CASE ホープ・ダイア -呪いのファッション・ブランド‐ 3
「人が死ぬ事はもうどうしようもないくらいに、面白いと思っている人種はいくらでもいるんだよ」
ボロボロのマフラーを弄りながら、デス・ウィングは言う。
「まあ、お前もその一人だろ?」
セルジュは言う。
「まあな。しかし、あの地下競売場なんだが、ご察しの通り、私もよく通っているよ。でも上品なものが多いんだ。もっとこう、人間の暗闇を顕現しているような作品の方が私は面白いかな」
そこは、展望台だった。
花壇が敷き詰められている。
二人はベンチに座りながら、煌々とする街の明かりを眺めていた。
自動販売機で買ってきた、ジャスミン・ティーを、二人は口にする。
此処から見下ろせる場所は、ブランド街。
無数のブティックが並んでいる。
人間というものは、どうしようもない程に、ブランドに固執し、虚飾を持たざるを得ないのだろう。
†
『Blue Hope Empress』というブランドは、復活した。
売る量は抑えているが、多くの者達を魅了して、市場へと出回った。イリーザは、事務所によく出向いて、多少の手伝いをしているという。
大好きなゴシック・ブランドに関わるのは、とても栄誉ある事だと彼女は言っていた。あくまで、ファンとして応援する事の方が良かったんじゃなかったんかよ? とも、疑問に思ったが、気が変わったのだろう。
そうして、呪いは、各地にバラ捲かれる。
馬鹿な買い手達が、あの美しい宝石がちりばめられた服を纏い、宝石をあしらったアクセサリーを身に付ける。そして、宝石に魂を喰われる。そして宝石は回収される。
滑稽なショーみたいなものだ。
デス・ウィングに、その話をすると、少しだけ楽しそうな顔をしていた。彼女は、別にホープ・ダイアに興味を示していなかった。なんとなく、嗜好とズレたものなのかもしれない。
「なんていうか。私はもっと露骨に歪んだものの方が興味があるんだ。それに、一度、ホープ・ダイアは手にした事があるよ」
「そうなのか」
「ああ。実は、間違えて壊してしまった。何せ、中に入っている奴らの悲鳴が煩いから、つい、な……。 あのブランドは量産しているが、あまりいいものじゃない」
「ほう、それは何故?」
「魂なんて、私は無いと思うんだ。あんなものは、人間の思念が残留したものだ。だから、血と魂を凝縮させて、作ったダイアモンドだ、って言われてもな」
二人は、デス・ウィングの骨董店である『黒い森の魔女』にいた。
デス・ウィングは、闇の品物を集め、売りさばく。
彼女は、壁にかけられているものを見ながら、呟く。
それは、ボロボロに朽ち果てた聖書だった。
「むしろ、私は人間には死後の世界なんて、存在しない、と。絶望的な事実を伝えようとするものの方が面白いよ。宗教書とか、ほら、あるだろう? ああいったのは死後の世界を書き綴ったものだが、あれによって、大量の人間が戦争を起こし、本に書かれている内容の解釈によって、不当な処刑が行われた。そういうものの方が魅力を感じるなあ」
「はあ、そういうものなのかねえ」
セルジュは、特に、何のいわくつきでもない、ごく普通のゴシック・ロリータ系のファッション・カタログを見ながら、彼女の言葉に適当に相槌を打つのだった。
了