が重なったのか、何故か、ハンドルを切り損ねた車は、次々と、何台も、何台もの車を巻き込んで、交差点の十字路で、大惨事を巻き起こしたのだった。


「呪いの力、…………、すげぇな…………」

 彼はそう呟きながら、二度と、イリーザのビジネスに関わらない事を誓うのだった。


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