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『冥府の河の向こうは綺麗かな。』  作者: 朧塚
冥府の河の向こうは綺麗かな。
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CASE ネクロポリス ‐吸血鬼と納骨堂- 2


 エアは光の檻のようなもので、刃を全て叩き落としていた。

 セルジュも、両手に持った小刀で、全ての刃を叩き落としていた。


 罠の一部は、天井から逆さ吊りにされている者達にも命中する。幾つもの悲鳴が上がった。


「で、お前はどうする? あれが、お前のターゲットだろ?」

「死体はどうするかって? 聖骸布もあるみたいだし、干からびたミイラだろ。担いで帰るよ。痩せた人間の体重は四、五十キロくらいだが、それよりは軽いだろ」

 そう言うと、セルジュは人間の皮を縫い付けたバッグの中から、ビニール・シートと紐を取り出す。


 そう言いながら、セルジュは遺体へと近付く。

 そして、顔を覆っている布切れを取ってみる。

 顔も、完全にミイラ化している。


 セルジュは、聖骸布を顔に戻すと、遺体に布を巻いていく。そして、紐で縛り上げていく。

「案外、軽いな。だが、襲撃されたら、邪魔になるな」

 彼は小さく、溜め息を吐いた。

 エアは指先から光の弾丸をはじき出して、天井に吊るされている者達を殺していく。


「じゃあ、戻るか。セルジュ。俺はこの辺り一帯全てに、俺の力をバラ撒いておく」

「ほんと、害虫駆除みてぇだな。お疲れって処だな」


 二人はそう言いながら、地下納骨堂を出る。


 地下から外に出る頃には、すっかり夜の闇に沈んでいた。

「吸血鬼の活動時間だぜ」

「ああ、そうだな」


 廃墟の中から、ガタガタと、何かが犇めいていた。

 二人は、気にも留めない。


 どうやら、怪物達は、翼が生えているみたいだった。

 廃墟の陰という陰に隠れている。


「エア。適当に始末してやれよ、俺は、もう面倒臭い。歩いたし、脚が痛い」

「そうだな。この辺り、全体に、力を撒くか」

 エアはそう言いながら、指先で弧を描く。


 すると、光の薔薇が幾つも現れる。

 そして、辺り一面にいた怪物達全てを蒸発させていった。


「やっぱり、弱いな。こいつら、血吸い野郎(ブラッド・サッカー)共は」

 セルジュは、そんな事を呟くと……。


 天から、何かが降ってきた。

 二人は、それ浴びて、呆気に取られていた。


 血の雨だった。

 どうやら、怪物達が、生きた人間を空中で解体しているみたいだった。


「エア、何か分からないが。…………、避けるぞ」

「ああ」


 エアには、身体能力が余り無い。

 なので、セルジュは一旦、担いでいた死体を置くと、エアを抱き上げて、地面を蹴り付けて、その場を離れた。


 吸血鬼達が、二人ではなく、聖人の遺体へと集まっていく。

 どうやら、奪還したいみたいだった。


「エア。消し飛ばしてやれ」

「ああ」

 エアは、指先を吸血鬼の群れへと翳す。


 天空から。

 血の雨が降り注いでいく。

 どうやら、血液は聖人の遺体へ向けて、注がれているみたいだった。


「ああ。ターゲットを血で汚しやがってっ!」

 セルジュは叫ぶ。


 吸血鬼達は、歓喜の叫びを上げていた。

 エアとセルジュの二人は、しばし言葉を失う。


 布に包まれた死体が、起き上がる。

 布越しに、大量の血液がしみ込まれていく。


 布を破って、中から、潤った皮膚の人間が現れる。

「おい、あれ、なんだと思う?」

 エアは素朴に訊ねる。

「いや、知らないが。俺のビジネスの依頼は、死体の回収じゃなくて、怪物の捕獲だったんじゃないか?」

「どうする? 壊すか?」

「依頼主からは、なるべく綺麗なまま回収しろって話だっただろ……?」

 二人は、しばし言葉を失っていた。


 中から現れたのは、肖像画や壁画、あるいは本屋やTV、あるいは教会で見かけるような顔の男だった。


 腰布を巻いている。

 十字架に張り付けられていた、それだ……。


「どうする? あれ?」

 セルジュは、かなり困惑していた。

「俺の処の宗教だったんだ……。少し、あれを攻撃するのは躊躇うな」


 二人は言葉を失っていた。


 今や、新鮮な肉体を持った男は何かを語り始める。

 どうやら、それは聖句であり、神への祈りを奉げている言葉だった。


 吸血鬼達は、盛大なまでに、歓声を上げ、泣き叫ぶ者達もいた。


 その日、聖人は復活したみたいだった。


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