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『冥府の河の向こうは綺麗かな。』  作者: 朧塚
冥府の河の向こうは綺麗かな。
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CASE ホープ・ダイア -呪いのファッション・ブランド‐ 1

「『ホープ・ダイア』の噂を聞いた事があるかしら? 持ち主が全員、悲劇の死を遂げる宝石の噂なのだけど」

 真っ黒な髪の毛をツイン・テールにして、ゴシック・パンク・ファッションに身を包んだ女、イリーザは、ミルクティーに生姜を入れた飲み物であるチャイを口にしながら訊ねた。

「なんだ? 持っていたら、持ち主全員を不幸にする呪いの青いダイアモンドの事か? 都市伝説で聞いた事があるぜ?」

「そう、それなんだけど。そのホープ・ダイア。今は自然史博物館に展示されているそうだけど。もう一つ、見つかってね。それを加工して、服飾品に使っていた洋服のブランド会社があるの。それも、そのもう一つ見つかったと言われる、ホープ・ダイアを加工してね」

「なんだ? そりゃ?」

 セルジュは、スマートフォンを弄りながら検索をかけてみる。

 持ち主は、ルイ14世……。フランスが衰退し、革命のきっかけにもなった呪われたダイア……。

 彼は、眉を顰めた。


「ブランドのロゴは青いダイアモンドに王冠を載せたデザイン。ゴシック・ロリータ・ファッションにも、可愛らしいロリータ・ファッションにも、合わせやすいアクセサリーや、カットソー。パニエやドロワーズ、鳥篭の小物なんかも、作っていたんだけど。今は潰れてしまった。ブランド名前もそのまんま、『Blue Hope Empress』。青い希望の女王って意味。……ブランドの売り出し方として、必ず服やアクセサリーなどに、そのホープ・ダイアの一部を入れていた。ロゴの金属部位にも使っていたし、カットソーやドレスなんかの所々にも、散りばめていたのね。当初は青色を押し出していたけど、徐々に様々なカラーの服飾を売り出すようになった」

「それで?」

「うん。買った持ち主の全員が呪われて不慮の事故で死亡したと言われている」

 そう言って、イリーザはチャイを飲み干す。


「はあ? 呪いのアイテムの量産品かよ?」

「そういう事ね」

「オチはアレか? ダイアは全部、プルトニウムが仕込まれていた、とかか?」

「さあ?」

 イリーザは脚を組み直す。


「で、私の依頼なんだけど、セルジュ。そのホープ・ダイアを使ったファッション・ブランド『Blue Hope Empress』の限定品である巨大な青色のダイアモンドを使った、ネックレスが欲しい。生産数は30で、持ち主の全員が死亡したと言われているわ。ねえ、一緒に探しに行かない?」

「探すって、ネット・オークションとかか?」

「いえ…………、ある、地下競売場に売りに出されていると言われているわ。そうね、今から8日後かしら? 一緒に付いてきてくれると助かるんだけど」

 そう言って、イリーザは二杯目のチャイを注文した。



「ちょうど、もう一人分、残っている」

 イリーザは、ある男から事前に購入していたが、セルジュも、地下競売のチケットを購入する必要があった。

 マンホールの下に住居を構えている男で、背中に大きなサンタクロースのような袋を背負っていた。がちゃがちゃ、と袋が鳴る。彼はホームレスのような汚らしい格好で、目蓋は縫われていた。

 イリーザは、通貨として、男に人間の脛骨と思われるものを渡す。

 男は満足したような顔をすると、イリーザにチケットを渡し、脛骨を袋の中へと放り込んだ。どうやら、男の持っている袋の中には大量の人間の骨が詰まっているみたいだった。


「いつもありがとう」

 イリーザは、目の前の怪人に礼を言う。

「いやあ、いやあ、こちらこそ。ひひっ、それにしても、儲かる。儲かる」

 男は、ゆっさゆっさと、袋を揺らしながら喜んでいた。


 セルジュは少しだけ、薄気味悪く思いながらも、男が後生大事そうに抱えている、がっしりと雁字搦めの鎖を巻いた、薄緑色の袋に眼をやる。

「おい。そっちの袋はなんだ? そっちも人間の骨か?」

「ひひっ、ひひひっ、真っ黒なおべべ(ドレス)のお穣ちゃん。世の中には知らなくてもいい事があるんだよお」

 男は薄ら笑いを浮かべる。

「そういう事。ちなみに、そっちの緑色の袋の方は、そいつの親族の骨ね」

 イリーザは、首に嵌めている鎖と鋲だらけのチョーカーを締め直しながら、あっさりと男の秘密を暴露する。

 すると、男は少し怒ったような顔で、イリーザを睨み付ける。

「悪かったな。好奇心は身を滅ぼす。俺達は、もう行くぜ。ああ、そうそう」

 セルジュは、少し不愉快そうな顔をしながら、膝の下まであるクモの巣柄のスカートと、フリルの付いた真っ黒なニーソックスから砂を払う。

「頼むから、此処に降りる為の、梯子はしご、掃除してくれ。また服が汚れたじゃねぇか」

 セルジュは剣呑な顔で、男を見ていた。



 オークション会場は地下墓地だった。

 冷たい墓石が観客の一部のようになり、参加者達は中央にある品物を見て、落札の為の競りを行っていた。墓地の周りには、巨大な地底湖が広がっていた。

 中央には、道化師のような衣装の男女がおり、司会を行いながら、品物を見せていく。


 最初の品物はドラゴンの頭蓋骨に装飾品が施されたものだった。

 人間二人分程の大きさはあったのだろうか。

 額には巨大な紅いルビーが埋め込まれていた。

 この頭蓋骨は、時折、牙の隙間から火を吹くらしい。


 参加者達は手を上げて、口々に値段を叫ぶ。

 中には、TVに出ていたとある国の政治家や宗教家までいた。


 ドラゴンの頭蓋骨は、高級マンション程の値段で落札される。

 その次は、水槽に入った、生きた巨大錦鯉だった……。


『Blue Hope Empress』の青いネックレスが出てきたのは、オークションの品物も、六回目になった頃だった。


「はあぁーい、お次は沢山の持ち主を呪い殺した青いダイア、ホープ・ダイアをイメージして作ったブランド、ブルー・ホープ・エンプレスが創った、限定品30個のうちの一つ、青いネックレス、デスヨォ!」

「実に、美しい。アタクシも、一個、欲しいですわ。デモ、呪われちゃうカシラ?」

 

 道化師ピエロ女道化師ピエロッタは、器用にマイクをお手玉にしながら、話し始める。


 早速、イリーザは手を上げて値段を叫ぶ。

 他の参加者達は、誰も手を上げなかった。

 このままだと、イリーザの落札という事で落ち着く。


「ハアーイ、他に落札者はイナイノォ? なんなら、アタクシも競りに参加しちゃおうカナア?」

 女道化師は茶化すように言う。

「コラコラァ、君が付けても、似合わないンジャナイカナア? そのドハデな顔よりも、そこの美人なお嬢さんがミニツケル方が、とっても似合う似合うッ!」

 男道化師の方が、すかさず突っ込みを入れる。


「アラァ? じゃあ、そこのお嬢さんが落札者、という事でイイカシラァ?」

 女道化師は六本のマイクをくるくると回した後、五本を左手だけでキャッチして右手で、マイクで話す。


「ふふっ、私が落札ね?」

 イリーザはほくそ笑むように言う。


 ぽつりと。

 何者かが、右手を上げて、イリーザの述べた金額の倍の値段を叫んだ。

 タキシードを着て、ハイエナのマスクを被った男性だった。


「あらぁ? そこの紳士サマが御落札カシラ? 意中の方にでも、プレゼントなさるの?」

「フフフフフ、僕も宝石を買って、目当てのアノ子にプレゼントしちゃおうカナア?」

 二人の道化師は、それぞれ茶化しながら喋る。


 イリーザは負けずに、更に倍の値段を提示した。


 しばらくハイエナ男との競りは続いていたが、とうとうハイエナ男の方が落札を諦めて、イリーザが落札者になる。

 その後、もうしばらくオークションは続くみたいだったが、イリーザとセルジュは、会場の外へと向かった。



 会場の外は、蛍光塗料の塗られた岩や土などで青や薄緑に発光していた。

 イリーザは売り子から買った、オレンジ・サイダーを飲んでいた。


 二人の下に、ある男が近寄ってくる。

 先程、イリーザと競って、ホープ・ダイアを競っていたハイエナのマスクを付けたタキシードの男だった。


「おい、どうした? いちゃもん付けか?」

 セルジュは剣呑に訊ねる。


「いえ。競売品はオークションが全て競り落とされた後に、競り落とした人物に現金や小切手、クレジット・カードなどで支払われ、お渡しされますよね。中には競り落とした者の自宅まで宅配される場合もある。一番目のドラゴンの骸骨や二番目の錦鯉などがそうでしょうね。貴方が競り落とした、あの青いダイアモンド。あれは、オークションが終わり次第、貴方に直接、お渡しされるでしょう」

 ハイエナ男は言う。

「だから? 私はこの日のファッションも、あのダイアを身に付けて帰る為に、用意したものだし。当然、首から下げて帰るつもりでいるわ。手にして、早くダイアにキスしたいの」

 イリーザは面倒臭そうな顔をしていた。


「単刀直入に申しましょう。あれを先程、貴方が落札した値段で私に売りなさい。あれは災厄をもたらすものだと、貴方は知っている筈ですよ?」

「それがあ?」

 イリーザは相手にしたく無さげだった。

 セルジュは、売り子からチキンナゲットとコーラを買う。

「おい。此処、映画館になっているぜ。結構、マニアックなものも上映されている。競売が終わったら、映画でも観て帰ろうぜ」

 セルジュは面倒臭そうな顔になる。

「それが、今日は、確か17品も売りに出されているのよ。ようやく、半分を消化し終えた処なんじゃないかしら? 地下競売って長いのよ。見世物見たいに、怖いもの見たさで商品を見に来る客も多いらしいけどね」

 イリーザは眠たげな顔になる。

 二人共、ハイエナ男は完全に無視するつもりでいた。


「自己紹介が遅れましたね。わたくしは、『Blue Hope Empress』のデザイナーの一人をやっていた、グリ・ヴェナントです。あのブランドを作ってから、どうしても回収しなければならない商品が多く出てしまったので、各地を走り回っております」

 そう言って、ハイエナ男はイリーザに名刺を差し出す。

 そして、ちらりと、マスクの下の顔を、彼女に見せる。


 イリーザは、ぽろり、と、手にしていたオレンジ・サイダーの空のカップを地面に落したのだった。



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